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作品名:老人と乙女の恋 作者:佐々木 三郎

第3回   二章 同棲  個人指導
二章 同棲

 個人指導

 和美の家には防音した部屋がある。フルートの練習でご近所に迷惑をかけてはとの気遣いだ。男が若い娘と二人きりになれてと勘ぐるのは下衆の勘繰りである。片山は純粋に音楽を求めて指導を受けていることは和美の母親百合子にもわかった。片山の傷はすぐ治ったがこの老人が娘の命を救ったと思うとまぶしく見える。
 彼女は四十過ぎだが和美の姉に見られるのが自慢である。今日風に言えば、美魔女である。前の夫は百合子が和美を身籠るとすぐ別の女のところに転がり込んでいった。以来百合子は娘と二人暮らしであった。理由はそれほどいい男に巡り合わなかっただけである。言い寄ってくる男は多かったが所帯を持つ気にはなれなかった。家業を継いで気楽に生活できたから再婚する気にもならなかったのであろう。

 百合子は個人指導が終わるとお茶を出す。片山は自分の父親ぐらいだからまさか自分の娘と男女の仲になるとは夢想だにしなかった。しかし雛がすがるように自分の娘にすがって行くのを観るとかすかに嫉妬をおぼえた。馬鹿らしい、相手はお爺ちゃんじゃないと一人苦笑した。『お母様には見えませんね。お姉さんと思っておりました』などとお世辞を言う。女を喜ばす術は心得ているわね、一度つまんでみようかと思うようにもなっていた。人生とはわからないものである。百合子の行動が三角関係を生むのである。

 片山はよろず相談の仕事をしている。役所との交渉が得意だと聞いている。仕事にかこつければいいと考えた。そこで売掛金の回収を依頼した。片山は内容証明の督促状を作成すると配達証明つきで出すように言った。『先生、難しそうなのでついでに出していただけません』『いいですよ、出張料5000円がかかりますが』ということになった。督促状だけで5万円は高いと思ったが500万円の売り掛けがすんなり入金なったから満足した。 

 片山雷蔵は娘和美に全面的な信頼を寄せていた。和美も駄々っ子を見守る慈母の眼差しを向ける。色恋抜きの純粋な師弟愛だ。それが母百合子には嫉妬を覚えさせる。母娘とて男をめぐってはライバルである。そこで百合子は一計を案じた。土曜日の夕食に片山を招待した。すき焼きで三人は盛り上がった。しかし和美は大学で講師の打ち合わせがあって出かけなくてはならない。『お前の仕事も大変だねえ』と娘を送り出す。もちろん想定内のことである。和美は不安が過ぎったがまさかと自分に言い聞かせて家を出た。

 百合子は商売の話を切り出して片山を留め置く。『先生どうしたものでしょう』と撓れよって行く。片山が『せっかくのご馳走ですからそれはまた改めて伺います』と受け流すと百合子は手を変えて風呂を勧める。『和美先生のお留守に、それは』『いいんですよ、今日はレッスンの日ではないでしょ。湯上りのビールは格別。さあどうぞこちらに』と手を取る。風呂場には浴衣が置かれていた。
 湯上りのビールを注ぐと百合子は妖艶な肢体をチラつかす。『先生これを見て下さる』と自分の部屋に片山を連行する。決算書を差し出す。片山は仕方なく目を通す。結構利益を出している。資産内容もいい。何より借入金が少ない。それもほとんど短期だ。預金残からすれば無借金経営でもいけそうだ。何の問題があろう。
 すると浴衣の百合子がビールを持ってきた。決算書は入浴の時間を稼ぐためだったのか。世間話から家を出た夫の話やらを並べてブランディーを注ぐ。女の欲情に気づかぬ振りをしていたが身の危険は感じていた。片山が酔いつぶれるまで飲ますのかと思ったとき抵抗しがたい強い睡魔に襲われた。


 これこれ杉の子起きなさい

 百合子は片山のパンツを脱がした。これこれ杉の子起きなさいと指でつつく。はいはいお日様こんにちはと応える。キスをすると首をしっかり上げる。あら元気がいいのねとしゃぶってみた。するとすくすくと大きくなってゆく。こどもが大きくなるのは可愛いものである。でもすごいわね、ひょっとしたらと試してみる。
 驚いたことにぴょこんと入ってきた。さあずずうっと中に入りなさいと招き入れる。愛の蜜を与えると跳躍を始めた。すごいわね、人はみかけではわからないものね。跳躍にあわせると身体中に甘味な官能があふれてくる。久しぶり、この感触。百合子の思考は停止し夢游の世界に墜ちてゆく。百合子の意識が戻ったのは片山の心臓の鼓動に気づいた時だ。あらいやだ、百合子はあわてて風呂場に走る。

