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作品名:闇の権力者たちの日本近代史 作者:佐々木 三郎

第10回   検証戦後体制
 検証戦後体制

 子供たちが寝たのを待って坂本が話し始める。最近の日本で報じられる児童虐待、いじめ、引き篭もりなどについて柳さんのご意見を伺いたいのです。闇の権力者のシナリオとお考えですか、それは十分に考えられますね。柳はゆっくりと語り始める。

 日本民族は戦いを好みませんが恐れもしません。連中にとっては御しがたい民族です。一致協力してことにあたるとこれほど成果を上げる民族はいないでしょう。その代表的事例は奈良の大仏建立、元寇蒙古襲来、第一次南極観測が挙げられるでしょう。国、民、国家が一つになる、素晴らしいことですが他国からみると脅威を感じます。
 あれだけの鋳造物は現代でも容易ではありません。目的達成のため民一人一人が出来得る事をしました。その過程を楽しんでいるように見えます。南極観測でも同じことがありました。官民国を挙げて小学生までが協力しましたね、私はこれには驚きました。
 これは家族の強い絆が根底にあるからでしょう。その延長に社会、国があるのですね、日本は。そうすると日本を弱体化するには家族の絆を断ち切ればいいわけです。個人主義、権利の主張を煽っていけば簡単です。家族労働、家内工業を減らしてゆけば三世代が同居することは難しくなります。民族の伝統を伝えるには三世代同居、もしくは同職は必要です。そう親父が師であり親方であることは理想的です。
 大量生産、大量消費がこれに拍車をかけました。安くて良い物とは標準化された画一品です。戦後の要請に答えるものでしたが、日本人の特質である工夫を忘れさせたのです。人々は商品から疎外されます。生産過程を知らなくなります。その極め付けが自動販売機ですな。
昭和30年代までは“いただきます、ご馳走様”という言葉に心が篭っていたのですが。児童虐待、いじめ、引き篭もりなどは以上の事情から派生してきたのでないですか。(なるほど社会現象としては深刻な問題だが、日本の家族、地縁社会の崩壊が根底にあるのか。いじめも陰湿かつ凶暴になってきている。恐喝、脅迫、傷害と思われるもの少なくない。日本民族の特質はことの善悪、他者への思いやりでなかったか)

 しばらく沈黙があった。そもそも日本民族を弱体化させる理由は何か、とカルロスが叫ぶ。戦後1945年以降、日本民族を大人しくさせることは連中と欧米の思惑とが一致したのでしょう。連中は日本民族が勤勉に稼いで貢いでくれることを期待したのでしょう。欧米は日本帝国主義の復活を恐れたのでしょう。で、経済的物質的豊かさを飴として与えたのです。
 それで日本から交戦権を奪ったのか。でしょう、中国、ロシア、アメリカ合衆国を相手にまともに戦った国は日本ぐらいでしょう。うーむ、それはそうだな。日本を経済大国にしておけば戦争しないある。なるほど。生活が物質的に豊かになれば民、国を思う心を失いしか。

 柳さんありがとうございました、お話を伺って自分の考えが間違ってなかったと自信が持てます。お役にたちましたか。それはもう。何かおこまりですか。ええ、実は申し上げるべきか躊躇としているのです。おっしゃってください、私もできるだけのことはしますよ。ええ、でもご迷惑が。坂本先生、あなたのなさることは退屈だった人生に夢を与えてくれます。ここにいる者はみんな心で結ばれているのではないですか。
 そうですね、信じあえる友人を得たことは喜びと勇気が持てます。坂本は闇の権力者の会議の録音録画を入手した経過を説明した。緊張した雰囲気が重く圧し掛かってくる。坂本さん、我々は共通の遺伝子をもっているのではないでしょうか、柳が自分に言聞かす様に言った。俗に気が合うと言いますが考え感受性を共有する部分があるのでしょう、私は坂本先生の考えがよくわかります。そして共感できるのです。
 うむ、私もだ、とカルロスが叫ぶ。大きな声だすないよ、私考えていた、龍次といると人生楽しい、何故か、今柳先生のお言葉を聴いてこれだと思った。同感でござる、ひとは己の体験を簡潔に表した言葉に感動する“。素敵ですね、私は柳さんのお言葉にも、今の山田さんのお言葉にも感動しました。真知子の言葉に女たちもうなづく。(細君、私たちリュウジの上に乗ったのは彼の夢にも乗ったのじゃない。そうね、夢を追う男に女は憧れる。こちらが先かな、あとでゆっくり。ええ。)二人はそっと清美をみやる。

