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作品名:続 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第9回   2章 旅    児童養護施設
第2章 旅

   児童養護施設

 坂本とダヴィッドの対決はまたも持ち越しとなった。ヴァイオリンを届けにやってくる妻と娘を案内するときか、新たな捕虜の引率のときか。陳、悪もあれほどになると大したものだな。いかにも我々は上品なものだ。今回の旅で龍次の気持が分かった気がする。陳、俺もだ、まあ、婿殿にできるだけ協力するか。
 ところで山田殿、せっかくの機会なれば拙宅にお立ち寄り下され、女連合への対策を協議致したく存じる。それはいい、陳、俺の家にも寄ってもらおう。ならば、お言葉に甘えて寄せていただこうとするか。常男は飛行機に一度乗って見たいと言うのでダヴァオからマニラに飛ぶことにする。坂本は、旅費の足しにと5万ペソ常男に持たす。


 三人を見送って、さあ、カーシム大佐ハジ議長のところで身代金の精算だ。セール、腹が減った、粥でも食いたい。おお、久しぶりに食うか。雨か。雨の日は南国でも肌寒い。クラクションとブレーキ。車が止まる。ダニロが飛び出す。男の子を抱き上げてくる。乗せろと坂本が手で合図。怪我はないが腹を空かせている、とダニロ。水を飲ます。震えている。ダニロがタオルで拭いてやる。何か叫ぶ。運転手が兄弟がいると言ってますと通訳する。拾ってやれ。車を回す。
  弟妹であろう、5人の子供が雨に震えている。車に乗せてスーパーへ。付いて来い坂本が子供服売り場にゆく。ダーイ、ねーさん服を見繕って着替えさせてくれ。オッケイサー。運転手に付き添わさせ、ダニロと食料品売り場に向かう。パン、ビスケット、ヤクルト、などを籠に掘り込む。
 子供服に戻ると買った服を着ている。500ペソ、パンツ、シャツ、ズボンで一人100足らず。もう一つずつ色違いで。サンキューサー。会計は。こちらです。ピソありますか。?。よくみると1000.85との表示。ない。0.85ペソ不足。オッケーラン。店員が会計にいう。オッケイ。85センタポスの値切り。日本の銭に当たるか。センタポスは急速なインフレはあるもののいまだ通貨として頑張っているのだ。
 店員に100ペソ握らす。コーディネイト料だ。まあ、と笑いながら受取る。お気をつけて、と見送る。感じのいい娘だ。フィリピンレストラン。OK。粥6人前、俺もだ。坂本が注文する。お前たちは自分で注文しろ、俺が払う。サンキューサー。ゆで卵をつける。好きなだけ食って良いからゆっくり食え。運転手が通訳。ダニロもカーシムも分からないそうだ。ほんとに幾つ言語があるのだ。
 腹が膨れると男の子が話し出した。年は8歳。父親母親がアル中で仕事しない、廃品回収で彼が生活を支えているそうだ。稼ぎが悪いと殴る蹴る、今日は家を叩き出されたそうだ。ダニロがあざを示す。児童虐待、麻薬もやっているのであろう。
 ユキに子供を拾ったと電話する。ユキがやって来た。ハジの精算をしてくる。あいよ、早く帰ってね。ああ。さあ、オバちゃんの家に行きましょ。役所は連絡しなくていいのか。バランガイのコンシールCounsel にきてもらう。そうか、頼むな。任せて。
 ハジ議長は考えていた。坂本に気付いて立ち上がる。考え事か。ああ、詰め腹を切らされる夢にうなされているのだ。なかなかの演技だったぞ。カーシムが常男の成敗を話す。日本人は怖いのう。早く帰らないとユキが怒るから精算しよう。売上1B=10億円だからハジさんは100M=1億でよろしいか。結構。カーシム大佐、収容所の警備体制レーダーほか大丈夫か。特別に100M使ってくれ。残りはシャハラザードに送る。そうだ、100Mほどで。話は変わるが土地10ha家3000u買えるかな。何を始める、保育所か、それなら10Mで十分だ、探してやろうか。ああ、ユキの決裁をとったら頼むことになるだろう、今日はこれで。ああ、お疲れさん。

