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作品名:闇の権力者たちの日本近代史 作者:佐々木 三郎

第3回   塩崎家の夕餉
塩崎家の夕餉

 録音はそこで切れていた。質疑応答、討論では具体的内容が聴けたかもしれない。坂本はため息をつく。また、忙しくなるわね。塩崎さんありがとうございました。清美もご苦労だったな、この録音をCDに落としてパソコンからは消してくれ。CDは何枚作りますか。そうだな3枚、一枚はここに、一枚はチップを託してきた彼に、チップは俺が持とう、もう一枚は、当分清美が持っていてくれ。わかりました。主人がいたらお役にたてるのにね。興奮が醒めたら、どうすべきか考えて見ます。
坂本と清美は書斎を出る。坂本は清美の部屋に入るとやにわに清美を抱きついた。小さく震えている坂本を清美はやさしく抱く。“日本民族の去勢“とことなげにいう闇の権力者たち。
大化の改新は律令制でしょ、鎌倉幕府は武家政治、明治政府は絶対中央集権、戦後体制は民主主義でいいかしら。それは少しお眠りなさいと言っているようであった。不安恐怖は男の性欲を掻き立てる。激しく清美を求めた。

 どれくらい眠ったであろうか、塩崎真知子が夕食に招いてくれたので起き上がる。『入ってもいーい』と紀和が声をかける。いいよ、入っといで。4歳になった紀和が駆け寄ってくる。坂本が抱き上げると紀和がくすっと笑う。うん?お父さんお母さん、恋人?そうだよ。あのね、恋人の邪魔してはいけないんだって。そうか、ありがとう。お母さん、お父さんを愛してる。ええ愛しているわ。紀和も恋人欲しい。大丈夫、紀和には素敵な恋人が現れますよ。この母娘は宝物なのだ。
 『真知子さんこんばんわ』はい、紀和ちゃん今晩は。ユキと真知子がすき焼きを準備してくれた。『紀和ちゃんおとうさんが帰ってきてうれしい』うん、とっても。さあさあ、いただきましょう。いただきます。あのね、ユキおばさんとお父さんとの関係は。夫婦。じゃあ恋人じゃないの。両方よ。恋人夫婦。紀和ちゃん旨い事いうのね。
夫婦は愛情が深まるほど相手に求めるものが多くなるから相手には負担になってゆくのではないか。自然の成り行きであるが恋人気分を持ち続けるなら、控えめの求めとなり相手もできうる限り応じようとするのではないか。
愛の営みは悲しみ苦しみから心身を解放してくれる崇高な宗教的行為でもある。人間の本来の根源的世界へ導いてくれる。そこは悦楽の境地である。これを正面から取り組む作品(チャハレイ夫人の恋人等)は、ただ『いたずらに欲情を刺激する』だけの春画、エロ本の類とは明確に区別されるべきである。


 このような団欒を津波のように何のためらいもなく奪い去ってゆく闇の権力者に坂本はあらためて怒りを覚えていた。これからどうなさるの、坂本の心を見透かしたように塩崎真知子が尋ねた。わかりません、公表するのも一つですが、それには裏づけが足りません。大平さん(外務省アジア大西洋局長)柳さんに相談しようかとも考えていますが、、、。
ディー、何のこと?そうだ、この国の国会議員にして影の大統領ユキ姉さんにも見ていただこう。やめてよ!ユキさんいらっしゃいと真知子が書斎に連れてゆく。お母さん、私わかんない。そうね、日本の歴史を知っていないとむずかしいかも、でも録音を聴きながらわかるところだけでも頭に入れて、わからないところは私が解説するわ。

 坂本と清美は隣の自宅に帰ると紀和を寝かしつけた。さあ、一発やるか。いやだわ。嫌か。一発だなんて。坂本は湯船につかる。やせた月がのぞいている。清美は27になるが京都大学へ提出する博士論文『日比文化の根源的相違』に追われている中で録音テープ起こし翻訳に数日を費やした、慰労しなくては。
清美がかけ湯をして湯船に近寄ってきた。胸を隠すのだ、上流の女は乳房を隠す、下流の女は下を隠す。私、上流ですか。お前は天照大神の末裔に違いない。彼女は天を照らす太陽神にして伊勢神宮のご神体であらせられる。天皇が伊勢参りをするのは夜伽をするためである。天皇が男系男子であらねばならぬ根拠とされる。わかりましてございます、されどあまり科学的では、左様、明確な根拠がないときは神秘的なものを引き合いに出すものだ。清美は坂本に抱かれて目をとじる。
 布団に横たわる清美の乳房から喉に唇を這わせるとかすかなあえぎ声をあげる。その顔は妖艶にして神々しい。顔の表情も大切だな、坂本はいきり立つ男根を静かに突き立てる。清美の顔がゆがむ。それが悦楽に変わってゆく。俺がこうさせているのだと坂本は満足していたが、突然突き上げてくる縦波につづいて大きな横波に襲われた。清美は坂本の首に両腕を巻きつけているのだが坂本は広い宇宙を漂っているのだ。

 その頃、ユキは真知子の講義を受けていた。この国では世界史などあまり教えないし、高校すら卒業していないユキには耳新しい言葉が溢れている。真知子の説明の上手さもあるがユキは海綿のように吸収して消化してゆく。坂本さんの心を掴むだけあるわね、あなたは私の自慢の娘よ。お母さん。今やこの国の影の大統領とさえ呼ばれるユキだが、人はユキに感謝しつつも蔭ではジャパユキとののしっているのだ。
この娘はそれを知っていて健気に振舞っている。真知子の愛情はユキの心を包んでくれる。お母さん、ものを知ると見えなかったものが見えてくるのね。そうね。もっともっと知りたい。できますよ、あなたには。


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