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作品名:老人と乙女の恋 作者:佐々木 三郎

第6回   親子喧嘩 二番目の子生まれる
 親子喧嘩

 間もなく、大きくなった腹を隠せなくなった百合子は自宅では世間体が悪いとマンションに転がり込んできた。『ここは私の家よ』『新婚さんにはご迷惑でしょうがお産がすむまでしばらく置いておくれな』『冗談じゃない、お断り。相手の男に頼みなさいよ』『それがね、おまえも知っている男だよ』『誰なのよ』『それでさ、生まれてくる子はおまえが、引き取っておくれでないか』『ふざけないで。私は自分の子で手一杯』『子守りはするから、そうだベビーシッターというのかい、子守に雇っておくれ』
 百合子は自分の口から父親の名は言わない。片山も何も言わない。和美は腹が立つ。片山がやさしいので何とか我慢できるが片山とて共犯である。『あああ、悪い母親を持ったものだ』『この世にたったひとりの親子じゃないか』『そういうの身勝手。あの人あんたのおもちゃじゃないのよ』『でもさ私もこの歳で妊娠なんて考えもしなかったの。反省している』『反省なら猿でもできる。この聖域には誰も入れない』
 それでも親子である。和美は百合子の居候を認めた、というより結果的に。つまりは結局百合子の強引さが勝ったと言えよう。この間共犯のいや共同正犯の片山は親ばかを決め込んでいた。『香奈、おまえのお母さんは美人だから香奈はミス日本、いやユニバースになれるよ』和美は馬鹿らしいと思ったがまあ子煩悩はよしとすかとあきれていた。

 二番目の子生まれる

 百合子が子を生んだ。誰の子か、いわずもがな。亜耶と命名された。どうも片山の希望らしい。『香奈ちゃん、妹の亜耶でちゅよ』と百合子が顔見世をする。和美は頭がおかしくなった。亜耶は母の子だから私の妹だし、香奈の年下の叔母?ばからしい。片山の子ならどう呼ぶのかしら。香奈と亜耶は姉妹なの、ああもう、知らない。
 香奈は十月になっていたが亜耶と同い年である。いやだわ、双子を生んだみたい、と和美は憎憎しげに亜耶を見る。母親が育児を押し付けてくることは明らかだし、自分はそれを断りきれないだろうと想像するのであった。そして事は想像通りになってゆく。
 百合子は亜耶に乳を与えるが片山がいても憚る気配もない。和美はそれが憎たらしい。慰謝料を請求したいが「私が先に雷蔵さんとやったんだよ。後から来て、それに籍も入ってないのに一丁前言わないの」と言い返してくるだろう。和美の思いを知るや知らずや百合子はぬけぬけと『ここはいいねえ、見晴らしもいいし風もよく通る』とおっしゃる。和美はプイと香奈を抱いてベランダに出る。この聖域は死守しないと、あの婆を追い返さなくちゃと自分に言い聞かせる。
 奇妙な三角関係である。しかし百合子は和美の母にして女の先輩でもある。人生経験が違う。新米の母親は熟年の百合子の敵ではない。『昨日からオシメだろ、乳やりだろ、疲れたよ。寿司でも取ろうか』と攻撃してくる。無視するに限る、応戦すればカウンターを繰り出してくる。


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