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作品名:合唱物語 作者:佐々木 三郎

最終回   モニカの自慢話暴走族 京子の思い出
モニカの自慢話暴走族

ある時モニカが語った。「私たち3人組の暴走族に襲われたことがあるの」「いつどこでモニカ」「その時矢野が命懸けで私を守ってくれたの。私愛されていると思った」「惚気はいいから詳しい話を」「そうよ焦らすんじゃない」「ごめん貴女達は先輩だものね」

矢野とモニカがキスしているところに3人組の暴走族が通りかかった。「お、いい女じゃねえか。俺たちにもやらせろ」一人がモニカの腕を掴んだ。矢野がその手をねじ上げ突き飛ばした。「野郎」3人は狂暴な野獣と化す。一人がサヴァイヴァルナイフで矢野を一突きしたとモニカは思った。次の瞬間、矢野の右手がナイフを握った手首にふわあっと置かれ左手が男の腕の付け根に置かれた。鈍い音がした。肩が外れたようだ。
2人目が鉄パイプで襲ってきた。矢野が男の足を踏んで首筋を抑えた。男は勢い余って前のめりなったが足首の靭帯が切れたようだ。ところが「こらあ何をしていると警官二人が矢野を取り押さえたのだ。あとから駆け付けた警官に矢野が「奴を捕えろ」と3人目を見遣るが急発進して逃亡した。

矢野とモニカは警察に連行される。「署長室はどこだ」矢野が低い声で言った。警官はせせら笑う。「彼女の父親はハンブルグ市長だ。外交問題になるぞ」警官の態度が一変する。署長室に通される。「君たちの身分を証するものを見せてもらおうか」矢野が静かに言った。直立する警官たち。「君らを告訴する、警察がいいか検察がいいか」署長が「事情をお聞かせください」と慇懃に言った。「こいつら殺人犯逮捕を妨げ逃亡を幇助した」「詳しくお話し下さい」「暴走族に襲われたので現行犯逮捕していたのだ」「それは」「違うと言うのか。奴らの運転免許証を確認したのか」事情を聞いた署長が平身低頭する。「君たちは」「誠に申し訳ありませんでした」「この落とし前をどうつける。アベックと暴走族、一目瞭然ではないか」「そのとおりであります」「謝って済むなら警察は要らない。指でも詰めるか」横のモニカも「新婚旅行台無し。ドイツ大使館に相談するわ」と怒りをぶちまける。警官たちは土下座して謝った。「私許しません」「土下座している者を許さないわけにはゆくまい。ここは日本だ」「一人は肩をもう一人は足を痛めているから医療機関を捜査しなさい。彼らを取り逃がしてはなりません」とモニカが直立の警官たちをにらみつける。「しかしタケシ、どうやって彼の肩を外した」「彼の力を手首と肩に分散した」警官は合気道か、太極拳かと言いかけて口をつぐんだ。

署長が名刺を差し出しながら「お名前とご職業を」と猫なで声で訊いてきた。「彼らは強要罪殺人罪の共同正犯だ。逃亡者の身柄を確保しろ。必要なら法廷で検察側証人に立ってやる」「ご協力感謝します。今後の連絡もございますので是非お名前を」と署長が重ねて言った。矢野が行政書士の名刺を差し出すとうわーやっかいな奴をと言う顔をした。「君たちが職務に熱心なのはわかるが、もっと人を観る目を養え。市民の生命と財産を守ることは口先だけではだめだ。では駅まで送ってもらおうか」

