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作品名:女の敵、強姦魔 作者:佐々木 三郎

第28回   秋の女よ放映
秋の女よ放映

佐藤オリエの強姦被害を扱った『秋の女よ』の映画とテレビが公開された。わずか15分ほどの映画だが台詞は一切ない。主人公は佐藤オリエ本人が演じた。事件現場に野菊を手向ける女の回想として幼馴染の婚約者との思い出が
画面に流れる。女が現場から立ち去るときに一瞬だけ顔がアップされる。その後姿が小さくなってゆくラストシーンは観る者の心を揺さぶる。

泣き濡れて 秋の女(おみな)よ 汝(なれ)があゆみは一歩一歩
愛する者から遠ざかる 泣き濡れて泣き濡れて

佐藤春夫の詩が引用された字幕が流れて映画は終わる。

映画海外にも配給されたが字幕の部分だけに各訳語が付けられた。この映画はカンヌ映画祭の監督賞にノミネートされ、柴田瞳の名は全国に知れ渡る。

香川こと矢野健は柴田瞳を伴ってYテレビの渡辺社長を訪ねる。「いやあ、参りましたね。この映画は映像が原点であることを思い出させてくれましたよ」とソファーを勧める。寺嶋常務と番組部長が呼ばれていた。国内テレビ放映はYグループとHグループとが競り合いYが5億円で落札した。スポンサーの広告は最後に企業名だけと言う条件を、日本を代表するグループが競い合ったのだ。「これは著作権料と次の作品の前渡金です」と番組部長が二億円の小切手を差し出した。
 驚く柴田瞳。「カンヌのグランプリが決まれば、監督は世界の柴田ですな」と寺嶋常務が胡麻をする。「海外配給分はその都度お支払いということで10か国分で20億の1割になりますが」と2億円の小切手を置いた。「一応受け取りにサインいただけますでしょうか」
 
 柴田瞳は別れ際に「先生へのお礼は」と尋ねた。「作品の成功が謝礼だ」と香川健は笑った。「一歩一歩、愛する者から遠ざかる」「まあ」


第二部 完


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