20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:闇の権力者たちの日本近代史 作者:佐々木 三郎

第11回   シャハラザード大学への旅
シャハラザード大学への旅

 塩崎家族がドンカルロスの招待でスペインを訪れ、ついでにシャハラザード大学視察を聞いて、セヴァスチャンが俺も連れて行ってくれとせがんだ。お前は留守番だ、しっかりやっておけと一蹴される。セール、日本人はビザなしOKか、どうしてか。俺にきくな。おれも行きたい。リュウジを困らすでないとカルロスに一喝される。

 かつては宗主国の人間と直接口を利くことすら許されなかったフィリピン人。お土産を買ってくると宥めるしかなかった。陳、どうして龍次は甘いんだ。彼が日本人であるから。そうか、そうだな。彼は特別甘い。奴は龍次を兄貴と思っているようだ。日本人不思議ある。

日本立寄り

 日本組は成田経由マドリッド入りすることにした。坂本はDVを外務省の大平局長に見せること、謎の飛行物体に闇の権力者たちの情報を入力させることが目的だ。ユキ、南海男、山田常男、清美、紀和、今回は塩崎真知子、柳夫妻を加えご一行9名様だ。

 三日後成田での再会を約束して、柳夫妻と別れる。常男は山田中尉の戦友浜田を紀和連れで訪ねる。坂本、ユキ、清美は外務省の大平を訪ねると言うと真知子も同行することになった。帝国ホテルにチェクインして霞ヶ関に向かう。
 外務省の局長室に通されると『大平さん、お久しぶり』と真知子が挨拶する。『これは塩崎さん、ご無沙汰しております。お元気そうで。その節はお世話になりながら』と大平が恐縮する。大平は故塩崎氏の部下であったらしい。

 挨拶が済んだところで坂本はこれをとDVと録音CDを大平の前に置く。パソコンで再生すると『これを私に』と大平。『外務省が(闇の権力に)が一番危ないと思っていますが』と坂本。わかっておりますと大平。

 外務省から大田区の町工場に移動する。『この人物全員の行動を謎の飛行物体で監視記録したい』わかりました、トモカサ竜のできは。上々、極秘で、至急に。承知しました。これは手土産と500万円手渡す。すでに十分いただいていますから。これは謝礼と白地小切手を差し出す。そんなにご心配しないでくだせえ、旦那の頼みとあらあ、命懸でやりますよ。ありがとう、何分良しなに。

 翌日、清美が川田製作所を訪ねる。新幹線で大阪まで日帰り予定、坂本も付いてゆく。あんた山田さんだよ。おう、清美けーったか。で、職訓はうまくいってるか。それより翔のお礼言わないと。そうだった、翔のやつ、性根を入れなおして朝から夜遅くまで頑張ってる。ほんとだよ山田さんのおかげだよ。親ばかなんだよな、息子が後を継いでくれただけでうれしい。
 浩、翔もやってきた。やあ元気。ええ、でも親父さんに追いつくには50年はかかるでしょう。50年で追いついたらほめてやるよ。親父ができて俺ができないことはない。翔、親方に生意気な口きくんでないよ。すいません、おかみさん。でも蛙の子は蛙、親父さんを追い越す日も。浩、お前は本当にいいやつだ。そうだよ、浩さんうちの馬鹿息子しっかり鍛えておくれよ。
 昼飯を薦められたが時間がないというと浩が駅まで送ってくれた。それ親父さんの彫ったネームプレート?はい、お守りにしてます。親父さん喜ぶだろうな。そのころ川田製作所にはフィリピンからマンゴーが届いていた。
清美の祖父山田中尉の墓参りをして山田家を訪ねる。おお清美、紀和がお待ちかねだぞと中尉の弟和雄が冷やかす。常男と紀和も先に帰っていた。東京和歌山の日帰りなど無理な話だ、明日の昼には成田に着かないと。すみません我儘言って。
スペイン シャハラザード大学 マリアコンサート
スペイン

 翌日、成田で全員が落ち合った。日本人は時間を惜しんで多くのことをしようとする。時を最大限に使う。それが可能なのも日本であろう。成田からヘルシンキまで14時間、マドリッドまで3時間、乗り継ぎ2時間を入れても19時間である。かつての北極回りに比べると世界は狭くなった。やはりJALだと安心できる。
 空港にはカルロスが迎えに来ている。陳家族はすでに着ていた。塩崎家族がそろってスペインを旅する。女たちはスペインの情熱をかんじるのか興奮している。カルロスの別荘に逗留する。別荘といっても敷地は5町歩はあろう。館である。スペイン財閥の一翼がこの程度であるからピンの方は計り知れない。

