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作品名:女の敵、強姦魔 作者:佐々木 三郎

第19回   手形割引
手形割引


香川健こと矢野は岩倉商事に電話を入れる。「私、根本修也さんの代理人ですが根本社長に面会できますでしょうか」「アポはございますか」「いいえ」「只今会議中でございます」「何時ごろまで」「予定は3時となっておりますが」「ではその頃お伺いしますのでよろしくお伝えください」

 静かに受話器を置くと「今度から国本さんにやっていただきますから」と笑った。だが眼は笑っていない。「商事会社儲かるのですか、先生」「取次だけだから元手は要らない、経費もかからない。命短し恋せよ乙女だ」「松井須磨子様ですかい」「こんな金鉱がつづくことはない。地道な反復継続こそ商売の基本だ。今日が最後の授業と思え」「へえー」

岩倉商事の受付で来訪を告げる。「社長がお待ちしておりましたと申しております。ご案内致します」受付嬢はエレベーターの前で「最上階で秘書がお待ちしております」と頭を下げる。国本と吉良は矢野の背中から青白い炎が燃え上がっているのを見た。
社長室では根本崑厖自ら迎える。「私はご子息が強姦した松井須磨子の代理人ですがこのビデオをご覧いただきたく参りました」「それでいくら欲しいのかね」「言葉づかいに注意していただきたいですな。テレビ局に持ち込む前にこうしてお話したいと思ったのですが」「これは失礼しました」根本崑厖は頭を下げた。

国本も様になってきた。「某局からは10億のオファーがありましたが」と吉良が合の手を入れる。「我々は円満な解決をと思っているのですが」「それはどうも」「このテープご覧になって今夜8時銀座の冬薔薇にお越しください」
交渉は気迫である。「では。そう鬼頭善助さんに相談されたら」「四菱重工の」3人は立ち上がる。根本崑厖はエレベーターまで見送って深々と頭を下げた。秘書には玄関まで送るよう命じた。途中矢野健は満足げに笑みを湛えていた。「君、入社何年」「3年目でございます」「そう、決済はお産手形でも結構ですとお伝えください」「かしこまりました」

電車に乗ると「念の為だ、忠二の店で落ち合おう」と別れる。エレベーターを乗り換え、尾行を巻く。どうも気になるのだ。虫の知らせというのだろう。店の周りには私服警備員が配置されていた。「あっしも気になって5人ほど張らせました」「まだ死ぬわけにはいかない。今夜手形を受け取って明日現金にするまでが勝負だ。まあ前祝といこう」「現ナマはどうやって」「明日わかる。何事も手の内は見せているだろう」「すいやせん。警備が重要と近頃わかってきやした」「売上が伸びるとコストもかさむ」

根本崑厖も冬薔薇のが開店と同時に現れた。ママが奥の席に案内する。「これで譲っていただきたい」額面1億の手形12枚、期日は10月10日後だ。「結構でしょう。商品は明日中にお引渡し致します」根本が低頭する。3人が立ち上がる。長谷川冴子に目くばせする。冴子が名刺を差し出しながら「ご名刺頂戴できますでしょうか」と言ったが嫌とは言わせぬものがあった。

黙ってオールドパーを作る。ストレ−トと冷を置く。根本崑厖は一口含んで「鬼頭さんから聞いたがいい店だ」「恐れ入ります」「冬薔薇とはママのことかね」やはり最初は店の名前からだ。「鬼頭社長からご紹介いただきお待ちしておりました。これからは会員制にしてゆこうと思いますの」「それはいいねえ。僕も紹介させてもらうよ」「よろしくお願いします」「ママはフランス語できるのだって」「聞きかじりですわ。耳年増、耳だけならいいのですが」「いやあ、まだ若くて綺麗だ。冬薔薇は白バラだったね」

3人は忠二の店に入った。島崎社長と天野龍太郎と白川虎治郎が待っていた。「上手くゆきましたか」と島崎社長。手形を見せながら「社長明日の午後まで預かってください。明日割引してきます。1割と観てますが現金輸送と保管が必要です」「9掛けとして10億8千万」「てえしたもんだな」「今回は忠二と仁吉がやりましたので私は引退です」「先生ご冗談を」「乾杯する前に警備とプロの殺し屋を両親分にお願いしておけ」

