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作品名:続 闇の権力者たちの近代日本史 作者:佐々木 三郎

第7回   黒幕の詰めろ
黒幕の詰めろ

 黒幕は詰めろである。あとは追い詰めて守り駒を剥がしてゆけばいい。どちらに追い込むか。白井貴子はアンヘンリーを東郷に紹介した。勿論坂本の了解はとってある。思いつくとそのことしか考えられないのがフィリピン人。関連事項が考えられることが教養だ。
 東郷はポトマック川の辺りでアンヘンリーにあった。歩きながら話しましょうか。それが一番いい。明日、私は彼を散歩に誘います、ここを通ってあの木陰のベンチに向かいます。絶好だ。二人はリハーサルをしている。ここで二人組が木陰に引き入れる、君は声を立ててはいけない。二人組は君たちを挟んで車に乗せる。わかりました。
 問題は彼がパスポートを所持しているかだが何とかしよう。もし所持していることがわかったら目をこすって合図してくれ、手間が省ける。そうします。質問は。ありません。貴子が君に会えるのを楽しみにしている。私も。

 東郷はアンと別れてアジトに向かう。アンの匂いが残っている。こんな気持は初めてだ。自分の親も知らず殺し屋に育成された男にはアンの高貴な美しさがまぶしく見えた。仕事人は自分の感情を殺して生きてきた。東郷は苦笑した。

 アンヘンリーはリバーサイド教会の入り口で男とぶつかった。手に持った政治学の本を落す。すみませんとオックスフォードの英語で謝る。男は笑いながらオックスフォードからと尋ねる。ええとアンは恥じらいながら答える。政治学を研究してられるのかな。博士課程の学生です。少し話ができるかな。はい、歩きながらでしたら。
 二人は川辺を歩きながら話した。昔オックスフォードを歩いたことがありましてな。そうですか。静かな街でした。ええ。ここに住む人間はどういう階級だろうと思いました。アンはいぶかしそうに男を見る。オックスフォードは日本の皇族を初め世界の王室が留学する貴族階級の都市だ。言葉遣いからしておたうさま、おもうさまである。
 お嬢さんどうして政治学を。大学ではShakespeareを勉強しました、この文学は政治的メッセージが込められていると考えたのです。ほう、面白い。ヴェニスの商人は裁判官ポーシャの機知が恋人の命を救ったとの解釈は文学的であり幼稚です。貴女の見解は。契約は無効と判示すべきであるとの意見も法的見解としては見識ですが、何故このような契約をしなければならなかったかという観点からの考察がなされていません。初めて聞く見解ですな。
 これは政治学的考察をしなければ作者の真意、意図は理解できないと思いこの大学院で勉強することにしたのです。英国では難しい。ええ、この国は若いだけに発想が自由です。確かに。
 何時しかアンは持論の展開に夢中になる。この男が真の黒幕ということを忘れたほどだ。Shakespeareほどの作家が詭弁を弄するはずはありません。ですな。シャーロックのお国の法律でこの契約は有効ですなとの叫びに共感できるのです。胸の肉を代物弁済に。ええ、法学者は当事者の真意を考えていません。契約しなければならなかったのです、契約させねばならなかったのです。英国は契約しなければならなかった、契約させねばなければなかったのは。はっとしてアンは男の顔を見つめる。背筋に冷たいものが流れる。
 白井貴子ともに拉致された日のことが頭を過る。恐怖が走る。男が笑った。
ことが上手く行き過ぎるとアンは思ったが持論に夢中になり過ぎた。騙したつもりが騙されていたのだ。貴子と心のなかで叫ぶ。
 ほんとうにその時である。もうだめとアンが思ったその時であった。二人組が二人を木陰に引きずり込んだ。有無を言わさずさず車に乗せる。これは劇中劇とアンは思ったが声が出ない。

