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作品名:合唱物語 作者:佐々木 三郎

第25回   25
時の流れに

駒込直美は矢野がモニカと結婚した時、香川京子を訪ねた。話を聴き終わると京子は「やはりね」と言った。「で駒込さんはどうしたいの」「わかりません、ですから先輩に相談しようと参りました」「そう。私あなたが気に入った。谷さんを呼んで3人で相談しましょ」京子が電話すると半時間ほどで和子がやってきた。どうやら二人はうすうす感づいていたようだ。
京子が概要を説明すると和子は「あなただったの。私が離婚されたわけは」と直美に言った。「矢野はドイツ娘と結婚しました」と直美が言うと二人は黙ってうなづいた。「ところで駒込さん、どうやってこの情報入手したの」「それは」「私たち先輩後輩(何の?)でしょ。しかも同じ舟に乗った」「そうやねえ、運命をともにするんや」直美は戸籍の履歴を見せた。「あなた、すごいね」「これは法律違反ですので」「大事の前の小事。気にしない」「駒込さん美人やし、しっかりしてるわ、あの人が手を付けるわけや」と和子が感心した。「あのう、手だけでなく全身付けられました」
これには二人も大笑いした。「これは検討と対策が必要ね。何か作るわ」「私やります」「今度は直美さんの家でご馳走して」「わかりました。その次は谷さんですか」「そうなるわね」「その次はモニカさんですか」二人はどきっとした。「それは彼女がこの対策会議に参加するかどうかね」直美は参加すると踏んでいるようだ。普通は三つ巴の闘争が繰り広げられるべきところ、和やかに話が進むのは日本人ゆえか矢野を共有する連帯意識ゆえか。新婚旅行から帰ったモニカは会議に参加することを表明した。紛争は解決を齎さないことを理解してていた。彼女たちは知性と教養を供えていたのであろう。

第4回目はモニカが昼食会を兼ねて会議を開催した。「私はあなた達3人に友情を感じます。わたしの料理召し上がってください」「美味しい」「いけますか」「さすが矢野健ね、いい女ばかり選んでいる」「本当にそうですね」「今日の議題は会議のメンバー増やさないということね」「矢野健を召喚しますか」「それですむような玉じゃないのね」

和子は見かけによらず核心部分をズバッと言う。「彼の行動を制約したらええが」「どうやるの」「例えば私らが同居したらあいつを監視できる」「おおきな家が要るね」「4所帯住宅。お互いのプライバシーは守りながらの共同生活」「素晴らしい考え」「矢野は最近300坪の土地買ったんや、家建てるから土地貸してと言えばええが」「貸さなかったら」「ストや、わたしら団結して要求が通るまでは断固拒否」「何のスト」「モニカ、読解力がまだね。和子はその地主資本家は女なしでは三日も生きられない男といったの」「オー今私はすべてを理解した。和子は策略家ね」「さすが年の功ですね」「直美さん、ちょっと若いからって失礼やない」「失礼しました。お許しください」

ここで一息。「なるほど建築資金の足りない分は彼に出してもらうか」「区分所有ですか」「そう、これ見て。建坪200坪を4等分する。真ん中の吹き抜けは子供の遊び場と来客待合。玄関はてんでに」「敷地は借地ですか」「地主は私らの家に居候や、家賃養育費と相殺」「さすが家政学部」「専用部分と共用部分とで経費が浮きます」ついでながら事は議決のとおり進んだがその後も議題が無くても会議は継続した。女には議題など不要なのかもしれない。
その一部を紹介しておこう。「和子さん、貴方に矢野を寝取られたとき悔しかったけど結果的には良かったと思っている」「京子さんこそ矢野を横取りしてからに。でも一人では身が持たないわ」「そうよ、1回でくたくた」「それってセックスの事」「ほかに何がある、モニカ」「すみません、でも私は大丈夫」「直美さん、今のモニカの発言記録しておいて。そのうちねを上げるわ」直美が議事録作成にかかる。「で、直美さんはどうなの」「私はそんなにやりませんから」「どれくらい」「平均して2回ちょっと」「十分じゃない」「でも週1日ですから」「そうね新婚さんだものね」「京子さんはどうでした」「それは」「教えてください」「むかしは、多い時で週3日。今は1日以下。和子さんは」「そんなもんや」「一日2回以上ですか」「そんなこともあったわね」「うむ、健を降参させた者に賞金を出すのはどうか」「面白いけど、原資は」「みんなで月千円積み立てる」「4人で年48000円になる」「1年も攻略できないのかなあ」「賭けとなれば曜日を公平に振り分けましょ」モニカの提案「彼にも週一日は安息日を与えないと」は全員一致で採択され、時間割が作られた。つまり矢野は週6日勤務するということだ。この勤務形態を幸せとみるか過労とみるか評価は分かれよう。原則生理日はパス、排卵日にパスしたいときはその権利を譲渡できる。よって妻たちの勤務は週1.5日強になろうか。お互いに譲り譲られのパス日の勘定がむずかしい。しかし間もなくこの時間割は勤務者が1名増え改正されることになるのだが。

