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作品名:老人と乙女の恋 作者:佐々木 三郎

第9回   第五章 おまけ、蛇足  家庭農園 片山農園、雷蔵小作となる
第五章 おまけ、蛇足

 家庭農園

 月日は流れ香奈が五歳になった。可愛い盛りである。妹の亜耶の次に有里(あり)が三歳になったのを契機に片山は下宿を改築した。大家さん夫婦は息子たちが都会暮らしで郷里には戻るつもりが無いので増改築に快諾してくれた。片山が昔の百姓家風にすると言うと大家さんが築百八十年の実家をくれると言い出した。
 さっそく見に行く。車で半時間、築百八十年の茅葺だ。これを市街地に移築するのだ。そこは山間の町で年に何度か積雪を見るそうだ。市街地からわずか半時間で昔の日本の風景を見ることができる。しかし過疎化の波はこのに地にも押し寄せ農林業の後継者がいないという。すなわち空き家、空き地が増えているようだ。
 大家の幼馴染がやってきた。『問題は茅、これだけの茅をどうやって葺き替える』大家は昔に帰ったように『ほら、お前がやるんじゃ』と命令する。『ほんなアホナ。高い屋根に上れるか』『上るんじゃ、屋根をさら(新しくの意)にせえ』『いやじゃ、墜ちくれる』『お前ほれでも大工か』『昔の話じゃ、今は隠居しとる』『爺臭い事ぬかすな、老け込むぞ』問答は続く。日当をはずみ毎晩酒盛りというと全員乗ってきた。
 片山は隣の家に出かける。『おばちゃん、この土地売ってくれ』『何するんで』『茅を植えるんじゃ。ほんであの屋根を葺き替える』『おまはん町の子やな。はようて三年はかかるでよ』『ええんじゃ、売ってくれ』『お父さん、おもっしょい人がきたでよ』事情を聞いた彼女の夫は笑いながら言った。『よっしゃ茅を植えて届けてあげるわ』『ほんま、おおきに。おっさん男前やなあ』

 こうして築百八十年の移築改築が始まった。昔の天井は高いので広く感じる。片山は建築家の社長に協力を求めた。昔の建築思想を残しながら現在の日本生活の機能をも生かすようにという注文だ。社長は二つ返事で請け負ってくれた。彼は建築士だが謙虚だ。片山に『先生、勉強させて下さい。うちででけることは何でも協力させてください』と言ってくれた。彼は大工の息子で社の方針としても和風建築に力を入れていた。社長自ら現場監督を買って出てくれた。しかし大家および幼馴染の前では口を出さなかった。
 能在る鷹は爪を隠す。その知識、技術には年寄たちも感嘆した。大家の家には昔馴染みが寝泊りするようになった。毎日酒を酌み交わし昔話に花が咲く。建築家の社長が壱斗樽を差し入れる。『おまはん、大したもんやな。大学出て建築士やいうやない』『ほれに会社の社長もしよる』『いえ、まだ若造で』『謙遜せられん、腕もええ。どこで勉強したんで』『親父が大工しとりました』『お父さん、小松島の大原さんとちゃうで。道理でええ腕しとるわ』腕のいい大工は全県に知られていた。『おそれいります』

