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作品名:続 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第20回   米ドルを受取るな
 米ドルを受取るな


坂本と大平、柳は神奈川県のゴルフ場にいた。その日はコース変更工事のためクローズされていた。もちろん人目を避けるためだ。日を間違った者どうしがゴルフ談義に花を咲かせているという寸法だ。『米ドルを受取るな』といってもどうやって、外務省の大平正義が訝しそうに坂本をみつめる。それは私が一年以内にやります、坂本がきっぱり言った。柳も言葉が出ない。お二人にお願いしたいのは混乱を最小限にとどめる方策です。これはご家族の命も危ぶまれるので心苦しい。何を言われる、人類破滅を防ぐことは家族を守ることです、いや、唯一の方法かも知れません、坂本さんを支持します、ただ、さわりのとこだけ聞かせていただけませんか、柳が大平をみながら言った。新札の発行と世界通貨の創設です。できますか。できますよ、大平さん。坂本さんらしい、もう少しだけ詳しくと柳。アメリカ合衆国政府の新米ドルとの交換は10万ドルまでそれ以上は実取引に必要と認められる範囲。なるほどアメリカ合衆国連邦銀行は潰れますな、大平が笑う。では世界通貨は。これは百年ぐらいかかるでしょう。湯うだけの風呂屋には。さすが柳さん、でも戦闘(銭湯)にはしますよ。
 これほど馬鹿げた奇想天外なことをどのようにして考え付いたのですか。柳さん真似碁ですよ、印刷物を紙切れに戻すだけですよ。そうか黒幕を逆手にとるのか。天元はヘンリーウイリアムですか。そうです、大平さんは碁はお強いようでね、天元の10の10だけは真似できません。つまり炙り出し。坂本がうなづく。彼はウイリアムヘンリーの間違いじゃないですか。え?今度は坂本がきょとんとする。WH、つまり二重変態、いや多重変態と訳すべきですか、大平が自分で吹き出す。なんだ大平さんも冗談きついな。坂本さんの感化。


アメリカ合衆国の通過ではなく民間のFRB(連邦準備制度理事会)の証券に過ぎない。なら日本銀行券の方が信用度は高いといえようか。
金本位時代1ドルは金1.37g1円は金1匁=3.75gと交換されていたらしい。


 外務省の局長室に木村拓也は呼ばれた。どうかね。馬鹿な!大平はにやにや笑っている。すると、あの人ですか。新米ドルのニュースが世界中を駆け巡る。君も忙しくなるよ。はあ。嘘も百回繰り返すと本当になると言っていたよ。あの方らしいですね。出張報告読んだよ、今夜慰労会だ。ありがとうございます。それからな、馬鹿なことは馬鹿な人間にしかできないと言われたよ。我々も馬鹿になれと。そうみたいだ。
 各メディアは半信半疑で新米ドルを取り上げる。交換の上限が10万ドルつまり800万円じゃ米国民は納得しないでしょう。ただし金本位に戻すそうですから庶民には安心できる点もあります。金の保有はあるのですか。まあこれだけ大きなテーマですから多くの問題点があります、整理してみましょう、金保有高、交換比率、国際取引の決済、通貨発行権などがすぐ頭に浮かびますがどれをとっても簡単なことではありません。すると実現は難しいのではないですか。難しいです、が、重要なのはこの法案が成立施行されることです、現段階では事態を見守るしかないでしょう。すみません、つい興奮して先走りまして。無理もありません、誰しもそうでしょう。話を戻しましょう、日本にとってとくに輸出産業にとってはドル建て決済がどうなるのか、心配です。この心配不安が世界混乱させる恐れがあることが最大の問題でしょう。政府日銀はどのような反応ですか。ノウコメントです、数時間前のニュースにコメントしようがないでしょう。なるほど、そうですね、このニュースの真偽も確認されてされておりませんが世界のメディアはどう取り上げたか見てみましょう。米ドルが紙くずに、米国倒産か、米国支配の終焉、ドルは受け取れない、などの過激なものが目立つ。反米感情の多い国ですね、親米的な国は沈黙か、小さく真偽確認中と報じています。衝撃的ニュースについて橋本NHK解説委員に伺いました。さすがNHKは冷静、ところが民放各社は面白おかしく報じる。実弾入り宣伝工作の成果だ。その上を言ったのがインターネット、そこには思わず噴出すような記事、ニュース、ブログが流れる。

