「さてさてムイくん、囲碁始めましょうか。」
「いきなりかよ・・・しかもムイくんって誰だよ。」
「もちろんあなたに決まってるじゃない。下林くんなんて長ったらしいからさ。短くしてムイくん。どう?」
「どう?じゃないよ!」
「そのうち慣れるって。私のことも琴美って呼んで良いから。同じ部員同士なんだしそれくらい気兼ねなく呼び合える仲が良いよね!」
「そうですか・・・」
夢一はぶっきらぼうに言った。
ここは理科室。授業も終わり、部活のため二人はここに来たのだ。半ば乗せられた感じで入った夢一は少し不機嫌だが言ってしまったものはしょうがないとここに来ている。 二人は適当な席に座り、目の前に碁盤を置いた。碁石も適当な椅子を見つけ、お互いの近くに置いた。
「ムイくんはどこまで囲碁覚えてるの?」
「え・・・っと石1つを取ることは知ってるぞ。この黒石1つに4隅を逃がさないように白石を4つ打てばそれで黒石1つ取れるわけだ。」
夢一は1つ黒石を置きその4方向に1つずつ白石を置き、そして真ん中の黒石1つを取り上げた。
「そう!正解!!じゃあその黒石1つが端のほうにあったら?」
「そのときは黒石の逃げれる方向は3つしかないからそこに3つの白石を置けば黒石が取れる。」
「じゃあ一番隅は?」
「そのときは2つだけしか逃げ道がないから2つ白石を置けば黒石が取れる。」
「完璧だね!!その通り。」
「これくらいなら余裕だね。」
「じゃあ・・・」
と琴美は次々に問題を作っていった。夢一はそれに次々に正解し、琴美を満足させた。
「アタリについては完璧だね。整地なんかもできるの?」
「もちろん。対局の最後にどちらが勝ったか見やすいように、また数えやすいように並べるやつだろ?」
「そうそう。じゃあまず適当に一局打ってみますか。」
と琴美は理科室の奥から小さい碁盤を取出し、二人の目の前にあった大きな碁盤の上にそれを置いた。
「それは?」
と夢一が言った。
「これは9路盤。通常使う19路盤より小さい碁盤で主に初心者の人なんかが囲碁を覚えるときに使うもの。小さい分早く終わるわ。」
「そんなの使ったことないな。おじいちゃんとはいつも大きな碁盤使っていたからわけわからなかった。でもそれなら小さいから考えることも少なそうだから楽そうだな。」
「そうかもね。じゃあちょっと適当に打ってムイくんが整地できるのかやってみましょう。」
「わかった。」
二人は打ち始めた。もちろん夢一が整地できるかどうかの問題だから簡単に黒白共に碁盤の真ん中真っ直ぐに打ち進められた。そして打つところもなくなり、琴美が夢一に整地するように促した。夢一は頷き、整地を始めた。試行錯誤しながらも何とか出来上がった頃にはぎこちないながらも黒白共に整地前に比べれば数えやすい形にはなっていた。
「合格!まだわかりづらいところとかもあるけど一応はこれで大丈夫。そしたら基本的はことはマスターしてるのね。」
「そりゃあ昔打っていたんだから打てるさ。」
「そっかそっか。」
琴美は嬉しそうに言った。
「じゃあ普通に9路盤で打ってみようか♪」
「打つの?」
「もちろん!そのために来たんだから。それにムイくんが本当はどれくらい打てるのか知りたいし。」
「言っとくけど、思ってるほど打てないからな。」
「そんなの気にしないの。ささ、打ちましょう。」
琴美は心底楽しそうに黒石の入った碁笥を夢一の前に差し出した。
「とりあえず置石はなしでいきましょう。」
「置石?」
「ハンデのことよ。相手と実力に差があるときに先に黒石を置いてその実力を調整するの。とりあえず実力知りたいから互先で打ちましょう。それから私がどれくらいか決めるから。」
「なるほど。」
「ムイくんからよ。」
「わ、わかった。」
夢一はゆっくりとしかししっかりと一手目を打った。
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