 家では6人の子供が安心して眠っていた。ユキ相談しなくて悪かった。急を要したのでしょ、私の旦那はこんなことも決められないほど尻に敷かれていると思われるのは嫌だわ。いや、これは国政の課題だ。ユキ議員のお力を借りないと。ディー、経済効果は底辺には波及していないのね。自由経済は競争が原則だ、弱者に手を差し伸べるのは政治だ。国政は外交、国防など全国的な問題を、それ以外は地方に任したほうが良い。細かいところまで目が届かないのね、国民目線ってやつ。そういうこと。
 児童擁護は国政だが地方に委託してやってもらったらいい。国と地方が協力しやすい問題だ。そうね、児童擁護施設をつくるわ。100Mほど用意したが。国がやるべきことだから国に金は出してもらう、明日市長に相談してみる。いいでしょ。それがいい。ねえ、抱いて。南海雄は眠っているわ。
 翌日バランガイと事前協議をして市長に会う。お話わかりました、できるだけの協力致します。あのね、バランガイ、市でなくちゃ児童擁護はできないでしょ。市長(親分)人肌脱いで下さいな。国から金を引き出すために委託を受ける形をとるの。だから国に援助してと言って欲しいのよ。そうします。委託料助成金で職員が雇えるわよ(票が集まるわよ)。そうですな。これはオオピラにやらない方がいいと思うの。私の来たことも内緒よ。早急に施設をつくって頂戴。予算の方は任せて。わかりました、ユキ議員。あら、今日は一市民として陳情に上がったのですよ。よろしくお願いします。
 政府提案の児童擁護施設法案が上程された。本案は基本方針定めたものでもので、実施に当たっての規則細則は委員会に検討をお願いしているところであります。早期施行に議員諸君のご理解をお願い申し上げます。野党質問も反対理由はないから協力的だ。むしろ、自分を売込むチャンスだ。
 本案に対しては我が党も全面協力する用意がある。しかし、その前に児童虐待の背景にある麻薬取締の甘さ、売春をせざるを得ない人たちがなくならない現状をどのように認識しているのか、政府の見解を伺いたい。議員ご指摘のとおり、麻薬をはじめ犯罪取締りは十分とは言えません。犯罪情報に対する懸賞金の増額、雇用の場の創設など政府一丸となって取り組んでゆく保存であります。ならば結構、積極的に推進されたい、与野党を超えた国政の確立こそ国会の使命である、我が党は本案に賛成する。拍手。こうして全国市単位で設置が承認された。

 パガディアン市が設置第1号となったのは言うまでもない。久ぶりのユキ節。ええ市長さんから相談されて私もお手伝させていただいてます。そりゃ、やるのはいいわよ、結果に責任を持たないとね。産児制限は行われますか。それはね、家庭の問題、国が立ち入ることではないでしょ。しかし必要でしょう。必要だけど国が立ち入るのは反対。生活レベルが上がると子供が少なくなる、先進国を御覧なさい。少なく生んで大事に育てるようになるわ、でも大家族もいいものよ。
 児童虐待への罰則強化は賛成ですか。これもねえ、本来家庭の問題でしょ、基本的には反対だけど、この国の現状では已むを得ないわね。議員ご自身でも擁護されているとか。そんなんじゃないわよう、小さな子供が困っていたからしばらく泊めてあげただけ、それだけのこと。
 その夜、清美から電話があった。私もユキ姉さんと同じこと考えていたの、こちらの施設については私も参加させて下さい。うれしいわ、ぜひお願いする。紀和ちゃんどう。おかげさまで元気に育っています。家族って多いほうがいいわね。今ね、一軒家借りて住まわせているのだけど上の男の子が兄弟の面倒よくみるの。それで相談なんですけど、子供たちが将来自立できるように職業訓練校をつくろうかと思っています。仕事はユキ姉さんにつくっていただくとして仕事につける能力をつけておこうと考えているんです。いいわね、日本の職人さんは仕事に誇りを持ってるの。使う人に喜んで貰うものをつくるのね。なんつうかな、製品に職人さんの夢が込められている感じ。そう、夢ね。夢、夢って素敵ですね。
 日本は手作りのものが高いの、フィリピンもフィリピンらしいものを世界に発信できたら輸出できる、質の高い技能が大切ね。私も日本に行ってみたい。紀和ちゃん日本国籍取ったでしょ、母親はOK.父も叔母も日本を見たがっています。そっちはむずかしいわね、でもね、一度一緒に日本に行きましょう。お爺様のお墓参りだけでもしてきましょうよ。ええ、是非とも。

