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作品名:カルカナコトバ。 作者:

第1回   【一日目〜偶然の必然の】


「…ん…朝か。」

俺はカーテンの隙間から差し込む太陽の日の光りをうっとおしく思いながら、ゆっくりと体を起こした。
ぐーっと両腕を上に伸ばし、背伸びをした。大きな欠伸を一つすると、吐き出された息は白く漂う。
季節は皆が何故か喜ぶ冬だ。
俺にとっては、大嫌いな季節だった。
それはとても簡単な理由。

・・・俺は雪が嫌いなのだ!

そんなことはさておき、俺は寝ぼけた頭を軽く振り、頭をぐしゃぐしゃとかきあげた。
気だるい体を起こし、カーテンを開けた。
すると案の定、外は一面の雪景色。


「あー…学校。」


前ならば、いつも起こしにきた人がいた。
母だ。だが、その母は、父と共に今は海外に出張中だ。
今この家には俺しかいない。


………はずだった。


俺は部屋を出て、冷えた廊下を歩いた。足の指がかじかむのが解るほど、この家の温度は冷えきっていた。
廊下を出てすぐの階段を下り、朝食を作ろうかと考えていると、そこに誰かがいた。
リビングの四人掛けのテーブルの側で誰かが倒れている。

誰だ?強盗?強盗が倒れてる?寒さで?
いや、まさか。
・・・父さん、母さんが帰ってきた?
それも無い。

俺の頭の中で、一人ボケツッコミをしていた。
だが、今はそんな事をしている場合ではない。


「…だ、誰だ・・・?」


俺は恐る恐る側に近寄った。
そして、その不振人物の手には何も武器となるような物はなかったので、近づきゆっくり抱き上げた。
顔を見ると女の子だった。小さく寝息を立て眠っていた。
その子の体は触れただけで解るほどに冷えきっていた。

何故、こんな場所に。それもかなり綺麗な寝顔だった。まるで死んでいるかのように、安らかな寝顔だった。

というか、何処から俺の家に?
取り合えず、俺は起こしてみようという判断を下した。


「おい。お前、起きろ!」


軽く体を揺するとゆっくりと瞼を開いた。
開いた瞼から覗く瞳は淡い緑色をしていた。髪は長く、白い髪。
やはりとても綺麗な顔立ちであるが、多分歳は十二歳ぐらいの少女。


「起きたか?おい!」

「んぅ…。あな、たは?」

「は?俺?俺は帝。島原 帝(しまばら みかど)だ。」

「み、かど…みかど?」

「というよりお前は一体・・・。」

「ミカドー!!!」


ゴツンという鈍い音が頭に響いた。どうやら俺は倒れ込んだらしい、というより押し倒された。

この少女に。

訳が解らず俺は少し焦りながらも、その少女を引っぺがした。
そりゃ訳が解らなくなる。初めて女に押し倒されたのだから。


「〜〜!!お前は何なんだ!!!」

「覚えてないですか?」


キョトンと緑色の瞳を俺に向ける少女。
覚えてないというより、初対面なんだが。

そんなことを考えながら、俺はハッとなり壁際の時計に目をやる。
時刻は、八時五分。高校が始まるのは八時半。此処から高校までが四十分。

確実に遅刻だ。俺は深くため息をついた。
そして諦めた。頑張るなんて割に合わない。というか寒い外を自転車を飛ばすなんて嫌気がさす。
ただでさえ、雪が嫌いな俺が何故どうしてこのクソ寒い中青春の汗とやらを流さねばならないのだ。
後で学校には電話を入れて休むと言えばいい。風邪だとか言えばいいか。



「ミカド??どうしたのですか??」

「あぁ…いや。で、お前は誰だ?俺の家に何の用だ。」

「ミカド、私を覚えてないのですか?」


…だから知らないって。

俺は小さく心の中で飽きれたように呟いた。
勿論相手には悟られる事の無いよう表情を変えずに。


「私はカルカナ。カルカナ・リング・シルスファン。」

「かる…しる?は??」

「私の事はカルカナでいいのです。ミカド、やっと会えたのです!」

「初対面なんだが…俺を知ってるらしいな。」

「初対面ではありません!私と貴方は婚約したではありませんか!」

「あー…って、はぁあ!?」


少しむっとするカルカナ。
俺は目をぱちくりしながらカルカナを見ていた。

俺と、カルカナがこ、婚約ーーーー?!