モニカが語り終えると「あの人そういうところあるわね、愛しているとは言わないけれど」と和子。「自分の為に命を懸けてくれる男。愛されているって感じるとき女は最高に幸せね」と京子。駒込直美も松崎敬子も黙ってうなづく。モニカは「愛されたいし、愛してるって言って欲しいな」と訴えた。「そうね日本人は言葉にするのを恥ずかしがるのね。言っても愛情がへるわけでもないし」「そうそう、言わすべきよ」「誰がやるの」
ここで話が止まる。「誰が鈴をつけるか」と京子がいうと全員が大笑いする。「けどあの子供の可愛がりよう、妬けるわ」「あの人はブスだからと言って冷たくしません。が間抜け根性悪には醜美に関係なく憎しみを丸出しにします」「彼ほど人の好き嫌いが激しい男は少ないのじゃない」「でも彼に対する好き嫌いもまた相半ばね」「言えているわね」「日本人、子どもの可愛がりようは世界に類がないわ」「そこが魅力でもあるわ」「そう、妬けるけど見ていると幸せと思うわ」「私たち、そんな男の子を生んだのだから」「そうね、他の男の子は生みたくない」「彼、やりっぱなし産みぱなしをすーごく憎むのね。やるのはやってもいいが産むなですって」「人類への反逆だ」「そうそう、犬猫にも劣る」「種の保存は子育てにあり」「モニカ上手いこと言う」「日本で初めてほめられた」「さあお茶にしようか」「彼も呼ぶ」「彼はThe way we wereね」愛していると矢野に言わせるとテーマがうやもやになったのでモニカは不満げだ。京子はしみじみと語りだした。

エピソード京子の思い出

大学卒業式の後英文学教室の飲み会に矢野と山田が招かれた。ヨット試乗の話を聞いた京子の友達も乗りたいとなって京子矢野を通じて実現したからだ。矢野は権利落ちだが山田は彼女がいないと知って女たちは色めく。山田は男らしくて顔もいい方だ。
酒が回ると女たちも言いたいことをいう。「矢野さんは香川さんンを愛していますか」「答える必要はない」「愛してないの」「そういう単純思考の女はロクでもない男をつかむだろうよ」「矢野そういうな、香川さんが羨ましいのだろう。それに俺たちは招かれているのだぞ」山田は見かけによらず優しい。「3回言われたらその気になって孕んで捨てられるのが落ちだ。お前になら1000円で100回言ってやる」「ひどいわ」とその女は泣き出した。「愛は感じるものじゃないかしら」「そうね、矢野さんの言っていることは正しい」「あれぐらい言われないとわからないのじゃない」「愛とは何か、最も難しい質問と英国留学生が言っていたわね」「安易な答を求めるのは幼稚。愛は魂のふれあい、言葉では言えない」「そう香川さんが言ったように感じるものよ」とこの話が盛り上がったがこれで一応の結論となった。その女は泣き止んで恥じていた。
二次会は山田が気に入った漆原美子を連れて来るように京子に耳打ちして焼き肉店で落ち合った。ジンギスが人気の店だ。四人で個室に入る。驚く山田。美子も少し固くなっていた。
No try no success, knock and it shall be open.
やってみないと成功は無いか。つつけよ、さらば開かれん。何が、矢野さんが言うといやらしい。Ask and it shall be given.求めよさらば与えられんと性書物に書いてある。それは新約聖書でしょ。うるさい、お前なぞは行かず後家になるぞ。
 これでくつろいだ。山田、気持ちを伝えろ。どうやって。一緒に暮らしたい、東京に来てくれと言えばいい。そんな、急に。チャンスは前髪を掴め、後ろは禿げているぞ。漆原さんどう?ええ、考えます。これが今生の別れになるかも知れないぞ。それはそうだが。言わないと一生後悔するぞ。お前の方は。彼女に手付も打ったし契約金も払った。まあすごい自信お金貰っていないわ。今は山田の問題だ、お前は黙っていろ。やった後悔は諦めもつくがやらなかった後悔は男じゃない。そうだな言うよ、でも緊張する。山田はビールを飲み干すと正座した。漆原さん東京に来てください。よく言った、俺たちは帰るから二人でゆっくりな。
 矢野と京子は店を出た。寿司を奢ってやる。山田さんに四人分払わせて。俺は月下氷人愛のキューピットだ。図々しいけど二人の恩人になるからいいか。どうしてわかる。女ならわかるわ。
 
