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作品名:老人と乙女の恋 作者:佐々木 三郎

第5回   再び百合子が
再び百合子が

 和美のつわりはそんなにひどくなかったが女なら彼女の妊娠に気づくはずである。まず片山に打ち明けた。『それで予定日は』と驚いたふうもなかった。『じゃあ、生んでいいのね』『勿論さ。だがここで暮らすのは』和美は最後まで言わさず『マンション借りる』と宣言した。誰に向かって、勿論母親である。片山雷蔵は私のものとの公示である。
 女は口にすると即実行だ。公園の近くのマンションを見つけた。18階建てで見晴らしもよく生活も便利そうだ。片山と部屋を決めた。最上階の東向きだ。マンションの利点は何より他人の干渉がないことだ。自分たちの時間を自由に使える。『何もここで生めばいいじゃないか。おまえ初産だからなおさらだよ。娘のお産に母親がついていないと、私の母親としての面子が立たない』『その母親が一番危ないのよ』『そういう言い方はないだろう』ひと悶着もふた悶着もあったが和美は飛び出すように家を出た。
 ともかくスイートホームの生活が始まった。片山が下宿代と言って百万出してくれた。敷金、前家賃、家具などと助かった。片山が毎日泊まってくれるので安心だ。朝は二人で公園を散歩する。裸足で芝生を歩く。これが心地よいのだ。和美は片山を見つめなおす。やはり男の発想は違うなと感心した。おかげで妊婦の運動不足にならなくてすんだ。そして安産にもなった。産後の和美の話によると陣痛が始まるとすぐに胎児の頭が出てきてするりと飛び出してきたそうだ。
 ところが和美が臨月に入ると百合子が押しかけてきた。産気づくとすぐ病院に和美を連れて行った。生まれたのは可愛い女の子だ。医者も驚くほど安産であった。二回気張るとすんなり出てきた。孝行な赤子である。片山の喜びようは並ではなかった。香奈と名づける。もっとも片山は生まれる前から香奈、香奈と言っていたから和美にいちもにもなかった。和美は幸せと思った。ぺ茶パイも見事な乳房になっている。写真に撮っておこうかと思うくらいだ。香奈の吸い付きは驚くほど強い。それがまた違った快感をもたらす。
 片山雷蔵はこのお産に立ち会ったのだが、医者が和美の毛が剃られた股間に手を伸ばした時のことだ。「こら、触るな」「これはお産ですよ」「ご主人、先生は何度も膣に手を突っ込んでいますよ」「どこまで」「肘ぐらいまで」「ドスケベ、その手を切り落としてやる」「このエコー見てください。赤ちゃんの頭は骨盤を通過しました。次は肩です」「それで」「ここでねじって肩を骨盤と平行にさせます」医者は頭を掴んで捩じる」「うちの娘を」「さあ、お母さん気張って、そうそう、出てきた。お利口さん」医者は嬰児を取り上げた。看護婦が手際よく洗う。「お父さん臍の緒切りますか」雷蔵は青くなっている。
 臍の緒は無造作にちょん切られ、結ばれた。「お母さん美人のお嬢さんですよ」「あ、娘の裸に触った」「ご主人、赤ちゃんは誰でも裸ですよ」和美は愛しそうに我が子を抱いた。産後の母は神々しいん。乙女は女となり、そして母となった。見事な変身振りである。「こいつ和美の前の毛をそったのか、ドスケベ」「どこでも出産前には剃りますよ」
片山は納得しない。「嘘ぬかせ、猥褻罪で告訴してやる」「これは医療行為で違法性は阻却されます。それに処女はまずいませんから」看護婦たちが声を立て笑う。「娘は処女じゃ。生娘に触るな。わしは慰謝料を請求する」「どこの病院でも膣の毛は剃りますよ」「女の恥ずかしいところを見たなこのドスケベが。ヘアーヌードにならないじゃないか」「申し訳ございません。今後は剃らなくてもいいように修行します」「当り前じゃ、それと母親と娘の話をごちゃ混ぜにするな。医師会に文句言うぞ」

 この幸せを奪うかのように百合子が毎日やってきて赤子を離さない。初孫が可愛いだけではないようだ。何かある、和美は『さあお乳の時間よ』と香奈を取り上げる。百合子はしぶしぶ腰を上げるが何か言いたそうであった。和美はまさかと思ったが悪い予感は当る。店に長年務めている従業員にたずねると百合子はもう六ヶ月、間違いないという。ぶかぶかのワンピースで隠していたのだ。とすると半年前に、あの婆、、。私、香奈の妊娠お産で気づかなかったが、、。
 ともかく雷蔵の種は私のものよ、ほかの畑に種を蒔くことを禁止しなくては、、、。それには毎日種まきさせなくちゃ。百合子を雷蔵の3m内に近づけさせない。スケベは者間距離を保て。乳飲み子を抱えたうら若き母にいい術はないかしら。「雷蔵、わたしのどこがいい」「子宮」「そんなにいい」「名器。ストラディバリウスかはたまたガルネリ」「レンタル料高いわよ。月百万」「勿論ですとも。先生私にはですが、学割と特別奨学金で安くしてください」「特別サービスするけど出世したら家買ってくれる」「それぐらいはお安い御用」「しかし楽器が良くても奏者が良くないと、私はいい奏者か」「私の弟子ですもの名演奏家よ。私はヴィオロン。あなたの弓で弾かれて震え、歌って踊る、、。今どんな気分」ちょっと歌詞が違うけど今はいいところだから気にするな。「そりゃあ天にも昇る気持ちがする」「飽きない」「名器は弾き込むほどいい音がする」
雷蔵が歌いだした。「君には君のものがあり、僕には僕のものがある。二人のものを寄せ合えば天にも昇るこの気持ち」「若い若い、二人には夢がある、でしょ」杉本夜詩美の作詞とは少し違うがまあいいだろう。閨の睦言なれば。

叔母の翠が香奈の誕生祝を持ってきてくれた。百合子の姉である。和美と雷蔵の写真を見て表情が変わった。「叔母ちゃん何か知っているの」「べつに、優しそうな人じゃない」知っているに違いないと和美は確信した。これは質さないと思った。


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