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作品名:合唱物語 作者:佐々木 三郎

第26回   珍談 出ない抜けない死ぬかも わたしたち義姉妹
珍談 出ない抜けない死ぬかも

その夜、京子は電話で起こされた。「助けてくれ。出ない抜けない死ぬかも」矢野の悲痛な叫びだ。京子が敬子の部屋に駆けつけると結合した敬子を抱えた矢野が見てのとおりと目で訴えた。京子は二人をベッドに座らせると和子に援助を求める。和子は事態を察知しモニカ直美にも出動を要請した。
四人は二手に分かれて引き離しにかかった。痛いと矢野が叫んだ。和子が「チン切れるかも知れんねと」ため息をつく。「矢野の膨張係数を低めるか、敬子の締め付けを緩めるかだ」「そんなことは見ればわかる。どうやるかじゃ、水かけるとか」犬の交尾ではあるまいて。「濡れ場に水を差すのはあまりにも不憫では」「出すのを忘れたカナリアは、でも締め付けがきついから矢野に出さすしかないわね」京子がやさしく金のタマを撫でる。「直美さん、敬子さんをさすってやって」「チンをなめたらどうか」「モニカ兎に角やってみて」「急がないと二人とも死ぬかも。敬子さん癲癇はない?ハンカチ咥えさせておこう」と和子。これは敬子が舌を噛むの守る適切な処置であった。
重苦しい雰囲気に包まれる。「こうなったら強制的に出さすしかないわね」「何をですか」「直美さん金玉なめて。モニカは敬子をマッサージ。和子さん矢野を抱いていてくれますか」京子は矢野にキスしながらささやく。「矢野さん出して。全部出して。貴男の子が欲しい」矢野がうなずく。「ああ私行きそう。来て来て」「行く行く」「頂戴、全部頂戴」矢野が渾身の力を込めて放出した。すると敬子は悦楽の表情を浮かべる。「いい気なものね」「今は緊急事態や。もうすぐ小さくなるでえ」京子がささやく。「矢野さん良かった?私きっと妊娠するわ」これで矢野は安心した顔になった。(なお後日、敬子の妊娠はこの時の射精によるものとの見解に異論はなかった。そして事実敬子は出産育児で一年半欠勤した)
こうして京子の頓智で危機を脱した。「敬子の懸賞金取得には問題がある。タケシが締め付けを恐れての降伏だったから攻略したとは言えない」「モニカいつまでもウジウジ言わないの。敬子さんもなりたくてこないになったわけでないやろ」「すみません和子さん。人の振り見て我が振り直せであるな」「さすがですね京子さんこの緊急事態を」「Hの達人」「あら和子さんだって」「私お二人を尊敬します」「次はどうなるか。敬子さん感度がいいけど経験不足かも、直美さん、ともかく射精さすことを敬子さんに」「よく伝えておきます」「日本人は冷静だ。私などパニクッテいたかも」「誰だってそうよ」「でもさすが矢野ね。よく京子さんに電話したもんや」「ほんとにね、あの状態で」「私らこれからも助け合っていかな」「そうよね。二人とも死んだ例があるそうよ」矢野と敬子は横で寝息を立てていた。その夜女四人は危機を脱した二人を見守りながら四人で語り明かした。
敬子が直美に告白したところによると初体験で出血が無かったので処女を疑われているのではないかと悩んでいたそうだ。「可哀想に、それで頑張り過ぎたんや」「話してくれたら矢野はそんな男でないと言ってあげたのに」「でも処女は好きな男にあげたい」「それはそうよ」「敬子さん見かけによらず純情なのね」直美から話を聞いた矢野は運動選手には処女膜が破れている者は少なくないと慰めたそうだ。以後不測の事態は発生しなかったようだ。