この話に女たちは感心した。以心伝心、心を以って心を伝えよでござるか。モニカさん日本語よく勉強している。ほんま知識は日本人以上じゃ。恐れ入る。私はバックシャンですって。そうね直美さんの肩かたから腰にかけての線は女でも色気を感じるわ。矢野は見るところは見ているんや。私は可愛いって顔をしてくれるだけでいいです。直美さんは矢野の愛弟子だし今や仕事の戦友やし、矢野と共有する時間が一番長いんや。そうね敬子さんのも同じよ、私たちと違う。それがしは。モニカだけよ離婚されずに矢野姓を名乗っているのは。つまり矢野は女を見る眼があると。そういうこと。

和子のお茶は美味い。鉄瓶と水らしい。水は石神井から汲んでくるそうだ。名水の誉れ高いが理事長が毎週届けてくれるという。それに鉄瓶の水垢がいっそうまろやかな味にする。「和子さん炭代払うから水分けて」「ええよ、練炭がいいのだけど手に入らなくなってね」「私の身内が扱っています」「ほんま直美さん」「一度試してください」これ以後矢野はどこでも茶をうまそうに飲むようになる。とりわけモニカの茶に和子の味だとは言わなかったが驚いた顔になる。
こういうことも茶会の話題になるのだが。「矢野は和子さんに可愛いって顔するじゃない」「あら京子さんには甘えるが」「そうなの、こどもが一人増えた気分。やんちゃ坊主で甘えん坊」「ほんま、これでこどもが元気で育ってくれたら言うことないわ」「ほんとね、でも私はもう十分。若い人にまかせるわ」「心得た、我ら三人におまかせあれ」「モニカあれはまだまだ卒業してないようね。ねえ和子さん」和子は黙って笑う。「私はもっと生みたい。私は魅力が無いみたい」「敬子さんそんなことないが。あの男魅力のない女には手を出さない」「つまり矢野には人を見る眼がある。反対解釈では矢野を選んだ女も」「そうよ敬子さん生むぞという情熱よ。でも行く行くと言ったら行かせてあげて」「でももったいないです。あの瞬間このまま死んでもいいと思います」「それはそれだけ敬子の性能がいいということか。我、来て来てなれば今後敬子の賞金獲得に異議を唱えまい」「そうよ敬子さん自信をもって。まだまだ行ってはなりませんと言いたくても矢野が限界にきたら行かせてあげるの」「ほんま幸せって顔するが」さすがこの道の先駆者にして達人の京子さんと一同いたく感服せり。

ついでながらクリーン大地は100人を超す企業となり、雇用の場、環境保護と地域に多大な貢献をしている。社長の天野慎太郎は米独の大学に留学して廃棄物処理のあり方を世に問うている。「すべて大地に帰れ、そして生まれ変われ」を基本理念とし生まれ変わらぬ物質を世に送るなと提唱している。小柴瞳は映画監督、山本浩は芸術写真家、黒沢敏夫は報道カメラマンとしてそれぞれ活躍している。


 大学を卒業して40年の歳月が流れた。広瀬涼子から合唱団の同窓会に誘われた。最初で最後の参加だと四国まで出かけた。丁度仕事で大阪に出張していたので軽い気持ちで会場に入った。受付で「矢野さん会費1万円」といきなり言われた。2年後輩の能田隆子だ。
 懐かしい顔もオジン、オバンになっていた。矢野を見る平井の眼は冷ややかであったが森山がやさしく迎えてくれた。途中退団−脱藩組は気が引けるところがあった。今も合唱を続けている者はほんの数人であった。あれほど情熱を傾けたのも青春の一時期のことであったのか。指揮者というだけで平井と結婚した能田隆子が「会話のない夫婦」と言っていたのが印象に残った。