 空港につく。どこへ、東京だ。大人しくしたほうが身のためだ。お嬢さんあなた達の航空券、と手渡しながら、男には凄みのある成田についたらデゥーク東郷の指示に従え、空港警備員、搭乗員がお前を監視している。言い残して二人組は去って行った。男は旅慣れているのか出国手続きを済ますと搭乗ゲートに向かう。離陸してアンは一息ついた。このまま演技を続けるしか無いと自分に言い聞かせた。
 日本航空のジャンボは快適な飛行で成田に到着した。13時間のフライトだが日付変更線を超えると一日早くなる。アンは緊張でよく眠れなかった。真の黒幕は腹を据えたのか悠然と眠ったり考えたりしていた。
 入国手続を済まして到着ロビーに向かうとデゥーク東郷が二人を迎えた。8人乗りのバンタイプの車には男が監視するように後部座席に二人、一時間で東京に着いた。ホテルに着くと部屋に案内される。男は終始無表情だ。しばらくすると電話がなって展望レストランに来るように言われる。拉致するにしてもこれがサカモトのやり方か。

 アンは白井貴子と話して人心地がついた。大役ご苦労様、貴子はまず親友の労をねぎらった。うれしかった。明日にでも大阪に来て。東郷に相談する。
楽しみにしてるから。また連絡する、じゃあね。

 展望レストランにはアンがいた、男と話している。男は真の黒幕に気づくと立ち上がって「ようこそ東京へ」と言った。サンドイッチとビールを3人前注文した。東京は。初めてだ、あれが皇居、少し右にGHQがあった。そして東京裁判が行われた。こいつがサカモトか。
 この世界一の都会は67年前に破壊しつくされた。空襲で殺された市民は30万人以上と言われる。広島を上回る。日本全土がほぼ破壊された。そして殺した側が殺された側を裁いた。今度は戦争を起こした者が裁かれる。
 私に関係あるかな。それを裁くのだ。違法な逮捕、監禁で君を訴える。私を、どこに。坂本は笑った。君がそうさせた。そうかな、私は貴方とこうして話しているだけだが。インターポール捜査官が君を逮捕するだろう。この善良な市民を無実の罪で逮捕する、メディアがよろこぶぞ。
 黒幕は自分が不利な状況にあることを認識しなければならなかった、不利なことは認めたくないのは自然なことであるが問題の解決にはならない。名前を教えてくれ、俺は坂本だ。噂に効いている、私はヘンリーウイリアム。まあ、こうしてあったのも何かの因縁だろう。因縁?運命といってもいい、良かったら君の歴史を聞かしてくれないか。歴史、生まれてからか、先祖からの歴史か。どちらかでも。今は話す気にならない。でわその気になったら聞かせてくれと坂本が立ち上がった。アンもつづいて立ち上がった。残されたヘンリーは窓の外に目を遣る。ここは日本の東京なのだ。

 坂本はアンを部屋に案内するとキャッシュカードをを渡した。これは便利なものだ。使い方を教えるからまずIpadを買ったらいいだろう。秋葉原に行こう。ホテルのフロントで観光マップを手にいれ東京の概略を説明する。東京、上野、新宿を憶えておけば解りやすい都会だ。若い女が一人で歩いても安全だが裏通りは慣れてからだな。
 秋葉原でIpadを買い与える。これが俺の番号だ。貴子の番号もとうろくしておこう。アンは外国人の多いのに驚く。日本製品を買い求めて世界中からやって来る。現金を引き出すにはこうする、ピンNOは人に知られないように。
万一カードをなくしたら銀行に電話して支払いを止めてもらう。3万円を窓口で両替する。両替はなんというのか。砕いて。クダイテ。そう、言ってみな。金種は、5千2枚、2千5枚、千円10枚ピン札で。かしこまりました。
 まあきれい、Nippon Bankこの女は。樋口一葉小説家だ。この絵は。源氏物語。オウ、gennji。彼はドクター野口。この男は。福沢諭吉、慶応大学の創始者。政治家はいないの。1ドルが100円と換算すればいい。ドクターが10ドルか。そう、次に日本の物価を覚えるのだ。
 原宿でジーインズを選ぶ。東京駅で新幹線の乗り方を教える。これでアンは東京通だ。後は自分で歩け、困ったら貴子にきけ。こんなにしてもらっていいのかしら。君のギャラだ、日本滞在費はそのカードで足りる。私一人で大丈夫、あなた忙しそう、自分の足で歩いてみる。

