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作品名:女の敵、強姦魔 作者:佐々木 三郎

第24回   ゴルゴ13こと東郷平四郎
ゴルゴ13こと東郷平四郎

 暴走族捕獲作戦の実況中継は国民に衝撃を与えた。作り上げられた番組ばかりを見せ付けられているから生の報道に飢えていたのかも知れない。また全国の暴走族にとっても300台のバイクつまり300人以上が一斉に挙げられた例はなかったからショックであった。
 宵の明星釈放の決起集会は面目丸潰れである。日本人とくに武士を中心に任侠、やくざ、暴走族といった集団は事の次第よりも面目を重んじる。この性格を利用して青木ヶ原から撤退した暴走族を再び終結させようというのが香川健の戦略であった。

 東郷と名乗る男は不気味さがあった。応対に出た駒込直美は香川健の言っていたプロの殺し屋ではないかと思った。会議室に案内する。「香川です」「東郷です。丸忠の磯松さんに照会されまして」「それは、それは。まあ茶でも」国本。吉良、島崎社長が呼ばれる。「こちら東郷さん。警備会社の顧問としてご指導していただく。謝礼は年1000万。よろしいか」東郷がうなずく。「吉良社長」「へえ、ようございやす」香川健が議題をボードに書く。

1暴走族を青木ヶ原に集結させるには
2暴走族の報復対策
一同議題をみつめる。「我々にとっては青木ヶ原が第一だが、連中にとっては報復が第一であろう。元暴走族が標的にされるだろうからこの保護を第一とすべきであろうよ」「ちげえねえ、昔のダチを売ったのだからな。でもおかげで事は上手く運んだ」「少しは孫子を勉強したな」「今回の功績は奴らですかい」「そういうこと。十分なオンコウコウショウと警護をしてやってくれ」
 吉良も国本も昨日の成果を自慢したげであった。「青木ヶ原に集結させるにはテレビ局を使おうと思っている」「奴ら面目丸潰れだな」「それよ」「怖気づいたかと言わせて、奴らも意地なる」「集結せざるを得なくさせる。先生も悪だなあ」「攻撃は最大の防御。暴走族特集を放映させる」「青木ヶ原で捕獲すれば次はどこが狙われるかと疑心暗鬼になる。一石二鳥ですか」「そう上手くゆけばいいのですが」

 香川健は吉良と東郷を伴ってYBCを訪れる。寺嶋常務は上機嫌であった。
視聴率が47%を超えたこと、海外メディアからも放映のオファーが来ていることなどを得意げに話した。(作り上げられた番組ばかりを見せ付けられているから生の報道に飢えていたのでしょうとはいわなかったが)
 香川健は話の区切りを待って「まだスカイダイビングの方が終わっていませんので暴走族特集のお願いに上がりました」「青木ヶ原に集結させるべく連中の自尊心をくすぐるということですか」「そうです。できるだけ早いうちに」「特集には時間がかかりますので再放送の中で自尊心を煽るというのは」「それはですね、お任せします」
番組制作部長が「私どもも二つお願いがございます。ひとつは昨夜の中継の再放送です。今一つは海外メディア等へのヴィデオの譲渡です」「御社に放映権を認めたのですから再放送はご自由にどうぞ。ただし、複写権は別途料金が必要です」YBCはやはりなという顔をした。「いかほどで」
香川は買売と指で宙に書いて見せた。「ほとんどの商いが買って転売するのでないでしょうか」鍋嶋常務は片手を示した。「5億で如何でしょうか」「坊主丸儲けという言葉がございますが」今度は両手。「10億では」「ラヂコン機使用は独創性があると思っておりますが」「15億でお願いします」「いいでしょう、手形でも小切手でも結構です。ただし海外向けの代理店は丸忠を使ってください」「丸忠商事」「著作権の差止請求、損害賠償請求などは得意ですから」

香川は15億円の小切手を受け取ると「暴走族にも遊び場を与えたらどうでしょうか」と切り出した。「と言いますと」「南の島で暴走族の世界サーキットをやるのですよ。ご興味がありましたら絵を書きますが。青木ヶ原に集結の件よろしくお願いします」とYBCを辞した。