掛け算

 拾った子供6人が坂本についてまわる。里親だ。パンリサールを30買う。1個1ペソなのでそう呼ばれる。1ペソ硬貨には国民的英雄ホセリサールが刻まれているのだ。みんなで分けろ。一人5個ずつだ、でもオジサンとオバさんの分がない、一人3個ずつにしよう。年長のレルデが差配する。親運肌のところがある。
 ボゴジュースを2個買う。ココナツの皮を剥いで汁を取り出す。ビニール袋に移してストローを差し込む。1袋10ペソ。夜店の金魚売りみたいだ。バランガイのベンチでパンを食べる。ボゴジュースは回し飲み。幸せそうな子供の顔。小さな子供を連れた5才ぐらいの女の子が近づいてきてパンという。昨日から何も食っていないらしい。
 坂本がパンとジュースを与えると子供が10人ほど集ってくる。よし、レルデ、パン50個ジュース5個買ってこい。坂本が50ペ枚渡すと子供の数は倍になった。パンとジュースが並べられると3倍になった。レルデは1個ずつ配ると残りは半分ずつと割ってみせる。

 30人ほどの子供たちはたちまちパンを食ってしまった。それでもジュース付きなので大満足だ。ところが、ビニール袋とストローは無造作に捨てられている。ゴミを散らかすな、拾い集めろとレルデに怒鳴る。すると子供たちが広場のゴミを集めてくる。紙くずビンなどが山積みになる。バランガイ職員に処分方法を尋ねる。大きなずた袋を持ってきて分別するように指示する。セール、明日もパンをやるのか。ああ。浮浪児に毎日やることになるぞ。?。
 別の少年がやってきてビニールをくれという。キロ15ペソになるらしい。レルデは3ペソはねる。これはバランガイのものだ、と坂本が言うとレルデがむくれる。職員が笑って寄付ノートを持ってくる。ご寄付ありがとう、署名してくれとレルデにノートを渡す。彼は字が書けない。お前の名前はこう書くのだ。そうか、俺の名前はこうか。そうだ。するとほかの子供も記帳すると言い出した。生まれて初めて字を書くのだ。地面に何度も書いてからボールペンを握る。いい教育をしたな。いい気分だ、サンキューセール、職員は笑って立ち去る。
 レルデがマイルドセブンを見つめている。チートそれはいくらするのだ。65ペソ。一本3ペソ以上か。日本で買ったら10ペソと言いかけて坂本は止めた。お前は計算をどこで覚えた。タバコ、車ふき端切れ、新聞を売って歩いた。年は。7才。偉いな。商売には必要だから。なるほど。これ2箱だと。130ペソ。5箱だと。325ペソ。本数は100。ほかの子供は。できないだろう、俺しか。そうか、レルデは凄い。