 ああいうのは少し傷めつけたがいい。どの程度。爪を割る、指を折るのが手順だ。目立たぬようにやってくれ。俺の感ではああいうのに限って痛みに弱い。柴崎に付き合ってくれ。ああ。坂本と東郷は啓太を訪ねる。
 偵察用トモカサの集めた情報です、選んでくれたたら編集します。これはすごい、と東郷が見入る。東郷さんなら安くしますよ。平和目的、悪用はやめてくれ。これは世界平和のためだろう、俺もこの家業から足を洗うつもりになっている。悪い、盗撮なんかは良くない。品の悪いことはしない。
 で新婚の生活は。良い旅行をさせて頂きました。奥さんは。できたみたいです。早射ちマック。出会い頭だったのでしょう。ともかくおめでただ祝杯をあげよう。そんなこと言ってられないでしょ。啓太は冷静だ。東郷この画像解説してくれ。
 奴はバチカン近くの教会の神父が表の顔だ。この教会だ。バチカンでは三番目の位置らしい。法王の次か、いや、二番目がいるな。そいつは判らないが実権は奴が握っている。実権を握る奴は表に出ないからな。でニューヨークにアジトを持つようだ、やはりアメリカは人種のるつぼ、目立たないのだろう。で奴と被告人らとは。ああ、年に数回会合している。裏は。アジトは教会の近くのビルだ。東郷はテナント契約のコピーを見せる。さすが。登記簿謄本なども頼む。これだ、こっちは保険契約。失礼しやした。柴崎さんこれを30分ぐらいにまとめてくれ。あいよ。田中、大平を築地に誘う。

 坂本の携帯がなる。アンだ。腹減った握り寿司食いたい。わかった、築地の本願寺で待っていろ、半時間でそこにゆく。はい、待ってます。待てよ、何で日本語、坂本は電話を切って東郷にきく。外国語は日本人が考えるほど難しくはない、こういう場合どういうかとやればいいのだ。それはそうだな。へい、お待ち30分版2丁、旦那と東郷さん。いくらだ。いいですよ。ただほど高いものはない。でわ、寿司は旦那の奢り。よし手を打とう。
 本願寺でアンを拾って行きつけの割烹へ。田中と大平は既に着ていた。アンは美味いと感激する。その食欲はすさまじい。歩き回って腹が減ったのであろう。アン、どうやって日本語おぼえた。そんなの簡単よ。鰻重食べたい。話したら注文してやる。イギリスからの学生がそんなの簡単と言ってた。どこで。原宿。これくれた。指差し会話英米編。