その足で丸忠の磯松を訪ねる。「今日は4つ話がある」「待て部長を呼ぶから」「いらっっしゃいませ」「部長、この度はゴルゴ13いやデューク東郷をご紹介いただきましてありがとうございました」「東郷さんは自信を持って紹介できますので」東郷は軽く頭を下げた。「YBCが暴走族の放映権を海外メディア売るそうだ。丸忠で捌いてやってくれ」「見た見た、昨夜は釘づけだった。お前どうして」「磯松課長、今丸忠さんから話があったそうだ」「それで常務のところで」「ああ、1社5億うちのマージン3%とのことだよ」
磯松が英米仏ロと指を折る。「気前のいい話で。20社としてうちのマージン3億ですか」「さるお方が丸忠を指名されたそうだ。近く再放送されるらしいから僕も観るよ」「面白かったですよ。生中継の迫力ですね」

香川健はもじもじと手形を見せる。「95%で買いましょう」「部長、現金がそろいますか。矢野決済は明日でいいか」「ああ」「明日の夕方4時なら間違いできる」「頼むよ。1箱は磯松トレーダーに預けてくれ」「心得た。コピー取るから。預かり証代わりだ。俺の名前でいいか」「丸忠の磯松課長のお名前なら何の不足がござろうか。今晩デューク東郷の歓迎会をやるから来てくれ、部長にも是非ご出席賜りたく」

 日暮里の翡翠は国本忠二の女がひっそりとやっている小料理屋だが落ち着くので香川健は気に入っている。翡翠は仏法僧と鳴くらしいが観たことはない。デューク東郷の歓迎会は丸忠の大松部長、磯松課長も加わって開かれた。島崎社長、国本忠二、吉良信介が接待側だ。
香川健が乾杯の音頭を取る。「世界的スナイパーデューク東郷の歓迎会を始めます。東郷平四郎さんはかの東郷平八郎元帥のお孫さんに当たる方で世界屈指の殺し屋として名を馳せておられます。この度国際警備企画の顧問として種々ご指導いただけるものと期待しております。またこのような世界的スナイパーをご紹介下せれた大松部長、磯松課長に感謝の意を込めて乾杯したいと存じます。乾杯」「乾杯」(拍手)

島崎社長は場を持たすのが上手い。「さすが世界を股に架ける丸忠さん、世界的スナイパーまでご紹介いただけるとは」「なあに商社なんて日々これ戦争ですよ。取引の為にはあらゆる手段をとりますよ。東郷さんには危ないところを何度も助けられました」「不毛地帯の感じですか」「山崎豊子さんはよく取材されておられると思いますよ」「では東郷さんから一言いただきましょうか」(拍手)「東郷です。この度ご縁があって皆様に会えたこと、うれしく存じます。精一杯勤めさせていただきます」とあっさりしたものである。
吉良信介がじれったそうに「先生スナイパーってのは何ですかい」と訊く。「狙った獲物は逃さない狙撃主だ」「ではデュークは」「伯爵、世が世であればお目見えもかなわぬ偉いお方だ」「いえいえ、仕事がえらいだけです。40日間ビスケットと水で過ごしたことがあります」
一瞬場が静まる。「デゥーク殺しの秘訣は」「辛抱です。辛抱してチャンスを待つ」意外な言葉であった。「しかし目標をそういう状況に追い込む策も講じるのでは」「勿論それが一番です。その為には目標をよく知ることです」

なるほどと感じ入る。体験にもとづく言葉は重みがある。「矢野も昨日の捕獲作戦相当準備したのではないか」「今はデゥークの話をしている」「矢野。東郷さんを紹介したのは誰かな」「それは勿論。磯松まあ一杯いけ」「ラジコン機も面白かったがグリスに感心した。ねえ東郷さん」「そうですね作戦も見事でしたが私はあれだけの暴走族を集結させたことがすごいと思いました」「先生プロも同じことを言われますね。やはり孫子を勉強されておられるのでしょうかね」「どうやって集結させたのでしょうか」大松部長が興味を示す。「元暴走族に仲間を見殺しにするのかと扇動させたんでやんす」「なるほど。今度はどうやって青木ヶ原に」

 吉良信介は香川こと矢野に助けを求める。「企業秘密」「矢野、香川さんを拉致した容疑がかかっているのだぞ。家宅捜索しようか」「磯松、そ、それは脅迫だ」「部長明日の決済延期ですね」「そうだなあ、すべて信頼もとづくからなあ」「部長もああ言われる。素直に話したらどうだ」「異議あり。脅迫です」「異議を認めます」と島崎社長が却下した。「質問を変えます。経済原論は必修単位だったよな、出題予想をしたのは誰だったかな」「それは対価を支払った」「サッポロジャイアント1本。答案を作成したのは」「それも支払済みだ」「握り寿司だった。ケインズの経済循環論の解説料はもらってなかったな」「時効だ、時効を援用します」「援用は権利の濫用です。証人は質問にこたえてください」島崎社長も興味を示す。