 そこへ和美が帰ってきた。百合子は湯船に身を沈める。『片山さんは』『酔って寝てしまったよ』『あらまあ、今日はどうするの』『しかたないさ、泊まってもらいな。明日は日曜だろ』中年女は度胸が据わっている。和美は気づかぬ振りで百合子の部屋をのぞく。そこには生々しい女の体臭が残っていた。処女でも事態は理解できた。しかしこれは現場を押さえない限り逮捕できない。

 あくる朝、片山は何事もなかったような顔であった。事実何も憶えていなかったのだ。百合子は薬が効いたかと安心した。あとは娘である。気づかぬ振りをしているのか量りかねた。和美も思ったことをそのまま口にするような娘ではないことは母親の自分が一番よく知っている。さてさて今後の展開はいかに。

 減るものじゃなし

 翌日は午前中フルートのレッスン。片山はいつもと変わらない。和美は複雑な気持ちであった。百合子は寄り合いがあると言って出かけた。昨夜母の部屋のブランディーに母の体臭とどう見ても不自然だ。状況証拠は黒だが。疑惑が深まると問い質さずにはおられない。『母と何かありました』『格別なにも、どうして』『昨夜は眠れまして』『すっかり酔ってしまって。しかしこんなことはなかったのだが』どうも本当のようだが、まだ寝泊りするほどの間ではない。ひょっとすると母が眠らせて、考え過ぎか。いや、やりかねない、思ったものは何としても手に入れるタイプだから。和美は自問自答を繰り返していた。

 昼前に百合子が帰ってきた。和美は追いかけるように百合子の部屋に入る。『片山さんと何かあったの』『べつに』『この臭いは何よ』と和美は百合子を睨み付ける。『だったらどうなの』と開き直る。『そんな』和美は絶句した。『あんたの生徒だろ、べつに減るものじゃなし』と澄ましている。

 和美は部屋を飛び出すと片山の手を引いて自分の部屋に連れ込んだ。いきなり片山の首に手を回し、抱いてくださいと言った。きょとんとする片山。和美は目を閉じる。片山は小さい子を抱くように和美を抱き寄せた。和美が唇を合わせる。片山は驚く。『先生、師弟の間を越えては』『いいの、あなたは私の生徒だけど恋人でもあるの』『でもいいのかなあ』片山は躊躇ったが若い女の髪の匂いは理性を麻痺させる。和美の身体は乙女ながらもしとど濡れた。この感受性は天性のものであろう。

 やがて片山が躊躇いがちに膣に入ってきた。これが女になることなのね、私はあなたのものと和美は思った。それも束の間彼女の意識は遠のいていく。我にかえったのは一時間後であった。片山が隣に寝ていた。その胸に顔を乗せた。和美は父親を憶えていない。片山に父の面影を求めていたのかもしれない。今度は『あなたは私のもの』と思った。人生は賭けである。この時、和美は処女喪失という人生最大の賭けに出たのである。この行動は自分でもわからない。百合子が片山に手を出したことがきっかけになったのは間違いないが評論家なら男を奪われないようにする女の本能とかもっともらしいことを言うのであろうが。和美は片山雷蔵をものにした満足感にひたっていた。
 


 雷鳴轟き閃光走る

 和美が片山の胸に指を這わす。乳首を撫で回すと片山が目を覚ます。くすぐったいのか身をねじる。和美は面白がって追いかける。そのとき股間にやわらかいものを感じた。男の前に垂れ下がっているものだが女にはない。手のひらに乗せると重量感がある。片山が感じるという仕草をする。和美が指で転がす。思わず、からたちの花が口をついてでてくる、.....からたちも秋は実るよ 丸い丸い金の玉だよ....。 片山は身を固くするのだが棒は頭を持ち上げ直立しだした。後日『丸い丸いは、まろいまろい』と指摘されるのだが和美は私だけの秘密、思い出とにんまりしたものだ。