 翌日掛け算の九九を持って出かける。バランガイには子供たちが待っていた。この表は横は箱、縦は中身だ。中身は何がいい。ペラ(お金)。そうか。坂本はタバコの空箱に番号をふって並べる。さらに空箱を積み上げる。9番目は9箱。同様に縦にはペソを積んでゆく。この列の箱にはワラペラ、空っぽ。子供たちが笑う。この列は1ペソ、この列は2ペソ。この列は?5ぺそ。この列は?9ペソ。そうだ。坂本はペソを積み上げてゆく。
 いつしか大人も見守っている。29 18まではどうにか付いてきたが、5の段になると3才児にはわからないと言うのが出てきた。坂本は構わず進める。ともかく99 81までたどり着く。9ペソ入が9箱。小さい子に持たせてみる。重いか。うん。それじゃこれ全部覚えたらパンとジュース買ってやる。全員だぞ。これには大人も驚く。なにしろここは南の島、掛け算ができない大人も多い。
 子供には無理です、これは虐待です。中年のオバンがしゃしゃり出る。無理かどうかはやってみなくちゃわからねえだろう、すっこんでろ、このババア、坂本が声を荒らげる。この日本人なんて言ったの?若い女がすっこんでろ、このババア、と日本語とヴィサヤ語で叫ぶ。周りが大声で笑う。
 クーヤ、私手伝いましょうか。いや、これは子供たちの仕事だ、苦労して覚えて身につく。そうでした、出過ぎたマネを。セール、彼女は市長の姪で小学校の教員ですので、とバランガイ職員。この日本人子供たちのために掛け算教えている、若い女が話す。知っている、昨日も子供にパンとジュースを与えた。そうだ、2haぐらいの土地ないか、子供たちの家と畑に使う。二人が顔を合わす。わかりました、探してみましょう。頼む。
 レルデと3人の少年がパンとジュースを買ってきた。子供たちはこれを見てなおいっそう奮励する。女の子が22が4、23が6と歌いだす。他の子もこれにつづく。一人の男の子は9ペソ入の9箱を見つめている、チート9ペソ貸して、という。1ペソずつ箱に乗せる。今10ペソが9箱で90ペソ、9ペソ返したら残り81。若い女が拍手する。他の子が振り向く。拍手。
 OK試験だ、24は?えー?46。他には?38!Good.36は?66と49!よし18は?29&36。よし合格、パンとジュースを配れ。イエッサー。女の子が歌いだす。何の歌かな?99。君の作曲?そう。坂本が拍手。男の子が歌にあわせて踊りだす。ocho ocho na! 88ナ64 64のコーラス。69?ワラ、ない。

 子供たちは半時間で九九を覚えてしまった。パンとジュースと女の子の歌が大きい。貴方の教え方が上手なのよ、ユキは頼もしそうに坂本を見る。そうかな。そうよ。子供たちの家を立てる。どれくらい。100人ぐらい、土地は2ha。まあ大きいのね。そのうちに手狭になる。翌日、バランガイ職員と若い女がやってきた。ユキの隣の土地を無償で貸すというのだ。地主は?市会議員のマネー。タダ程高いものはないからな。いいじゃない、ちゃんと契約巻いて置けば、ユキが後押しする。どうやら市会議員は市長への色気があるようだ。100年後に現状有姿のまま返すと公正証書にする。

 家の部分は手を付けなかったが水田畑は水平をとって整地した。雨水生活水の貯水槽には業者が驚く。自家発電はガソリンと風力太陽光を併設する。道路には基礎にグリとスラブを入れる。両側に歩道を高く付ける。さらに8m幅の道路は飛ばしたくなるのだがlove me tendar love me trueと道路が歌うのだ。なんだこりゃ?たちまちLove Rordの愛称が付く。日本ではタイヤの摩擦音でメロディーを奏でることは珍しくないが。
 水田には水が張られ田植えが始まる。水平を取る土木工事が必要なのだ。あの日本人は神経質だと陰口を叩いていた土木業者も納得する。畑には野菜と果物が栽培される。牛馬豚山羊鶏が放牧される。乳を絞って飲ます。最初は嫌がっていたが次第に好んで飲みだした。卵は貴重な栄養源だ。池には魚を養殖する。これが子供たちのプールになる。収穫の度、付近住民にご馳走する。子牛子豚を与えると農作業をやってくれる。特に豚は現金収入になった。