 矢野は20年前に郊外に300坪ほどの土地を購入し妻たち4所帯分の建物を新築した。それが京子和子直美モニカの議決に基づくことは感じていた。谷和子とその子供5人、香川京子とその子供8人、駒込直美とその子供6人、矢野モニカとその子供4人が同居していた。4人の妻と23人の子宝にめぐまれたのである。これに勝るものはあるまい。松崎敬子とその子3人は簿外であったが最近正妻に加えられたので5人の妻と26人の子32に人家族というべきであろう。毎月の食費代とて大変だ。注文しないでも現地農家,漁師が毎日のように宅配してくる。月決めの支払いは和子が5所帯分をまとめてするがスーパーよりも安い。大量注文とはいえ、新鮮で美味い。矢野が値切らないはずだ。商いとて人との交わり信頼だ。現地は自信を持って発送してくるのであろう。夏休みにはバスを仕立てて家族旅行だ。自分たちが食する物は農家、漁師の賜物だ。子供たちは心から「いただきます」と言うようになった。翌年からは民泊して農業漁業を体験できるようになった。五家族が分散して民泊するのだが謝礼は受け取らない。代わりに東京に出てきたときは矢野のところに泊まるようになった。近所の奥さんたちも新鮮な食べ物と消費者に加わった。生産者と消費者の交流が復活した。商品の疎外(商品の前の作物漁獲製品といった本来の姿が見えなくなった)こそ戦後経済成長の弊害だ。


子づくり26人は偉業である。これぞ日本男児。妻5人はイスラム教をしのぐ。日本は何でも教?夏休み家族でドイツ旅行。モニカの里帰りに合わせたが総勢32名、バスを仕立てての移動となった。ドイツではモニカの一族から歓迎された。テレビ局も取材にやって来た。
質問は旅行目的と子創りであった。当然であろう。
旅行目的はという質問に「妻たちへの感謝と子供達の海外体験」と答えた。「その妻たちをどうやって得た」「それは秘密。土地と女は求めて得られるものではない。縁である」「縁とは」「勉強しなさい。日本人を取材するのなら」と矢野節が出る。欧米人はアジア人を上から見下ろす。そのくせ攻勢に出られると弱い、すく降伏する。貧弱な武装でしかも数倍の英豪に挑みシンガポールを陥落させた山下将軍には怖れを抱く。
2週間のドイツ旅行を密着取材するテレビ局もあった。歯に衣着せぬ矢野節は同盟国の武士の魂がある男とドイツ国民の人気を博した。社交辞令お世辞ではなく本音がききたいのだ。矢野が新聞テレビの取材費で約500万円の旅費の半分以上を浮かしたのはさすがである。ハンブルグ、ベルリン、ボンと懐かしいコースを辿る。ホームステイ先では矢野との再会に涙を浮かべる。旅の後半はアルプスを越え、イタリア、フランス、イギリスを巡る。紙面の都合上旅の詳細を割愛するが矢野の永年の夢であった。

モニカの「わが新生活と源氏物語」がドイツで出版されることになった。日本版を見ないと詳しいことはわからないが矢野健と妻たちの関係は源氏物語と似ていると言う。女たちが一人の男を共有ないし総有しているのが日本社会だと結論付けている。モニカならでは見解である。これに対し「矢野は公家でもないし、色男でもない」「金も力もそこそこある」「女たちを心からチン剣に愛している」等の批判があった。「私は男女の所有関係の在り様を論じている」「女は男に所有されるものではない。日本は天照大神俗名八倉比売以来母系社会である」「京子嘘言うな。仏教が日本に伝来されたのは7世紀奈良時代だ。当時俗名などの仏教用語はなかった」「モニカは母系の意味がわかっていない」等々喧々諤々。
矢野の見解。「出版するのはよけれども、変なことは書くな」変なこととはモニカが屁をへった事、和子が性教育をこどもの前で実践した事などを指す。「そんな事書くか、恥かしい」「書かないよな、モニカは才色兼備だから」「ありがとう、あなた」
モニカは漱石、鴎外を愛読した。明治以前の日本語の方が今の日本語より理解しやすいと言う。モニカはもともと日本語を勉強したいと日本に来たのだ。最近では与謝野晶子の源氏物語を精読し、西鶴、清少納言さらには紫式部に取り組んでいると言う。これには京子和子直美敬子も脱帽。さらにさらにモニカが版権300万円を得ると態度が激変。「モニカすごいわねえ、印税も入って来るのでしょう。私に役に立てることがあったら遠慮なく言って」「私日本語の清書はできます」などとモニカに擦り寄る。
その夜「健、日本の女は虫も殺さぬ顔をしてやることは恐いなあ。今夜しみじみ知らされた、女心の裏表」とモニカのベッドの上。「モニカもわかったか」「わかった。男女の交わりいみぢうをかしければ今夜はいっぱい突いてくれ」「意味は正しいがかようなときは愛してくれというのだ」「愛は精神的なものだろう」「日本語は即物的な表現を嫌うのだ」「左様でございますか。愛しの我御君にいみぢう愛されまほしき」御君とは俺のことかと矢野もたじたじとなるがモニカをやさしく抱き寄せまた激しく突き上げる。

