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作品名:女の敵、強姦魔 作者:佐々木 三郎

第25回   スカイダイビング
スカイダイビング


その夜の暴走族捕獲作戦の再放送は視聴率が70%を超えた。30分足らずの番組であったが全国民のほとんどが視聴したと言えよう。家族ぐるみ、職場ぐるみの視聴が多かったようだ。宵の明星の強姦に始まるこの事件は被害者への同情と加害者への憎しみをたぎらした。テレビ局への電話、FAX一時不通となった。反響の大きさにYBCの役員職員の顔もほころぶ。
朝昼晩とトークショーが組まれる。「いよいよ関ヶ原ならぬ青木ヶ原決戦の火蓋が切られるのしょうか。決死のスカイダイビングは決行されるのでしょうか。本日は暴走族に詳しい申方さん、ダイビングインストラクター飛魚さん、元警視庁捜査第一課長虎尾さんをお迎えしてお話をうかがってまいります。申方さんスカイダイビングは決行されますか」
申方は元暴走族を想像させる。「やるでしょう。やらなきゃ恥の上塗り」「面目丸潰れでは暴走族の名が廃る」「ですな」「この場合生きて着地できる条件とは飛魚さん」「パラシュートとかの装備はないと仮定しますと50m以下でダイビングしないとむつかしいでしょうね」「それでもかなり加速するのでは」「3人が手を繋ぎ身体を延ばすと空気抵抗で減速することは考えられますね」「樹海の木の枝がクッションなることもありますか」「ありえますね、運が良ければの話ですが」

高度が高いほど見応えがあるが死んでしまっては奪還の意味がなくなる。生かしてダイビングさせるには。「次に問題なのが彼らを誰がどのように運ぶのでしょうか。虎尾さん法的にはどうなりますか」「まあ自殺幇助罪ですかね。この際気にしないでおきましょう」「そうですね。あ、たった今ダイビングの時刻が告げられたそうです。何者かが午前11時に決行すると連絡してきたようです」「何者かはこの番組を観ているのでしょうね」

中継車からの模様が流される。「こちら青木ヶ原です。暴走族が集結しております。また警視庁、山梨長野群馬埼玉県警も合同で機動隊を待機させています。その数は双方ともものすごいようですがここからは解りません」「はいこちら上空からの中継です。上空からも樹木が多くて解りません」「YBCでは30台のカメラを配置しておりますが、これからの展開をどう捉えることができるのでありましょうか。時刻は10時55分となりました。その時が近づいています」樹海の遊歩道には臨時の櫓が数か所建てられカメラが待機している。
【青木ヶ原周辺地図】
https://www.google.com.ph/maps/place/%E9%9D%92%E6%9C%A8%E3%81%8C%E5%8E%9F%E6%A8%B9%E6%B5%B7/@35.4754083,138.6139569,12z/data=!4m2!3m1!1s0x601be721e9801e1f:0x7a006cea527d165f?hl=en 

河口湖西湖精進湖本栖湖の駐車場は暴走族に占拠されていた。一般車は近づかない、近づけない。警察側も国道21号300号358号線を中心に機動隊を待機させている。「こちらスタジオです、上空からの様子はどうですか」「それらしきものは見当たりませんね」「ヘリを櫓に寄ってみてください。地上との位置関係がお分かりいただけるでしょうか。時刻は10時59分を指しております」キャスターが興奮気味に伝える。YBCの中継機が櫓上空に近づく。

地上カメラがヘリを映す。ドアが開かれる。宵の明星3人組が顔を見せる。慌ててヘリのカメラに切り替える。それは小刻みに震えていた。「しっかりカメラを回せ」「さあおめえら飛んでみろ。3人仲良く手をつなげ」「秒読み開始」「5.4.3.2.1.」「それえー」「飛んだ、飛んだ、飛んだ、」「回って、回って、回って」「格好つけやがって」「やればできるんだ」地上カメラが引きつったスカイダイビングの表情を捕える。思ったよりゆっくり落下しているように見えるが3人の髪の毛の揺れからその速度が画面に伝わってくる。上空カメラは樹海に沈む3人を捕えていた。

スタジオも息を飲んでいた。生の映像は下手なナレーションを拒絶する。暴走族は落下地点を目指す。警察機動隊は道路を封鎖する。じわじわと追い詰めてゆく。暴走族の一人が櫓に登る。サバイバルナイフを突き付けてマイクを奪う。「我々は同志宵の明星を救出すべく人質作戦にかかる。所定位置につけ」暴走族もテレビ中継を予測していたのであろう。数か所でテレビ画面を看ていたようだ。
近くの別荘が襲われる。テラスで珈琲を飲んでいた中年夫婦がナイフで脅される。これもテレビ中継される。隣の別荘も占拠される。「国民の生命を守るのが警察の仕事なら、道をあけろ。救急車を用意しろ」と櫓の暴走族がモニター画面を観ながら怒鳴る。
救出された宵の明星3人は救急車で病院に搬送される。その前後を数台のバイクが挟んでいる。「さすが日本の警察だ。人命を第一に考えている。我々も宵の明星の生命が異常ないと確認された時点で人質を解放する」と櫓の暴走族が誇らしげに宣言した。

しばらく停戦である。「大変なことになりましたね。今は病院の診断待ちですか」わかり切ったことを訊くなと言わんばかりに「彼らの要求がそうですから」と元警視庁の虎尾が答えた。馬鹿な奴ほど沈黙が怖いのだ。「あの高さからのダイビングで助かるでしょうか」「それも診断待ちですね」と飛魚が突き撥ねるように言った。今は待つしかないのだがキャスターは何かしゃべらないという顔をしている。

美味すぎる話には毒がある。何かあるなと考える程なら暴走族などになっていないだろう。ニュース速報の字幕が流れる。「病院発表、スカイダイビングの3人は骨折などの重傷だが命に別状はない模様」次の展開が見当つくはずだが。警察の動きが上品すぎないか。
暴走族が勝利宣言をして爆音を立てて凱旋しようとした時であった。またしてもラジコン機が襲ったのだ。それを合図にしていたかように別荘の人質は突き付けられたナイフを潜り暴走族をねじ伏せる。合気道有段者の囮捜査官であったのだ。ラジコン機から催涙ガスが浴びせられる。それは各閉鎖箇所で繰り広げられた。
 
満を持した機動隊は一気に暴走族を捕獲してゆく。これが日本の警察かと思うほどあざやかである。精鋭の機動隊が派遣されていたのかも知れない。テレビ画面は視聴者の拍手喝采を警察の偉いさんの笑みを誘発していた。
暴走族は壊滅的打撃を受ける。バイクを捨てて樹海に逃げ込んだ者も手を挙げて出るか死ぬまで樹海を彷徨するかの選択を迫られる。テレビ興業は大成功である。この再放送も莫大な収益をもたらした。

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