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作品名:鬼録 作者:永堅

第3回   五見
従姉妹の五見が学校でいじめにあっているから、
相談に乗ってやってくれと、叔母さんから携帯に電話が入る。
「あれ、叔母さん。だって五見は学区外の高校に行ったんじゃなかったっけ?」
私はおかしいなと思って聞き返した。


今年高校一年生になった従姉妹の五見は、
やはり私と同じように幼い頃から、死んだ人間やその他もろもろが見えてしまう。
血筋と言うのは、因果深いものだ。
大元を正せば、この血筋は結構名の知れた霊能力者で、
70歳を過ぎた今も全国を飛び回って、
膨大な数の依頼主達の悩みを聞いてまわっている、私達の祖母に行き当たるのだが、
その娘である叔母さんにはそういった不必要な能力は同じ形では遺伝しなかったようだし、
五見の妹である今年中学に上がった七見にも、同じ形では遺伝しなかった。
死んだ人やその他もろもろが直接視覚として見えるという形ではという事でだけれど。

そして三年前に死んでしまった私の父親も、
その祖母の息子にあたるのだけれど、
そういった直接的に無駄なものは遺伝しなかったようだ。
だけど血は恐い。
孫に当たる私にはばっちり遺伝してしまったのだから。






五見は昔から、朴訥と言うかなんと言うか不器用な子で、
幼い頃から、自分が他の人と違うということを上手く隠せない子だった。
他の人には見えないものなのに、
自分に見えるものは見える、聞こえるものは聞こえると、
馬鹿正直に口や態度に出してしまう子だった。
すると必然的に、周りは恐れたり煙たがったりするわけで。
自分に見えないものを見えるという人間は、
見えない人間には脅威になるのだ。
それが全くの法螺ならどうといったことも無いのだろうけれど、
例えば、自分の身に覚えのあるような、
死んだ旦那さんがここに貯金通帳を置いといてそのままだとか言っていると騒いで、
そこに本当に貯金通帳があったとか、そういった類の事になると話は別なのだ。

そういった噂が噂を呼び、
すっかり近所では、
五見は霊感があるようだけれど、
でも、もしかしたら頭が変なだけかもしれないという、
恐れを含んだ偏見的な差別感情を持たれてしまっていた。


そんなようだったから、
五見は小学校や中学校では、かなり苛めらたらしい。
靴を隠されたり、給食にごみを入れられたり、しかとされたり、
様々ないじめを受けたとか聞いている。
まあ、苛めると言うことは、
逆な意味を読みとれば、恐れられていると言う事の裏返しなのだけれど、
それを知っていても、耐えるのは辛かったと思う。
私自身も、五見ほど不器用ではなかったにしろ、
苛められると言うことは身に覚えのないことではないから、
その時の辛さは良く分かる。
だけど、私達は知っている。
その場所から逃げても、結局自分からは逃げられない。
苛められて辛いからと言って、
例えば自殺なんてものをしてみても、
自分達が先に死んだ人達を見てきている通り、
結局抱えている悩みは生きていても死んでいても、
何も変わる事がないのだと知っているから、
その場から逃げずに、我慢出来てきたとも言えよう。


でも、やはりそういった学校生活は辛いと、
わざわざ五見は進学する高校を、小中学のクラスメートのいない学区外の、
自分を知らない人たちばかりの学校を選んだはずだった。
誰も自分のこの無駄で不必要な能力を知らないとしたなら、
まだ学校が始まって2ヶ月あまり、そんなに早く苛められることもないだろうに。
と、私は思ったわけだ。


私がそれを聞くと、叔母さんは電話越しにため息をついた。
「それがね、なんだかさ」
叔母の話を約すると、
五見のそれまでの噂を聞いた人が、
行方不明になった息子を探して欲しいと、
学区外の高校まで五見を訪れたようなのだった。
どこかで噂を聞いて、
そしてかなり煮詰まっているようで、
学校まで形振り構わず乗り込んできたと言うのだ。
「いくらでも払うから、息子を見つけて!」と、
五見に向かって学校の校庭で叫んだらしい。
初老の女性だと言う事だ。

色々物騒な時代で、
不審者が侵入するということに敏感になっている学校が、
この騒ぎで警察を呼ぶ大騒ぎをしたとのこと。

そして、学区外のその学校内の生徒達にも、
それまでの五見のことが知れ渡ってしまったというのだ。



今までにも、五見の家にはそういった切羽詰った人たちが押しかけてはいた。
父親が生きていた頃、
親子二人で一緒に住んでいた私の家にしろ、
そういったことはあった。
誰かを見つけて欲しい、
死んだ人と話がしたい、
異様な現象があるのだけれど、どうしたらいいか。

人って、ほんとずうずうしいもんだ。
他人の事情まで、知るかっての。
自分達の事で手一杯だし。
ったく、こっちの迷惑全く考えないんだから。






「あー、明日バイト休みだから行くよ」
私が言うと、叔母さんはほっとしたようだった。
「有難う、夕飯真備ちゃんの好きなすき焼きにするからね」
明るい声で叔母さんは言い、電話を切った。



さて、どうやって五見を励ますか。
私が高校中退したみたいに、
嫌なら、学校やめちまえって言うか。
でも、今の私は中退を後悔してるけどねって言ってね。


意地悪なようだけど、
どう他人に励まされようが何を言われようが、
結局、選択肢を選ぶのは自分だし。
その選択肢の先を生きていくのも、自分なんだから。



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