京子がしみじみと言った。「あの時ね。和子さんが拒まなかったら、私、矢野を奪っていたかしら」「あなたが奪わなかったら私、処女のままだったかも」「あら、私だって処女だったわ」「京子さん勇気があるわ」「何を今さらと思うけど、毎日だったら私身が持たなかったと思うの」「何が毎日ですか。他動詞は目的語を求めるのに、日本語難しい」「モニカ、単語だけを聞いていてはあかん。文脈をつかんでいかないと何のための時間割を作ったの」「申し訳ございません、するとこういうことですか。矢野が和子を求めたが和子がこれを拒んだので京子が先に矢野とやったということか」「まあそうなんだけど、色気がないわね」「色気ですか」「モニカ日本文学を読みなさい」
モニカは日本文学を読み込んでいたので頭に来た。「京子さんどうやって8人も生んだのですか」と絡む。直美も敬子も目を凝らして身を乗り出す。京子は質問の意図を測りかねた。直美と敬子の目が催促する。「楽器がいいのね」「楽器とは性器のことか」「私の楽器は良くないのでしょうか」「それは何とも言えない、矢野が評価することよ。でも敬子さんの楽器は名器かも知れない」「私は京子以上に生んでやる」「モニカ子が多ければいいと言うもんじゃないでしょ。愛の結晶でなくちゃ」「その愛を結晶させるには」「ある程度の回数は必要だけど十分ではないわね。やはり子が欲しいという願いね」「私は願いかつ望んでいます」と敬子が涙ぐむ。
敬子の切実な気持ちは理解できる。「子宝に恵まれない夫婦はお花権現にお参りするそうよ。矢野に連れて行ってもらったら」「ご利益があるのですか」「ご神体は大きな男根と膣」「日本には授産の神まであるのか」「男は膣をやさしく撫で女は男根を愛しそうに撫でるんや」「和子さん行ったの」「一度だけ」「詳しく教えて下さい」「撫でた後並んで二拍二拝」「霊験あらたか、あやちゃん」「まあね」和子と京子は先輩である。後輩たちは一目置いていたが半目は増えたようだ。「でもどうして」「矢野が私に子を生んでくれというんよ」「京子さんに追い付け追い越せですか。どうしたら生んでくれというのですか」「そこよ直美、私も知りたい」敬子が身を乗り出す。難しい質問である。性は生んでくれ、生みたいとの願いが合致する男女の営みであろう。人生で出会う女は五万とおろう、しかし生んでくれと思う女は指折り数えるぐらいだ。女も然り。では何故思うのか。気に入った女だから。何故気に入る。言葉では言えないのではないか。快楽だけの性によって事故間違いとして生まれて来た子は不憫である。
美人だけではその気にさせるいい女とは言えない。京子も和子も子沢山なのでいい気分である。「矢野の子を生みたい気持ちと似たようなものか。種の保存である」「世継ぎなら妾でもできます。私たちは本妻です」直美も言う時は言う。「ここは京子に実技指導してもらうか」「それは異常、変態」しかし敬子はモニカに賛同した。「私の楽器は良くないのでしょうか」「敬子さん私の楽器は善い楽器と思いなさい、この思いはいい演奏を可能とする。どんな名器も弾きこなさないといい音がでないそうよ」
モニカの提案、実技指導は京子が難色を示したが矢野が猛反対。では廃案になったか。成立施行は和子の腕次第である。「乙女の願いをかなえてあげなさい」「和子さん、それはあんまりだ。俺はAV男優でも教材でもない」「矢野さん、敬子さんに手を付け脚も付けただろうが」「しかしそれは話が別だ」女の論法は要求貫徹に話の筋など気にしない。男は議論では女に勝てない。「慰みにした」「そんなことはない」「だったら男らしく」「和子さんカッコイイ」矢野は怒り心頭に発すると黙り込んでしまう。
席を蹴って書斎に籠る。「長期戦になるわ、黙り込んだらめんどいでえ」「和子さんは矢野をよく知っている」「どうします」「しばらく様子見、戦略を考えましょう」「矢野の弱点は空腹とセックスや」「暗くなるまで待ちますか」「空腹作戦。外で焼き肉をやろう」「においが届きます」「こどもの声は届くが」
しかし矢野は徹底抗戦に出た。子供たちはすき焼きを前にしてお預けが理解できない。敬子は意を決して三階の書斎に押し入る。「この度の事。皆様私めに性技術を教えようと致した事ゆえ、私が頭を丸めて殿にお詫び申し上げます」と大音声で和平を申し入れた。そして矢野を食卓に強制連行した。妻たちは手拭で頬かむりをして頭を下げる。矢野も気圧されて「ではいただくか」と言うと妻たちは額を食卓につける。これで停戦合意、和平に踏み出した。「お母さん時代劇みたいや」「盗賊じゃ」「女鼠小僧」と子供たち。「そうか、百の議論より一つの行動とはこのことか。敬子に感服した」「モニカも日本文化が理解できるようになった」「うむ、今宵の権利を敬子に譲ろう」かたじけない事と敬子。その夜の戦果は敬子の晴れ晴れとした表情から推察できよう。実技指導は必要なくなったようだ。
京子にとって矢野は「矢野さんいらっしゃい」というと飛んでくる愛犬のようなもの、30年たっても私にぞっこんだから。何たって元ミス学園にして愛の女神だもんね。矢野を膝枕して肩と首を揉んでやる。すぐ寝息を立て始めるが腿を揉み解すと矢野はむくむくと起き上がるのだが、これは企業秘密誰にも教えないとにんまりする。私が矢野を男にし、ここまで育てたのだから。最初は欲情むき出しで私に襲い掛かって来たのがだんだんと抱き付いてくるようになった、うん京子さんの調教の成果ね。私の可愛いいすけべな息子。今でもマンゴ−無花果を舐めるときは私の性器と思うようだ。
私の尺八は厭らしいと言う。春の海よ。お前のはエロの海だ。さあ吹いてあげる。やめてくれ感じる。瀬戸の海よ。エロの海だ、いきそう、もうだめだ。まだまだ、これから中間部よ。次第に激しくなるの。頭がボーっとしてきた、死にそうだ。素人じゃあるまいし、これからがクライマックス。ああ夜が恐い、女のいないところに行きたい。知らない街を歩いてみたいでしょ。すけべ、淫乱、色気違い。私の虜よ、大きくして挙げたからこれから私に奉仕するのよ。身が持たない。どすけべがよく言うよ。ほんとに死ぬぞ口内死。聞いたことが無い、せめて腹情死でないと。京子さん許してくれ、ああ天国が見える。もっと早く言えば賞金は私のものだったのに。すみません気が利かなくて。狭き門より入れ、天国は汝のものなればなり。十分であります。金持ち天国に入るのは駱駝が針の穴を通るよりむずかし、なお一層奮励努力しなさい。そんなに舐めたら溶けてしまう。これは私の飴ん棒。もう十分でしょ和子さん。今なんて言った、和子さんも舐めるのね、何が天真爛漫よ。
他の男も撮んでみようかと思ったこともあったが愛を注いだのはこの息子だけ。抱かれたいと思うほどの男は現れなかった。心で結ばれて身体も結ばれるのが順序かも知れないけど逆もあるわね。心身ともに愛するのだから別に切り離すことはない。ほんと近頃は母を求めるやんちゃ坊主。でもいいじゃない幸せなら。


