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作品名:女の敵、強姦魔 作者:佐々木 三郎

最終回   乙女の祈りは永遠に
乙女の祈りは永遠に

矢野は天龍組天野夫婦と白虎組白川夫婦をすき焼きに招いた。「神田にもこんないい店がありましたか、美味い酒ですねえ」「お肉も柔らかくて」「酒とあいますねえ、え、老松」「こうして美味い料理が食えるのも香川先生のおかげだな」「そうでやんすよ、それに国本が毎月こずかいをくれるのでええ暮らしをさせてもろうてます。でも今度は大変でしたね」「いやあ、地獄を見たよ、直美はチクチク、和子は真綿で」「でも身から出た錆でしょ」「これ、お前何という」「ほい、口が滑りまして」矢野は吉良と国本の出向期限が迫って来たのでけじめをつけようと両親分を招いたのだ。「それがね、先生国本の奴島田博子さんと所帯を持つなんて言い出しましてね。申し訳ないっす」「そうだよ。店の女に手を付けるなんて」「白川さん、実は信介の奴も斉藤慶子さんとできたみたいで。気質のお嬢さんでしょう、組を継がすとなると親御さんに」「先生どうしたものでござんしょう」
考えてみればいい取り合わせだ。「まあくっ付いたものを離すわけにはゆくまい。できちゃった婚だな」「さすがは色の大家。この際組を解散して吉良を自由にしてやりたいと考えとります」「白虎組も同様に考えちょります」「なんねえ、ならん。子分たちをどうする。鹿成建設さんへ顔向けできないだろう。それにだ俺が吉良と国本を引っこ抜いたことになる。筋目は通せ」「おっしゃるとおりで」「近頃仁吉も忠二もデレデレしやがって若い者がたるんでいる。5人ずつ親分のところで筋目を勉強させよう。まあ3月で十分だろう。」
天野と白川は顔を見合わす。「それがですね、忠二の奴全国に出店を出すと言い出しまして、そうなると白虎組の若頭では世間体が」「おや、白虎組が世間に顔向けできないことをしたのかい。白虎組と言えば関東ではちっとは名の知れた産廃業者だ。看板の重みをなめるんじゃねえ」「へえ」「へえであるか、向こうの親に見せてやれ、これが産廃処分場ですかと言うだろうよ」
処分場と言っても事務所はロココ調の煉瓦造り、中は史跡公園をおもわせるような植樹緑化がなされていた。「さようで」「お前さん、先生がああ言いなさるのは自信がおありだからだよ。結納は奥様300でどうでしょう」「組の跡取りですものね」「では300万で」
こういうことは女が取仕切るようだ。「持参金は倍返しと言うじゃないか。心配することないよ」「奥様仲人さんには30万でようござんすか」「ようがすとも。うちは和子さんにお願いしたいんでございますよ」「あら奥様うちは京子さんにと思ってましたのでございますよ」「となると御日取りは」「大安か友引として同じ日にしません」「ははあ、奥様式は別々に挙げて披露宴を合同でやろうという魂胆で」「さすが奥様、あしこなら雨の日でもドームがあるでしょ、駐車場の心配もないし」「それはいい考えで、第一会場費はうきますわ、ぱーっとやるにはうってつけ」「奥様それは」「あらまた口が」
矢野は憮然として言った。「祝い事に口を挟むことはないが瓢と翡翠はいいのか、女の悋気は恐いぞ」「先生だけには言われたく御座いませんこと。先生、これを最後になさいまし。直美先生は職務違反と大層ご立腹だったとか」「ちげえねえ、和子さんのお取り計らいがなかったら先生家を出されていたかも」「親分、俺に意見するのかい」「滅相もない、ただ事実を申し上げたに過ぎやせん」「俺はな、弟分に地獄を見せたくないと思った」「先生申し訳ござりませぬ。先生の深いお心を考えもせず、女の浅はかさとお笑いください。ささ、一杯。機嫌直しておくれよ」「そうですよ、私ども先生を忠二の兄とも思っているのでございますよ。それにしても京子さんはいつ見ても色っぽい。女から見ても惚れ惚れするじゃありませんか」白川夫人の援護射撃は強烈だった。
これで仲人は確定した。「先生改めて明日ご挨拶に参ります故和子様京子様にはご在宅の程よしなに」止めを刺すことも忘れない。「しかしなんだな、こうして結ばれてゆく男女は幸せだが強姦された女は悔しかろう」「そりゃあ悔しくて純潔を奪われたと自殺した女もいましかたら死んでも死に切れませんよ」「戦で濫捕は世の常とはいえ、信長は固く禁じたようだ。民を味方にした方が勝つことを知っていたのだな。信長の行くところは治安が良くなるから民衆に支持されるのだ。盗み、強姦をした兵は縛り首、単に戦上手だけではなかったようだ」「種籾まで盗られ女房娘を犯された民は信長に訴えたのでございましょう」「それだよ、白川さん」