というか、俺の家はそんな婚約とか政略結婚とか、そんな家柄ではない。
いや、普通の家だ。両親はまぁ海外に働きに出てるけど。
それぐらいだろ?普通の家とは違うのは。
別に金持ちという訳ではない。ごくごく普通の家。
俺は呆気にとられた。
そりゃそうだろう?知らぬ間にリビングにいた、このカルカナという少女。
そして、それも俺と婚約したと言い出す。

誰だって、驚くに・・・いや、驚かずにはいられない。
だが、いつまでも驚いてる訳にはいかない。
俺は平常心を呼び戻す。


「あのな、俺は婚約とか知らないから。」


言い聞かすように、というかこのカルカナという少女に正気に戻ってもらうために言った。
だけど、それはどうやら無駄だったらしい。
カルカナは目を大きく開き、眉を下げ悲しげに言った。


「!あの言葉は嘘だったのですか…?」

「だから俺は・・・」

「再び我等出会う時、口づけを交わし永遠の愛を誓おう。」

「?!」

「ミカドはそう言ってくれたではありませんか!!」


カルカナは俺の手を握り、涙を浮かべながら哀しそうに・・・いや、切なげに俺を見た。
だが、俺には覚えの無い事だった。
必死な表情のカルカナをみて、俺は少し怯んだがぐっと歯を食いしばり、カルカナをじっと見つめた。


「いつ、どんな場所で俺が言った?」


俺の問いに、カルカナは悲しげな表情のまま手を離し、首を傾げ手を自分の胸に当てた。
思い出を思い返すかのように、胸の奥の大切な何かを思い出すかのように、そっと目を閉じた。
その表情はとても儚げで、少女の可愛さよりも女性の綺麗さにも見える程だった。


「闇と光りの狭間で、百年前に約束したではありませんか。」

「…いや、そこは何処だよ。そんでもって俺は今十七歳だ!百年も生きてねぇ!!」

「もしかして…全てを忘れてしまわれたのですか?」


カルカナは心配そうな目で俺を見つめ、俺の肩に手を置いた。
俺の目と鼻の先にはカルカナの顔。必死な表情で俺をじっと見つめる。
・・・流石の俺も近すぎると、照れてしまう。俺は顔をふいっと背け、床を見た。


「忘れるも何も俺には…!?」


と、言い返そうとした瞬間だ。
激痛と共に頭に何か映像が浮かぶ。咄嗟に俺は頭を押さえた。
半端ない痛み。鈍器で殴られたような、重い痛みだ。
頭に浮んだ映像にカルカナらしき人ともう一人。
だが俺にはそのもう一人が見えなかった。
カルカナは今の姿のままで、とても幸せそうにその誰かと微笑んでいた。


「ミカド?!大丈夫ですか?!」

「…っ…何だったんだ…?」

「ミカド…?」

「・・・平気だ。・・・取り合えず朝飯。」


今のは一体何だったんだ…?

俺は混乱する頭を軽く横に振った。振ったからどうにかなるわけでもないんだが、何となく振った。
ゆっくり立ち上がり、キッチンに歩く。
腹が減ったのだ。働くはずの脳も、すきっ腹では動かないらしい。
人間の体というものは、何とも不便なものだ。


「あ、あの!ミカド!!」

「あ?さっきの話は後だ。先に飯だ、飯。」


全く訳が解らない事だらけだ。混乱とかいつぶりだよ、全く…。
カルカナは俺の側に駆け寄り、朝飯を作っているのを何故か横で珍しそうに見ていた。
何も言わず、ただじっと。
何だか見られるのはある意味恥ずかしい。それも真横で。

そんな状態で俺は何故か二人分を作り終え、テーブルに持っていく。カルカナは俺の後ろを歩く。
朝食の準備をし終わり、椅子に座った。カルカナは俺の前に座った。
俺が何も言わずただ食べていると、カルカナは朝食と俺を交互に見た。
カルカナのお腹が小さく鳴った。カルカナは照れているのか、下を俯いた。


「はぁー……。冷めるぞ?早く食え。」

「は、はい!」


カルカナはぱあっと顔を明るくさせ、朝食を食べだした。
不覚にもその顔が、とても可愛く見えて、というより可愛かった。とても愛らしい表情だった。
そんなカルカナを見て俺は、頬が熱くなるのを感じた。

相手は少女だぞ・・・!?
俺にそんな趣味なんてねぇ・・・!!

自分に言い聞かすように、俺は目の前にある朝食にがっついた。
そんな俺に気づかず、カルカナも食べるのに必死になっていた。よほどお腹が空いていたらしい。

俺達は朝食を食べ終わり、俺は食器を洗い場に置いた。


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