明くる日香川健は丸忠の磯松に電話する。「いいよ、3時過ぎなら買い取るよ」とあっさりしたものである。果たして12億もの現金が用意できるのか。国本と吉良を伴って丸忠を訪れる。「矢野、部長だ」「ハンブルグではお世話になりまして」「いやこちらこそ、磯松には世話になりっぱなしで頭が上がらないので」と名刺を交換する。「お前どうして香川、まさか香川さんと」「まあまあ、それよりこれ頼む」と手形を渡す。「はい、確かに12枚。1枚はうちの手数料な」部長がうなずく。矢野の高いと言う顔に磯松は「おい矢野手伝え」と段ボール箱を拡げてゆく。役者が違う。世界を舞台の商社マン。
 女子社員がお札を数える機械と現金を運んでくる。「11箱頼む」「11箱ですかあ」「今度鰻奢ってやるよ」「本当ですか、みんな呼んできて」5人の女子社員が札束を作ってゆく。「あしこの鰻おいしかったわね」「これやらされると手がカサカサになるのね」「特上奢ってくれるのじゃない」「こらお客様の前だぞ」「はーい」一人が無造作に札束を投げ入れると機械が数える。
100枚ごとに帯締めしてテーブルの上を滑らせる。一人がそれを段ボール箱の前に投げ渡す。ボール投げの感じだ。「1箱で100束だ」「重いだろう」「50キロぐらいかな。日銀券はいい紙使っているからな。米ドルなんてひでえものだ」「俺見たことがない」「見せてやる、この1$が250円」「これ本物か、安っぽいな。この前280円だったのに」「これからも円高が進むぞ。矢野為替相
場やらないか」「やったことがない」「1ドル250円で売って200円で買い戻す。粗利50だ」「1万ドルで50万」「矢野1億俺に預けないか。飲み代位は稼いでやる」「稼ぎは73だぞ」「3もくれるのか。おい10箱でいいぞ。レスリング部しっかり梱包しろ」「ソフトボール部です課長」

手形決済時に岩倉商事はどう動くか。「磯松、あの小切手割るのか」「どうして、回すさ」「裏書譲渡、小切手の裏書は聞かないが」「当たり前じゃないか。1年分の利息が稼げる。それに欧米では手形同じ扱いだ」「手形交換所に回るのは」「大抵期日の3日前」「1年近く流通するか」「振出人が岩倉商事だからな、まあ現金扱いされる。むしろ取引があると箔が付く」「途中で割り引かれることは」「先ずないだろう。銀行から1億借りてみろ、支払利息は500万以上だ」「なるほどな。商社の取引は1日どれくらいだ」「数百から数千億、年間650兆だ」「すげえな」「商社の利幅は1%がいいとこだ。数でいくしかない」「ラーメンから航空
機まで」「ああ女以外は何でも扱う」「半金半手か」「まあそんなものだろう。それに外貨」10箱は台車で地下の駐車場に運ばれる。「磯松課長、世話になったな。近いうちにいっぱいやろう」「俺も聴きたいことがある」

 段ボール箱は浪漫建設に置かれた。「うちの金庫には全部入りませんな」「本当はあと1箱あったのですがね」「仁吉口が軽いのはよくねえぞ、俺の取り分20束:百万」「はいはい」「20pか高い高い、島田博子さん主演賞、木村寛子さん演技賞」と1束百万ずつ与える。「大山さんはないのですか」と中野良子。「特別賞」と1束。「私たちは」と斉藤慶子。「先輩からもらえ」
直美が「香川先生、1箱何処へ行ったのでしょうね。ほら先生の取分ですよ」「それはですね、ある処に預かってもらいました」「そうですか。私に一つくださいな」「一つはやらぬ、半分やろう。敬子と半分しなさい」「ではこれは差し押さえます」「直美さんそれは無体な。これから打ち上げに」「1つで足りるでしょう。敬子手伝って」「敬子お前もか」「追徴金は後ほど」と二人は1600万円を事務所の金庫へしまう。 矢野健は余計なことをしゃべりやがってと吉良の頭を引っ叩く。「税務署より怖いは女、このばか」「すいやせん、日銀券の束見てたらつい」「もはや直美の管理下だ。紙切れ以下。自由になる金が真の金」


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