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作品名:闇の権力者たちの日本近代史 作者:佐々木 三郎

第13回   荒野の呼び声
荒野の呼び声

 塩崎家族一行が帰国の日が近づいてきた。彼らはラクダで付近を回れるようになっていた。もう一週間になる。その夜も楽しい語らいがあった。長老の一人がつぶやく。おい。ああ。なんだかうれしそう。マリア何が。狼よ。あれは仲間を呼ぶ声だ。俺もグランドキャニオンで聞いたことがある。

 しかしこうして客人を迎えることは楽しいのう。これも西田のおかげだ。砂漠に雨を降らせ、緑に変えた。それは施主である女王と発案者の坂本さんだ。我々は日本に帰国するつもりであったが、大学、運河、難民キャンプといい勉強をさせてもらってますな。そうですな河野さん。
 日本人は分け与えるのが好きなのか。そうだ、どうしてか。人は持てば持つほど多くを求めますけど一人では使い切れないでしょう。分け合ったほうが楽しいではないでしょうか。ほう、そういわれると。真知子の話には含蓄がある。

 明日帰るのね。ああ。帰したくない。そうはいかない、お前がフィリピンに来い。え、私とヤサミーンと。いいや、ムバルク夫妻もだ。家を建ててやる、塩崎家族は楽しいぞ。うれしい。それから雨は夜明けまで激しく降りつづく。

 その日は朝から送別会となった。隣の部落からもやってくる。サー、俺たちはどうなるのか。そうだ、ちょっとこい。二人の捕虜は顔写真を見せられる。見覚えは。ない。そうか、じゃあ好きにしたらいい。?。帰りたかったら帰れ。俺は西田の下で働きたい。俺は河野の下で。それは彼ら次第だ、雇ってくれと自分で頼め。サンキューサー。
 おい、観ろ、狼だ。5匹か。いやもっといるぞ。砂漠の民は目がいい。西田が双眼鏡を持ってくる。坂本さん。ありがとう。岩山に狼の群れ。
緑は草か。ほんとだ、草が。なになに。山頂。中腹の岩場にも。おお。
坂本が言っていたな。なんと。狼。そうか狼が棲めるように。そうだ。
なんだ。今わかった。だから何が。
 われわれ砂漠の民は家畜を増やすことを考えた。そうか、俺もわかった。長老たちの話に全員聴き入る。先ず草。先ず水。いやいや先ず裸じゃよ。長老いけますか。女次第。家畜が増えすぎると草を食い尽くす。狼はそれを抑える。左様、へび、サソリをもな。
 確かに日本人はよく考えますな。仕事ができるのは多い、仕事をつくるのは少ない。坂本は婿殿が惚れるわけだ。彼は狼にも愛情をもって接するのか。いやすべての生き物だ。共存。じゃな、どうも日本人の根本思想は共存共栄じゃな。紛争の元を潰す。
 砂漠が緑になって家畜が増えた、これを狙って狼がやってくる、だが殺そうとはしない。狼も生きて行けるようにと。狼も役に立つ、腹が減ってなければやたらと家畜を襲わない。増えすぎが良くない。わしも多ければ多いほど良いと思っていたのだが。程々ですか。何事も。あれもですか。当たり前じゃ。大雨になるぞ。
 日本人は身体は小さいがやることは大きい。強いが威嚇しない。お前西谷投げ飛ばされたな。違う、宙に浮いて落ちた感じだ。同じじゃないか。西田の手を掴んでみろ。若者が立ち上がる。西田が手首を捻ると若者が倒れる。魔術か。西田には合気道の心得があるようだ。
 子供たちが泥球を持ってくる。坂本が投げつける振りをする。子供たちも反撃体制をとる。坂本は手を上げる。婿殿、彼は子供のような男だな。そうですな。純粋な男だな。そうだ次回からは坂本杯を用意しよう。それはいい。すべての岩山に狼を。オウと大歓声。

 一行が乗船すると見送りの人が手を振る。月の砂漠を 遙々と 坂本が歌いだす。天上からもそれにあわすように音楽が。運河の両岸にも見送りの人が手を振る。船が進む。畑仕事、牧畜の手を休めて手を振る人々。泥んこ合戦のニュースは砂漠中に知れ渡っているようだ。


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