 移築が終わると改築だ。大家の幼馴染かっての悪ガキ五人も寝泊まりする。と言ってもいろりを囲んで毎晩酒盛りだ。古い間取りだからゆったり雑魚寝できる。和美は毎週十万円を大家の奥さんに届ける。『こんな大金を』『酒代です』『お父さんご祝儀もろたでよ』『奥さん、内緒にして。男はあるだけ飲んでしまいますけん』『ほうやな、ほなけんどあない楽しそうに飲んどると酒のお替りついつい出してしまうんよ』和美は笑いながら『これは宿泊費、へそくりにして』と2万円を袖の下に入れる。
 大家の奥さんが小さな声で和美に語った。移築改築費は少なくとも1000万は掛かるそうだ。しかも登記もせず地代家賃をを50年間払う契約という。既に10年分50万円は先払いされている。どうしてそんなことをと和美は思った。雷蔵の意図は五年後に明らかになるのだがさわりのところだけを説明しておこう。
 建物の登記をしないのは固定資産税を払わないためだ。築180年とはいえ建坪30坪、市町村が見逃す訳はない。「これだけの民家を壊すのはもったいないから移築したんじゃ。文化の伝承になればと預かった」市の職員は「所有者は」と大家にたづねる。「さあ、町にでも訊いてみない」「税金払うてもらわんと」「わしの家やったら払うで」「誰ぞ住んでいますか」「見ての通り古い家やからなあ」「帰って検討します」ということになったが課税通知は来なかった。
 町中の入母屋造りは目立つ。「市の文化財に登録してもらえませんか」「登録したら金くれるのか、維持修繕やってくれるのか」「それは難しいと思います」「ほな壊すか」「壊さないで下さい。文化財に登録してください」「誰が登録する」「所有者です」「所有者なあ、名前だけの所有者ならええ人がおる」「誰ですか」「紹介してもええけど税金が掛かるなら嫌がるだろな」「上とも相談してきます」ということになった。間もなく文化財に登録されたが消防署が「屋根の葺き替えはできない」と言ってきた。市街地の茅葺屋根は延焼の恐れがあるからだ。
いろいろあったが文化財の所有者は片山雷蔵ということになった。後日10年後屋根の葺き替えを行った。当然消防署は中止させようとした。「市からは文化を残してほしいといわれるわ、消防署には怒られるわ、かなわん。壊してしまうか」消防署は市と協議した。前所有者すでに亡くなっている。180年の家は保存登記もされていない。前所在地の町に相談した。町は大変ですなと笑っている。あいつらグルだ、この件は捨て置けとなった。
和美は雷蔵のやりそうなことだと思った。大家の幼馴染がここで酒盛りをやるからみんなグルなんだ、シナリオは雷蔵が書いた。まあそんなとこか。いや、日本文化の保存は国民後義務、これだけの建築をなさった先人の思いを受け継たい。ぐらい言うのじゃない。地代は固定資産税を浮かしてという魂胆んね。土地の賃貸は50年後双方に異議がなければ自動更新(雷蔵の公正証書遺言では賃借権も和美香奈亜耶有里に遺贈されるとか)されることになっているという。50年後私は83歳、子供たちも50過ぎ。話が大きい。使用権原が所有権でも賃借権でも使うのは同じということらしい。家は使ってなんぼという。和美はよくわからないが雷蔵の気配りがうれしかった。


 女は男が楽しそうにしていると嬉しい。まして男が連れ合いならば。片山もお施主さんと酒の席に引き込まれる。『お施主さん、百姓したことないんやろ、面白い人やな』都会人と違って田舎では思ったことをそのまま口にする。『人はみな土に帰る。居心地がええけんじゃ。土に親しむのは当たり前じゃ』『ええこと言うな。ほんまじゃ』『こうして酒が飲めるのもお施主さんのおかげです』普段は無口な大原が立ち上がった。『娘十七八は民家でござる。柱立てればすぐ寝れる』『社長やるでえ、娘十七八はポストでござる、赤い顔して入れさせる』エンヤラヤノ エンヤラヤノ エンヤラヤノ エンヤラヤ
 一週間後片山が怒っていた。『和美ちかごろ金遣いが荒いんちゃうか。通帳持って来い』と取り上げる。和美はカードで残高を気にしながら出金することになった。心配になって銀行に残高確認すると残高は300万円に増えていた。あの人らしいやりかたね。この頃から片山は子どもに学資保険を掛け始めていた。高校を卒業した時、ひとり800万円を超えていたのだが和美が知ったのはずうっと後のことだ。

 親友の智子に電話する。『お惚気聞いてる暇ないの。そんなことで電話しないで』『だって誰かに言いたいの』『あなたたち似た者夫婦よ、付き合えない』『ならいいわ、絶交よ』『冗談よ、和美のお惚気聴いてあげる』『忙しそうだから』『拗ねないの。で家は何時でけるの』『もうじき、観に来て』智子のほうが一枚上手。
 智子はこどもっぽい和美が好きだ。純粋なのだ。本音で言い合う二人がうらやましい。完成した茅葺は180歳には見えない。古臭いが住み心地はよさそうだ。庭にはなすトマトなどの野菜が。『それに鶏、山羊、牛、犬、猫。片山って男こどもね』と智子は大西にもらす。『あのお方は並みのスケールでは計り知れない』『和美が夢中になるわけか』