 では、清美、皆様に聞いていただこう、そうだ、書き取ったものも見ていただこう。あなた、まず、視聴していただいてからでよろしいのでは、私、恥ずかしい。何が恥ずかしい、和訳は俺にとって貴重なものだ。でも。坂本さん清美さんの言うとおりにして、ご希望があればになさったら。それもそうですね、和文が必要なのは私だけですか。

 パソコンを立ち上げて会議の録音を開く。聴き終わるとため息が。これは、と柳は言いかけて言葉がでない。ほかの人間も興奮に包まれている。あなた、飲茶にしましょうか。それはいい。茶は台湾の岩奥で採れたものらしい。興奮した喉に潤いをもたらす。絶品あるな。極上にござる。本当おいしゅうございますわ。もういっぱい。マリアさん、そういう時はもう一服というのよ。
でも同じ意味でしょ。気分が違うの、雰囲気が出るでしょ。茶の雰囲気、なるほどわかる、わかる。
 続きはどうしましょう。是非。そう人類の危機に破邪の剣を振るうべし。録画は闇の権力者たちを映し出している。新たな興奮は同席者を包んでゆく。
音声とは迫力が違う。問題はこの録画録音の真偽と連中のあぶり出しでしょうか、柳が口を開く。坂本は見透かされている気がした。突然考えが浮かんだ。それはこうだ。
 春画、AVに字幕として録音録画の内容を書き込む。世界中に広まるのに時間はかかるまい。春画に限らない、音楽、絵画なんでもいい。万一ソースを訊かれたとき惚けることができる。やはりその意味でエロイのがいい。同時に闇の権力者の反応も出てこよう。これはいける。この考えを口にするのは後にしようと思った。

 これは本物だ、何故ならその日本人は命を懸けてリュウジに託したのだ。カルロス殿、そう思って間違いないと思われるが証拠能力証明力はどうであろうか。ドン山田、心配ない、連中に自白させればいい。なるほど妙案、で連中捕縛は如何致す。それは、連中の所在確かめて連行するある。そのとおり。所在ならびに連衡方法やいかん。これから考えるよろしい、慌てる乞食貰少ない。
 酒だ、こういううときは。老酒と点心を用意させましょう。そうしてくれ。柳も興奮に堪えられなくなっている。坂本は考えを口にしてしまった。それは面白いですね、白蛇伝はどうですか、柳が乗ってきた。もっとエロイよろしい。しかし坂本先生はアイディアマンですな。坂本は居並ぶ人間の情報を謎の飛行物体に記憶させガードさせていた。プライバシーの問題があるが、言わずもがなのことだ。そうだ、録画の人物を謎の飛行物体に記憶させ、追跡させよう、坂本は自分の考えに満足していた。
 老酒と点心は美味かった。考えるだけで空腹なるか。脳がフル稼働すると酸素を食う、他の臓器も負けずに働くから腹が空くのだ。カルロス医者みたいなこというか。多少の心得はある、それより今度スペインに行かないか、実家のヴァレンシアを中心にして。ついでにシャハラザード大学にも寄りたいわ。それはいい考えだ、アンジェリータ。行きたい、女たちの賛同で決定。坂本先生この件は次回までに各自研究しておくこと、致しましょう、事が大き過ぎて考えがまとまりません。そうしましょうか。

 闇の権力者を突き止め捕縛する具体策は思い浮かばない。はてどうしたものかと思案するばかりである。しかしそれぞれ策を練ろうとしていると坂本は思った。ここにいる者が裏切る可能性はあるがそれは脅迫されてのことであろう。信じるのだ。人は他人を信じなければ生きてゆけない。この新たな塩崎家族を壊すな、いや逆に闇の権力者とたちを葬り去ることだ。


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