 アン、今日日本に着いたばかり、すごいねえ。田中が驚いて見せるとそんなことないですと返した。すごいねとそんなことないです、これペアね。何がすごいかは分からなくてもそんあことないですと答えるよう教わったらしい。先ほど東郷さんが言ってたとおりだな、坂本がと言うと、大平が、言語は声だけではない、顔の表情、口の動きからも読み取っていますよねと話を引き取る。
 その通りです、口の動きを真似ると現地人に近い発音が可能です。アンが大平を増幅させる。発音ができると聴きとるのが容易になります。さすがオックスフォード。いえ、そんなことないです。東郷さんもあんなふうにして。ああ、商売柄、英仏独伊、スペイン、ロシアは喋らなくてはならない。喋らなくてはならないのか、坂本は東郷に酒を注いでやる。東郷は貴子が言っていた以上の男だ。いえ、そんなことないです。これにはアンも一本取られたな。東郷は冗談を言わない男だ。
 一本とは柔道ですか。一本勝ちの意味とセットポイントの意味があるが坂本さんがいったのは後のほうだ。では2本取り返すと。1ッポンアドバンテージアーン。田中がアンに手を上げる。鰻重も食べたい。それだけ食うて大丈夫か。だって美味しい。若いって素晴らしい。田中、肩入れするじゃないか。我青春を謳歌せん。うなぎ握ってもらったら。さすが新婚さん。坂本は注文しながら奥さんにも持って帰らないと家に入れてくれないぞ、と啓太に言った。大丈夫です、内のはそんな女ではありません。ご馳走様。
 会話とは回話でもある。話が回るから盛り上がるのだ。アンの演技は完璧だった。東郷も話に加わるようになってきた。迫真の演技はありませんがこれは新しい情報ですと坂本が田中大平に言うとご所望なればと東郷。観たい。俺も俺もと。嫌だわ、アンは感がいい。著作権の問題があるかな。そこをなんとか大統領。うむ、近々に届けましょう。さすがデゥーク東郷。鰻がきた。これ鰻重。似たようなものだ。もっと大きいの。明日東郷さんが食わしてくれるだろう。ほんとうれしい。

 その夜、アンは坂本を襲った。待て、話せば分かる。私から逃れられると思って、観念しなさい。なんでこうなるのだと坂本は思った。大柄の白人女にあがらえず犯されてしまった。貴子にも同じ事をされたの。ねえ、どっちが良かった。黙して語るべからず。眠り狂四郎だ。
 坂本が夜中に空腹を覚えて目を覚ますとアンが笑っていた。ああ夜が怖い。お寿司食べる。しっかり食べて。それから。馬鹿ね。どうやら貴子の入れ知恵か。共有されている。贅沢言わないの、男冥利に尽きるではないか。それはそうだが。格好つけるな、二人をものした、祝杯ものだ。そうだな。そうだ。俺がそんなにもてるわけはない。それが男と女の間というもの。自問自答は果てしない。あるがままに。見る、感じる。そういうこと。
 その後明け方まで坂本は再び犯されるが今度は攻勢に転じる。もうだめ赦してとアンが叫んだ気もしたが定かではない。
黒幕の詰めろ

 黒幕は詰めろである。あとは追い詰めて守り駒を剥がしてゆけばいい。どちらに追い込むか。白井貴子はアンヘンリーを東郷に紹介した。勿論坂本の了解はとってある。思いつくとそのことしか考えられないのがフィリピン人。関連事項が考えられることが教養だ。
 東郷はポトマック川の辺りでアンヘンリーにあった。歩きながら話しましょうか。それが一番いい。明日、私は彼を散歩に誘います、ここを通ってあの木陰のベンチに向かいます。絶好だ。二人はリハーサルをしている。ここで二人組が木陰に引き入れる、君は声を立ててはいけない。二人組は君たちを挟んで車に乗せる。わかりました。
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 東郷はアンと別れてアジトに向かう。アンの匂いが残っている。こんな気持は初めてだ。自分の親も知らず殺し屋に育成された男にはアンの高貴な美しさがまぶしく見えた。仕事人は自分の感情を殺して生きてきた。東郷は苦笑した。