京子の浴室に大きな椅子が持ち込まれた。シャワーを浴びている京子を矢野が視ている。「何しているの」「芸術鑑賞、これ以上の美があろうか」「あなたってほんまにすけべね」「尻を出せ、洗ってやる」「恥ずかしいわ」「自分ではきれいに洗えないだろう」京子が膝の上に横ばいになる。「もっと上げろ」シャボンで滑る。乳房が矢野に触れる。「ソープ嬢やっていたのか」「落ちくれる」「そらきれいになった、ぴかぴかだ。前も洗ってやる、開けろ」「いやだわ」「お前自分の見たことないだろう」京子は鏡の前で見つめる。「私のきれい」「極美だ」「チンチン入れたくなる」「なる、なる。さあシャンプーだ」「感じるわ」「早すぎる、今は美容中」「今度は私がチンチン洗ってあげる」「まだ身体洗っていない」京子がチンチンを乳房で揉む。「やめてくれ、行ってしまう」「まだまだ行ってはなりません」
和子はおとなしく膝に腹這った。「惚れ惚れするケツだな。キレイキレイ」「手付きがいやらしい」「これ殿自らの手だぞ、神妙にいたせ」「ああ気持ちいい、もっと洗ってたもれ」「何を考えておる。そちの身を清めておるのじゃ。次は前だ、開けろ」「やめて感じる」「清潔はおしゃれの基本、じっとしておれ」「ええけどほかの女洗ったらあかんよ」
モニカは膝に腹這うと豪快な一発を噴射した。「クセエ、遠慮はないのか」「すみません、どうにも止まらない。でもスカッとした」「大気汚染、換気しろ」「貯めるのは身体によくない。金玉と同じだ」「ばかローレライが泣くぞ」モニカは両腕をだらんと垂らして尻を上げている。「よしいいぞ。前も洗うか」「洗ってくださーい」「洗ってやるからオッパイでチンチン揉むのだぞ」「スケベ」
直美は膝の上で眠りだした。「今度は前」「このままではいけませんか。すごくいい気持ちです」「延長料金をとるぞ」「払いますから」と寝息をたてる。
敬子は膝にダイビングしてきた。「お前にはちょっとぐらい色気がないのか」「直美は眠ってしまったのですか」「直美のおしゃべりめが。さあ洗うぞ」「ほんと気持ちいい」「はい、次は前」「もっともっと」「時間です。超過料金は高いぞ。屁こぐな」「誰がこいだのですか」「いいから股を開け」矢野がシャンープーして洗い流してやると敬子は矢野を椅子に座らせる。シャボンでごしごし洗い出した。「痛いじゃないか」「でも大きくなっています。固くなってきました」敬子は湯をかぶせる。と、鎮座した。「今は入浴時間」「いいじゃないですか。ここで汗をかいて湯につかる」「こどもの教育上よくない」「性教育になります」「お前予習してきたな。いったい誰が言った」「和子さん」「え、和子が?京子かモニカと思ったが」
この椅子は時間割に従って各家庭を回ってゆくのだが盥回しか椅子回し。その後各浴室にはマットが用意された。発案者は誰か。ソープ嬢一同の合議と言うだろう。「敬子チンザしたのか」「失礼ね、座禅よモニカ」「私は立禅」「直美どうやるの」「首にぶら下がって腰に脚をかける」「重いでしょう、矢野が可哀想」「私そんなに重くないです。足腰を鍛えることにもなります」「ハードトレーニングや。若い人にはついていけん」「でも面白そう、和子さんもやったら」「恥ずかしいわ、京子さんは」ソ−プ嬢たちはHがお好き。彼女らに秘密はない。果たして矢野の身がもつか、彼の運命は。