 和美は棒をむんずと掴み、自分の膣に押し当てる。膣は開き、棒が頭を突っ込む。そしてきょろきょと見渡す。すると和美は気持ちいいと声を漏らす。生まれつき感度かいいのか初体験をしたばかりである。棒は成長する。私の中で育つのね、私の指導がいいからいい演奏するわ。指揮棒につられて子宮だけでなく身体全体が音楽を奏でる。和美は天空を浮遊する。ああ楽しい、こんなことがあるのか。名状しがたい幸福につつまれる。愛することは対価を求めない。それ自体が喜びなのだ、うん、そうなのだ。

 夕食は百合子の手料理だ。魚が中心だが肝の吸い物が付いている。どこか素人離れした味付けだ、酒が美味い。『この酒は』『老松、九州の酒なんです。ここじゃ手に入らないので取り寄せたのですよ』『多分すき焼きにもあいますね。奥さんの料理が一段と美味くなる』『つうなんですね』『いや酒が好きなだけですよ』こんな他愛の話にも和美は嫉妬を覚えた。そのとき花火の音がした。『花火大会が始まるのね。観てきたら』この日本語は難しい。言葉だけなら年に一度の花火大会を楽しんできたらとなろう。それが和美には度を過ごしてはいけませんよ、彼は年なんだからと聞こえる。『屋上からのほうががよく見えるわ』と和美はやり返した。

 屋上からは川面が見える。この川は市街の中心を流れるが潮の干満で水位がずいぶん変わる。浴衣がけの人が橋の上に陣取っている。川辺の歩道も人で埋まっている。水際公園とはよく言ったものだ。ボート、遊覧船、さらに屋形船まで浮かんでいる。和美が片山の肩に寄りかかると片山はやさしく抱いてくれた。幸せって身近にあるのね、気づかぬだけかもと和美は思った。遅い宵闇が二人を包む。最初の打ち上げは景気よく大輪の花火が空に開いた。こどもの歓声と拍手が起こる。和美が将来親子連れでゆけたらいいなあ、などと考えていると次々に花火が炸裂する。三尺玉かと片山がつぶやく。

 屋上には日よけのテントと空気マットがある。それは百合子が水着で涼むものだ。和美はそこへ誘導した。恋を知り、男を知ると女は変わる。片山がおずおずと入ってくる。しかし急速に成長する。和美の中で膨張する。すごいわ、ああとろけそう。そしてそれが子宮に近づくと和美は宙に舞う。花火の音も閃光も消えてゆく。ところが和美の内部に閃光が走り雷鳴が轟いたのである。鶏がにらんでいた。片山の鶏だ。和美はブラックホールに吸い込まれる自分をみた。その時片山が腕を掴んで引き上げてくれたのだ。
 片山の腕の中で『あなたの子が欲しい』とつぶやく。片山はやさしく髪を撫でながら『いっぱい生んでくれ』と応える。嬉しいと和美は抱きつく。しかし片山雷蔵が遠い昔に思いを馳せていることに和美は気づかなかった。
 百合子がそっと屋上をのぞくとあられもない自分の娘がいた。その顔は恍惚としていた。あのこもやるもんだわいと思ったが片山を盗られた気もした。客観的に観れば百合子が和美から盗んだのであるが恋は思案の外、理屈はない。

 和美は女になって綺麗になった。乙女から女へ見事に変身した。和美を知る人は「いい人できたの」ときかずにはおられないほどであった。和美は咲き誇るバラではない。野に咲く花であるが凛とした美しさがある。音楽も自我をあまり出さないがひかれるものがある。大学のホールで非常勤講師だけの発表会が開催された。片山がステージ衣装を選んだ。それは地味なものであった。「衣装は和美の美しさを引き立たさなくてはならない」と和美の為に買い求めた。
その衣装は和美にぴったりで仕立直しが要らなかった。当日、ステージでスポットライトが当たると浮き出るようであった。演奏もよかったが衣装が評判になった。ステージ衣装はド派手なものという通念が覆されたのだ。演奏後理事長から常勤講師へのオファーがあった。和美がきっぱりと断ったのは言うまでもない。発表会は品定めと学生の人気度測定の目的であったのだ。

