7月。澄み渡った空の元、とある野球場で練習試合が行われていた。下林夢一はマウン ドへ登り、プレートにある砂を足でどかした。ここまでのピッチングは素晴らしいもの だった。相手はそこそこの有名校だというのに6回までノーヒット、無四球、そして 無得点と完全に相手を抑えているのだ。あと7、8、9回とこのままでいけば完全試合達成である。球場に足を運んできた人々やまた味方チームメイトなど、まわりから固唾を呑んで見守られる中、夢一は淡々としていた。
「あ〜暑い・・・」
夢一は帽子を取り、一つ扇いだ。
「何としてでも打て!そして塁に出ろ!!」
「は、はい!!」
相手チームからそんなやり取りが聞こえる。 しかし夢一にとってそんなことは何の脅威にもならない。ただ一球一球きっちり投げれば良い。それだけだった。その言葉通り夢一は慎重に投げわけあっという間に2アウトまでとった。ここまで来るとまわりも次第にこの新人投手が完全試合を達成してしまう のではないかという期待がどんどん膨れ上がっていった。そして次の3番を打ち取ればその期待は最高潮に達することであろう。次のバッターはこれまでの2打席で唯一良い当たりをしたバッターだけに慎重にならざるをえなかった。1−0とたかだか1点差 だけに、ここで何かあればたちどころに試合の流れがわからなくなる。
「さて頑張って抑えなきゃな・・・」
夢一の肩に自然と力が入った。 一球目は外角にはずれてボール。 二球目は外角の厳しいボールでぎりぎりのストライク 三球目はバッターの胸元に来るストレートをバッターがカットし、これで2ストライク1ボールとなった。 次で勝負!といきたいところだが次の一球は外角へボール半分外へと投じるいわば誘い球だった。これを打てば凡打になるし、 もしかしたら審判が手を上げてくれるかもしれない。 夢一は振りかぶって投げた。
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