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作品名:続 闇の権力者たちの近代日本史 作者:佐々木 三郎

第8回   殺し屋の警備保障会社
殺し屋の警備保障会社

 ああいうのは少し傷めつけたがいい。どの程度。爪を割る、指を折るのが手順だ。目立たぬようにやってくれ。俺の感ではああいうのに限って痛みに弱い。後日きいたところでは、ヘンリーは勃起した男根に輪ゴムをハメられ青くなったそうだ。排尿ができないと尿毒症を起こす。泣きを入れて輪ゴムをはずしてもらったが、その請求は300万ドル。
 東郷はプロの殺し屋たちに警備会社の設立を提案した。警備会社といっても傭兵を派遣する大規模なものだ。面白い、俺は話に乗ると一人が言った。金儲けの殺しは後味が悪いが世界平和に貢献するなら義勇軍だ。ではこの金を資本金にしよう、お前が管理してくれ。わかった、条件がある。何だ。俺たちも後継者を育成しなくてはと思う。それはいい、賛成だ。ならお前が代表責任者になれ、全てを委せる。俺が?東郷が適任だ。そんなことはない、全員がお前を選んだ。そうかい。心配するな皆思いは同じだ、お前に従う。
責任重大だな。この会社の社員は一騎当千だ、そこらの軍隊など物の数でない。そうだ、我々はプロだ。世界の軍隊が我々にひれ伏す日が来るだろう。
何か新しいことをやるのは楽しいな。まったくだ。こうした機会を与えてくれた東郷に感謝する。なら夕食をご馳走しろ。

 守るべき者がいるということが人生の意義だ。この坂本の理念は警備会社の基本理念となった。ゴルゴ13こと東郷は中東の紛争国の軍隊を乗っ取った。それなりの対価を払ったが、国民のための軍隊になろうとぶち上げた。これが利いた。給料の安定的支給と相俟って政府軍反政府軍を掌握した。両軍との交渉にはアンが同行した。リーダーの説得に貢献したのは言うまでもない。は武力を捥がれるとか弱い存在だ。
 新政府は公平な選挙によって樹立された。大国の干渉はあったがメディアが世界中に樹立の過程を流したからすぐ手を引いた。復興資金調達は大平の功績が大きかった。世界中から援助を取り付けてくれた。資金運用は田中の手のものだ。治安の維持と一年足らずの急速な復興は世界を驚かしたが、もっとも驚いたのがその国民だ。
 この度の革命は国民自らで維持して行かねばならないと教宣活動展開する。まず教育だ。学校の建設は最優先とされた。政治、企業、教育、産業の指導者が日本から招聘された。ボランティアである。だがその勤勉さ、誠実さは国民を動かし勇気づけた。尊敬が生まれる。

 殺し屋たちの間でアンと東郷の仲が噂される、どうやってあんないい女をものにした。それは愛だ。愛とは。この女に殺されてもいいと思えることだ。
そんなものか。そんなものだ。セックスの時が最も無防備であることは殺し屋には常識である。俺にもそんな女と巡り会えるか。極めて難しいが可能性は無くはない。格好つけやがって。妬くな。東郷に負けないように頑張ろう。
そうだ、自助努力だ。
 アドバイスはあるか。女の見極めだな。殺されてもいい女か。この話を聞いて坂本は愛欲理論に加えるべきだと思った。愛は移ろいやすい。だが変わらぬ愛も無くはない。稀ではあるが時と共に深まる愛もある。

 警備会社は両親家族を失った子供が希望してきた。ほとんどが復讐心に燃えている。愛に飢えているのだな。アンはその言葉に涙した。東郷を見直した。自ら母親役を買って出ると同時に母親代わりになりそうな女を数人見つけてきた。彼女らは子供たちだけでなく社員にも好評であった。
 これを機に女の雇用は警備会社の全部門に広まった。他人のために命を懸ける男に女は弱い。純愛が芽生える。そして結ばれる。紛争国では外人と結ばれることは稀なことであったが、会社にとってもいい方向に作用した。現地の生の情報は女によってもたらされる。
 子供たちは復讐心より世の為人の為に働く喜びを知った。中には復讐心に燃える子供もいたが、いい殺し屋になるとの評価を得た。世の中一つの尺度では測りきれない。殺し屋の生い立ちは親の愛情を知らない孤児が多い。自分たちに重なるものがあろう。厳しいプロの訓練に子供たちはよく耐えた。厳しき中にも愛情を感じるのだ。プロたちも後継者の育成に喜びを感じる反面、殺し屋の厳しさを子供たちに味わいさせたくないとの感情もあった。
 警備会社は国家の再建、新しい国づくりも担っているのだ。やがては自分たちが手を引く仕事ではあるが、それなりの満足感があった。殺し屋の過去は権力者、金持ちの使い捨ての道具に過ぎなかった。その卓越した技能は今や平和維持に貢献している。一匹狼の殺し屋をまとめたのは東郷であるが、陰に坂本の存在がある。一匹狼も共通の獲物を狙うときには群れになれる、坂本らしい言葉だ。彼らは話に聞くだけでなく坂本本人に会ってみたいと思った。また謎の飛行物体トモカサの製作者柴崎啓太にも。


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