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作品名:闇の権力者たちの日本近代史 作者:佐々木 三郎

最終回   犯罪立証
 犯罪立証

 続いて若い検察官が後は任せてくだい下さいと立ち上がる。検察側はこのICチップを証拠として提出します。それはどのような内容ですか。ある日本人が命をかけて手に入れたもので、被告人らと思しき人物の会話が収録されております。命をかけてとは、彼は亡くなった。殺されました。弁護側は?しかるべく。ではこれを当裁判所の証拠として採用します。

 検察側は証拠の人物が被告人であることを証明するため、被告人らの本人尋問を申請します。認めます。被告人らはこの録画の中で自分と思われる自分物を指差して下さい。異議あり。異議を認めます。では質問を変えます、この人物は被告人A貴方ではないですか。異議あり。異議を却下します、証人は答えて下さい。私にはわかりません、裁判長。
 検察官ジャックはハーグの大学法学部を卒業した若者だ。この人物は被告人B貴方でないですか。Bは答えない。画面を止めて下さい、この人物が被告人Bであることは疑う余地がないでしょう。裁判長、この録画がどのように作成されたを明らかにすべきです。今は録画の人物であるかを確認しているのですとジャック。弁護人の異議を却下します、検察官尋問を続けて下さい。骨相からだけで録画の人物と被告人との同一性は証明出来ます、なんなら法医学的鑑定を申請してもいいが、そうするまでもないでしょう。
 ジャックはどうだとばかりに弁護側を見下す。検察側は審理を早めるべく被告人らのスナップ写真を証拠として提出します。弁護側意見は?ありません。しかし被告人らの表情が曇る。写真は家族の顔もあったのだ。ゴルゴ13が撮影した最近の写真なのだ。では証人は否定しなかったので 録画の人物は被告人らであるとの前提で尋問を続けます。この録画の会議はどこで開かれましたか、答えられない?ではいつ開催されました。被告人らの表情は硬い。この場面撮影日時ではありませんか、ジャックの舌は快調である。
 
 この会議は定期的開催されるのですか。ジャックは証人台に立った被告人Bに近寄る。お答えがない、私の英語がおかしいのでしょうか。傍聴席から笑いが起こる。静粛にと裁判長。検察官は証人を揶揄しています、録画といい写真といい、被告人らの人権を侵害している。弁護側は証拠採用において同意したではないか、そもそも被告人らに人権などあるものか、人間の姿をした悪魔である。弁護側の異議を却下しますが検察官は言葉を謹んでください、なお、証人は知っていることは正直に答えて下さい、さもないと偽証罪及び法廷侮辱罪に問われますよ。

 ここでジャックはバトンタッチ。検察官サラはリヴィア出身の美人だ。被告人ら収入ならびにその保管を明らかにするため15分間尋問時間を頂きたく。これは貴方の預金通帳ですか、D証人。ではこの電気料金の請求書は貴方宛のものですね、毎月20日自動引落になっており、そしてそのとおりに引き落とされていますね。声良し、姿良し、頭良し、のサラに法廷は圧倒される。
 このスイス銀行の預金はどこからもらったものですか。貴方のご職業は、年収は、失礼ですが公務員の所得にしては多すぎません?マフィアの隠し預金すら秘密を守るスイスの銀行が、と誰しもが思った。
 サラはD証人に近づく。いつまでも隠し通せるとお思いですか。異議あり。異議を認めます。この預金はどのようにして得たのですか。Dは知らないと答える。思い出せませんか、この2ビリオンはダヴィデ シオンという人物から振込れていますが貴方とどういう関係ですか。そういう人物は知らない。そうですか、彼はこの写真の人物です、彼と談笑している人は貴方ではないですか。Dの身体が震える。
 サラは写真を裁判官に示しながら、カードは小出しするのが基本ですがもう一枚のカードも出して おきましょうと冷たく笑う。このカードはダヴィデ シオンが被告人全員に2ビリオンずつ送金していることが書かれています、さらにその日に武器産業連合から30ビリオンが入金されていることも。つまり彼は武器産業からの寄付金を分配する役目の人でしょう。異議あり、誘導尋問です。異議を認めます。彼もこの法廷で証言してもらいましょうか、金の流れは彼とあなた方との歴史を語ってくれますわ。是非その歴史を証拠として裁判所にしていただきたい。金融業との歴史も併せて提出します。

 被告人ら闇の権力者たちは有史以来、常に裁く側にいた。被告席に着くなどありえないことである。これは悪夢ではないかと思ったが裁判はかすかな希望も打ち砕いてゆく。そして彼らを恐怖に陥れるのが家族の写真である。家族の生命を脅かすことは彼らの常套手段である。どの国の政府高官も金だけでは動かないが、家族の生命を脅されると弱い。家族のためにやむなく悪事に加担するという麻酔の効果もある。
 真似碁は先番黒の打つ手の反対側に白が打ってゆくものだが、それなりに効果的である。何より心理的に黒を不安にさせるのである。唯一真似できない点は天元10の10である。それはどこかと闇の権力者たちは今考えざるを得なくなっている。


 被告人らの遺伝子凍結仮処分申請

 被告人らの遺伝子凍結とはどういうことですか。ここは刑事法廷ですよ。ならば、民事法廷も開廷していただきたい。訴えの利益はなんですか。人類に仇なす輩を容易に判別できる、もって隔離ないしは撲滅に資する。なるほど、一理はあるようなので裁判官全員で民事法廷を前向きで検討する、検察官は話を元に戻してください。

 この検察官長島重雄は一般人から選ばれた日本の若者だ。法曹界の人間にはできない発想行動がある。裁判官の訴訟指揮も彼には通じない。この裁判の目的はですねえ、被告人らの罪を裁くだけでいいのですか。獄門さらし首にしたとて被害者の無念が晴れのるでしょうか。最低でも被告人らの全資産を凍結してですね、賠償させる、本当はこっちのほうが大切ですね。
 刑もですね、絞首刑とか銃殺とかありきたりのものでは面白くありません。懲役刑にして働かせる、派手な囚人服で町中で働かせるのです。死ぬまで、永遠に被告人らには希望はないと思わせることがいいですねえ。

 ご高説はよくわかりましたから検察官は本論に入ってください。あなた分かったあ、資産凍結と終身刑、頭にしっかりとですね、入れておいて下さいよ。えっ本論、何を喋るんだったかな。法廷が爆笑に。休廷となる。

 刑事事件で被告人の有罪を立証する責任は検察側にある。疑わしきは被告人の有利に判断するのが原則である。限りなく黒に近いグレーであっても罰することができない。そこがこの事件の特徴である。情況証拠を積み上げても限度がある。やはり自白がいるな、と坂本は思った。
 闇の権力者たちは立件起訴されることはないと踏んできたのだ。この起訴は人類史上最初であるが、最後にしたいものである。それには闇の権力者たちの特定が必要だ。被告人らが全員であるとの確証はない。これも被告人の自白に頼るしか無い。
 江戸時代の拷問を用いるのは坂本の主義に反する。田中、大平が自白に追い込むべく証拠収集に尽力してくれているが、ゴルゴ13の手荒な手法を期待するしかないか、と溜息をつく。最後の切り札は偵察監視用に新たに開発された謎の飛行物体であろう。

注:続きは連載できんくなったので「続 闇の権力者たちの近代日本史」として投稿している。
  原因は不明だが苦肉の策である。ご了承下さい。 


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