 またもメディアが取材にきた。放映前に必ず試写させることを条件に許可した。たちまち浮浪児が寄ってくる。父無し子を生んだ女。腹を空かした年寄り、などなど。豚汁が好評で仕事にあぶれた男までがやって来る。ここは児童擁護施設だぞ。いいじゃない、みんな喜んでいるのだから、とユキは気に留めない。テレビ局がラブミーテンダーの秘密を教えてくれと言う。ただでか。え?子供たちに鉛筆ノート、ボールでいいんじゃないとユキ。それと大型テレビだ。うへー。すぐ持って来い。

 子供の教育に良くないと食堂兼休憩所を立てる。仕事のない大人はただ飯食ってベンチでゴロ寝。これではもっと悪いと大人擁護施設を併設する。さらに2ha借り増しだ。こちらには製材所、炭焼き、陶器など付ける。講師には近くの現役が来て指導する。市価の半値で買い取ってくれる。その半分を日当に与えた。現金なものでしっかり働く。仕事がなかったのだ。さらに日当の半分は彼らのために預金しておく。蓄えの習慣がない民族である。各人の預金額を開示すると貯蓄意欲が出てきた。
 お金って何だ?モノを買うものでしょ。モノって何だ。ものはものでしょ。労働はものか?モノじゃないけど買えるよ。ソクソク=性交は?買えるけど良くない。違法だ。雨の
日には経済を教える。いつ買える?いつでもお金があるだけ。そうだな今日買わなくてもいい。どうしてなの。どうしてかな。お金は腐らないから。魚は腐る。水の中にいたら
腐らない。でも喰えないじゃないか。喰うときに捕まえればいい。簡単じゃないわ。養殖すればいいんだよ。施設にはいっぱいお金がかかるわ。そうだなあ。
 日本の旦那にきいて見よう。だからさお金をためればいい。どうやって。毎日すこしずつ。値上がりするぞ。廃業する奴から安くかえばいい。考えることがない民族にしては上出来だ。『お金は買うもの、蓄えるものでしょ』ユキも話しに加わる。ティータ(おばさん)、このシャツいくらしたの?お姉さんでしょ。お姉さんいくらしたの?300ペソ。私も欲しい。大人になったら買いなさい。私買う、お金貯める。養殖施設は?あんたが買いなさいよ。
 金の機能には、購買力、価値尺度、価値保存がある。金を持ったことのない人間でも理解はできるはずだ。児童施設から独立させてゆくことがここの目的だ。そのためには技能、技術を習得させる必要がある。この国では職訓も教育も同時にやらなくてはなるまい。そうね、この施設利用料値上げしたら、働かないと食べていけないって教えるの。いい考えだ、仕事を与えて家計簿をつけさせよう。清美さんとも相談してみるわ。

 日本の三村で年間2億円以上の売上を出す”あやどり”を紹介する。料亭などが料理に添える楓の葉を集めるだけだが、集めるのは平均70才の娘さんたち。これにはメディア、行政が強い関心を示した。
 テレビ放映の前日大型テレビが届く。DVDが映される。たちまち人集り。自分の映像が出ると歓声があがる。土地のオーナーは一市民として協力しただけといいながら、本来市の行政としてやるべきことですねと自分をアピール。土地の担保価値が10倍なったと喜んでいる。銀行が10倍と行ったら100倍だ、この際、賃借権登記と賃料を少しでも入れておこう。そんなものかねとユキ。抵当権を付ける際こちらの同意が必要になるはずだ。愛の道路もタイヤと路面との摩擦音でラブミーテンダーと歌っていることが紹介される。これで収容人員がまた増えるだろう。

