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作品名:鬼録 作者:永堅

第4回   五見宅にて1
五見の家へ行く。
私のバイト先から電車で三十分も離れていないところなのに、
緑が多く、畑なんかもたくさんあるところだ。
いつもそうなのだけれど、緑を見ると何だかほっとする。
私が住むところは、一般的に都会と総称されるようなところなのだけれど、
日々、灰色のコンクリートの中で暮らしていると、
気持ちまで荒んでしまう気がする。
所詮、人間も動物ってことなんだろう。
生きていくうえで、土と緑と太陽が必要な生き物なのだ。

普通、金曜日は居酒屋の掻き入れ時なので休みが取れないのだけれど、
たまたまシフトの都合で、ポンと休みになっていた。
この景気だもの、働きたい人はたくさんいるというわけだ。



五見の家につくと、叔母さんが私を迎えてくれた。
えらい歓迎振りだ。
「真備ちゃん、待ってたのよ」
フリフリのピンクの割烹着!
そしていつもどおり、
全身から例の叔母さん特有のオーラみたいなものが出ているのが見て取れた。

霊能力者のもっとも最強の力を持っている者はどういった者かといえば、
それは霊が見えるとか声が聞こえるとか、そんな類のものではない。
全く霊的なものに影響を受けないもの、
それが頂たる霊能力者だ。
私よりも五見よりも、
実はこの叔母さんが、一番に強く濃く祖母の血を引き継いだと言っていいだろう。

叔母さんは全く霊的な影響を受けることの無い体質だ。
例えば、背中におどろおどろしい悪霊がついていたとしても、
けろっとしているような人だ。
普通の人間では、まず怨霊や悪霊にとりつかれて、
何の影響も受けない人はいない。


人間というのは、誰でも彼でも、
多少なりと心霊的な影響を受けて生きているものだ。
その証拠に、世間一般、どこの国の人でも、
死んだ人を敬い供養する風習がある。
無宗教と言われているこの日本でも、
お盆や彼岸のお墓参りといった行事を皆する。
それは死んだ人に影響をされているのを、無意識に知っているからだ。
その事自体の知識が個人には無くても、過去の偉人達がちゃんとそれを言い伝えて、
代々の全ての人が仰々しく行っているのを見れば分かる。
宗教は違うとも、その風習はどこのどの国を見ても同じだ。

 

人間が、自分でやったことに思い当たりの無いこと、
例えば、犯罪とかが分かりやすいだろうか、
どうしてこんなことをしたのか分からないというような事を自分がしたとき、
それは霊的なものに左右されてしまったからだといっても、過大ではない。

他の人を思いやるということは、自分を律して強要しなければ出来ないような、
難しいことだ。

だけど、実はそれこそが人間がこの世に生かされ勉強しなければならない主題なのだ。
その何故ここに生きているかという、本来の目的を忘れ、
肉体からだけの俗な己の勝手な欲求だけを求めて生きてしまっているような人間は、
(簡単なところで、先祖のお墓参りもしないような人間は)
死んだ人やその他の闇のもの(そうとしか表現が出来ない)達からも、
ぞんざいに扱われる。
とり憑かれ、いいようにされる。
落とされ、踏みつけられる。
そして、狂うか、自己嫌悪地獄に落とされるのだ。

人を殺しても、大きな罪を犯しても、
狂ってしまうだけなら、自己嫌悪だけですむのなら、
それは大袈裟に言うことではないのではと、思う人もいるかもしれない。
だけど、一度狂ってしまったら、
一度、そこまで落ちてしまったら、
二度と這い上がっては来れない。
つまり、今生死んでしまったら、
二度と人間には生まれ変われないということだ。


動物か、植物か、
それは分からない。
もしかしたら、もう二度と生まれ変わってくることも無いかもしれない。
普通の人が、この世には犯罪が多くて世を嘆くかもしれないけれど、
その必要も無いくらい、そういう輩たちは、次には選抜からもれてしまう。
淘汰されるのだ。

命は先の長いロールプレイングゲームだ。
私もそれに参加している1プレーヤーにしか過ぎないから、
ゴールには何があるのか分からないけれど、
でも、何かあるのだろうという事は知っている。
世に「輪廻」なんて言葉があるけれど、
それは実際にあるから、その言葉が存在するのだ。
輪廻を何回も繰り返しながら、私達はある目的に向かう。
残念ながら、その目的が何なのか、
私にははっきりとはいえない。
だけど、
そのことを知っているだけで私は、
ラッキーなのだろう。




話がそれた。
ま、言いたいことを言いたいように言っていくのが、
続けていくコツみたいなものだから、
ぼちぼちいくか。


五見は、別に前に会った時と変わらないようだった。
叔母さんが心配するほど、今回の騒ぎで落ち込んでもいないようだった。
ある意味、この子は私よりタフだと思う。
小学中学と苛められ続けていても頑張れるのなら、
高校へ入って今更苛められたからといって、
どうのこうの言う問題でも無かったか。
我ながら、五見を頼もしく思う。




「真備ちゃん、やっぱあれ見える?」
五見に会った途端、言われた。
「は?」
居間で言われて、私は五見の指した方を見た。
作業服の男が、キッチンに立っていた。
「見えるよ」
いいながら、その男の様子を探る。

俯き加減でキッチンの隅に佇んでいる。
グレーの作業服、かなり使い込まれたような印象のあるくたびれた作業服だ。
胸に名札が下がっている。
「工藤 隆」
マジックで書いたような黒い名前が読んで取れた。
叔母さんはその男に気づく様子も無く、
忙しく夕飯の支度をしている。

「あれ、お母さんの関係だよね」
五見が言う。
「いつからいるの?」
私が聞くと、
「二日前から」
五見は答えた。

悪いものではないと分かった。
だけど得体が知れないのは、変わりが無い。
「誰なんだろうね」
「さあねえ」
五見は宿題の数学の問題に眉を潜めながら、
居間のテーブルの前に突っ伏して、
なんていうことも無い感じで、私に答えた。


異常なんだろうな。
このやりとりをしながら、私は思った。
やっぱり異常だ。
普通、自分の家の中に知らない人がいたら、
もっと大騒ぎするはずだ。

でも、私も五見も、
別に大騒ぎするわけでもなく、
その侵入者を見ている。

普通には見えない人が見えるから、
私達は異常なのだろうか。
家の中に勝手に入って佇んでいる異常な人がいるけれど、
それは普通の人には見えないものだから、
騒がないでいることが普通になってしまった事が、
異常なのだろうか。

どちらにしても普通な事ではないのだろう。
疲れたので、
続きは明日書くことにする。


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