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作品名:続 闇の権力者たちの近代日本史 作者:佐々木 三郎

第4回    第六章  椰子の木陰  身重の貴子
 第六章  椰子の木陰


 身重の貴子

 坂本は田中と大平を訪ねる。貴子は坂本の秘書として行動を共にする。真の黒幕を挙げないと完璧とは言えませんがこの裁判でこれだけの成果が上げられるとは思わなかったでしょう。そうですよ、坂本さん、山頂が見えてきたのです、最後のアタックですよ。今回の裁判での最大の功労はカナンの証言ですが四国巡礼であのように変わるものでしょうか。大平さん、私も驚いています。被告人全員に巡礼させたらどうですか。
 一定の行動を継続すると心身に変化があらわれることは経験的に知られている、易学では一定の方向に定期的に行くこと、つまりお参りだな、空手の型も同様の効果があると言われている。しかし、真の黒幕の息の根を止めない限り私には安眠がありません。まあ、昨日は良く眠ってましたわ。カナンお陰てよく眠れたが新たな問題が出てきたのだ(人前で余計なこと言うな、貴子との激闘の末とは言えぬだろうが)。
 田中の言うことは実践の裏付けがありますよ。ですが巡礼中に真の黒幕に奪還されたら元も子もない。坂本さんのお言葉とも思えませんな、出て来たところをしょっ引いて市中引き回しだ。九仞の功を一簣に虧くとも言いますが田中の言うように山頂にアタックですよ。アタック隊を考えるか。

 翌日ゴルゴ13こと東郷に誘われて築地の料亭に出かける。すでに木枯らしが吹いている。日本の四季の移ろいは早いな。ええ。坂本は貴子の肩を抱きながら暖簾をくぐる。部屋に入るなり、山頂にアタックだと東郷に話しかける。ん。大平、田中との話をすると東郷は笑った。録音には真の黒幕の挨拶がありましたな、今はこれを手がかりにするしか無いと思いますよ。何か策でも。 謎の飛行物体に協力を頼んだらどうですか。そうか、真の黒幕の挨拶を記憶させればいいか。私はキリスト教の教会が臭いと観ている。そうかい、俺もそんな気がしていた。
 私はバチカンかコロンビア大学の周辺と思うのですが。うん?あくまで感ですけど。貴子も東郷に好感を持っているようだ。女の感は鋭いからそこから始めよう、虱潰しとゆくか。
 しかし、よくここまで来ましたな。奴を白日の下に引きずり出せたら死んでもいい。死ぬといった奴が死んだ試しがない。そうかい、まあ気持には偽りはない。それよりおめでたがあったそうで遅まきながらお祝いとお二人をお招きしました。嬉し恥ずかしとはこのことだな。これ以上のおめでたはない。冷やかすなよ。さあ、東郷さんお注ぎします。これはどうも。
 でその後、オハラの方は。ああ元気にしている。利息は付いたか。それは成り行き、指値はできない。そらもっともだ。朝寝、朝酒、朝湯とくらあ最高だろうな。俺は物心付いた頃からこの稼業だ、そういうことを考えたこともなかった。東郷さんいい人は、と貴子。いえ、まだ。東郷さんよ、この仕事が片付いたらフィリピンに来ないか、女はよりどりみどり、冬はない、南の楽園だ。身体が訛ってしまう。
 いつまでも若い気でいるが肉体は衰える、そうだ、警備会社の顧問はどうだ、プロには役不足だろうが適当に指導してもらえばいい。一度バギオにでも来ていただいたら。それがいい、一見に如かずだ、周りは家族付き合いしてる連中だ。でも俺みたいな人間は。おい東郷、俺の誘いを断るのかい、情けないじゃないか、俺はお前を心の友と思ってきた、お前に殺されるなら本望だと思ってきた、それをなんだい、この野郎。
 あなた寅さんみたいに絡んで失礼でしょ。いいんだ、この俺に本気で接してくれたのは坂本さんだけだ。東郷は涙を浮かべる。そうだ、カーシム大佐の娘がいい、うん。どういうのがタイプだ、東郷。別に。まあ寝首を掻かれないようにやってから気に入ったら一緒に暮らしてみるんだな。でもな、東郷長官の末裔となればそれなりに気を使う。恐れ入ります。おやあ、急に神妙になったな。
 そろそろにしますか。何を言うか、飲み明かすぞ、酒持って来い。さあさあ、冷でグッとやってお開きにしましょ。おい、貴子、客の分際で仕切るのか、主に失礼だろうが。申し訳ございませぬ。では客人、夜も更けた事ゆえ
お開きに致そうぞ。何、まだ宵の口だ。

 東郷は二人をホテルに送って消えた。酔ってしまった坂本を見ながらこの様にスキだらけになってみたいと貴子にもらした。貴子は東郷に熱いものを感じた。シャワーを浴びながら貴子は電気を消した。その白い裸身は月の光に濡れていた。胎内には新しい命が生まれようとしている。少し目立ちだした下腹部を見つめて明日病院に行こうと思った。
 明け方坂本が求めてきた。貴子は優しく坂本を抱くがやんわりと拒む。どうした。フフフ、できたみたい、赤ちゃんが。そうか。坂本はそっと貴子を抱きしめる。女は愛する男よりも生まれてくる子の方が愛しくなる。女から母に変身し始めたのだ。多くの男は父に変身することが下手だが坂本は上手い。これが多くの女の心を捉えるのであろう。

 ともかく返って来なさい、近頃のお産はホテル並みの部屋で食事もレストラン並やいうやない、心配あらへん。丈夫な子を生むことです。他のことはそれからのこと。貴子は母の言葉がうれしかった。貴子は父親を心配している。夫以外の子を生むことに難癖を付けるであろう。褒められたことではないが罪悪感はない。けどなマリオさんにはすまなそう顔せなあかんよ。うん。
 貴子は実家に帰ることにした。東京駅まで坂本が送ってくれた。生まれそうになったら知らせてくれ。心配しないで仕事の方は田中さんと大平さんと連絡を取りますから。貴子は東郷さんと言いかけてはっとした。フフ、バギオのお母さんもいてはるし。冗談じゃない、清美の知れるところなるではないか、と坂本は思った。清美だけではない、カルロス、マリオに申し開きをしなくてはならない。今は丈夫な子を生むことですと母が言うてます。そやな。言葉遣いも変わってくる。


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