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作品名:女の敵、強姦魔 作者:佐々木 三郎

第29回   第四部 関元 征助
                   第三部 関元 征助

前橋響子

前橋響子は恩師江藤淳に挨拶すべく東京芸術大学音楽部に向かっていた。小雨交じりの木枯らしが上野の森を吹いてゆく。国際音楽コンクール、チャイコフスキーコンクールで、ヴァイオリン部門1位なしの2位の快挙である。出場者の中では1位であっても優勝には値しない、今一ということらしい。その今一つ足りないものは何か、それを恩師に訊くべく急ぎ足で歩を進めていた。
秋の日は釣瓶落としというが森蔭には夕闇が迫っていた。その男はすれ違い様に後ろから響子の首を締めた。カチッとジャックナイフの音がして響子の腰にそれが突き付けられた。わずかな痛みが響子の恐怖感となり抵抗できない。男は響子を車の後部座席に押し倒すとその両脚に腰を下ろした。男の重みで両脚はシートに沈む。車が10分ほど走ってマンションの地下駐車場に止まった。響子は黒いスカーフを頭に被せられる。エレベーターは3階で止まる。響子と二人の男はそこから2つ目の部屋に入った。

コートを脱ぐと響子は妖艶な美しさを放った。「これはいいや。音楽家か、ちょっと弾いてみろ」と一人が命じた。ストラディバリの中でも10本の指に数えられる名器だ。なぜこんな男の為に奏でるのかと響子は唇を噛みしめる。
いろんなポーズをさせられた。その都度写真が撮られる。とくにベッドに寝そべり長いか髪を拡げたポーズは何度もシャッターが切られた。フィルムが交換される。「すぐ現像だ」と一人が言った。「今度は裸でやってもらおうか」とカメラを構えている。響子が裸になると同じポーズを要求された。その順番も正確で衣服をつけた写真と寸分違わなかった。

響子がヴァイオリンをケースにしまうと男が睨んだ。「暖房は楽器に悪いのです」と響子が叫んだ。と言っても声がかすれていた。「さすが音楽家。おい焼き増しはまだか」「引き延ばしていますから」「時間かかるな、今度はお前を弾いてやる」響子は身をすくめる。「シャワー浴びて来い」と男は楽器を見やる。響子は観念した。
男はバスタブから響子を観ている。「前もよく洗え、舐めてやるから」と命じる。響子は従うほかなかった。それから男はベッドで響子を執拗に攻める。しかし響子は声を上げそうになる、屈辱である。「そろそろ濡れてきたかな」男の舌が響子の性器を舐めてゆく。「感応もいいな。これを差し込んでやるから観ておけ」と男は男根を響子の顔に近づけた。
響子が顔をそむける。男は響子を膝の上に乗せ、ゆっくりと侵入を開始した。「これが棒イングだ。アップ、ダウン」とヴァイオリン弾く仕草をする。男はベッドに背中をつけると「何か弾いてみろ、楽器がいるか」と笑った。
響子は命じられるがままヴァイオリンを手にした恰好で弾く。肉体は意思を無視して勝手に動き出す。「これは名器だ」

前橋貞三宅を男が訪れた。応対に出た妻は「いくら欲しいのです」とヒステリックに言った。「出版社からは3億の申し出がありました」「で娘は」「元気にしておられますよ。まあ置いておきますからご検討してください」と男は返って行った。それは前橋響子の着衣と裸の写真集であった。
夜になって男から電話があった。前橋貞三は「5、5億だそう」とどもりながら答えた。「では明日いただきに上がります」「娘は、響子は」「ほら、ヴァイオリンを弾いておられますよ。明日10時に参ります」と男は電話を切った。
前橋夫婦は警察に届けるべきかで喧嘩となった。脅しに一度屈すると何度でも要求してくると貞三は言った。四菱銀行の頭取の地位、娘の名声からして今は言われるままに払うしかないと妻の松子は眉を吊り上げる。娘の身は二の次である。こうした両親の姿勢は子供にも伝わる。親の背中を観て育つ。

翌日男は10時かっきりにやってきた。5億の銀行振出の小切手を胸にしまいながら「こちらのほうもご検討ください」と前橋響子が犯されている写真を置いた。「ではまた」と男は前橋邸を出る。そこに刑事が二人待っていた。「署まで来てもらおうか」と男の肩を叩いた。「なんの御用でしょうか、警察を呼びますよ」「それには及ばない。警察の者だ。恐喝容疑で逮捕する」男はにんまり笑った。「最近警察も民事取引に介入するようになりましたか。逮捕令状はお持ちでしょうね」刑事がひるむ。「警察手帳を見せて頂きましょう」と手帳を取り上げ写真と刑事の顔を見比べる。さらにそれを刑事の胸に押し当てる。写真のシャッターが切られる。
男は手を振って立ち去る。歯軋りする刑事。半時間後に男から前橋宅に電話があった。「週刊スキャンダルから6億の申し出がありましたので」「7億で買おう」「他の週刊誌も関心があるようです」「10億でどうだ」男は「では明日10時に参ります」と電話を切る。
翌日も男は10時にやって来た。小切手を受け取ると「これは差し上げますから後でご覧になってください」と席を立った。警察手帳を胸に押し当てられた刑事の写真とビデオテープが置かれていた。『私の心はヴァイオリン』と題されたテープは前橋響子が犯される様子を生々しく映していた。

