俺が目を覚ましたのは、暖かい日差しが差し込む朝ではなかった。 まだほの暗い闇に包まれた午前四時頃。
隣で眠っていたはずのカルカナの寝息はなく、俺の腹部辺りにずっしりとした重みを感じた。
俺はその重みで目を覚ましたのだ。 ゆっくりと瞼を開ければ、そこにはカルカナの姿。
「カルカナ・・・?お前・・・何して・・・?」
カルカナは俯いているせいで、髪が顔にかかり表情が見えなかった。 ぼーっとした視界がだんだんとはっきりしていく。 カルカナの背に、あの大きな翼が広げられている。
俺は起き上がろうとするが、カルカナが乗っている所為で起き上がることが出来なかった。
「カルカナ・・・退いてくれないか。」
「・・・ミカド、お話があります。」
「なら、先にどいて・・・っ?!」
カルカナを退かそうと俺はカルカナの肩に手を伸ばした。 その時だ。俺の手をカルカナが振り払ったのだ。 パシッという渇いた音が、部屋に響いた。
・・・なんで、手を払われなきゃいけないんだ・・・!!
軽い苛立ちを感じたが、それよりも胸を締め付ける感情が大きかった。 未だカルカナは俯いたままで、表情が読み取れない。 だが、口元が見えた。
悔しげに、唇を噛み締めていた。
俺が無理やり身体を起こすと、カルカナはトンッ・・・と軽く後ろに飛び、ベッドから降りた。
「カルカナ・・・話ってなんだよ。」
「はい。それは・・・。」
と呟き、カルカナが右手を前に出す。 すると光り輝く杖が現れた。 それをカルカナは伸ばしていた右手で取り、俺に杖の先を向ける。
その杖は、アンティーク系の形をしていた。 取っ手の部分は綺麗に加工されているのか、光沢を帯びており、ワインレッドの色・・・だと思う。 ほの暗いこの闇では色までは識別できなかった。
俺が呆気に取られていると、カルカナが杖を向けたまま口を開いた。
「カルカナ・リング・シスファン、これより貴方を抹消致します。」
「…は?」
「・・・問答無用!!!!!」
そう言ってカルカナは、翼をバサッと出し、一度羽ばたかせ、俺に向かって飛んだ。 一度振り上げてから俺の顔面目掛けて、杖を思いっきり振り下ろす。
ヤバい。 そう思うだろ?誰だって。 俺は別に瞬発力があるとかそんなんじゃないけど、間一髪でその杖をよける事に成功した。 そして俺は後ろから回り込み、カルカナの両手首を取った。
「いきなり何だよ?!カルカナ!」
「私は逆らえないのです。だから、貴方を…殺さなければならない…。」
カルカナはそう言った。 だが声は震えていた。震え、涙を堪えているようだった。 誰に逆らえないっていうのだろう。
俺には・・・解らなかった。
「・・・誰に逆らえないんだよ!」
「・・・それは・・・貴方には関係の無い事・・・っ!!はなしッ、はなしてぇ・・・ッ!!」
「誰が離すか!!俺はまだ死にたくなんてねぇんだよ!」
「…解ってください・・・!」
「解らねぇよ!」
俺は後ろから怒鳴った。 カルカナは声を押し殺して涙を流している様だった。 バタバタと手首を離せと言わんばかりに暴れる。
だが、俺は男だ。 少女が暴れたくらいで離すような貧弱な男ではない。
「カルカナは…カルカナはこうしないと…っ!」
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