 アンヘンリーはリバーサイド教会の入り口で男とぶつかった。手に持った政治学の本を落す。すみませんとオックスフォードの英語で謝る。男は笑いながらオックスフォードからと尋ねる。ええとアンは恥じらいながら答える。政治学を研究してられるのかな。博士課程の学生です。少し話ができるかな。はい、歩きながらでしたら。
 二人は川辺を歩きながら話した。昔オックスフォードを歩いたことがありましてな。そうですか。静かな街でした。ええ。ここに住む人間はどういう階級だろうと思いました。アンはいぶかしそうに男を見る。オックスフォードは日本の皇族を初め世界の王室が留学する貴族階級の都市だ。言葉遣いからしておたうさま、おもうさまである。
 お嬢さんどうして政治学を。大学ではShakespeareを勉強しました、この文学は政治的メッセージが込められていると考えたのです。ほう、面白い。ヴェニスの商人は裁判官ポーシャの機知が恋人の命を救ったとの解釈は文学的であり幼稚です。貴女の見解は。契約は無効と判示すべきであるとの意見も法的見解としては見識ですが、何故このような契約をしなければならなかったかという観点からの考察がなされていません。初めて聞く見解ですな。
 これは政治学的考察をしなければ作者の真意、意図は理解できないと思いこの大学院で勉強することにしたのです。英国では難しい。ええ、この国は若いだけに発想が自由です。確かに。
 何時しかアンは持論の展開に夢中になる。この男が真の黒幕ということを忘れたほどだ。Shakespeareほどの作家が詭弁を弄するはずはありません。ですな。シャーロックのお国の法律でこの契約は有効ですなとの叫びに共感できるのです。胸の肉を代物弁済に。ええ、法学者は当事者の真意を考えていません。契約しなければならなかったのです、契約させねばならなかったのです。英国は契約しなければならなかった、契約させねばなければなかったのは。はっとしてアンは男の顔を見つめる。背筋に冷たいものが流れる。
 白井貴子ともに拉致された日のことが頭を過る。恐怖が走る。男が笑った。
ことが上手く行き過ぎるとアンは思ったが持論に夢中になり過ぎた。騙したつもりが騙されていたのだ。貴子と心のなかで叫ぶ。
 ほんとうにその時である。もうだめとアンが思ったその時であった。二人組が二人を木陰に引きずり込んだ。有無を言わさずさず車に乗せる。これは劇中劇とアンは思ったが声が出ない。

 空港につく。どこへ、東京だ。大人しくしたほうが身のためだ。お嬢さんあなた達の航空券、と手渡しながら、男には凄みのある成田についたらデゥーク東郷の指示に従え、空港警備員、搭乗員がお前を監視している。言い残して二人組は去って行った。男は旅慣れているのか出国手続きを済ますと搭乗ゲートに向かう。離陸してアンは一息ついた。このまま演技を続けるしか無いと自分に言い聞かせた。
 日本航空のジャンボは快適な飛行で成田に到着した。13時間のフライトだが日付変更線を超えると一日早くなる。アンは緊張でよく眠れなかった。真の黒幕は腹を据えたのか悠然と眠ったり考えたりしていた。
 入国手続を済まして到着ロビーに向かうとデゥーク東郷が二人を迎えた。8人乗りのバンタイプの車には男が監視するように後部座席に二人、一時間で東京に着いた。ホテルに着くと部屋に案内される。男は終始無表情だ。しばらくすると電話がなって展望レストランに来るように言われる。拉致するにしてもこれがサカモトのやり方か。

 アンは白井貴子と話して人心地がついた。大役ご苦労様、貴子はまず親友の労をねぎらった。うれしかった。明日にでも大阪に来て。東郷に相談する。
楽しみにしてるから。また連絡する、じゃあね。

