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作品名:cries vanguard 作者:姦姦先生

第4回   4
(あれよあれよ)

 それから本当にあれよあれよと事態が進展して、具体的にはお店の人の通報でお巡りさんが駆けつけてきて、サイコパスはそれも殺した。
 これは、そんな不思議な不思議な物語。
 
 駆けつけてきたお巡りさんは、町でも評判の優しいお巡りだったけど、どちらかというと撃ちたがりの方で、最初から拳銃を抜いて臨戦態勢だった。
「止まるな。撃つぞ!」
 お巡りさんは叫んだ。
 果たしてサイコパスは、小癪にも色々動き続けたので撃たれてしまった。
 具体的に言うと、彼女は自らのスカートの中をまさぐっていたのだ。
 ぱんぱーんと乾いた銃声が響いた。
 そして不思議なことが起きる。これは、不思議なことその一である。
 銃弾が、その人を殺す金属の塊が、サイコパスの身体をすり抜けたのである。
 後方の本棚には銃声の分だけ穴が空いたけど、サイコパスの身体には傷一つ無く、一滴の血も流れてはいなかった。
 可憐な少女が射殺されて、あたり一面が美しい朱で染め上げられるのを期待していた僕は、少し拍子抜けしてしまった。
 それで、お巡りさんは狼狽した。
 至極当然の反応であった。
 そして畳み掛けるように不思議なことがまた起る。これは、不思議な事その二。
 まずサイコパスは、高らかにその名を叫んだ。
「児童ポルノー」
 そして彼女が、その弄っていたスカートから、ぺっぺけぺっぺーぺっぺけぺっぺっぺーとばかりに、取り出した厭らしい物は、まさしく『児童ポルノ』であった。
 サイコパスはこれみよがしに、その写真集の特にきわどいページを開いて、チラチラと僕らに見せつけて来た。
 少女の肌色が頁(ページ)一杯に広がっていた(それ以上の描写はエッチすぎて、どうにもこうにもここには記せないのだ)。
 僕とお巡りさんは、思わずそこから目を逸らした。
 けれどもそれは、お互いさまであった。
 その時、児童ポルノの方も、はにかむように、僕らから、その顔(?)を背けていたのだから。
 スカートの中から手品のように『児童ポルノ』が出てきたことにも吃驚したけど、そのポルノが、生きていたことには、もっと驚かせられた。
 児童ポルノは、しばらく宙をふわふわと漂うと、サッとサイコパスの後ろに身を隠してしまった。
「あ、こら。なんてザマですか。この腰抜け!」
 サイコパスが叱り付けるが、『児童ポルノ』はおずおずとその顔(?)をのぞかせて、まるで母親に甘える子どものような声で言う。
(アグネスさん、いぢめない?)
 サイコパスは、大きな溜息を一つ吐くと、やはり子どもを諭すような優しい口調で言った。
「大丈夫ですから、出ておいで。今こそ貴方のおぞましさを、現世(うつしよ)の連中に見せつける時です」
(うん、じゃあ、僕、がんばる!)
『児童ポルノ』は、開いたページをくしゃくしゃにして微笑んだ。くしゃくしゃになった裸の少女は、その顔が少し猿に似ていた。
(てやぁぁぁぁぁぁっ)
 空飛ぶ『児童ポルノ』は、猪突猛進お巡りさんに向かって行き、その顔にへばりついた。
 そして、一番信じられない事態が起こった。これは、不思議な事その三である。
 市民の保護者たる、本来なら子どもを守るべき立場にあるお巡りさんの、そのズボンの前の方が、こんもりとおぞましく、まるで鎌首を擡(もた)げる大蛇のように、盛り上がってしまったのである。
 それは明らかに、小児に欲情する、悪い大人の陰茎であった。
 サイコパスは、すかさずその突起物を、「凶器のような物」で抉り取った。
 瞬間、凄い声が辺りに響いた。
 お巡りさんの声だ。
 痛そうだなーと僕は、思った。
 いや違う、本当は超痛そうだなーと思ったのである。
 お巡りさんは膝から崩れ落ちた。
 その手で押さえている股の部分から、止め処なく朱(あか)いものが迸っていた」。
 真新しい血が、すっかり乾ききった先ほどの猫の血痕を上塗りしていく。
「さあ、今の内です!」
 呻き、のた打ち回る、お巡りさんを尻目に、サイコパスは僕の手を取って、叫んだ。
 僕は、彼女に促されるままに、犯行現場である街の本屋さんから逃走した。

外に出ると、そこにはもう濃密な夜の闇が広がっていた。
 夜気がやけに寒々しい。少し冷やしすぎだなと僕は、思う。
それにしても繋いだ少女の手は、やけに暖かくて、僕はどぎまぎしてしまう。
振りほどこうとしても、少女は固く僕の手を握り締めてくる。
「さて、坊ちゃんは、走って逃げるとお思いですか?」
 今まさに走りながら、サイコパスが僕に問うてくる。どうでもいいけど、いつの間にか、坊ちゃん呼ばわりされていた。
「え、じゃあ、歩いて逃げるの?」
 我ながら、愚かなことを言ったものだと思う。
 サイコパスは、微かに首を振ると、
「違います。飛んで逃げるのです!」
と言って、ピッと上空を指差した。
空の上では、重苦しく垂れ込める雲が、冷房都市のネオンに照らされて、極彩色に煌いている。
「夢見る心があれば、私は飛べるのです。お前には無理だけど、私にはそれが可能です。私が坊ちゃんを連れていってあげます」
そう言うと果たして、サイコパスの身体がフワリと宙に浮き上がった。勿論僕の身体も、彼女に引っ張られて、どんどん地面から遠ざかっていく。
そしてとうとう僕らは、冷房都市の天蓋をかすめるばかりに舞い上がった。


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