天野と白川はこの男は純粋だと改めて思った。「種籾盗られちゃ生きてゆけねえ」「だよな、目の前で妻と娘を犯された会津は後々まで薩長を憎み続けたそうだ。生命財産を守るのが政治の基本だからな」「一つ、軍人は潔癖であるべし、ですかい」「んだ。以後明治政府は軍律を厳しくしていった。だから日本の兵隊さんはもてたのだ」「お国の為に命を懸ける男には女は弱いからねえ」「そうですよ、日本の兵隊さんは強姦などしませんよ。何が従軍慰安婦だい。いい稼ぎをしたというじゃないか」「チャンコロ、朝鮮のでっちあげですかい」「だろうよ、治安のいいところでは強姦はやりづらい」
天野はしばし考えて言った。「犯さず殺さず盗まず、ですかい」「親分もそう躾けてきたろう。これができるのは日本人ぐらいだ」「てえと軍が強制連行して慰安婦にしたなど」「考えられない。信長の偉いところは兵を金で雇った。筋の良くないのもいることを知っていたのだ。戦は兵隊の多い方が勝つ、ただし同じレベルであればの話だ。そこで日当を弾んで上品にさせた」「どういうことで」「日当が安けりゃ盗みを働く。いい給料をうって民を犯さず殺さず盗まずと徹底させたのだな」今度は白川が言った。「石高よりも日銭ですかい」「日銭が入ってくれば酒も飲める、女も買える。仕事は田植えを荒らす、稲田を荒らすだけでいい。当時の侍と言っても半農だから田植えと稲刈りの期間は戦どころでなかった」「田圃を荒らされちゃたまんねえ」「なるほどねえ、田んぼ荒らしなら雑兵で十分だ。田植えと稲刈り期を狙って戦を仕掛ける。頭いいね」「いっそ信長に就いたらという気になりますわね、奥様」「そうでございますよ、明日の千円より今日の百円ですよ。しかも信長はいい男だったとか」こうした話は人を楽しくさせる。「先生と飲む酒は美味いや」「奥様もう一皿いただきましょうか」「ついでにお酒も」「ですね」「信長死んだとき岐阜の城下の娘たちは泣いたそうだ」「私も抱かれてみたかった」「け、男色にか」「土地をもらっても金になるのは翌年だ」「そうですよ、台所を切り盛りするには今日の食事ですよ」「でも先生、信長はどうやって金を稼いだのでしょう」
姐さんともなれば聞き上手だ。「気配りですよ奥さん。信長の所へ商品を持ち込めばいい値で買ってやった、しかも関所の通行税は廃止したのだ」「てえてえと全国から商人がやってくる」「そうなんだ、道中盗難にあうとすぐに取り戻してやる。一緒に酒を飲みながら話を聴く」「情報収集ですかい」「生の情報だ。帰るときには美濃紙を売りつける。商人もいい値で売れるからあるだけ買って行く」「なるほどねえ、戦だけでないのね」「有名な桶狭間の合戦では精兵2000で2万の今川軍に切り込んだそうだ」「雑兵は雑兵」「と知っていたのだな。目標は今川義元の首。目的をはっきりさせることが重要だ」「義元のたまを取るには腹心の旗本」「2万と言っても濫捕に忙しくて戦に身が入っていない」「そこへ精兵を引き連れ殴り込みをかける、なるほどねえ」
この男も気配りがあると両夫婦は思った。「先生はあっしらとも良くしてくださる。天龍組が今日あるは先生のおかげでやんす」「それは白虎組も同じでござんす」「信長は酔った振りして寝っ転がって商人たちの話を聴いていたそうだ。情報提供だけでなく犯さず殺さず盗まずの報道官もやってくれた」「信長につけば安心と」「民衆は思うだろう」「逆に敵に回せば義元のようになる、ですかい」「この精神は日本帝国軍に受け継がれる。レイプはご法度」「てえと日本軍の強姦はなかったので」「とは言い切れない。
朝鮮人の日本兵もいたからな」「そうそう終戦直後若い母親を強姦した朝鮮人がいましたよね。子どもの知らせで駆けつけた警官を大勢でなぶり殺したとか、いやですわね」矢野は強姦魔に対する怒りを新たにした。「ベトナム戦争では韓国兵がレイプしまくって美女を連れ帰ったそうだ」「筋目の無い奴らだすねえ、強姦は根絶やしにせにゃなんねえ。白川や 浜の真砂は 尽きるとも 世に盗人(強姦)の 種は尽きまじ」「天野さんなんであっしが強姦魔、ひでえっす」「わりいわりい、冗談冗談」「強姦罪を改正しないかんな」「先生その前に掃討せにゃいけませんな」「国本が頑張るはずだ、なあ」「そうですね、ついでにいい女をものにして」「でも信介も必殺仕掛人ですよ奥様」「あら奥様それは忠二もそうですよ」「そうしますと奥様乙女の祈りは永遠に不滅ですとなりましょうか」



                   女の敵強姦魔 完


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