 展望レストランにはアンがいた、男と話している。男は真の黒幕に気づくと立ち上がって「ようこそ東京へ」と言った。サンドイッチとビールを3人前注文した。東京は。初めてだ、あれが皇居、少し右にGHQがあった。そして東京裁判が行われた。こいつがサカモトか。
 この世界一の都会は67年前に破壊しつくされた。空襲で殺された市民は30万人以上と言われる。広島を上回る。日本全土がほぼ破壊された。そして殺した側が殺された側を裁いた。今度は戦争を起こした者が裁かれる。
 私に関係あるかな。それを裁くのだ。違法な逮捕、監禁で君を訴える。私を、どこに。坂本は笑った。君がそうさせた。そうかな、私は貴方とこうして話しているだけだが。インターポール捜査官が君を逮捕するだろう。この善良な市民を無実の罪で逮捕する、メディアがよろこぶぞ。
 黒幕は自分が不利な状況にあることを認識しなければならなかった、不利なことは認めたくないのは自然なことであるが問題の解決にはならない。名前を教えてくれ、俺は坂本だ。噂に効いている、私はヘンリーウイリアム。まあ、こうしてあったのも何かの因縁だろう。因縁?運命といってもいい、良かったら君の歴史を聞かしてくれないか。歴史、生まれてからか、先祖からの歴史か。どちらかでも。今は話す気にならない。でわその気になったら聞かせてくれと坂本が立ち上がった。アンもつづいて立ち上がった。残されたヘンリーは窓の外に目を遣る。ここは日本の東京なのだ。

 坂本はアンを部屋に案内するとキャッシュカードをを渡した。これは便利なものだ。使い方を教えるからまずIpadを買ったらいいだろう。秋葉原に行こう。ホテルのフロントで観光マップを手にいれ東京の概略を説明する。東京、上野、新宿を憶えておけば解りやすい都会だ。若い女が一人で歩いても安全だが裏通りは慣れてからだな。
 秋葉原でIpadを買い与える。これが俺の番号だ。貴子の番号もとうろくしておこう。アンは外国人の多いのに驚く。日本製品を買い求めて世界中からやって来る。現金を引き出すにはこうする、ピンNOは人に知られないように。
万一カードをなくしたら銀行に電話して支払いを止めてもらう。3万円を窓口で両替する。両替はなんというのか。砕いて。クダイテ。そう、言ってみな。金種は、5千2枚、2千5枚、千円10枚ピン札で。かしこまりました。
 まあきれい、Nippon Bankこの女は。樋口一葉小説家だ。この絵は。源氏物語。オウ、gennji。彼はドクター野口。この男は。福沢諭吉、慶応大学の創始者。政治家はいないの。1ドルが100円と換算すればいい。ドクターが10ドルか。そう、次に日本の物価を覚えるのだ。
 原宿でジーインズを選ぶ。東京駅で新幹線の乗り方を教える。これでアンは東京通だ。後は自分で歩け、困ったら貴子にきけ。こんなにしてもらっていいのかしら。君のギャラだ、日本滞在費はそのカードで足りる。私一人で大丈夫、あなた忙しそう、自分の足で歩いてみる。

 ああいうのは少し傷めつけたがいい。どの程度。爪を割る、指を折るのが手順だ。目立たぬようにやってくれ。俺の感ではああいうのに限って痛みに弱い。柴崎に付き合ってくれ。ああ。坂本と東郷は啓太を訪ねる。
 偵察用トモカサの集めた情報です、選んでくれたたら編集します。これはすごい、と東郷が見入る。東郷さんなら安くしますよ。平和目的、悪用はやめてくれ。これは世界平和のためだろう、俺もこの家業から足を洗うつもりになっている。悪い、盗撮なんかは良くない。品の悪いことはしない。
 で新婚の生活は。良い旅行をさせて頂きました。奥さんは。できたみたいです。早射ちマック。出会い頭だったのでしょう。ともかくおめでただ祝杯をあげよう。そんなこと言ってられないでしょ。啓太は冷静だ。東郷この画像解説してくれ。
 奴はバチカン近くの教会の神父が表の顔だ。この教会だ。バチカンでは三番目の位置らしい。法王の次か、いや、二番目がいるな。そいつは判らないが実権は奴が握っている。実権を握る奴は表に出ないからな。でニューヨークにアジトを持つようだ、やはりアメリカは人種のるつぼ、目立たないのだろう。で奴と被告人らとは。ああ、年に数回会合している。裏は。アジトは教会の近くのビルだ。東郷はテナント契約のコピーを見せる。さすが。登記簿謄本なども頼む。これだ、こっちは保険契約。失礼しやした。柴崎さんこれを30分ぐらいにまとめてくれ。あいよ。田中、大平を築地に誘う。

