再びダヴァウへ
クリスティーンの卒業式が近づいてきた。坂本がダバオへ向かう日、清美が心配そうに言った。『あなた、その女子大生には気をつけてください、危険な女です。』やはり、そうか(清美の超能力で女の詳しいことがわかったら教えてくれ)。坂本は知っていたのだ、余計なことを言ってしまった、でも彼を守ってみせる、紀和のために人類のためにもと清美は心の中で叫んだ。 坂本は3日前ユキに卒業式で何かしゃべれと命じていた。できない、恥ずかしい。やれ、たかが大学生相手だ。そうか国会に比べたらどうってことないか。ユキ議員の講演として後世まで残るぞ。冷やかさないで。 セール、タラ(出かけるぞ)と運転手のセヴァスチャン。ソクソクだ。誰と。うるさい一時間後に出かける。わかった、一時間後にまた来る。ディー本当にやるの。一発だけな、ヴィラ洗って来い。やはりユキとのソクソクは気兼ねしなくていい。おいしい?とてもおいしいマム。ああ行きそう。まだ早い。だって、もうだめ、きてきて。AVの観過ぎじゃないのか。
フンマンナ(済んだか)。オウオウ、出かけるぞ。塩崎真知子と清美が見送る。お母さん、行ってきます。行ってらっしゃい。清美も負けていない。行ってらっしゃいませ、お気をつけてと切り返す。坂本はああと答えて紀和にキスする。複雑な気持ちから逃げるように車に乗る。 バギオからマニラ空港までは3時間足らず、道路が良くなったものだ。かつては7時間は見ておかねばならなかった。アンヘロス空港からダバオの便はないのか。ない、セール昼飯はどこにする、リトル東京か。日本料理が食いたいといえ。セリナがうまい、友達呼んでいいか。割り勘だぞ。それはないでしょ。 友達はこのカローラを運転してきた男だ。だいたい読めてきたとユキに話しかける。ダバオに連れて行けでしょ。お前もわかるか。セール、ボス(カルロス)から電話だ。そらきた。『彼をダバオに連れていきたい、だって』お前の運転手は舌は何枚か、賃金カットしろ。『やはりな、まあ、いいだろう、役に立つかも。娘(マリア)がお前を待ってるぞ』
ダバオ空港にはホテルの車が来ていた。この前の運転手だ。ユキがセヴァスチャンの携帯で警察署長に電話する。『着きました』『了解です』そうだな、彼の携帯は連中に知られていないだろう。慰霊碑。OK. 車が山道を登っていく。セールつけられている。そうか、下りのカーブでサイドブレーキだ。ハンドブレーキな。うるさい。セール了解。 運転手が伏せろと叫ぶ。ユキが坂本を抱える。逆じゃないか。黙って。後続車は追突して横転する。ハンドルを返せなかったようだ。大丈夫か。俺おでこ打った。私尻が痛い。このケツなら心配ない、チンチンで揉んでやる。やだー、馬鹿ね。行け、後は警察にまかせろ。イエスサー。
坂本が慰霊碑に手を合わせタバコを取り出す。『火を貸していただけますか』と日本人が近づいてきた。ライターを渡すと紙切れといっしょに返してきた。無言の問いには答えず立ち去る。紙切れには『つづきです、兄は死にました』と書かれていた。裏にはウェッヴサイトがあった。 彼は消されたか、弟は俺がここに来ることを知っていたのか。坂本は冥福を祈りながらも疑念にとらわれていた。老婆と孫がやっていきた。あの日本人はこのところ毎日きているよ。花と線香、と200ペソを差し出す。この前の日本人は来なくなった。けど彼は顔が似ているね。虫の知らせか、清美の超能力か。 清美にサイトをダウンロードするように携帯メールを打つ。すごい、映像つき、すぐ翻訳します。頼む。ユキ、警察は。なかなか吐かないみたい。そうか、ホテルに帰るか。日本博物館に行きたい。明日の準備はいいのか。大丈夫、いきましょ。それと日本軍跡のレストランで食事したい。やはりドキっとする。
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