 古民家改築賃貸
 
 大原は片山の事務所を訪ねる。片山が言うように古民家は木造の建築物だが売ってなんぼではない、使ってなんぼだ。『先生、古民家を改築して外国人に貸すのはどうでしょうか』『面白いのとちゃう』『ほうですか、家主さんを紹介してくれますか』『ええよ、町長に掛けおうたる』大原は大家とその幼馴染の紹介を期待したのだが、片山は一足飛びに大原の車で町役場に向かう。
 応対に出た職員は大柄だった。『おまはんでは話にならん。町長を呼べ』片山が顔を赤らめて怒鳴る。『助役の神山です』と助役が出てきた。『採用ミスやな』片山の怒りは収まらない。『ご趣旨はわかりましたが先生の本音は』『ほなけん助成金を出せと言うとんのじゃ。鈍いな、貸家にしたら固定資産税がいってくる。ほんなんで、よう助役が務まるわ』『いかんせん小さな町ですので』『予算とって来るのがあんたの仕事だろうが。国からでも県からでもええ』

 町長も出て来た。『先生、町としてもできるだけのことはさしてもらいます』『ほれみい、助役よりはましじゃな』『社長さん、(この町に移り住む人の)住民税を三年免除、出産祝い10万円、入学祝20万円でどんなものでしょう』町長は大原社長に話しを向ける。『それは有難い事です。ついでに農業指導、生活援助をいただければ定住者が増えるかと存じますが』『お安い御用、な助役』『ええ、いくらでも古民家の持ち主はおりますけん』『これで用は住んだ。社長往のか。茶もでんとこにおってもしょうがない』『失礼しました。葛餅用意してますけん、もうちょっとおってつかい』『ほな町長の顔立てて時間つぶすか』町は過疎化に悩んでいた。爺ちゃん婆ちゃん母ちゃんの三ちゃん農業すら覚束なくなっていた。

 大原はこの先生の思い遣りに感じ入った。現金だけが謝礼ではない。町の紹介で古民家改築の注文が来た。評判は評判を呼ぶ。採算ぎりぎりで請け負ったが新築注文も舞い込むようになった。これまた注文が注文を呼んだ。大原は地元業者を下請けに使ったので地元のおぼえがいい。餅投げ、引き出物、家具など極力地元を使うようにした。地元業者が注文を取って来てくれる。古民家の家主に家賃地代が入る。孫におもちゃを買ってやれる。山間の町に金が落ち旅をする。伝統家具は都会人外人に人気がある。家は有効需要を生み出す優等生だ。借り手が外国人でも住民税が入ってくる。人口が増えると地方交付税も増える。一番得するのは町だ。若者も農林業を見直すかもしれぬ。

 町長と助役は県庁を訪れる。応対に出た地方課長が『知事が会いたいと言うとう。おうてくれまへんで』『ほらもう』二人は顔を見合す。『こちらからお尋ねせなと思うとったんですわ。町長はん、町でワイハイ敷いてくれんで』『何でほれ』『インターネットやがな。町長はんとこ外人に評判やってな。移住したい外人はんが照会してきよります』『っ外人さんがwihiでインターネットでけるようにせえというとう』『ほうです。町で敷いてくれたら悪いようにしまへんで』『ええほら県に頼まれたら、、。ほんで知事さんの話はなんかいな』『会うてもろたらわかりますけど国の機関を地方に移すと話ですわ』

