炙り出し作戦
日本の証券取引委員会は一定数量超える取引についてはその詳細を調査することができると発表した。これは控えめなものであったので世間の注目をあまり浴びなかった。欧米の証券取引が右に倣えするまで忘れられていた程だ。なにしろ、北朝鮮、中国共産党ならびに政府高官のスキャンダルにメディアの関心は向けられていて、その短刀、匕首に気づかなかったのだ。 一年前のことだ。おい、田中、SESCの委員長は空手部の後輩だったな。任期を1年余り残している。国家、世界のために些細な事だ、やらせるのだ、空手部。大平はいつになく強い口調で言ったものだ。「オオカミを捕らえるためにオオカミを使う。彼なら取引のからくりを何でも知っている」といった大統領がいたな。
田中大平は第一線を退いたトレーダーの口説き落としにかかる。料亭の一席でSESCの委員長が頭を下げる。T氏はよくよくのことでしょう、やってみましょうとだけ言った。 株式市場から数人、為替相場から数人の仕手筋トレーダーの動きを監視するのだ。とくに外人買い、外人売といわれる過去の取引履歴から大商いをピックアップして詳細を調べてゆく。大商いは一度の取引が10億円以上、一日100億以上とされた。 株式市場のABCDEのトレーダ各人の取引銘柄、数量、売買額を一覧表にする。さらに5人の一覧表を横睨みできるようにしてこれを日経平均株価に重ねる。 その一覧を見ただけでT氏は商いの概要を言い当てた。狼は強いだけでなく嗅覚が鋭いのだ。円高株安の日本買いからリーマン・ショックの中で個々の銘柄取引を読み解いていく。 為替相場のABFGHのトレーダーについても同様の手法が採られた。ABは為替でもトップトレーダーらしい。彼らは自ら相場をはるが依頼人のために投資するのが主体である。この依頼人を手繰ってゆけば闇の権力者たちにたどり着くと言うのが坂本の意見だ。田中がこれに乗り気で大平も同調、証券取引委員会抱き込みとなったわけである。 元請は米国とスイスの大物トレーダーです、とT氏はため息をつく。それだけでも我々にはありがたいことです。注文主もあらかたの見当はつきますが、詳しいことは時間をかけて調べないとわかりません。それは我我でもできます、貴殿にはその手口を分析していただきたいのです。承知しました。
田中大平証券取引委員会ルートの調査にゴルゴ13の調査を重ね合わせることになった。
坂本のゴルゴ13へのフォローが厳しくなった。こちら身は一つ。二つは妊婦だ。暗号を解読すると、「そんなにこき使うな。身重の妊婦みたいなことを言うな」となる。
あとは彼らに任せて仕上げにかかろう、と坂本は自分に言った。 WONTEDと闇の権力者たちの顔写真を公表するのだ。容疑は戦争仕掛け、金融市場操作、不正蓄財いくらでもある。簡単に殺しはしないぞ。懲役2688年、死ぬ以上の苦しみを味あわせてやる。
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