 館の中庭で子供たちと鬼ごっこする坂本。その顔は幸せに満ちている。2階のベランダからみつめる塩崎家族。『あの子供のような男といると心が落ち着く』私もある、白金も黄金も珠もなにせむに優れる宝子にしかめやも。どういう意味だ。子供一番という歌ある。素晴しい、書いてくれ。私できないよ日本語。
 真知子が書き示す、本当は墨がいいのですけど。シロガネモ コガネモタマモ ナニセムニ と女たちが唱和する。昭和とは心をひとつに合わすことだ。女の幸せは好きなお方の子を育てること。あら産むことじゃなくて。細君、両方ですわ、ねえ清美。そうですね。

 一行は観光しながら会話しながらスペインを楽しむ。朝な夕なの散歩も格別。これが本当の幸せかもしれませんな。げに、柳殿。リュウジが必死に守るわけだ。そうある。今の山上億良の歌じゃないですが富は持つものでなく使うものですなあ。スペイン財閥華僑財物なにせむにだ。龍次は金の使い方知っている。サルみたいなフィリピン人にも難民にも。
 日本の男スケベというがサンタマリアあるよ。日本人お宗教観は日本に永く住んでいても理解できませんが不思議です。義を見てせざるは勇無きなきなりでござるよ。ふうむ、義務はなくても?それは自分の心に聴いてみて行動を決めるということでしょうか。お母さん神様とは相談しないの。やるときはやるのよ。いやだあ。ユキなに考えてるの、他人が難儀していれば救いに行くのよ、神様に相談してる間が無いでしょ。
 そうかあ、電車のホームに落ちた人を救うのに間髪入れる時間はないわね、2歳の女の子を2度轢きしたニュースを観たけどああいう社会はいやね。命の値段、治療費のほうが高くつくから殺してしまえというのね。
今の中国は貧しいのですよ。国は世界2位になっても国民は貧しい、国家が猫糞しているのね。ユキさんもう少し品よくなさったら。だってお母さんフィリピンも一部の金持ちが奢り庶民が飢えているのですよ、私断固粉砕する、許しません。
 ユキさん、カルロス陳さんに悪いでしょ。あ、これは失礼しました。でもユキ、貴女は正直な方だ、リュウジが惚れるだけはある。あるある、ユキ政治立派あるよ。そんなあ、恥ずかしい。まあ女学生みたい。冷やかさないで細君。ほんとだわ。ユキは顔を赤める。

 シャハラザード大学

 シャハラザード大学に向かう運河の船旅は心地よい。両岸には緑が広がり牛馬が草を食んでいる。これが砂漠だったのか。カルロスのテノールが響く。中継地の港に運河建設部長と大学担当部長が出迎えてくれた。港は観光施設だけでなく農耕具の工場、市場もできていた。
 完成した展示室で運河建設の歴史を学ぶ。写真、フィルムのほか工事に使われた器具も展示されている。こんな貴重なものを警備もしないで、俺が持ち逃げするぞとカルロス。“お客様、展示品尾持ち出しは禁じられております。元の位置にお返しください”とやさしい女の声。外に持ち出したら?お顔が真っ黒になります。

 外ではラクダ少年が子供たちにラクダを教えている。ユキが私もとラクダに跨る。おお、彼女はラクダにのったことがあるのか。いやはじめてだ、彼女の国にはラクダはいない。どうして乗れる、コウノ部長。それはわからない。
 南海男も挑戦する。『ラクダとお話しするの、そう、今度は右』とユキが後ろから教える。ああ言っている、父っつあん。うむ、天才じゃ。彼は少年の祖父であり、河野部長の義父でもある。少年は土木技師の道を確実に歩んでいる。

 船はシャハラザード大学に向けて出港する。父っつあんは両岸の人に声をかけてゆく。ああ、日本からの客人だ。やがて大学が見えてきた。祝砲が鳴る。Welcome to Shajarazade 天空に文字が。坂本は親指を丸めてOKを示す。ディーなにやってんのとユキ。
 一行が下船すると西田所長、シャラザード女王が迎える。天上から音楽が降り注ぐ。すると夜半雨の注意報。馬鹿やりすぎだと坂本は両手で
バッテン罰印。グッドラックの文字を残して謎の飛行物体トモカサ竜が去ってゆく。

