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作品名:女の敵、強姦魔 作者:佐々木 三郎

第11回   11
鬼頭善之助四菱重工専務


 鬼頭善之助は70歳とは思えぬ足取りで冬薔薇を訪れた。矢野の前で「鬼頭です」と軽く一礼したが矢野はその眼に気後れを感じた。「お借りしましたテープ拝見させていただきました」言うまでもなく鬼頭大介の中野良子強姦現場のテープだ。その上には額面5000万円の小切手が10枚置かれていた。「良しなにお取り計らいくだされたく」と頭を下げると立ち上がった。
 慌てて駆け寄るママに「今度ゆっくり寄せてもらうよ」と言い残して去って行った。呆然と見送る矢野は格の違いに立ちすくんでいた。やがて崩れ落ちるようにソファーに腰を下ろして考え込む。近寄りがたい。島崎社長、吉良信介、国本忠二は離れて見ているほかはなかった。これ程打ちのめされた矢野を見るのは初めてであった。

長谷川冴子は意を決して「何かお持ちしましょうか」と冷を置いた。それを一気に飲み干すとブランディーとつぶやく。測り知れない相手程怖いものはない。四菱財閥はビクともせんよとも取れるがあの眼はもっと深いものであった。立て続けにブランディーを2杯飲んだが頭は冴えるばかりだ。「先生」と恐る恐る仁吉が声を掛ける。「見てのとおりだ。眠らせてくれ」と長谷川冴子の膝に頭を乗せた。ほんの1分足らずの交渉にこれ程疲れ切った表情を見せるものか。冴子はやさしくその頭を撫でていた。


 島崎社長、天野龍太郎、白川虎治郎、吉良信介、国本忠二は10枚の小切手を見つめてためいきをついた。「5億円は万札5万枚、段ボール3箱以上かな」「目方は50kg位ですかい」「100万を持った感じで1匁か」「100貫以上にはなるでしょうな」「高さは天井まで届きますかい」「ともかくこれは島崎社長に預かっていただいて明日先生のお考えをきくことにしましょうか」「そうですね」「なんだい、信介忠二」「これからはですね、上品な言葉遣いをしないとですねこのお方が」「おめえらも苦労してるな」

天野が目配せして無言で乾杯する。「そのお方がねえ」「純粋で誇り高い男ほど傷付きやすいですからね」「なるほど」「要求額の倍以上を1発回答されては交渉になりません」「振り上げた手の降ろしようがない」「しかし一流役者は違うねえ、静かに現れて颯爽と引き上げる」「今日は観劇料はらわにゃなんねえな」「まったくだ」「鬼頭良之助という侠客いましたね」「お名前だけは、土佐の」「ええ、あの専務土佐の訛りがあります」「てえと血を引く」「可能性もあります。調べてみましょう」「観劇料じゃ足りねえな」

島崎は話を上手に持ってゆく。話しやすい雰囲気をつくる。「この人は構想力が素晴らしい。絵が描ける。目的がはっきりしているから動きやすい」「動き易いですがもたもたしてたら蹴りを入れられる」「数手先が読める」「おやっさんの拳骨はあったけえけどこちらは火箸でやんす」「あっしも蹴りを入れられ骨身に堪えやした。白虎組に帰りたいと思うこともござんす」「何をいう忠二、おめえはここの社長でねえか。信介に負けてどうする」「白川さん、お言葉ですが信介は警備会社の社長でやんす」「おっしゃとおりで」「席を変えるか」「忠二の店に行きやしょ。忠二の奢りで」「いいねえ、忠二、ごちになるぜ」「そんなあ」

天野が10万テーブルに置く。「姉ちゃん看板にしな」と白川も10万置く。二人きりにしてやれとの親心だ。引き上げる天野達に長谷川冴子は黙って頭を下げる。その時冴子はこの男の子を生みたいと思った。

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