国本と吉良が下を向いて笑っている。「何がおかしい」「先生が追い詰められるのは初めてだ」「ですね」「てめえら兄貴に向かって。縁を切ってやろうか」「滅相もない」「原告は解説料の対価として青木ヶ原に集結戦略の説明を求めるとの趣旨ですか」「そのとおりであります」

東郷が手を挙げる。「参考人として一般論を申し上げる。暴走族は面目を潰した。その施す機会を窺う。テレビ局にスカイダイビングを予告させれば警察の包囲を突破してでも青木ヶ原に集結する」「成程臆病風に吹かれたとは思われたくない。再放送に暴走族は果たして現れるでしょうかなどと挑発する」と大松部長が感に入る。「ワイドショーなどで視聴者の意見、感想を紹介して日本全国に青木ヶ原決戦は日時を待つだけという空気をつくる」「そういうことだな、今朝のY紙はトップで取り上げていた。番組欄にも予告をいれるんじゃないかな」「あの手形は独占放映料だったのか。さらに海外メディアにも転売する。Y社ぼろ儲けですね。矢野の考えそうなことだ」

国本が殊勝な顔で「戦とは頭でやるもんですね。先生の戦略、それを見抜いた東郷さんに感服いたしやした」と言うと「まったくだ。あっしらにも理解できやした。孫子は必須科目ですねえ」と吉良が続く。(爆笑)「私はこんな美味い酒を飲んだことがない。常に、壁に耳あり障子に目あり、酒に毒ありの人生でした」「今日はデゥーク東郷の歓迎会だぞ」「悪かった。ささ矢野一杯」「男の喋り過ぎはよくねえぞ」「お前にだけは言われたくない。ミス学園の香川京子さんをかどわかしてものしたというではないか」
学友とは一生学友なのかと東郷は思った。同席者も同じであろう。「磯松、昔の話を持ち出すな。今日の主賓はデゥーク東郷だぞ」「逃げおおせると思うか矢野。調べは済んでおる。つつみ隠さずに申せ」「彼女及びその家族に累が及ぶので発言を拒否する」島崎社長は盃を空けると「証言を拒否することはできません。法廷侮辱罪に問われますよ。証人は有体に証言してください」と諭した。拍手喝采。「島崎さんまで」「裁判所も聴きたいと思います」

明日の手形決済を約して翡翠を出たの八時頃であった。大松と磯松を見送った五人は酔い覚ましに芸大から国立美術館の傍を歩いていた。争う男女が目に留まった。女が刃物を振り回している。男はヴァイオリンを持っているから学生と思われる。「馬鹿な真似はよせ」と吉良が女の手を捩じ上げた。すると「その手を折らないでください」と男が叫んだ。痴話喧嘩ではなさそうだ。「事情を話してくれないか」と香川健が話しかける。
 女も芸大の学生で、全日本学生音楽コンクールで男が優勝。女が2位になったことで女が嫉妬したということらしい。優勝と2位とでは評価に格段の差があるが実力は紙一重であろう。それはどのコンクール、コンペティションも同じでないか。上野の精養軒で珈琲とサンドイッチを注文する。

人間空腹だと狂暴になる。「彼が憎い。あの指を切り落としてやりたい」「どうしてかな。彼は君を庇ったのに」「彼が遠くなってゆく。彼がいる限り優勝できない」「君は優勝するために音楽をするのかい」「高校まで私はいつも一番だった。大学に入学した時も」香川は呆れてものが言えない。
東郷が「男に惚れている」と呟いた。愛憎は表現違いと言われる。「智恵子の心境でしょうか」愛する男からの褒め言葉は純粋な女の心を傷つけることにきづかない。「しばらく距離をおいたらどうですか」と島崎社長が言った。その通りだと香川は思った。
女はよほど甘やかされて育ったのであろう。香川の怒りが爆発する。「甲子園で優勝した位でプロになれるか。親の顔が見たい。パガニーニかチャイコフスキーコンクールで優勝してから一人前の口を利け」女の顔が歪む。「警察に突き出してもいいのだぞ。俺はこういう者だ」と名刺を叩きつけた。

スカイダイビング  へ


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