時間割は背番号で表示されていた。1番京子2番和子3番直美4番モニカ。各選手の打席は週一の計算になる。相手の勤務は週6日だから単純計算では1.5であるが生理日、その他でベンチを温めることもあるから週一は現実的である。四死球を打数に数えないようなものか。肝心の相手を攻略したかは聞いていない。積立金の残額を確認すればよいのだが。
時間割を見ながら京子がつぶやいた。「私たち、同じものを視ているのね」「同じもの、タケシのチンチンか」「モニカ、言っていることは正しいけど色気がないのね」「すみませぬ」「私は彼の夢を追体験している」「さすが和子さん」「私は先生の仕事を継いでいます」「継いで?」「モニカ、直美は後継者として彼の仕事を追体験しているということ」「それはタケシが一番わかるでないか」「そうですか」「そうだよ、男は仕事が一番」「そうね、でもモニカの日本語、今市」

四階建16室の別棟が少し離れて建築された。3階の一室は矢野の書斎に当てられ、4階は来客用に充てられる。3階は眺望がよいのだが下から監視しやすいとの思想が秘められていた。その他の用途は追々に検討するそうだ。広い庭は子供たちの格好の交流の場となった、矢野も子供たちと遊ぶのを楽しみにしている。来客の多いのは直美だが次はモニカであった。両母親は孫見たさだがモニカの息子も日本で住むことになったことも原因であろう。

現行犯逮捕起訴

矢野の書斎には等身大のヌード写真が掲げられていた。モデルはもちろん直美、京子、和子、モニカであった。書斎は立ち入り禁止であったが、部屋の掃除に入った松崎敞子が発見した。「女は裸が一番だな」「私も撮ってください。前にも言いました.
、宅建に受かったら撮ってやると」「記憶にない。ともかく処女はだめだ」「なら女にしてください」「お前わかっているのか、女になるとは」「セックスすることです」「それはまずい、直美の友達だろ」「直美がそんなに怖いのですか」「そりゃな」「和子さんの時は」「悩んだ」「モニカの時は」「許してくれ、和子、京子」「直美の時は」「お前尋問するのか」「先生は過ちを犯しました。三度です。三度あることは四度あります」「屁理屈ぬかすな」「私は女として見られていない。悔しい。直美に勝るとも劣らないと自負しています」「思想は自由であるがこの部屋は監視されている」「ではこれから私の部屋で」「待て早まってはいかん。それに未成年だろうが」「私はすでに成人です。当時直美は未成年でしたが」矢野はまたも乙女に襲われるのだが後のことはご想像に任せる。

京子は目を吊り上げて和子、モニカ、直美に言った。「逮捕、起訴ね」「まさか」「もう2時間」敞子が矢野の部屋に入ってからの滞在時間だ。「電話にも出ない、逮捕」妻たちは現場に急行した。和子がマスターキーでドアを開ける。これは合鍵は作らなかったが矢野過失であった。裸の二人は現行犯で逮捕された。これには後日談がある。機会があれば紹介する。
即起訴だ。検察官モニカ、弁護人直美、裁判官京子和子。罪状認否では被告人らは否認した。起訴状の朗読。弁護人は松崎敞子が初犯であることから情状酌量を求めた。検察官尋問。「被告人は矢野健とやったのか」「やっていません」「まだ白を切るか。このビデオを証拠として提出する」ビデオには一部始終が録画されていた。「被告人は松崎敞子とやったのか。この出血はどのようにして生じたものか。罪を認めて男らしく腹を切れ」
裁判官がたづねる。「弁護人意見は」「被告人矢野健の本人尋問を申請します」「認めます。証人は宣誓しなさい」「証人は松崎敞子に言い寄られたのですね。彼女は美人なので拒み切れなかった。で味の方はどうでしたか。今までに証人がやった女と比べるといずれが勝りましたか」「証言を拒否する」「証人は私たちの顔をまともに見ることができますか。以上で終わります」「検察官反対尋問どうぞ」「しない。弁護人が全部尋問した」もっともである、京子と和子は笑いをこらえた。審理終了を告げると弁護人が立ち上がった。「以上のように被告人らの有罪は明らかでありますが松崎敞子は等身大のヌード写真を見て自分も飾ってもらいたいと思ったのも同情の余地がありますから寛大なる判決を求めます」「では追って沙汰する。被告人らに判決言い渡しまでの間、謹慎を命ずる」