 西田所長から大学の説明を熱心に聴く.坂本は闇の権力者たちの入力が済んだか気になる。話は弾むが坂本は落ち着かない。天空文字は入力澄み、実用実験のメッセージと思うのだが、子供のようなところがある。
 女王陛下の夕食会は豪勢だ。Belly danceベリーダンスで最高に盛り上がる。ふん、セクシーダンスは娼婦がやるもんだよ。ユキさん、はしたない。なにが女王様だい、人の旦那に色目を使うんじゃないよ。ユキはミンダナオダンスを始める。青白い火花が飛び交う。今夜は荒れそうだ。
女の対決見物あるよ。そうだな。どっちに賭ける。ユキに100ドル。よし俺は女王とカルロス。拙者はユキと常男。私は女王と柳。2:2ある、龍次お前は。そのう、利害関係人は議決権がないので棄権。やれやれ色男も楽じゃないあるねえ。
 女王も受けてたつ。ユキがシャツとズボンを脱ぎ捨てる。女王のベリダンスも激しさを加える。雷鳴が轟く。大雨注意報が出てましたなと西田所長。世紀の対決を見逃すことになりますよと河野部長。まさに、風雲急を告げておりますな。

 突然鳴り響く軍艦マーチ。大日本帝国軍は装備を完了せり。これより闇の帝国に進軍す。おお、と坂本が立ち上がる。皇国の存亡この一戦にあり。再び軍艦マーチ。これはオフレコ、削除。お楽しみのところお邪魔しました。
軍艦マーチは遠ざかって行く。どうした龍次。坂本はにんまり笑う。闇の帝国に進軍といってましたな。いよいよですか。偵察機の発進ですよ。戦闘状態にいるのは。まだまだです、見えない敵とは戦えません。正体を暴きにかかったところです。

ユキは坂本の胸倉を掴んで、あの女とやるんじゃないよと叫ぶ。なんだその格好は。私のダンス観てなかったの。ユキがナイフを振りかざす。ユキ殿落ち着けなされ。離してくだされ常男どのう。あなた皆様に説明したほうがいいのでは。そうだな清美おまえが話せ。謎の飛行物体は闇の権力者たちの姿を記憶してこれからその動向を調べるそうです。あのDVDの画像を取り込んだのか。
するとディーそわそわしていたのは、あら私誤解してましたわ。早く着ろ。ところでムバルク夫妻は。今は亡命しています。イスラム諸国での政変はめずらしくない。これも連中の仕業か。坂本さん、ムバルク夫妻はわが社のヘリで程なく到着されますよ。さすが西田所長。天候急変で河野部長の事務所に避難されていましたが今発たれたそうです。

おう、ムバルク元気か。龍次!抱き合って再会を喜ぶ。苦労しているのか。西田、河野のおかげで不自由なく暮らしている。今日は孫の顔が見られる。まあ、食いながら話を聴いてくれ。坂本は録音録画の話をする。でムバルクの出番も近い。それは面白い、腕が鳴る。
砂漠の娘はもう2歳、歩きしゃべる。母に似ている。で名前は。ヤサミーンだ。名前など何でもいいがないと困る。いい爺だな。おうさ、娘も可愛いが孫はもっと可愛い。子供はすぐに仲良くなる。坂本の背中を滑り台にする。南海男がヤサミーンを肩に乗せて滑らせる。もう一回とせがむ。ヤサミーンの兄弟ですね、そしてお母さんたち、ムバルク夫人の一言がすべてを語っていた。

シャラザードはユキの了解を得た格好で坂本を寝室に誘う。風雨が強まりますなあ。1年ぶりですか二人の再会は、我々もお勤めに帰りましょうか。河野さんはお元気ですから。何をおっしゃるお子さんの数ではとても所長に及びませんよ。娘に坂本さんの子を産ますか。何を言うんです、もう子供が二人いますよと柳の奥さん。

マリアコンサート

 翌朝は雨上がりの快晴であった。木々の緑が雨に濡れていた。マリアがコンサートホールで練習していると人々が集まってくる。ヴァイオリンの音は砂漠の朝に広がって行くのだ。特に世界中から来ている学生教授たちは音楽に聴き入る。生の演奏に飢えているのだ。
半時間ぐらいでマリアがヴァイオリンをケースにしまおうとするともう一曲と大学教授らしい男が頼んだ。それではとモンティーのチゃルダッシュを弾く。その迫力技術に大歓声が上がる。是非コンサートをいうことになり土曜の夜と約束する。先生私が伴奏を勤めますと女学生が申し出た。そうですね、貴女のピアノはプロ並だからきっといい演奏会になるでしょう。
伴奏といっても掛け合いの部分ではピアノもはっきりした主張を出してくる。互いの主張を確認しながらの曲作りは真剣勝負である。2時間のステージで20曲近くを演奏する。連日5時間のリハーサルに女子学生は音を上げる。多くの聴衆がこれに見入る。
その甲斐あって本番では涙するものも少なくなかった。とくに哀愁のバラードは本国で国民が独裁政治に苦しむ学生の中には嗚咽を漏らすものすらいた。入場料は無料だがマリアの希望で難民への義捐金として多くの金があつまった。まさに音楽は国境を越える


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 11342