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作品名:女の敵、強姦魔 作者:佐々木 三郎

第2回   強姦撲滅会社設立
強姦撲滅会社設立

 矢野はすぐ浪漫建設の島崎社長を訪ねた。直美は「今日からは居候分働いてもらうわよ」と中野良子を事務所でこきつかった。おかげで良子は落ち込む暇がなかった。「これから女子大生をナンパしてくる」「谷村さんとご一緒ですか。お帰りは」「首尾次第だ」行政書士事務所の会話とは思えない。
香川こと矢野健は昨日から強姦撲滅の戦略を練っていた。
 1実態把握
  1.1聞き取り調査
  1.2公的機関
 2犯人特定
  2.1興信所
  2.2強制連行
 3損害賠償、慰謝料(多少の報復リンチ)
あとはやっているうちに思いつくであろうし、大きな漏れはないと思った。作戦は臨機応変でやってゆく。最重点施策は損害賠償額である。

 二人は基督教大学の正門前に立つ。あれから10年経った。その土地仲介数料は3%だが2000万位であったはずだ。息子の昇氏はまだ現役教授と聞いている。「谷村さん」「ああ君か」「またナンパですか」香川健は思い出せなかったがあの時の女子大生の一人であった。「まあな、今度は容姿もよりも根性で選ぶ。10人ほど手配してくれないか」
近くの喫茶店に入る。「君はどうしてる」「学校の教師になったけど退屈でね、ドイツ系の会社に転職しようと思って探しています」「やはりドイツへゆきたいか」「まあね」「香川先生はドイツに行かれて金髪の乙女を連れ帰った」「まあ素敵」「今回はレイプの実態を知りたい、根性のありそうな学生を選んでくれ」「バイト料は」「1件3000円、調査内容が良ければボーナスを出す」「私のギャラは」「先生の嫁さんのドイツ里帰りに連れて行ってやる」「わかった。私再就職用の卒業証明を取ったらゼミ生に頼んでみる。面接は日曜日11時ね」「君の連絡先も教えてくれ」

 村山幸子は電話番号を書いて谷村に渡す。出足好調だ。谷村は浪漫建設の将来つまり次期社長に色気があるようだが島崎は松崎敬子を後継者にしたいようだから香川健はこの話に首を突っ込みたくない。「次は柴田瞳だが彼女の連絡先は」「大丈夫です。電話とFAX番号聞いています」「では引き上げるか」
 
 健は強姦撲滅戦略を島崎社長に説明した。考えを言葉にすることで整理できるし新たな考えも浮かんでくる。「当面の課題は犯人の特定ですか、興信所の方は私が話をしましょう」「事業としてはどうでしょう」「面白いと思いますよ」「では今夜築地で」と浪漫建設を辞した。と言っても香川健行政書士事務所とは廊下を挟んだ向かい同志だ。
 矢野が香川姓を名乗るのは香川京子と結婚して離婚したからだ。事務所名は知られるようになっていたから変更せずに来ているが駒込直美に引き継がせるときは個人名でないものにするつもりだ。
行政書士の資格だけで食っていけない、若い行政書士を育成して独立させるのが彼の夢である。しかし行政書士の職域は広くとても一人でこなせるものではない。香川健は初仕事が産廃であったが依頼人は建設業者が多いことから建設業の許可、経営審査、指名願い等の仕事も依頼されるようになった。また用地取得にともなう開発(土地の区画形質の変更)農地転用、相続なども手掛けてきた。一つの依頼事項をこなすにもいくつもの関連法令を当たらなければならない。数人の行政書士をおく総合的事務所にするのも夢である。

夕方健は出かける前に中野良子の身辺警護に抜かりないよう直美に指示した。「わかっております。敬子と3人で帰ります」「敬子がいれば大丈夫だとは思うが空手部のあいつにガードさせよう」考えてみれば家には男は健だけである。浪漫建設の新入社員大山力也に一晩泊まってもらうことにした。

 健は築地の料理屋の離れ座敷に天龍組と白虎組の親分と若頭を招いたのであった。「本日はご多忙のところおよび立てしまして」「先生にそう言われちゃ尻がかゆくならあ」「両親分のお力を貸していただきたくこの席設けましてござんす」「先生無理しないでくだせえ、様になってない」「そうか、付け焼刃ではだめか」矢野健は(この場合行政書士香川健ではないと本人は思っている)概略を説明した。「面白そうじゃないすか、この若頭預けましょう。ただし5年で返してくだせえ」と天野龍太郎が言うと「うちも同じでやんす」と白川虎治郎も同意した。
島崎社長に目くばせすると矢野は来賓にビールを注ぐ。「では新会社の発展と皆々様のご健勝を祈念して乾杯」「乾杯」「しかし先生と出会ってから人生が楽しくなった。なあ白川さん」「そのとおりでやんす天野さん、その節は」と言いかけるのを抑え込むように「さあさあやってくれ、ここは俺のなじみの店だ。酒がいいかな」と矢野が言った。
白川が「先生おひとつ」と盃を取り上げる。「親分の盃を戴くなんて光栄だな」と天野も負けじと酒を勧める。「新会社のしのぎはヤバイ橋を渡ることになる。両若頭は組と縁を切ってもらいたい。なに5年後に復縁すればいい」矢野は笑いながら言うが背中に青白い炎がたっていた。

天龍組若頭吉良信介が膝を乗り出す。「よろしゅうござますか」と組長を見遣る。「当面の務めは取っ捕まえることで」「そうなんだが手掛りがない」「差し出がましいようですがそのお嬢さんを元の会社に戻してはと」一瞬矢野はどきっとした。「そうか」「へえ」「見張りは」「それはもう命に代えてもお守りします」「今回の水揚げは3000万と見ている。月5件で1.5億」
額を聞いて沈黙が流れた。「俺の手数料は1割、興信所、カメラマン等の経費が2割とみても手取りは7割。しかもだ、領収書を切らなくてよい金だ。わかるか自由になる金は親分も多くはないだろう。親孝行できるぞ」「そんなに水揚げが」「この手のムショ暮らしは3年ぐらいだ。しかもほとんどが捕まってもいない」今度は白虎組若頭国本忠二が「よろしいですか」と口を開いた。「先生5年間の水揚げは落ちませんかい」「需要は無限にある。警察に眼をつけられないようにやってゆくには月10件が限度だろう」「ほどほどに」「そういうこと」
今回が試金石になるから慎重にことを運ぶこと、この事業は5年で軌道に乗せること、を矢野は念を押した。「そうしたら、俺は足を洗う。他にもやることがあるのだ」とお開きにした。「先生、もう一軒行きやしょ、スケにやらせてる店ですがうちのがうるさくてご無沙汰しますので」「俺をだしに」

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