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作品名:続 闇の権力者たちの近代日本史 作者:佐々木 三郎

第6回   啓太結婚式
啓太結婚式

 縁は異なもの味なもの、初めてあったその日から当人たちが互いに気に入ったのだ。常男の姪は明美といった。山田中尉の先妻の娘は医学部に進学したが明美を産んで間もなく亡くなった。相手は大学の先輩であったがその両親が軍人の娘を理由に反対した。相手の男は一生独身を通し、医学に専念した。明美が行かず後家になったのはそんな父親を心配しての事だった。明美も医師の資格をとったが父親の世話をするため家にいたのだ。その父親も3年前に他界し、明美は独身のままでいた。父の友人が大学の助手に推薦してくれたのだ。
 お父さん子だねえ、でもこんな町工場に来てくれるかしら。当人たちが惚れ合ってたらいうこと無いじゃないか。そうなんだけどさ。嫁と思うな、娘ができたと思え。そうだねえ、あんなに楽しそうな啓太見たことがない。明美は啓太の仕事をすぐ憶えた。医学部にゆくぐらいだから電気、機械、化学の基礎を身に付けるのが早かった。啓太の恋人であり、助手である。

 結婚式は神式で近くの神社で執り行われた。父代わりの常男の意向だ。披露宴は組合の会議室、町内の人達が入れ替わり立ち代わりやってきて祝福する。100人がいっぱいのところに次々をやって来るからぎゅうぎゅうだ。なんだな、3日やらないと収まらないな。区長さん言って参列者の日をずらしてもらいましょ。それがいい。町内会の区長さんたちが日割りを決める。
 花嫁の顔を見て料理が食えればいいんだ。下町らしい。大平、田中から祝電と祝いの品がが届く。珍しく東郷は連日出席する。警備係と言いながら楽しんでいるようだ。人情に無縁の世界に生きる男だから下町の人情がたまらないのであろう。


 新婚旅行は坂本の強い勧めでフィリピンとなった。常夏の島は日本の寒さが嘘のようだ。性にあけっぴろげな新婚さんにうってつけである。身も心も燃え上がる。セブ、ダバオとリゾートホテルを泊まって新婚の蜜を堪能してバギオに向かう、塩崎家での披露宴のためだ。坂本の気の使いようで新婚さんがいかに大事な人物であるかは誰にもわかった。
 新婦明美は清美を見つめてひしと抱きあう。山田中尉の孫どうしと言うだけではない強いものが二人を惹きつけるようだ。坂本龍次という男を中心とした縁、祖父を中心とした縁が交わるのであろうか。イメルダが明美を抱きしめる。おばさま。明美は亡き母の感触を感じた。

 披露宴は塩崎家族の面々が集まってきた。中でも新婚さんを驚かしたのは坂本の子どもたちだ。ひと目でそれと分かるが国際色豊かなこと。子供は多いほどいいわよ、あなた達は何人創るのとアンジェリータと許細君が新婚の二人を冷やかす。ユキが深く深くと手振りを交えて叫ぶと大歓声。顔を赤らめる新婚さんを気に留めることなく話は盛り上がる。
 ゴルゴ13こと東郷平四郎は坂本の誘いに乗ってついてきたが女の色談義に圧倒される。ハジ議長とカーシムは警備と言って参列しない。坂本が簡単に紹介すると二人は祝辞を述べる。カーシムの娘も東郷に興味があるようだ。仲を取り持つ`坂本は忙しい。
 新月がいいのよ。満月でしょ。半月ですよ、排卵日ですからね。中年女は恥じらいがない。紹介が終わるのを待ちかねたように談義を再開する。マリア、梅雲、清美が新婚さんを中年女から庇うように取り巻く。この国は女が強いの、なんでも私たちに相談して、私たちは強い友情で結ばれているの。マリアの言葉を清美が日本語にする。暁美は嬉しそうにマリアの手を握る。梅雲、清美が手を重ねる。新同盟ねと梅雲。
 さあ、新婚さんの門出を祝して乾杯しましょ、カルロス、音頭を取ってくださいな。シーセニョーラ塩崎、それでは新婚さんのそして生まれてくる二人のお子さんたちの幸多きことを祈って乾杯!カンパーイ。でももうできたのかしら。近頃は早いそうですよ。私たちの頃は式がすんでから初夜でしたけどねえ。でも待てなかったのでしょう。

 女とは即物的である。昔からある。惚れた男が馬鹿なのかの。こちらでも色談義が始まる。宵闇が迫ると月が出た。フルムーン。ノウ、Honeymoon。蜜月じゃのう。月の光は明るく辺りを照らす。夜明けまで続く宴を祝福するかのように。東郷とカーシムの娘もそっと抜けだして夜の散策を楽しんでいたようだが。


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