 馬鹿な奴だよ朝顔(アメリカ)は 気(金)のない竹(ドル)に
 脚絡をめ あなただけよとしがみつく

 アメリカは民間銀行に支配されたあわれな国である。
 その民は生まれながれにして国家の借金利息を払い続けるのだ。自由の国の民は偉い。 
 それは日本も同様だ、そのアメリカ国債を持されて踏み倒される、五十歩百歩である。
 同時テロ、疑念生じれてアビン消される(狡兎死して狗肉煮られる) 
 ほんなことアルカイダ

 戦争は金持ちが起こして貧乏人が戦地に行く 今も昔も西も東も
戦争を起こして武器を売りつけ金を貸す その名は死の商人またの名は
 ウイリアムヘンリーWH、多重変態者とは俺のこったー。
 ロケット砲 せめて1つ分の食料を 難民一同

さらに、無責任な記事は、つづく。アメリカ議会新ドル発行準備-発行権は政府に!新ドル発行に向けて法案の骨子がまとまった。最大の関心が寄せられている新ドル発行は政府もししくは新設アメリカ銀行(日銀に相当する)なる模様。また米国債はデフォルト(踏み倒し)の公算が大きい。 これに伴い米国債の売却が進むのは確実視される。ヨーロッパ主要国も歩調をあわせ中央銀行の国有化もしくは新設に踏み切ると見られ経済混乱は避けられないとの懸念が広まっている。ロイターの名前を勝手に使っている。

世界通貨設立委員会の発足か、アラブ系メディアは報じる。米ドルのような実態経済の伴わない貨幣は通貨ではない、世界通貨の目的はドルの排斥にある。国際取引にドルを使うことは悪である。ドルが国際経済から姿を消すのは遠いことではない。すでに委員の人選は始まっており世界の政治家、法律家、実業家、などの中から人類の未来を真剣に考える人間が選ばれるであろう。なお、世界通貨は偽造防止技術の最先進国日本で発行される見通しである。

 デマはデマを生む。デマは反復継続が力である。人は真実よりもそれらしいものを信じる。闇の黒幕ヘンリーウイリアムが真犯人と諸悪の根源と繰り返す。誰も見たことも会ったことのない人物の悪人のイメージ像が人々の中に生じてゆく。そして成長してゆくのだ。デマはデマより出でてデマより怖し。動画ブログ雑誌の見出しを拾ってみてもあるわあるわ。その一つを見てみよう。
 
 ここ百年間の戦争とヘンリーウイリアム繰り返される金融危機はこうして起こった 
 そしてまた人口問題とヘンリーウイリアム
 −食料危機への不安独占インタヴュー:同時多発テロ仕掛け人の告白

 3500人以上の犠牲者が出るとは思わなかった。どうしてですか。ツインタワーに飛行機を突っ込ませるように依頼されて実行しただけだ、ビルが崩壊することは予想しなかった。仮にそうだとしても飛行機の上客乗務員が犠牲になるとは思わなかったのですか。思いました。ではなぜ。百万ドルで魂を売ったからだ。金を手にしてどうでしたか。空しかった。依頼人の名前は。言えない、言えば殺される。数百人の命を奪ったにも拘らず自分の命は惜しい。魂を売った者はそんなものだ。では、ビル崩壊はどう思いますか。俺のように爆破を依頼された奴がいるのだろう。あなたはどうしてこの取材に応じたのですか。金のためさ、これでしばらくは暮らせる。百万ドルは使ってしまった。あんたは何のために仕事をする、もういいだろう、取材は終わりだ、俺は教会に行く。
 我々は爆破に係った者、ビルを購入した者を取材しました。そして次の事実を発見しました。事件7日前5百万ドルでビル爆破を依頼された解体業者に取材しました。爆破工事はどのようにおこなわれたのですか。当日別の場所から指示に従ってビルを爆破させた。別場所は。秘密にされている。当時飛行機が2機ビルに突っ込んだことは。知らなかった。解体工事は何時から何時まで。爆破の前3日間、いや爆薬の埋め込は完了していたがスイッチは4日目の午前中だったから4日間だな。爆破貴方一人が行ったのですか。依頼人の指示する時刻に爆破するには俺しかできないからな。なるほど、取材ご協力ありがとうございました。
 次に向かったのはツインタワーを含めた周辺の土地を購入した者です。取材には応じませんでしたが返って疑惑が深まりました。これは売買契約書、保険契約書のコピーです。契約日はそれぞれ事件3月、1月前となっています。そして彼は35億ドルの保険金を手に入れました。何故殺人、詐欺で逮捕されなかったのでしょうか。彼が依頼人が合衆国政府であればどうでしょうか。イラク侵攻の理由付けシナリオの一環と考えるのが自然でしょう。知名度の高いビレラディンを犯人に仕立てフセインを殺す、このシナリオは、誰が。そうです、闇の帝王ヘンリーウイリアムしかいません。
 彼の目的はイラク侵攻でした。イラクで在庫の武器を消費すると新兵器を軍に売りつける。購入資金は米国債を担保に貸し付ける。払うのは米国民。この国は彼の植民地でしょうか。国民は彼の奴隷なのでしょうか。兵器売買契約書、資金貸借契約書はあれから10年立った今も何故公表されないのでしょうか。私は今自由の女神の前にいます。その顔は悲しげです。戦争とは、アメリカ合衆国とは、改めて考えなさいと言っているのでしょうか。