特筆すべきは、直美がコアラのようにぶら下がったこと及び和子がおんぶしてと強請ったことである。これを受けて矢野は屋上にソープランドを建築した。ガラス張りだが高いから見られることはない。逆に見晴らしはいい。湯気で冬でも寒くない。
和子は湯につかると矢野に負ぶさり景色を楽しむ。「重いなあ」「足腰鍛えな。あっちへ行って、あなた山が見える」矢野は和子を背負って歩く。「お前は甘えたやのう」「子供はおんぶが好きなの」「和子は園児並みだな」屋上からの景色は気分も晴れる。やがて和子も寝息を立て始めた。男の背中は寝心地よいのか。
しかし子供達に視られていることに気づかなかった。あや以下4名の子は和子の風呂が長すぎると様子を見に来たのだ。つまり夕飯の督促だ。「入っておいで」と招き入れる。「お母さん、お父さんのチンチン大きい」「もっと大きくしようか」和子が睾丸を揉み始める。「よせ、子供の前だぞ」「どうして大きくなるの」「お父さんに訊きなさい」「大きくなって割れ目に入れ―」「やめろ」和子はチンに跨り腰を揺らす。「痛くないの」「いい気持ち、お前たちもこうやって生まれたのだよ」性教育は親の務めというがやり過ぎでないか。

