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作品名:女の敵、強姦魔 作者:佐々木 三郎

第35回   額田姫王
額田姫王


香川健は『山之内の財産を関本精児に遺贈する方法と財団を設立する方法』を提示した。いずれも香川行政書士事務所を管財人にしてそれなりの報酬を戴く寸法だ。「茫洋としているが、しっかりしてるが」「そなけん推薦したんじゃ、今まで期待を裏切ったことはない。いや期待以上の成果を出しとるきに」「そうかあ、日本にいるうちに結論出すわ。財団の方がええかのう」「実はわしも退職金をどう使おうかを考えとる。子孫に美田を残さすじゃ、財団基金にして優秀な経営者育成に役立てようかとな」「それはええ、わしも財産の金利を海外で活躍する若者に使ってもらおうかの」

駒込直美と松崎敬子は四国出張を命じられた。二人が土佐に里帰りする間の身の回りを世話せよとの命令である。「先日の旅費の使途を説明します」「そんなことは後でいい。すぐ旅支度しろ。いやなら京子と和子に頼む」「直ちに支度いたします。日程はどれぐらいでしょうか」「それを訊きだすのが役目だろうが。新人みたいなことを言うな」東京生まれの二人への役得をあたえたのであることは理解した。関本精児の強姦罪は成立しないとの結論に達したが、矢野の関心は遺言執行もしくは財団運営である。女たちは小柴監督に依頼した映画「若きピアニストたちの愛と性」の制作である。ついでに自分たちの写真集にも本気になってきていた。「ピアノとなるとヨーロッパよね、三人の留学費が問題だけどね」「そんなん、テレビ局に出させたらええが」「乗って来るかな」「小柴監督の口利きで本人たちに交渉させたらええ」「なるほどね、国際コンクールで優勝したら賞金も出るし、小柴さんに話してみようか」「しばらくはハンブルグの実家に下宿させて慣れたらそれぞれブダペスト、ウイーン、パリにでもゆくがよかろうぞ」「なんか現実味を帯びて来たわね」

吉永小百合の家族を調べると一人娘で、父は数学者で大学教授、母は外交官の娘である。温厚な父はやさしく娘を見つめて微笑む。そんな中で小百合は育った。田園調布の家は武蔵野の風景をとどめていた。500坪ほどの敷地には原生林も残っていた。家庭菜園、花壇は代々の庭師が手入れをする。固定資産税だけでも大変であるが妻は実家からの援助もあって穏やかな生活であった。小百合は無口で5歳までほとんど喋らなかった。今日でいう自閉症だった。3歳の時50曲の童謡はすべて憶えてしまった。母親の引くモーツアルトのソナチネがお気に入りでどんなにむずかっていても機嫌を直した。母親は娘がオシでないかと心配した。「童謡は歌うじゃないか、しゃべるのが苦手なのだろう」「そうですね、音楽の天分があるからピアノを習わせましょうか」「まだ早いだろう。本人が弾きたくなってからでいいのじゃないかな」そんな会話が父母を幸せにした。4歳になるとピアノを弾き始めた。母親の観よう見真似であるが驚くほど正確である。「ドーミソシードレド」とソナチネを口ずさむときは機嫌がいい時である。しかし人見知りをしてほとんど人と話さない。家で飼っているシェパードの雄とつがいのうさぎと何やら話している。

小学校入学に入学すると試験は常に満点だが体育と国語が苦手であることがわかった。こういう生徒はいじめられっことなる。担任の女教師が人を馬鹿にしていると誤解したのだ。というのも音読が上手くできないだけなのだがそれがわからない担任は教師失格であろう。彼女が失語症であることが判るのは1年後のことであった。人類が言語を話し出した歴史に比べると文字に書きまた文字を読む歴史は最近のことである。いわゆる天才の中に文字を読むのは苦手というのが少なくない。担任が家庭訪問で音読できないことを母親に指摘したが「うちの子読むのが苦手なんですよ」と笑い飛ばされた。

それから担任は事あるごとに音読を小百合に命じた。担任の意を体して同級生は笑った。試験の満点に対するやっかみもあったのだろう。日本のいじめは支配者に胡麻をするつもりで行われることが多い。それは少女にとって苦痛であった。ガキ大将が小百合を救ってくれた。「算数教えてくれたら、体育と国語教えてやる、どうだ」学校で初めて声を掛けられたのだ。どぎまぎしている小百合にガキ大将は試験用紙を広げた。宿題は明日までに不正解を直してくることだ。その得点は30点だったので小百合は笑ってしまった。