香川健は鬼頭善之助から冬薔薇で会いたいとの連絡を受けた。店の小ママが長谷川冴子に連絡してきたのだ。香川健こと矢野は四菱重工専務鬼頭良之助に打ちのめされたことがある。下田康介強姦事件の時だ。男として、人間大きさが違うのだ。会わないわけにはゆくまいと腹を括った。
その日は長谷川冴子も早めに冬薔薇に出ていた。隅のボックスを予約席としていた。矢野がデユーク東郷を伴って冬薔薇に入るとママの長谷川冴子が予約席に案内する。鬼頭良之助は深々と頭を下げる。前橋響子の写真を見せて「この二人を始末=抹殺していただきたい」と小さな声で言った。矢野はしばらく鬼頭をみつめる。「始末は捕獲してからご相談したいと存じます。必ず捕まえて見せましょう」鬼頭はほっとした顔で「前渡金です」と5億の小切手を差し出す。矢野は一瞬ためらったが「お預かりします」ときっぱり言った。「一度ハンブルグ市長を紹介したいのですが」と矢野が話を変える。「それは是非」と鬼頭が答える。「ドイツ大使館からパーティーの招待状が届くと思いますので」と矢野は席を立った。

早速浪漫建設の会議室に国本吉良も集められた。写真、ビデオを検討したが犯人捕獲の手掛りにはならない。「これはプロ写真ですからあの映画監督に観て貰ったらどうでしょう」島崎社長が言った。矢野は言い終わらぬうちに柴田瞳に電話する。すぐにゆくと柴田瞳は答えた。
矢野は事件をボードに書き出す。
1被害者 前橋響子25?女流ヴァイオリニスト、行方不明
2日 時 11月19日推定、撮影年月日の同日
3場 所 上野公園付近で拉致?芸大の江藤淳教授
     某所で強姦される。
4加害者 2名?ビデオ撮影
5要求額 着衣裸体5億、レイプシーン10億、ビデオ不明
     鬼頭善之助メモによる
「現時点の手掛りはこれ位だ」「あとは小切手の現金化ですか。写真家だと小切手に詳しくないでしょう」しかしこれだけでは加害者の探しようがない。

 虚しくボードを見つめているところに柴田瞳が駆けつけて来た。写真を見るなり「誰だったけ」と言った。「この撮影の仕方どこかで観たのだけど」餅は餅屋、プロになると撮影にも個性が出るらしい。つづいてレイプシーン。「この男見たことがある。顔は映ってない」一同柴田瞳をみつめる。
それではとビデオを見せる。「止めて、巻き戻して」柴田瞳は目をつぶる。テープが再生される。「この声、そう、関元 征助」と叫んだ。初めて聞く名だ。関本征助は柴田瞳と同期で今は映画の助監督をしているそうだ。これで突破口が開けた。「私が誘き出してあげる。でもガードしてよ」「神様仏様柴田様だ」と矢野は柴田瞳の手を握りしめる。「カンヌのお礼よ」「監督サインして」
加害者に関本征助と記入される。「もう一人も顔を見れば思い出すわ。きっと」「サンキューベリーマッチ晩飯おごるよ」「でも女一人では」「畏れ多くも世界的映画監督に手を出す者がありましょうや」

その夜も翡翠となった。「仁吉、次は瓢にするからよ機嫌直せ」「別に気にしてませんよ」「ならいいけど。監督授賞式はいつですか」「まだ決まったわけではないのよ」「今日は前祝といこう」「こちらは」「デューク東郷」「ゴルゴ13」「そう、国際警備企画の顧問をお願いしている」「ジェームスボンドみたい。
今度映画を撮るとき貸してくれる」「それは、国本社長に」「あら、嫌ならいいのよ」「まあ、グランプリの前祝にぐっといきましょ。ね、監督」「香川先生でも頭が上がらないのだ」「社長、最近は駒込先生、松崎さんにも抑えられていますが」「仁吉、お前はどうして口が軽い。お前のせいだろが。今日はお前が持て。さあさあ、監督吉良社長の奢りだ。がんがんやって」
話が鬼頭善之助に及ぶと「そんな男に会ってみたい。女は、あああ〜強い男に抱かれるの」Wind is blowing from ager ! と東郷も歌う。「おや、お安くないないな」「先生、初めて会ったその日から恋に落ちることもあるですよ」「縁は異なもの味なものとくらあ、さあやってくだせえ」「逢わなきゃよかった今夜の貴男にならないかしら」「チークダンスの悩ましさ」と国本までが歌いだす。「東郷、なんとか言えよ」「監督の前では声もでません」