妻たちの会議で和子がつぶやいた。「矢野はロリコンだから娘に手を出さないかしら」「和子さん、いくらなんでも実の娘でしょ」鰻のかば焼きを頼んだときのことである。さばく鰻は百匹以上。世話になった方たちへの鰻重の差し入れだ。鰻屋をチャータ−した。「鰻の頭チンチンに視えない。精が付くそうよ」「和子さんも好きね。昔は純情可憐だったのに」「だったのよ。ニンニクは京子さんの好きな金の玉」「カラタチの実は秋は実るよ」「まろいまろい金の玉だよ」「京子さん舌で転がす金の玉」「和子さん乳房でいかす日本刀」笑点か。「聖書に父親とやる姉妹の話があるでえ」「おどかさないでよ、私かなが心配になってきた」「ニンニクも睾丸に見えますね。やはり性教育が大切と思います」「直美さんも言うじゃない」「いずれもとも精が付く」「鰻もニンニクもチンチンに効くのか敬子。それに直美、誰の教育か」「こどもたちよ、モニカ」「矢野は」「彼には教育効果が期待できないでしょ」「では奴の監視体制を強化するか」「モニカは現実的ね」「でも効果はありそう」「やっかいな男ね。でもそれぐらい元気でいてくれたら」「京子さんも好きねえ」「あら、貴女だって」

女たちの話は尽ない。「矢野が昔こんなことを言ったことがある」と京子が言った。
『愛、それはただ互いに見つめ合うことではなく、ふたりが同じ方向を見つめることである。Loving is not just looking at each other,
it’s looking in the same direction』「いい言葉ですねね」「直美、それはサンテクジュペリだ。日本人がなぜ知っている」「日本人は英仏独文学も読むの。モニカももっと日本文学を読みなさい」「そうする。もの言えば唇寒し秋の風」「モニカやればできるじゃない。話す方はハンスに日本語教えてもらいなさい」モニカの版権は半分旅費に飛んだ。モニカはこれに懲りて版権の残りと印税はしっかりガードしている。日本の女は恐い。


矢野は子供たちが所帯を持つ世代になったので一町歩、1万uの土地を買い足した。といってもクリーン大地の保養地を管理すると称して使用しているのだが、さらに管理料としてクリーン大地から少しずつ土地建物の持分を5人の妻たちに贈与させている。何十年かすればすべて持分は妻たちに移転する計算だ。節税になるそうだが実質は矢野の顧問料である。しかし時は無常であり無情でもある。矢野の精力は減退を見せ始める。京子も和子も女の盛りである。性欲のピークは男が18女が36ともいわれるから当然と言えば当然である。その攻勢に矢野はついに音を上げた。モニカに直美敬子の第二波第三波は激しさをさらに加えるやも。己が選んだ道とはいえ、楽あれば苦あり。精力の衰えを体験技術で補えるか矢野の健闘を祈るだけである。

結婚した子供たちが敷地内に順に建物を建築したのだが建築費は自前、借地代まで取られた。「それでも親か」「養育費の利子分だ。これからはいっそう親孝行しろ」矢野のどの子も妻一人夫一人であった。これには異論もあろうが矢野の調子のよい見解である。子は親の背を見て育つ。とくに息子たちは矢野二世としてどう活躍するか。そして孫用の建物を建築する頃には矢野の家族は100人を超していよう。矢野健家族合唱団の響きは天にも届くことであろう。  



                  ―合唱物語完―

本作品はフィクションであり同姓同名の方がおられてもご本人とは無関係であることをお断りしておく。2014.4.22

                                                                                                                    


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