28×8=(20+8)×8=160+64=224
28×8=(30-2)×8=240-16=224
99×99=(100-1)×99=9900-99=9801
99×99=(100-1)×(100-1)=10000-100-100+1=9801
25×16=100/4×16=100×4=400
25×16=(20+5)×16=320+80=400
25×25=(20+5)×(20+5)=400+100+100+25=625
25×25=200×3+25=625
17×13=100×2+21=221

翌日ガキ大将の宿題を吉永小百合の入智恵とみた担任は怒って教頭に訴えた。ところが「先生、インド人は九九じゃなくて九九九九まで諳んじてますよ。この答案はそれ以上のレベルですね。生徒の素晴らしい発想を大切に育ててください」と逆に諭されたのであった。担任は変わった。一つの考えを生徒に押し付けていたのだ。考えは問題を解く手段だ。問題解決の手段を選び使うこと、料理の過程の方が大切だ。ならば答の数字を分解させるのが本当の教育ではないのかと思うようになった。次の授業で思い切って「55は」と生徒にきいてみた。「背番号」とガキ大将。

担任は55をしばらく考えさせてから「はい、できたひと」と手を挙げらせる。50+5、11×5の答が出て来た。いつもと調子が違うので生徒は興味を見せる。「他にないかな」と担任が見回す。餓鬼大将が1+2+3+4+5+6+7+8+9+10」と叫んだ。一瞬教室が静まったが「本当だ、すげえ」と声があがる。「どうやったあ」と不思議がる。「種を明かせば面白くないが今日は特別サービスだ」
黒板に書いて見せる。1+9+2+8+3+7+4+6+5+10「おお。感動した」「私も」感動に声なしである。「じゃあ1から100まで足したらいくつ。吉永さん」「ええと、少々お待ちください。発表します、ごせんごじゅう5050」「嘘う」「どうしてだ」「あいつしゃくだから。俺にきくな、わかるはずがない」「だろうな」「け、n(n+1)/2 何だ、これ」担任が「吉永さん黒板に書いてください」と促した。

教室は異星人をみるように黒板をみつめる。「わかった、nはナンバーよ」「番号?そうか、番号100、nに100を容れたらいいのよ」「本当か」「ともかくやってみて」「ええと55は10×11÷2だな、てええと55」「本当だ、100を容れたら100×101÷2ね、スゴーイ」

これで吉永小百合の株は急上昇した。「本当に5050」「疑い深いな、嫁に行けないぞ。10が55なら100は55の間に0を入れて5050、ぞろ目の丁だ」「何よ。吉永さんにでれでれして」「お前妬いてんのか」「誰があんたなんか」「先生次は電話番号で行く」「あら生年月日よ」

担任は生徒の生き生きとした表情に打たれた。「素晴らしい発表だったわ。でも先生の仕事は教科書の内容を教えることなの。だから電話番号と生年月日は夏休みに自分で考えてきて発表してください」「みんな聞け、先生の話をよく聴いて学年末試験でナンバーワンクラスになるのだ」「あんたには言われたくないわ」「ナンバーワンは第1位ということだぞ。卒業するときは全国1位を目指そう。少年よ大志を抱け」ガキ大将はその気にさせる。

クラスの計算能力は格段に進歩した。正確さ速さで他のクラスを圧倒した。計算の速さは応用問題に多くの時間がさける。題意を正確につかんでいるから大きな誤りはない。あってもほとんどがうっかりミスである。他の教科も読解力がつき題意を素早くとらえるようになった。できない子は題意がつかめないのだ。ガキ大将はできの悪い子に上位の生徒が指導するように命じた。教える側もしっかり理解しなくてはならない。クラスが家族のように助け合って行く空気が生まれた。これこそ学校だと担任は思った。

ある日参観授業が講堂で行われた。全校教師生徒が見守る中の授業である。担任は緊張した面持ちで授業を始めた。「今日は参観授業ですからお行儀良くしてくださいね、それだけが心配です」爆笑。「では始めます。