 どうも国の機関を首都圏から地方に分散させるという国の構想らしい。国の打診に知事は乗り気で候補地を探すよう地方課長に命じたと言う。『どの機関が来るのか知りまへんけど悪い話ではないと思いますよ。町のイメージが上がるし、金も落ちますよ』『ほら結構やけど課長はん、ピンときまへんな』『無理ない、急な話やし。まあ私に任せてください。必ず喜んでもらえます』
 課長は二人を知事室に案内する。『まあお忙しい中来て頂いて』と知事が出迎える。コーヒーが出される。きれいな美人秘書だ。『国の機関でも首都圏でなけりゃあかんものと地方でもええもんがあります。でけるだけ地方に移転させ空き地の有効活用を図るのが国の考えですわ。それで本県に打診してきたわけですわ』『だいぶ地方交付税が増えますかいな』『助役はん、品がないんちゃうで。わしや尋きとうても口にでけんが』と町長、『ええんですよ、ビジネスライクにいきまひょ。県はお願いする立場ですけん。近々地方課長ほか担当者が改めてお願いにあがります』『知事さん頭上げてください』『ところで古民家の改築、評判のようですな。この前も外務省から問い合わせがありました』

 知事の見送りを受けた町長は予想外の展開に驚いたが悪い話ではないと踏んだ。『瓢箪からこまですな』『ほんまやなあ。あのおっさんのおかげじゃ』『片山さんは神さんじゃ』二人は役場に帰るとすぐ建設課長、都市計画課長を呼ぶ。県での成り行きを説明した上で『次の議会に提案するけん上品な計画をつくってくれるで』と命じた。両課長も身を乗り出す。片山雷蔵は福の神と拝し奉られる。

 片山農園、雷蔵小作となる

 片山の増改築が終わると大家さんはさびしがる。幼馴染が帰ってしまうからだ。『月にいっぺん寄ってもらうようにしたらええが』『ほうやな、楽しかったわ』片山は『河野さんわし周りの田圃借りるわ』と勇んで出かけたのだが。
 隣のおじさんは『あんな、農地の売買、賃貸は農業委員会の許可が要る。農業やっとる者でないとあかん』とにべもない。『そこをなんとか』『あかんもんはあかん』押し問答。その奥さんは片山を見聞きしている。『あんた田圃がしたいん、それやったらうちの小作になりな』年貢米は9割ということになった。大事なことは女が決める。日本の伝統。『年貢9割は高いんちゃう』『プロの小作でも5割じゃ。ド素人が有り難いと思いな』
 片山は小作地に牛とヤギを連れ出す。近所のこどもが珍しがる。牛とヤギは草を食むが糞もする。こどもたちは臭いので退散する。『この鋤どうやってつけるんで』『あの牛に、あんなちっちゃい子牛が鋤が引けるもんか』『今から鍛えておかんとでぶになる』『稲作りは遊びとちゃうぞう』と岩田おじさんが鋤を牛につける。二人掛りで鋤を田圃に運ぶが片山はよろめく。牛は鋤をつけられ迷惑そうにするが片山が牛を引っ張る。しかし牛は動かない。岩田が見ておれと鋤に乗る。と、鋤が動き出し田圃の土が掘り起こされてゆく。やはりプロだ。片山が観よう見真似で三反を耕すと昼になった。片山が汗をふきふき牛に水とにんじんを与える。

 岩田の奥さんがお握りをつくってくれた。味噌汁と沢あんが美味い。そこへ隣の田圃も耕してくれと言ってきた。岩田はついでじゃと快諾した。おかげで片山の労働小作料は倍には増えた。鋤の上からはいつもと違った風景が見える。耕した田圃には鳥が群がっている。『あいつら何しとん』『ほら耕した土の中の虫食いよるんじゃ』片山は急いで家に帰り鶏飛び丸とひなを抱えてきて田圃に放つ。鶏も虫を啄ばむ。ひなもこれにつづく。
 夕方になって鋤起しは終わった。片山の脚はぱんぱんである。よろめきながら家に帰る。湯船に浸かると疲れがどっと出る。夕餉ではすごい食欲を見せる。『雷蔵さん、よく食べるわね』と亜耶。『よく働いたから』と香奈。『お父さんビールどうぞ』と有里。和美は家族で食卓を囲む幸せを噛み締めていた。
 片山が横になると『食べてすぐ寝ると牛になるよ』と亜耶がしかる。モーウと応える。有里が足の裏を踏んでくれる。香奈が肩を亜耶が脚を揉んでくれる。『お母さん、雷蔵こどもみたい』和美が雷蔵に膝枕をしてやると抱きついてくる。香奈亜耶有里が『ああ、和美に抱きついた。雷蔵赤ちゃんね』『二人ともいちゃいちゃしてみとれんわ』と大笑い。 

