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作品名:認知症の母と息子の介護会話日記。かいごさぶらい<上>「ただひたすら、母にさぶらう」 作者:kaigosaburai

第6回   認知症の母と息子の介護会話日記6
《2005年5月》
「どっちかわからへんねん?」
2005/5/1(日) 午後 0:13
某月某日 母は良く喋る。某国立大学の偉い精神科の先生でも、母の深い「言の葉」の意味は、解からないであろうと思う。今日、何回目かのおトイレで。

「さあ〜、ここが便所やでぇ」

「ここかいな、しらんかったー、ちかいな〜」

「はい、ゆっくり座りや」

「すわったら、え〜のん?」

「そうや〜」母は圧迫骨折で、2回腰の骨を折っている、為に、座らせるときは、お尻を抱くようにして持って、支えてやらないと、痛がる。

「にいちゃん、ありがとう、こんな、ことまでしてくれるん、ありがとうございます」

「何〜んにも、礼なんて言うことないよ、さっきも、したやんか?」

「さっきっ!、わたし、したぁー、しらんかったー」母を、便座に座らせ、向き合う形で、私も母の前でしゃがみ込む。

「今度は、おしっこか?、うんちか?」

「う〜ん」と、母はニコニコしながら。

「にいちゃんは、どっちやとおもう?」

「う〜ん、僕は分からんわー、どっちでも、お袋ちゃんの好きなように、したらえ〜やん」

「そうしょうかな〜」と、悠然としたものだ。しばらくすると、便器で水音がした。

「お袋ちゃん、チョロチョロやー、良かったな〜、おしっこ出たやん!」

「ふっフ〜ン、でたわー」

「元気な証拠やでぇ、もう出〜へんか」母は笑顔で。

「そう〜、わたし、げんきなんかー!」

「そらそ〜や、おしっこ、ちゃんと出来るやんか〜」

「ふっフ〜ン、にいちゃんもそうおもうか〜」

「そうやで〜、うんちもおしっこもちゃんと、出さな、あかんねんでぇ」

「にいちゃん、かしこいな〜、よ〜しってるなっ!」

「お袋ちゃんのことやったら、だいたい分かるねんでぇ、偉いやろう〜」

「ほんまや、えらいなぁ!」

「さあ〜、もう拭こか〜」

「ま〜だ、でそうや、う〜ん、う〜ん」と母は背中をそらして、、、。

「今度は、うんちか〜?」

「どっちかわからへんねん?」と、小首を傾げる母。それは、そうだと、思う。それが自然だ。


「もう、おきても、よろしいか?」
2005/5/3(火) 午後 1:05
某月某日 暖かくなり、母の夜中の徘徊も少なくなってきたようだ。春眠暁を覚えず、か。日本人にとって季節はDNAに織り込まれているのであろうか。

「おか〜さん、おか〜さ〜ん」と、母の声。

「は〜い、どうした〜?、お袋ちゃん」

「にいちゃん、もう、おきてたん?」

「うん、いま、お茶淹れよう、思うて、お湯沸かしてんねんでぇ」

「そうですか?、ありがとうございます」

「もう、ちょっと、寝といてなっ!」

「はい、もう、ちょっと、ねさしてもらいますぅ」と、1分も経たないうちに。

「もう、おきても、よろしいか?」

「まだやで〜、朝ご飯の用意してるからな、もう、ちょっと、ゆっくり、寝といてぇ」

「はい、おねがいします、ねときますから、おこしてなっ!」

「はい、はい」

「にいちゃん、えらい、あかる〜なってるでぇ」

「そうやな〜、もう、7時半ごろやからな〜」季節は正直だ。有り難い。

「にいちゃん、さぶいねん、ちょっとかぶして〜な」母の寝床へ行き、毛布とお布団を整えてやる。すると母は。

「もう、おきても、よろしいか?」と、子供のような笑顔で、私に聞くのだ。2〜3度、これを繰り返す。今日も恙無し。


 「ばいば〜い、あとでおいでや〜!」
2005/5/4(水) 午前 11:21
某月某日 デイサービスの送迎車が来る時間が迫って来た。

「お袋ちゃん、もう直ぐ、学校(デイサービス施設)から、電話がかかってくるよ〜、頭の髪といて、用意しとこうな〜」母に声をかける。

「ふ〜ん、きょうはがっこう、いくひぃ〜か?」

「そうや、毎日、行ってるやろう」

「しらんでぇ、まいにち、いってるか〜?」

「お袋ちゃんの好きな、歌なっ、唄うねんでぇ!」

「どんな、ウタや?、うとうてみぃ」ここで、私は、何時も、母の好きな童謡のワンコーラスを唄う。すると、連れて、母が。

「あっー、そのウタ、しってるわーっ!」と嬉そうに、笑顔で。

「カラスはやぁ〜ま〜にぃ〜」と、親子で、コーラスだ。何曲か、唄い終わる頃にデイのヘルパーさんから、電話がかかってくるのだ。

「ほ〜ら、学校から、電話がかかってきたでぇ、行く用意しょうか〜、おしっこないか〜」

「おしっこ、いくわー」さあー、ここからは、手早くしないと、デイの送迎バスを待たせることになるので、私の動きは無駄を一切省いたものになる。電光石火とはいかないが。自宅はマンションの2階だから、エレベーターを使って母を1階へ。エレベーターの中には正面に大きな一枚鏡がある。当然、母と私はその鏡に映る。すると、母は。

「あっー!、おはようございます、にいちゃんこのひとらだれやぁ〜?」と母は、鏡に向かって丁寧に挨拶するのだ。ちゃんと、複数形を使っている。

「お袋ちゃん、と、僕やんか〜?これ、鏡やで〜、ほらなっ!」

「なんや?カガミかいな〜、はははぁ〜、それもわからんと、アホみたいやっ!」

「00さ〜ん、お早うございます」とヘルパーさんの声。

「おはよう、ございます」と、母もペコリとお辞儀をする。

「なにしてんのん?にいちゃんも、はよ、のりんかいなぁ」と、送迎バスに乗り込んだ母が私を促す。

「うん、僕はあとから行くからなあ、お袋ちゃん、先に行っといてな〜」満面の笑みをうかべ、母は、ヘルパーさんの介助で座席に座る。

「ばいば〜い、あとでおいでや〜」と、車内から、ニコニコ顔を、私に向けて手を振る。(お袋ちゃん今日も元気でなー、皆さんと仲良〜してやー)と見送るのだ。


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