 WHことヘンリーウイリアムはいらだっていた。世界帝王たる自分に真っ向勝負を挑んで来た者がいたか。しかも自分の手法が真似られるとは、いい手は真似であってもいい手なのだ。経験したことのない嫌な気分だ。すべてを見通せる眼を持っていても今回はデマを止めることができない。しかもデマはこの自分に対するものだ。許せぬ、と憤激するが有効な手立てがない。攻めは強いが守りは弱い。いや、今まで守りは必要なかったのだ。

Juppiter omnipotes, audacibus annue coeptis
(全能なるユピテル よ、危うき企てを善しとしてください)

合衆国州国およびその国民は我々に上納金を、そして
我々の意に背くなともとれる。










すべてを見通す神の眼 ルシファー(サタン)の目とも



新ドルのうわさは観光客に影響を与え出した。米国外とくにアジアでは米ドルを敬遠し始める。為替市場に大きな変化はないが巷ではドルは7掛けで決済される。ドル売りが始まる、市場に影響はないが心理は恋愛に似ていやになると憎しみに変わる。外国に出稼ぎに出ている労働者は給料を円に換え始める。これがブラックマーケットではドル安に拍車をかける。反米国はこれ幸いにドルの受取拒否に走る。水の流れは簡単ではないが止めることは可能だが、潮の流れは止めることはできない。イスラムを主流とする潮流は支流を生んでゆく。原油取引ではドル建て決済お断りなった。流れは大きな流れに寄って行き、さらに大きな流れになるものだ。

 突然ニューヨーク為替取引所に発煙筒が投げ込まれる。コンピュータが作動しない。何事だ。百人ぐらいの子供がなにかばら撒いている。磁石だ。ものの1,2分のことだ。子供たちは引き上げてゆく。そして散らばって行った。終わりました。ご苦労さん、10ドルが100枚、みんなに配ってくれ、これは君の取り分だ。ありがとう、少年は10ドルを受取る。それから、みんなに伝えてくれ、今日のことは忘れろ大人になって思い出せとな。わかりました。10ドルをもう一枚、これは次回の手付。その1000ドルは残ったら。君の好きにしたらいい。もしぼくが持ち逃げしたら。君はしないさ、君は友達を裏切らない。そうですね、世界平和に貢献しているのだ。そうだ、また頼む。OK。為替取引が中断したことはドルに対する不信となって現れる。取引所にはえらい迷惑な話である。警備員も500ドルずつ握らされている。突然子供がどっと来たもんで、どうしようもなかったなどとぼけている。

 数日後は大手銀行の振込みが停止した。下手に騒ぐと次は電力会社だ、との書き込みがあった。ハッカーと呼ばれるコンピューター不正侵入者だ。このニュースは為替取引中断事件から眼を背けらすことになった。ハッカーはパキスタンから侵入したようだ、としか発表されなかった。銀行、電力会社に問い合わせメールが殺到する。サクラのメールがブログに転載される。これが呼び水となって投稿が相次ぐ。軍事施設、ホワイトハウスは大丈夫か、と真面目な小父さんの質問に野次馬が勝手な意見を述べる。この国の政府は人民の人民による人民のための政府でないからだ、今こそ闇の帝王WHの支配から脱却して真の自由と独立を勝ち取ろうなど無責任な発言が寄せられる。インターネットは善も悪も等しく送信し受信する。管理ができない世界だ。


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