 あくる日片山が『にわとりは、飛丸は』と騒いでいた。隣の田圃をうろついている。ひなも一緒だ。牛ギュウジロウと山羊メリーも草を食んでいる。昨日は岩田が鋤をはずし牛の汗を流してくれたそうだ。香奈亜耶有里も片山についてくる。『片山はん、早う、うちの田圃耕してくれ』『牛が疲れとる』『役に立たん小作やな』と川田おっさんは鋤を牛に引かせる『かわいそうにギュウジロウ扱き使われるで』『かわいそうにね』『鍛えな、でぶになる』『おっちゃんすごい』『お嬢ちゃん乗せたろか』『乗せて乗せて』勝負あった。
 次の日は山田のおっさんがギュウジロウを拉致し自分の田圃を耕している。『人の牛をを勝手に使うな』『お宅の牛かいな、こいつがな、田圃耕したいと言うけん』『ドウソぬかすな』岩田と川田もやってきた。『牛の気持ちはよくわかる。ぎゅうじ可愛や可愛やギュウジ』『ギュウジロウじゃ』『おっさん怒ったら血圧上がるで』片山連敗。が悪いことはつづく。それからギュウジロウに次々とオファーが来るようになった。
 片山は和美に泣きつく。『隣に牛盗られた』『うちが取り戻してあげる』和美は片山を抱き寄せる。『甘えんぼやな』『甘えたいんよ』こどもは正直。大家の奥さんが心配するのだが『ほっておけ』とご主人。事態は思わぬ展開を見せる。
 田圃に蓮華が咲きだしたのだ。こどもたちが喜ぶ。やがて一面の蓮華。近くの幼稚園から幼児がやってくる。『入ってもええですか』と引率の先生。『かんまん、かんまん』と岩田。若い女にはやさしい。牛山羊鶏も田圃に出たがる。片山は子馬を飼うことにした。大家の河野が実家の近くでみつけてきてくれた。『なんぼで』『300万』『高い』『いやならうちで飼うが』ここで和美の登場。『この人本当に動物が好きなんです。ええ、大事にしますわ』と30万を渡す。現金は強い。さすが商家の出、百合子の娘である。

 子馬はカズミと名づけたが和美が難色を示し、また雄なのでヒンタとした。しかし語呂が悪いとなって結局俊敏のビンで落ち着いた。片山がビンを愛でると鶏の飛丸が妬く。で鞍の上に乗せてやる。女も雌も嫉妬が強い。ビンも働き者でギュウジロウも牛馬の労を厭わなかった。片山の周りの田圃は耕運機が休業。さらに田植えには幼稚園児、小学生および親が参加。岩田、川田、山田のおっさんの指導の下、一斉に苗を植えてゆく。未熟ではあるが人数にものをいわせて三日で終わった。『いい体験させていただいて』と幼稚園、小学校ならびに親たちから感謝される。
 片山が田圃に節を突抜いた青竹を打ち込む。すると地下水が湧いて出る。こどもたちが顔手足を洗う。おっさんたちは『素人の癖に面白いこと考えるな』と呆れ顔。しかし片山の意図が牛と馬の水呑場と知って感心し、おまけに田の間に畦道をつくった。これで牛馬山羊は自由に通行できるようになったが片山は草地がないと不満気だ。すぐ大家の河野が休耕田を見つけてくれたので問題は解決した。市街地の休耕田は草を刈らないと市役所が文句を言ってくる。さらに放置すると市が草刈を代執行して費用を請求してくる。
 休耕田の地主冨田は回りにアカシアの木を植える。片山がアカシアは稲作にいいと吹き込んだのだが冨田は要求に応じた。休耕田は宅地並みに課税されるが牧草地は農地であると片山が税務署と渡り合ったのだ。アカシアは木陰をなして牛馬の憩いの場となった。そして片山が牛馬山羊を連れて帰る道すがら『アカシアの花の下で あの娘がそっと瞼を拭いた赤いハンカチよ』と歌う。


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