直美はコアラスタイルからチンザに移ろうとする。直美がチン頭を食えようとする。「こら、立禅にならないじゃないか」「新スタイルです」「変な気になるから落とすかもしれないぞ」「しっかり支えてください」「お前動機がいやらしい」「いいじゃないですか。誰もいません」「子供が見ているぞ」「性教育です。和子さんは実践したそうですね」「それはそのう」「さあ入れますよ」「やめろ、強姦ゴウチンだ」かくて5枚のマットは各自で屋上に移設された。後のソープ嬢たちは割愛するが推して知るべし。矢野は青空、月、星を見ながら性交することを知った。
女の会議に議題は事か欠かない。矢野が尻を洗うのは洗ってくれとの意思表示ではないか。それは言えるかも。これは実証検分する必要がある。どうやるのモニカ。しれたことよ、奴を裸にひん剥きみんなで洗うのだ。全身隅々まで、いやらしい。どの部分を担当するかは阿弥陀くじ。私は中央前部。そこは特上部分だ、敬子に選ぶ権利はない。まず五等分しましょ。緊張するわね。チン部、臀部、脚部、頭部その他でいいか。いい、いい誰がチン部を引き当てるかじゃ。
くじ引きは経験順に行ったがチン部は敬子が引き当てた。お前はどうして籤運いいのだ、懸賞金をとったのだからちっとは遠慮しろ。矢野が私を求めているのです。くそ、あくまでソープだぞ、鎮座はならんぞ敬子。さてこの輪姦の顛末は、残念ながら映倫に触れるので多くを語れない。


わたしたち義姉妹

香川京子が考え込んだ。「何を考えているの」「あのね、同じ女と関係を持った男たちは義兄弟になったというそうよ」「じゃあ私たちも義兄弟」「女だから義姉妹よ」「聞いたことは無いわね」「だからこういうの何ていうのでしょと考えていたの」「義姉妹でいいじゃない」「でも肉体関係だけじゃないわ」「愛における義姉妹たちは如何でござる」「うーん。正確だけど詩情がないわね」「愛の義姉妹でどうでしょう」「まあまあかな、でももっといい呼び方が出てくるまでこれでいこうか」「そうしましょ。難しいわね。大切なことは私たちが仲のいい姉妹であるということ」
今度は谷和子が考え出す。「かなちゃんとあやは姉妹よね。私とかなちゃんはどうなるんや」「義理の母」「生みの親に対して」「こどもたちはお互いに兄弟姉妹と思っているから私たちは育ての親じゃないですか」「そうね、私たち自分が生んだ子でなくともお互いに協力して子育てしているわ」「うむ、直美のいうとおり私たちは育ての親たちである」

そこへかなが駆け込んできた。「あやちゃんが池に落ちた。助けて」全員が飛び出す。池は深さ1mぐらいだが底に沼がある。親たちが駆けつけると大柄のハンスがあやを肩車して岸に近づいていた。沼に足を取られ苦労している。「ハンス頑張れ、あと少しだぞ」「あや落ち着いて。ハンスの動きにあわせて」などと岸から叫ぶ。こどもたちも固唾を呑んで見守る。和子の顔は引きつっていた。
あやがハンスの動きに合わせだしたのでハンスはかなり楽になった。そして大人の助けが無くても岸にたどり着けると思った。が、後一歩のところで転倒した。あやは池に投げ出される。しかしハンスはあやを押し上げた。和子があやを抱き上げる。ハンスをモニカが引き上げた。よかったよかったと歓声が起こる。

矢野が息せき切って駆けつけた。あやを抱きしめハンスを抱き上げた。「どうして池に落ちたの」と和子がたずねる。「あとだ。すぐ風呂に入れろ」矢野は二人の手を引いて家に向かう。和子とモニカは先に走って風呂に湯を入れる。
矢野はまずこどもの無事を喜ぶべきだと言っているのだ。矢野はハンスとあやを風呂に入れる。和子にはモニカのところへ行けという。矢野はこどもたちの身体を丁寧に洗ってやる。「さあ、湯に入ろうか」あやとハンスが矢野に抱きついてはしゃぐ。こちらは和子がモニカと一緒に風呂に入っている。モニカもこの頃は日本の習慣を理解しだしていた。「私あほやわ。まずあやの無事をよろこばないと」「和子わかるわ。私もハンスに同じことを訊こうとした。タケシさすがね」「こんなとき女親はだめね。あやよかったな、ハンスよくやったと身体で言っているのね」「だよな和子。たけしに惚れ直した」二人は声を上げて笑った。その夜矢野はハンスとあやの間に寝た。川の字になって。和子とモニカも加わって大きな川となった。こどもたちが寝入ると和子とモニカは自分の部屋に帰っていった。


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