1問 5リッターの容器と9リッターの容器とで正確に13リッターの水を
   量るにはどうしますか。
2問 123456789×63+70はいくらになりますか。

制限時間は10分です。できた人は手を挙げてください」

 ガキ大将藤沢周平が手を挙げた。「もうできたの、3分57秒」と答案用紙に書き込む。「先生吉永の奴とっくに出来てる」担任が確認する。「吉永さん手を挙げなさい。4分15秒」会場が騒めく。参観の教師にも手強い問題だ。藤沢が手持ちぶさなのか「おい足してだめなら引いてみな。63と70の接点は何だ」と隣の生徒に話しかける。「藤沢君静かにしなさい」「はーい」すごいヒントだ。次々と手が上がってゆく。会場からは手が上がらない。

時間が来た。「では1番に手を挙げた藤沢君に発表してもらいましょう」「6年1組藤沢周平です。御指名により説明します。先ず9リッターに水を一杯に満たします、これを溢さない様に5リッター容器に移します。ここが味噌です。私の家は八百屋ですので神田にお越しの際はお立ち寄りください。5リッター容器の水は元に戻します。9リッター容器に残った4リッター水を空になった5リッター容器に移す。9リッター容器を一杯にすれば締めて13リッターという寸法。」
身振り手振りを加えての説明なので大うけである。
「次は63=9×7に気づけば半分出来たようなもの。70との接点は7、10個の7がずらっと並んでラッキーセブンで大フィーバー。ちぇ、うけないか」パチンコ好きの教師はニヤニヤする。「123456789×9=11111111101は1が10個とはいかないがとりあえず7倍しておく7777777707。9番目だけが0とはいただけない、と思うのが人情。そう、これに70を押し込むとオールセヴンとなる。犯人は7番目だ。逮捕状をとれ」大拍手。「藤沢君ができるわけないよね」「吉永さんに教えてもらったのよ」「おい何か文句あるか」「別に」

6年生はその年の全国学力テストで全国1になったが全校生徒の平均点での評価だけに校長は鼻高々である。担任の大石美穂に成果をまとめるように命じた。その報告書は次のように述べていた。

勉強の秘訣は各生徒に研究テーマを持たすことである。しかしテーマが決まれば半ば成就したと言える。低学年ほど何がしたいかをみつけることは難しい。学校はその手助けをするところである。教科書に沿った授業もその一環である。ある程度の知識素養が無ければテーマをみつけることも研究することもできない。それには強制も必要である。自らを強いて勉めることが理想であるがそれは多くの児童には無理な話である。せめて興味深い教材を示すことが一教師として私にできることだと気づいたのである。中略

円周率とは直径と円周の比である。これをどう教えるか、私は入念に準備したのであるがある生徒は即座に3倍強と答えた。私は出鼻をくじかれ戸惑った。彼は糸を円周に置きその長さを直径の上で三つ折りした。余った部分を示しながら31倍以上と得意気に言った。別の生徒は半径で円周を6等分した。各点と中心点とを結ぶと正三角形が6つできるから半径の6倍強 直径の3倍強であると言った。

私は黒板に書いて見せた。「正六角形の各辺は円周の内側にあるから逆に円周は半径の6倍よりも長いということですね。皆さん円周率は約3.14と憶えましょう」と言ったが生徒にお株を奪われた気がした。

この時、生徒は自分の少学校時代のレベルをはるかに上回っていることに気づいたが教師の威厳を保つべくおろかにも高圧的態度に出ていたのだ。転機が訪れたのは上述の背番号、電話番号、生年月日である。自由な発想は回り道、寄り道に見えるが発見もある。道に迷った者は公式定理といった道標の有難さを知る。答が1つの出題は整備された道を進むようなもので採点も容易であるが生徒の発想を削ぐ恐れがある。解答の過程を重視すれば採点の負担は増える。
しかし生徒との真剣勝負でもある。己の無知無能を知らされる。教えることは教えられることと実感した。将来生徒たちが進学し社会に出てどのような人生を送るのか見届けたい。整備道路を行くか険しい道を行くかは本人の決めることであるが幾つもの問題を解決してゆかねばなるまい。彼らが過程重視の教育に対する評価を与たえてくれるであろう。