裁判官の合議は揉めたが「被告人矢野健に800万円、同松崎敞子に200万円の罰金を支払え」との判決が言い渡された。矢野が常習犯であり、松崎敞子が初犯であることから妥当な判決であろう。ただ松崎敞子については執行猶予を付けるべきとの和子の意見は京子に押し切られたようだ。裁判官の性格の違いか。250万ずつの罰金を手にした妻たちは松崎敞子を入会させるにあたっても紛糾した。入会金200万を取るか否か。「矢野には改悛の情がないこと、それに敞子も正式に認められるのだから。それにマンション一室400万なら安いわ」とモニカ京子。「それは可哀想」と直美、和子。敬子が五人目の妻になったから200万を支払ったと思われる。しかし矢野と同じ階の一室に入居したから400万はいい処かもしれない。4人の妻は計300万の臨時収入を得て態度を変えた。黄金は世界の惚れ薬。


"Was Ich Dir Sagen Will" (別れの朝)
Was ich dir sagen will  Fehlt mir so schwer 
Das blatt papier vor mir  Bleibt weiss und lere
Ich finde die wort night  Doch glaube mir 
Was ich dir sagen will Sagt mein kravier
私の言いたいことは私を憂鬱にさせる……それはピアノが語ってくれるだろう。



美女たちの近況を報告しておこう。香川京子は外語学院の教師となり今や院長を嘱望されている。谷和子は幼稚園の園長として穏やかな毎日を送っている。駒込直美は行政書士の資格に宅建主任者も取り事務所を切り回している。矢野モニカはドイツ人日本学校の講師としてまた通訳として生活を楽しんでいる。松崎敬子は島崎社長の秘書として実質的に浪漫建設を経営している。宅建と行政書士も取ったのだが彼女だけが長い間簿外であったのは矢野の島崎社長への心配りであったのかも知れない。

美女たちの会議には松崎敬子も加わった。「矢野のおかげで楽しい人生を送ったわ」と京子。「ほんまやね」「私考えることの大切さを知りました」「私は彼と合って日本に来てそしてあなた達と友達になれました」「私たち矢野を共有総有している」「そうね、私生きるって、素晴らしいと思える」「彼をもっと大切にしないといけないわね」「なんであんなに強いのかしら」「矢野のお父さんも子創りに励んだそうよ」「家系血筋か」「私たち同じ舟に乗ったのね」「私は先生に乗られました」「同じ運命やいうことじゃ、直美さんは乗り返さなかったの」「結婚とは生殖器の共有とカントが言ったけどあの時私は彼を征服し専有したと思うの」「モニカの生殖器は強力なんだ」「敬子だって強そう」「私ね、矢野と心もいっしょになった気がするんや」「そうね和子さん矢野とHすると身も心も一つになって新しい世界が開けてくる感じね」モニカ直美敞子も同調した。
ここで矢野攻略の掛金を手にしたのは誰か報告しておこう。「直美、敬子が怖い、腹情死するかも」「敬子は陸上で国体に出場したくらいだから。押さえ込まれたのですか、手加減するように言っておきます」かくて敬子がそれまでの掛金を受け取った。これは事件の前兆であったのだが。「敬子の積み立ては少ないのに敬子が全額受け取るのはおかしい」「モニカそんなこと言わないの。敬子さんが勝利したの。潔くしなさい」「だって京子は悔しくないか、Hの最年長者として」「敬子は少ないチャンスをものにしたから凄いと思います」「そうね、新参者に掛金を先取りされたのは癪だけど私たちもランニングすべきや」「和子さん毎朝一緒に走りましょう」
これがきっかけで妻たちのランニングが始まった。矢野も引っ張り出されるのだが子供たちも自主的に参加した。モニカが一番熱心であった。「日本の女に負けてなるものか。ドイツ民族の誇りをかけて次回は勝つ」と宣言した。元陸上部の矢野と敬子は走りが違う。性も身体も鍛えないといけないようだ。


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