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作品名:闇の権力者たちの日本近代史 作者:佐々木 三郎

第28回   第五章 新東京裁判
第五章 新東京裁判


 闇の権力者たちを裁く裁判所は東京に設置されることになった。関係者の安全という点で東京が一番とされたのだ。第2次世界大戦の戦争犯罪を勝者が敗者を裁いたマニラ裁判、東京裁判への面当てもあった。

 これは勝者が敗者を裁く裁判ではない。被害者たる全人類が被告人らの人類に対する罪を罰するものである。その目的はかような犯罪の再発防止である。したがって犯罪の動機解明を旨とすべきである。検察弁護双方とも事実認定に全精力を傾注していただきたい。これが坂本の関係者への指示の全てであった。ただ不当利得は吐き出せろとの意向は関係者にも理解できた。

 裁判所は都内の某ホテルの2階部分が借り切られた。1階部分は検察側と裁判官たちに、もう1階部分は弁護側と被告人たちに当てられる。法廷は会議室を改造する。裁判の長期化が予想されるので関係者への配慮である。宿泊と勤務は近いほど効率がいい。また報道機関への配慮でもあった。

 次に裁判官、検察官、弁護人の各15名ずつの公募である。全世界から応募があったが、法曹界、有識者、一般から三分の一ずつ選ばれた。書類選考で絞ってゆくが最終選考では口頭諮問に時間がかけられた。これには先ず選考委員会の設置が必要だが、これに大平、田中、白井貴子が中心になったことは言うまでもない。

 この新東京裁判の莫大な費用は青い地球を守る会で負担しなければならない。メディアへの放映権だけではなく一般から寄付金を募った。裁判への関心度が知ることができる。そもそも被告人らの人類に対する罪を裁くのであるから全人類が検察官、弁護人、裁判官である。それをここ東京でこの法廷で人類を代表して裁くのだ。開廷まであとひと月と迫っていた。 

 まず裁判官、検察官、弁護人の各15名が裁判の基本的進め方について協議する。協議のあと裁判官、検察官、弁護人それぞれに分かれて協議する。協議は毎日のように行われた。これで世界中から集った関係者の互いを知ることができた。裁判の基本的進め方については原則として公開される。
 もっとも恐れることは関係者へのテロ攻撃である。日本政府、日本の警察は特別扱いするわけにはゆかないからだ。この裁判を積極的に支援するわけにはゆかない。坂本はハジ議長、ムバルク元大統領らの協力を仰ぐ。テロ攻撃情報収集である。ゴルゴ13とその仲間も協力を申し出てくれた。あとは謎の飛行物体トモカサに期待する。
 
開廷

 いよいよ開廷の日となった。傍聴人、報道陣が押しかけたが法廷の収容人数からそれぞれ100名ずつに制限された。抽選で入場を許された者はこの歴史的裁判を固唾を呑んで見守る。
 開廷宣言に続いて裁判長から異例の訓示がなされた。本件は人類に対する罪を裁くものであるが、前例のないものである。したがって当裁判所の存在そのものに対する疑問に答えておく。将来世界連邦国家が実現されるならばその法律に基づいて裁かれるべきであるが、現時点では実現されていない。故に人類の常識に基づいて被告人らを裁くものである。
 当裁判所は正当な手続きによって全人類の委託を受けたものと自負する。また、裁判官、検察官、弁護人は公正に選ばれたものと認める。もし当法廷に優る裁判所が存在するならば検察官、被告人双方ともこれに控訴できるであろう。
 
 問題は刑の執行である。この裁判を妨害するものを尽く排除する必要がある。妨害はテロのような直接的なものも、政治的圧力も想定される。テロの対策は既に手を打ってあるが田中、大平が自衛隊のコマンド部隊、警視庁の特別警備を裏から手を回してくれた。
 政治的圧力に対しては謎の飛行物体トモカサの示威で抑えることにした。
武器の生産、輸送は国、宗教、組織の如何を問わず破壊してゆく。特に生産ソフトパルスへの攻撃は効果的である。ついでにと北朝鮮政府と中国共産党のコンピューターを麻痺させる。

 起訴状の朗読、人定尋問、罪状認否

 数百頁に及ぶ起訴状の朗読は、休憩を挟んで夕方までかかった。続いて人定尋問、罪状認否がなされたが終わったのは深夜であった。関係者の疲労は大変なものであった。ただ起訴状の写は被告人全員にも配付され、傍聴席にも大型モニターで公表されたことは前例がなく、裁判所の自信とも受け止められる。そこで初日は閉廷となり、次回公判は翌週と決まる。
 
 翌週、被告人13名の人定尋問は順調に行われたが、それは表の顔である。
うらの顔こそ正体である。被告人が起訴事実を認めるか、裁判所が認定した時点で正体が暴かれることになろう。

 続く被告人全員が罪状認否は全員が無罪を主張した。当然であるが坂本には忌々しく思えた。弁護人の主張に先立ち、裁判官が被告人に、何か言いたいことはないかと尋ねたがこれまた何もないと素気無く応える。お前らは天につばを吐くようなものだ、いずれ臍を噛むぞと内心思っているようだ。

 弁護人の主張は、起訴事実は状況証拠の寄せ集めで到底公判を維持できるものではないから公訴を棄却すべきであるとのことだ。東京高検の元検事正が静かに立ち上がった。直接的、決定的証拠を残さなければ犯罪を重ねてもいいと言うことになりますかな。されば被告人らの犯罪はそれだけ計画的であり、悪質であることを物語っていると当職は考えます。
 長年凶悪犯罪を扱ってきたのであろう、淡々と弁論を展開する。我々は、被告人らが直接手を下したという証拠はまだない。しかし、実行犯は被告人らの手足となったに過ぎずその犯罪は被告人らの犯罪であると評価されるべきものと思慮する。故に我々は情況証拠を積み上げて被告人らの犯罪を立証してゆく所存である。


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