 坂本の携帯がなる。アンだ。腹減った握り寿司食いたい。わかった、築地の本願寺で待っていろ、半時間でそこにゆく。はい、待ってます。待てよ、何で日本語、坂本は電話を切って東郷にきく。外国語は日本人が考えるほど難しくはない、こういう場合どういうかとやればいいのだ。それはそうだな。へい、お待ち30分版2丁、旦那と東郷さん。いくらだ。いいですよ。ただほど高いものはない。でわ、寿司は旦那の奢り。よし手を打とう。
 本願寺でアンを拾って行きつけの割烹へ。田中と大平は既に着ていた。アンは美味いと感激する。その食欲はすさまじい。歩き回って腹が減ったのであろう。アン、どうやって日本語おぼえた。そんなの簡単よ。鰻重食べたい。話したら注文してやる。イギリスからの学生がそんなの簡単と言ってた。どこで。原宿。これくれた。指差し会話英米編。

 アン、今日日本に着いたばかり、すごいねえ。田中が驚いて見せるとそんなことないですと返した。すごいねとそんなことないです、これペアね。何がすごいかは分からなくてもそんあことないですと答えるよう教わったらしい。先ほど東郷さんが言ってたとおりだな、坂本がと言うと、大平が、言語は声だけではない、顔の表情、口の動きからも読み取っていますよねと話を引き取る。
 その通りです、口の動きを真似ると現地人に近い発音が可能です。アンが大平を増幅させる。発音ができると聴きとるのが容易になります。さすがオックスフォード。いえ、そんなことないです。東郷さんもあんなふうにして。ああ、商売柄、英仏独伊、スペイン、ロシアは喋らなくてはならない。喋らなくてはならないのか、坂本は東郷に酒を注いでやる。東郷は貴子が言っていた以上の男だ。いえ、そんなことないです。これにはアンも一本取られたな。東郷は冗談を言わない男だ。
 一本とは柔道ですか。一本勝ちの意味とセットポイントの意味があるが坂本さんがいったのは後のほうだ。では2本取り返すと。1ッポンアドバンテージアーン。田中がアンに手を上げる。鰻重も食べたい。それだけ食うて大丈夫か。だって美味しい。若いって素晴らしい。田中、肩入れするじゃないか。我青春を謳歌せん。うなぎ握ってもらったら。さすが新婚さん。坂本は注文しながら奥さんにも持って帰らないと家に入れてくれないぞ、と啓太に言った。大丈夫です、内のはそんな女ではありません。ご馳走様。
 会話とは回話でもある。話が回るから盛り上がるのだ。アンの演技は完璧だった。東郷も話に加わるようになってきた。迫真の演技はありませんがこれは新しい情報ですと坂本が田中大平に言うとご所望なればと東郷。観たい。俺も俺もと。嫌だわ、アンは感がいい。著作権の問題があるかな。そこをなんとか大統領。うむ、近々に届けましょう。さすがデゥーク東郷。鰻がきた。これ鰻重。似たようなものだ。もっと大きいの。明日東郷さんが食わしてくれるだろう。ほんとうれしい。

 その夜、アンは坂本を襲った。待て、話せば分かる。私から逃れられると思って、観念しなさい。なんでこうなるのだと坂本は思った。大柄の白人女にあがらえず犯されてしまった。貴子にも同じ事をされたの。ねえ、どっちが良かった。黙して語るべからず。眠り狂四郎だ。
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 その後明け方まで坂本は再び犯されるが今度は攻勢に転じる。もうだめ赦してとアンが叫んだ気もしたが定かではない。


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