 清美から電話が入る。ユキ姉さんテレビ見ました。清美さんの擁護施設の実験よ、一度みにきて。ありがとうございます、私の方は職訓に力を入れています。そう、将来、あの子達も世話になるわね。その日が楽しみです。ほんとね、清美さんこちらは来たことないでしょ、早い内にね。ええ、努力してみます。それから、サカモトさん、子供といるとき本当に生き生きしている。でしょうね、教育とは考え方を教えることが彼の信念でしょ、その学校の先生どんな顔しているかしら。そうね、99掛ける99まで行ったら目を回すんじゃない。
 坂本の教室にはジャパユキのネルダがやってきて読み書きを教える。押しかけ先生である。やりたいことは相手の意向も聞かずにやるのがフィリピンスタイル。坂本が教室に現れるとネルダは授業中止、それなりに気を使っているのだ。この頃の教室はバランガイから食堂兼休憩所に移っていた。100ペソは50ペソ何枚だ。2枚。どっちがいい。小さい子は2枚を選ぶ。そうか、多いほうがいいか。100ペソは20ペソ何枚か。5枚。じゃあな、50ペソは20ペソ何枚か。ネルダは無理です、と言いかけてやめた、くそババアと言われる。大人たちも後ろで見ている。子供たちがああだこうだと議論する。
 男のが立ち上がる、2枚半、だから20ペソを半分に切る。後ろで大きな笑い。正解、ただな、お札を切ったら犯罪になる、プリゾンだ。本当?コインも同じだ、壊したり傷つけたらプリソン。うそー!すると警察官が来て男の子に手錠をかける。通貨毀損でお前を逮捕する。お前には黙秘権がある。弁護士を呼ぶことができる。俺はやっていない、男の子が泣き叫ぶ。九九を作曲した少女が立ち上がる、彼は無罪です、なぜなら彼は切ろうとしただけで、まだ切っていません。未遂なら無罪だ弁護人の主張を認める、と手錠を外す。拍手が起こる。少女は5ペソ硬貨を2枚もって坂本に差し出す。10ペソが欲しい、じゃあ、10ペソで売ってやる。サンキューサー。坂本から20ペソと5ペソを取って両手にとって上に掲げる。
 それは俺の金だから返してくれ。返してあげる。サンキュウ、今度は難しいぞ、正解者に5ペソやる。さー約束するか。約束する。このカップは9L入り、こっちは5L、この二つのカップで13Lの水を正確に量るにはどうするか。えー?9と5で14だろう。チートは13と言った。なら1Lのカップを持ってこい。ばかね、そんなの誰でもできるわ、二つのカップで量るのよ。じゃあやってみろ。今考えているの。 ヘっへー、5ペソは俺のものだ、最近入った少年が叫ぶ。柄が悪いので嫌われている。
 彼はバケツに水を入れてくる。9Lに水を注ぐ。手を擦ってから5Lに移す。それを無造作にバケツに戻す。今度は慎重に残りを5Lに移す。9Lは空であることを見せる。憎たらしいはねえ。9Lに水を注ぐと二つのカップをゆっくり指す。悔しい。なんであんな奴が。みんなどうだ彼の答えは?無言。子供の世界は純粋なだけに残酷でもある。 正解だ。5ペソは俺のものだな。そうだお前のものだ、持ってゆけ。ヒヒ、キンディー買うかな、ビー玉にしようかな。
今の答えを数学書くとこうなる。
13=4+9=9−5+9 さあみんな指で書いてみろ。thirteen eqaul nine minus five plus nine.これは覚えていてほしい。セール俺も5ペソ欲しい、もう一つ問題出してくれ。そうか、よし、今度は10ペソだ。後ろから俺でもいいか、と声が飛ぶ。誰でもいいぞ。これはなんだ。お星様。そう、お星様この先を結ぶと正五角形になる。先と先との距離はどれも同じ長さ、これを正確に書くにはどうするか。難しい!10ペソ約束するか。約束する。何時まで?明日の午前10時まで。9時59分はOK? OKだ、今日はおしまい。サンキュー、チート。バイバーイ。
 


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