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作品名:続 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第18回   砂漠の娘
                砂漠の娘

 シャハラザードは明け方無事女の子を産んだ。潮の満ち引きと関係があるのだろうか。坂本のよろこびは全てを語っていた。お前のお母さんは美人だがお前はもっと美人だ。どうだムバルク、俺の娘はお前の娘より美人だろう。そのとおりだ。ということはお前は世界一の美人だ、今までお前のお母さんが世界一だった。ムバルクの妻もあきれていたが、すぐ笑い出してしまった。
 ムバルク、世界一美人の孫にふさわしい名前をつけろ。わかっている、しかしリュウジ、俺はお前の義父である、わかるかな。イエッサー。敬意を払わなければいけないな。イエッサー。うん、よろしい。私にも抱かせてと妻が抱く。おお、可愛い。ママ私の娘返して。何を言ってるの私の孫だよ。パパ。もう少しだけママに貸して上げなさい、彼女に素晴らしい名前をつけあげるから。


 坂本は産後の女の神秘的美しさに畏怖の念を抱いている。今回も至福を感じる。女医と看護婦たちに日本の札を礼に配る。まあ、きれい、彼女は。小説家樋口一葉。彼は。医者野口英世。え、政治家でないの、私お金もらってこんなにうれしかったのは初めて、一生の宝にするわ。そこへ西田、河野たちがやってきた。おめでとうございます、これはお祝いです。ありがとうございます。お祝い。うるさい、人が話しているときに邪魔をするな。赤ん坊を見てお母さんに似て可愛い子ですねと河野がいう。坂本がむっとする。婿殿は何故怒るの。さあな。
 西田が今度浴衣をお持ちしましょう。藍染に赤い帯がよく似合うと思いますよというと坂本の顔がほころぶ。白に黄色の帯もいいですね、と河野。今度は西田がむっとする。日本人は感情を素直に出すのですね、でもそれは他の人を幸福にする、すばらしい文化ですね。ドクター、貴女は美人にしてかつ名医である。ムバラクは日本人を踏みにじって金を得たことに恥じていると言ったダヴィッドを思った。


 失って初めて自由になる、セネカでないがムバルク、カファフィ、ダヴィッドはそれを感じていた。富と権力の魅力と空しさ。日本民族とは不思議な民族だ。日本人の金持ちは英知と努力によって富と地位を得ている、だから尊敬されるのだとカダフィが言っていたな。しかし、この日本人が現れなかったら我々が手を結ぶことは考えもしなかっただろうとダヴィッドが昨日言っていたな。
 未曾有の災害にもめげず、人間の尊厳と誇りを失うことなく困難に立ち向かう日本人に世界が驚き力付けられていることに三人は、改めて感慨を感じたものだった。この民度の高さは民族の長い歴史の中で育まれてきたものであろう。国民と国家が調和している国だとムバルクは思った。

 みどり児は人を幸福にするものだな、しかし、あんなに素直によろこぶ父親もすくない。それが母親には何よりですよ、とムバルクの妻が応じる。この子にはどんな運命が待っているのでしょうね。両親に愛される子は幸せになるに決まってる。そうですね、私たちにも愛されていますからね。


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