その夜和美は発表会の感想を片山にきいた。「演奏はすばらしかったが花がないのう。和美以外は」と言った。花って何かしら。「智子は」「うん、実はある。無花果か」「分かるように言って」「イチジクは花がない。実は旨い。あそこみたいだ」「スケベ。摘まみたくない」「摘まめば美味いのだろうが」「花がないから。つまりええと色気がない」「まあそんなところ」なるほど、花も実もあるか。超一流には人を惹き付ける花がある。しかし智子には実がある、花もあれば。「花をつけちゃだめよ」「ん」「智子に」
和美の不安は当たる。智子は片山の感想を聞いて、花とはと考えた。和美の花は大きくなったような気がする。非常勤講師の演奏は技術水準には達しているが味がない。自分は実があると言ってくれたから音楽性はあるのだろう。花がないとはどういうことか。和美にあって自分にないのは何故か。これは片山にきくしかない。
智子は片山を呼び出した。人目を憚るので高原にドライブした。片山は智子の質問に困った顔をした。高原は薄の穂が出て秋風が吹いていた。「私知りたいのです」智子は片山の腕を取って肩に頭を乗せた。片山は優しく抱いてくれた。幸せな気分になる。初秋の風が智子のうなじを撫でてゆく。智子が片山の首に腕を巻き付け唇を吸った。片山は驚いたようだがやさしく返してくれた。気が遠くなる。これだわ。その夜和美は発表会の感想を片山にきいた。「演奏はすばらしかったが花がないのう。和美以外は」と言った。花って何かしら。「智子は」「うん、実はある。無花果か」「分かるように言って」「イチジクは花がない。実は旨い。あそこみたいだ」「スケベ。摘まみたくない」「摘まめば美味いのだろうが」「花がないから。つまりええと色気がない」「まあそんなところ」なるほど、花も実もあるか。超一流には人を惹き付ける花がある。しかし智子には実がある、花もあれば。「花をつけちゃだめよ」「ん」「智子に」
和美の不安は当たる。智子は片山の感想を聞いて、花とはと考えた。和美の花は大きくなったような気がする。非常勤講師の演奏は技術水準には達しているが味がない。自分は実があると言ってくれたから音楽性はあるのだろう。花がないとはどういうことか。和美にあって自分にないのは何故か。これは片山にきくしかない。
智子は片山を呼び出した。人目を憚るので高原にドライブした。片山は智子の質問に困った顔をした。高原は薄の穂が出て秋風が吹いていた。「私知りたいのです」智子は片山の腕を取って肩に頭を乗せた。片山は優しく抱いてくれた。幸せな気分になる。初秋の風が智子のうなじを撫でてゆく。智子が片山の首に腕を巻き付け唇を吸った。片山は驚いたようだがやさしく口づけを返してくれた。気が遠くなる。これだわ。
智子はモーテルに片山を引きずり込んだ。和美御免と片山に抱きつく。やがて片山が入ってくるといいしれぬよろこびにつつまれた。ああ、こんなの初めて。智子は宇宙をさまよう。暗黒の闇の中だが遠くに光があった。近づくと黒い花があった。それは黒い薔薇であった。その存在は闇の中では気づかない。この人が光をあててくれた。至福の時とは今でないか。しかし智子の思考もここまでであった。
智子のあやまちはこの時だけであった。あやまちというより確信犯であったが、花とは何ぞやという真理の探究であったから許されよう。智子と片山だけの秘め事で二人とも生涯これをもらすことはなかった。人生に秘密がある。これを秘めとおすことは強い意志が必要だ。秘密を明かさないことで智子と和美の友情は一生変わらなかった。その意味でも智子は実のある女といえよう。もし智子があやまちを繰り返していたら花をつけ、花を開けたであろう。その結果は言うに及ぶまい、、、。


数日後、和美に呼び出された。「水族館に行かない」「いいけどどうして」「アザラシが見たいの」「アザラシ、なかちゃんいなくなったいたいね」「そうなの、だからみたいの」なかちゃんはこどものアザラシで近くの川で寝そべる姿に人気がある。親とはぐれて迷い込んだようだ。「町では特別住民票を交付しているそうよ」「欲しい、見てみたい」「片山さんに頼んだら取ってくれるのじゃない」「頼んでみる。智子どんな雄アザラシがもてるか知っている」「さあ、色つや、顔つき」「と思うでしょ。ところがさにあらず、年寄りなんだって」「うそ、本当」智子は殺気を感じた。「年寄りは経験があるからかたくさんの雌にもてるんですって」智子は身構える。「一夫多妻っていうわね」「若い男は演奏が未熟なのかも」「そうなんだあ」和美は片山にはほかの女とやったら殺すと通告してある。智子は疑わしい。「でね、水族館の人にきいてみるの。一緒に行こう」「いいけど何時」「早いうちに」


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