この報告書は高く評価された。幼稚園から大学までの一貫教育ならではあるが教員の交流が行われるようになった。大学は高校に高校は中学に中学は小学校に注文をつけた。単に注文を出すだけでなく協議して改善を図った。その基本は研究テーマ方式である。生徒の感想はテーマを研究するほど周辺の基礎知識の必要性を感じ、学問の喜びとシンドさを知ったという。

矢野健は吉永小百合についての調査を興味深く読んだ。理由は彼の教育理念と合致するところが多かったこと、その発信源である吉永小百合は教育に何の関心も示さなかったことである。一言でいえば人と接したくないということであろう。大学も音楽部を選んだのもあまり話さなくてよいとの理由だ。第2楽器はフルートを選んだ。多くのフルート曲は譜面のとおり演奏すれば音楽になるとの理由だ。矢野は笑った。彼も極端に自己主張の強い演奏は好まない。
年末の卒業試験の演奏での学長の感想は高校生でももっと色気があるであった。好きな作曲家はとの質問に彼女はやっとの思いでモーツアルト答えた。「あとはドビッシー、ブラームスぐらいか、それで指導教官が敢えてベートーベンを選んだというところだな。無調性の曲が向いているかも知れないな」試験官室で「どうしようどうしようだな」「転調のところですか」「少女じゃないか、恋愛もしたことないのだな」「彼女人と接するのが苦手なんですね。しかし演奏技術は高く評価できます」「が自己主張がまるでない」「そこが彼女らしいところ、でも存在感はあるでしょ」「将来の計画は」「全く無いそうです」

矢野健には無菌室育ちの女と欲望剥き出しの男との結びつきが理解できない。「彼女は何が起こるかわからなかったのよ」「まさか、それだけはやめてと言わなかった」「たぶんね。友達もいない、家にテレビもないとすればありうるわ」「でも性の知識はあるでしょ」「知識はね、それが今起ころうとしている現実と結びつかないのよ」「要するに人間に関心が無いのだな」「そう、友達は犬と兎、となれば人の性にも無関心だったのよ」「これは再現映像が要るな」
矢野は香川健として関本精児を呼び出した。「山之内さんは財産の半分を日本に持ち帰りたいそうだ。その方法について依頼を受けている。私は財団をつくって奨学金を貸与するのがいいと考えている。別に日本に限らず金利の安定している銀行に預金して利息を奨学資金とするのがいいのじゃないかな」香川はこう切り出した。「山之内財団ですか」「そう、設立すれば貸与と回収が主な業務になる」「それで僕は」「君は身内として資金運営を年に一度チェックするだけでいい。年数十万の報酬が払われるだろう」「悪い話じゃないですね」「と思うがね、まあ財産を金に換えて幾らになるかわからないが年10人に百万ずつは貸与しないと格好がつかない」「どんな対象に」「それは山之内さんの思いを具現するものにしたいが第一の問題だ。次に選考基準だ。当分は推薦に基づいて実績を観てゆくしかないと考えている」
関本は話に乗って来た。「選考の公平さが大切ですね」「そうなんだ、ノーベル賞のようにはゆかないだろうが基金が世の為になること貸与生が誇りに思えるものにしたい」「素晴らしいですね」「人間何かをやろうとする時が一番楽しい。やりだすと苦労が待ち受けているが」「本当にそうですね」

健は話を変える。「まあ財団設立までに時間がかかるだろうけどその時は君の力を借りたい。設立者の思いを受け継ぐのは君だからね。そこで君のことを知っておきたいのだ。訊きづらいが吉永さんと結ばれた経過から聞かせてもらえるかな」「あれは忘年会の後彼女のマンションに立ち寄ったときでした」関本はすらすら話すなるほど、けれんみのない男だ。「彼女一人娘だったよな」「箱入り娘だから独り立ちするためマンション暮らしをさせられたようです」「誰に」「母親に決まっているでしょう」「そういうものかね」「そうみたいです」「で君をマンションに入れるときはどんな様子だった」「いつもと変わりませんでした」「女が一人暮らしのマンションに男を入れるのに」「まあそこが彼女らしいところですね」「君の方はその気はあった」「勿論その気で」「で押し倒した」

