「ん・・・。」
「ミカド?おはようございます。」
「…カル、カナ…」
「はい?」
「・・・ふあぁあ・・・。」
俺はゆっくり身体を起こす。ベッドの隣で、カルカナは俺を見つめてクスリ笑った。 その笑顔は、夢で見たカルカナの笑顔と同じだった。 何故か恥ずかしくなり、俺は大きく開けた口を閉じて頭をかき上げた。 ふと窓の外を眺めると、日がすっかり落ちていた。外は闇で包まれていたが、星や月、そして家々の明かりがぽつぽつとついてた。
俺は一体どれだけ眠っていたのだろうか。 そんなに長く眠っていたのかと思うと、何故か心苦しい気持ちになった。
「カルカナ、お前・・・暇じゃなかったのか?」
「?何故ですか?」
「・・・いや、ほら・・・。」
「ミカド・・・?どうしたのですか?」
「どうしたのですかって・・・そりゃぁ、申し訳なく感じるだろう?!」
「いえ、そうでは無くて・・・。何か悲しい夢でも見たのですか?」
「・・・え・・・。」
カルカナは、そっと俺の頬に手を添えてきた。俺はそれを交わさなかった。 ・・・いや、出来なかったのだ。カルカナの辛そうな顔を見てしまったからなのかもしれない。 俺は・・・動けなかった。
俺の頬に触れたカルカナの指先はキンと冷え切っていた。俺は暖房を入れていなかった。 なのに、自分だけぬくぬくと暖かい布団にくるまり、眠っていたのだ。 だがカルカナは、この寒い冬の季節。暖房もついていないこの部屋で、じっとベッドの隣で座っていたのだ。 きっと身体も冷えているのだろう。
「冷えてんのな・・・。」
「え、あ、す、すみません!!」
俺の一言に、慌てるカルカナ。ぱっと俺の頬から手を引き戻した。 そんなカルカナを見つめながら、俺は夢の事を考えていた。 あれは一体夢だったのか、はたまた現実だったのか。 だが、俺はあのミカドと呼ばれる男を知らない。見た事もないのだ。 最後に言った、あの言葉。
『嗚呼…君か。駄目だよ、あまりこちらを見ないほうがいい。』
あれは誰に言ったんだ・・・?俺にか・・・? だとしたら、あれは夢ではなく現実・・・。だが、俺は眠っていた。確実に眠っていたのだ。 じゃぁあれは一体なんだったというんだ。
嗚呼・・・解らない。
「ミカド・・・やはり、嫌な夢でもみたのですね・・・?」
「え、あー・・・いや、そうじゃないんだ。」
「・・・それならば、いいのですが・・・。」
カルカナは心配そうな顔で俺の顔を覗く。俺はへらっと笑った。 だが、カルカナとってその行動は、更に心配させる要素となったのだ。 そんな事にも気付けなかった。いつもならもっと上手く出来るのに。 人の顔色なんてもんは、簡単に解る。些細な変わりようを見逃さず、この十七年間生きてきたというのに。 あの夢のようにカルカナを笑わせてやることは、俺には出来ないのだろうか・・・。
俺は軽くため息をつき、部屋の暖房のスイッチをいれた。 冷たい風が暖房から吐き出される。数分もすれば、部屋は十分に暖まるだろう。 最初からこうすれば良かったのだが、そんな事すら俺は考えられないほど、頭がいっぱいいっぱいだったのだろう。 俺は部屋の時計に目をやる。どうやら、ちょうど今夜の八時になった頃だった。 眠ったおかげか、そこそこ空腹にはなっていた。
「カルカナ、何か食べたいものとかあるか?」
「え、あ、いえ!そんな!」
カルカナは、ぶんぶんと首を横に振る。 音がなっていてもおかしくないぐらいに、力いっぱい横に振った。 だが、俺にはカルカナをこの部屋で寒い思いをさせてしまったことに後悔していたのだ。 流石に気を使ってしまう。
「遠慮すんなって。」
「あ、えっと・・・。」
俺は優しく笑ってみせた。どうやら、ちゃんと笑えてたみたいだった。 カルカナは頬を赤く染めながら、両手を足の間に挟み、もじもじしていた。
俺が作れるものなら、作ろう。無理なら出前だ。うん。 そんなことをアレコレ考えていると、カルカナが”あ、あの!”と恥ずかしそうに声をあげた。
「ん?」
「その・・・カ、カルカナ!お作りしたいです!」
「・・・へ?」
胸の前でぎゅっと両手を握り締め、目をキラキラとさせて俺を見てくる。 何かを期待するかのような目で、俺をじっと見つめてくる。
・・・まぁ、作ってくれるということならば、お願いするか。 俺は軽く一息つき、カルカナの頭に優しく撫でた。 先ほどつけた暖房の風が次第に温かみを増す。 頬を撫でる温風で、また眠くなりそうだ。
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