 柴田瞳は関本征助を食事に誘った。今度も瓢でなく翡翠が使われた。「久しぶり、元気」「ああ。カンヌに行くんだって」「バイトと思って暴走族を撮っていたら瓢箪から駒よ」「一躍有名監督だな」「今度ね殺し屋の映画をつくろうと思っているの。手伝ってくれない」「せっかくだが仕事が込んでいるから」「そう、男の世界は女にはわからないことが多くて」
関本征助の見栄であろう。助監督の声もめったにかからない。柴田瞳を見る眼は憎しみが光っていた。これは矢野の感であった。関本征助は嫉妬心の強い男でないかと言ったがその洞察力に柴田瞳は感心した。関本を酔い潰そうと酒を勧める。心が荒むと酒も早い。柴田瞳の手を握った。「何するのよ」と柴田は笑ってその手を払う。「世界的監督を犯すのも乙なものだぜ」と押し倒した。「やめて」「静かにしろ」とスカートに手を掛ける。

東郷が「カット」と言いながら関本の手を捩じ上げた。カメラマンは山本浩。関本征助は直ちに『乙女の祈り』移送される。「前橋響子から聞かしてもらおうか」と国本が尋問を始める。「通りすがりに高慢ちきな女と思った」「それで」「人を見下した目が許せなかった」「それは言えるかもな」「高慢ちきな鼻をへし折ってやろうと思った」「いるんだよな、そういうの」
国本もなかなかである。「写真とビデオは」「口封じだ」「なるほど。警察にたれ込んだらビデオをAD販売するぞ、か、考えたな。で揺すったのは」「国際的ヴァイオリニスト、父親は四菱銀行頭取とくれば」「誰にも思いつくか」「ああ」「今彼女何処にいる。案内してくれるかな」「俺のマンションだ」「住所を教えて」国本は書き取って吉良に渡す。「額は」「5億」「すげえ」「レイプは10億だ」「たまげた、俺も入れてくれるか」

矢野と東郷は島田博子を拾ってマンションに急行する。「関本さんの使いの者です」と島田博子がドアフォンで話しかける。中から男が「関本さんの。何の用だい」とドアを開いたところに東郷の空手が首筋に打ち下ろされる。中には前橋響子が裸で転がされていた。「さあ」と島田博子が水を飲ます。「病院へ行きましょ」と助け起こす。
前橋響子は衣服をつけると男に唾を吐いた。つづいて駆けつけて来た吉良と子分たちに前橋響子を任せてマンション内を見て回る。奥の部屋は現像室に使われていた。書架には写真とビデオが整然と並んでいた。強姦の歴史を誇示するものとも思われた。

『乙女の祈り』にこの男も連行した。マンションのキーと運転免許証は取り上げてある。程なく前橋響子が病院から帰って来た。膣内を洗浄したが避妊剤の効果は72時間以内でないと期待できないそうだ。妊娠反応はでなかったが正確な診断はでないとのことだ。二人の男の面通しをした。前橋響子ははっきりとうなづいたが、はっと気づいて「私のヴァイオリン、ストラディバリ」と叫んだ。
 矢野は鬼頭之善助に電話を入れる。「犯人を確保しました。響子さんと代わります」「おじさん」「響子か。よかった。その人は信頼できるからすべてを委ねなさい。いいね」「わかりました」と受話器を置く。「腹減ったな。何か食おう」矢野が言った。「いい店があります」と島田博子。矢野が吉良を指差す。

しかし吉良が電話を入れると生憎瓢は混んでいた。それで島田博子のお勧めの神田の旅館風のすき焼きに決まった。前橋響子はこの数日間ろくなものを食っていなかったであろう。柔らかい牛肉と野菜が食欲をそそる。「こういう落ち着いた店が東京にあったのか」「先生、本当は秘密にしておきたかったのだけど松崎さん誘った方がいいですよ」「ここへ。いいな。酒が美味い」九州の酒で特別な店でないと手に入らないそうだ。「先生は女心に疎いから教えて差し上げました」「お心遣いかたじけなく存じます」「先生、女には食事と買い物ですねえ。おっとその道の大家に失礼なことを」「国本社長お前はどうなんだ」「それなりに」

事件の話をしないのは前橋響子への思いやりであろう。響子は人心地がついたのか「ほんと美味しい」と箸をやすめた。一安心である。「食事ってこんなに楽しいものですか」「人生の最大の喜びは美味いものを食うことだ。その次は惚れた女とHすることだ」「体験者の言には重みがありますねえ」

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