一気に事件の核心に迫る。「しませんよ、無防備な女に」「ではどうやって」「最初は唇です」「で反応は」「眼をみはって見つめました」「本当に初めてだった」「でしょうね、目を瞑れというと目を閉じました。今度は反応しました」「唇を返して来た」「というより真似ている感じですね」「感じていた」「感度は抜群ですね。しかし処女そのものでした」「処女でも感じるのだ」「でしょうね」関本精児の話を要約するとその後吉永小百合は風呂に浸かった。関本も続いたが気に留める風もなくいつものように身体を洗っていたという。
関本の方も面食らったようで湯上りにビールで乾杯しながらセックスしたいと言った。「セックス」「これをお前の中に入れる」「どうやって」「教えてやるからベッドに寝ろ」それから関本は入念に愛撫したが吉永小百合の反応は肉体そのもので相手が関本だからと感じはまるでなかった。花芯を舐めると声を上げる。舌を入れると身を捩る。濡れたのを確かめて押し入れると少し痛がったが関本を咥えこんだという。「そんなに名器か」「でしょうね、僕も初めてでしたから」「でよかった」「それはもう、天国かと」「で一気に」「彼女の反応がすごいので我慢しました」「コンチェルト」「まさにそうですね」「で終楽章まで我慢した」「無理ですよ、我慢しきれずに途中で放出しました」「若いのによく我慢したな、で出血は」「少しでしたがバスタオルを敷いていてよかったです」「おめでとう、その後は」「2回」「終楽章まで」「まあどうにか」「君すごいなあ」

これはどう見ても強姦ではない。「その日は泊まった」「明け方には精も根も尽き果てて」「激闘だった」「前後不覚におちいり起きたのは昼過ぎでした」「彼女の方は」「少し口を開いて眠っていました」「よくわかった。確認したいがその後の彼女は」「普段通りでした」「別に怒った風はなかった」「その後もう一度彼女を訪れましたが拒みはしませんでした」「そう安心した。それで君たちの関係に気づいている者は」「いないと思います」
そうすると吉永小百合が乙女の祈りを訪れたのは何だ、関本の話には理由が見つからない。ここは同じ一人娘の谷和子に訊きださせるか。香川健は関本に好感を持った。荒っぽいが土佐の男だ。「今日は忙しいのに時間をさいてもらってありがとう。卒業後予定が無かったらドイツに行かないか、モニカが君のこと気にしていた」「ありがとうございます」「また遊びに来てくれ」

谷和子は吉永小百合を呼び出した。「私も一人娘、学生時代に矢野と結ばれたのよ。貴女乙女の祈りを訪ねた理由を聞かせて」「滝本さんとも結ばれたのでどうしたらいいかわからなくて」「まあ、でも強姦でないでしょ」「強姦、ああ、力ずくで女を犯すこと、強姦ではありません」「乙女の祈りは強姦被害者を救済するところでしょ」「そうでした」「でこれからも二人の男と付き合って行くの」「そうなるでしょう」「あなたの気持ちは」「それでいいと思っています」

谷和子の矛先が鈍る。吉永小百合は悪びれた様子はない。「そのうち子どもができたら」「産みたい」「父親は」「どちらでもいい」「結婚は」「わからない」「お母さんに話した」「まだ」「話した方がいいと思うよ」「そうですか」「だって一番信頼できる女の先輩でしょ」「それはそうですね」「こども育てられる」「多分」「どうやって」「母に助けてもらいます」「いーくもんか。無責任ね。Hしたら子ができること考えないの」「ごめんなさい」谷和子は二の句が継げない
。和子の報告で全員大笑いした。「滝本幸次か関本精児の、いやふたりの子を宿したらどうしようかということか」「それもあるけど子育てをどうしようと本当に心配していたわ」「でも深刻ではない」「そうなんや、他人事のように自分を観ているの」「彼女らしいわね」「交代に生むけど育てられるやろか」「双子だと異父兄弟かも、母系社会。和子さんの養子にされるかも」「冗談やないわ」 

これで事件の概要が見えて来た。男を知った箱入り娘はさかりがついた、性に目覚めたのではないか、男なしでは生きられなくなったと矢野は思ったが口には出さなかった。吉永小百合は関本征助あるいは滝本幸次でなくとも性の悦びを与えてくれる男なら誰でもいいのであるまいかとも思ったからだ。これは母系社会の復活か。吉永小百合は良家の娘だからそれなりの男を選ぶだろうが。この推察は彼自身が証明することになるとは、、、。

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