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作品名:続 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第17回    反ムバルク勢力
                 反ムバルク勢力



 エジプトの反体制の勢いは、隣国リビアのみならず、シャハラザードの父ムバルク大統領にも向けられていた。坂本は舌打ちした、連中か。捕虜収容所、シャハラザードの身および大学が案じられる。 どうしたものか、思案していた。柳が茶をたててくれる。客は陳とカルロスとで三人だ。
 坂本はどう切り出すか迷っていた。飲茶はまず香りを味あう。気が落ち着いてくる。連中も金に困ってきたようですな、柳がさりげなく口を開く。主の接待に客も話し始める。身代金、宣伝費、建設費と出費がかさんでいるのでしょう、陳も静かに応じる。今度の反政府運動は資産凍結かな、カルロスも小さな声で加わる。富と権力か、日本の支配者の多くは富豪でなかった、質素な生活を心がけた。徳川幕府が長期政権を保った理由のひとつだ。
 昔から日本人は富豪の支配者を嫌いますな。それと原油が値上がりすれば儲かる。連中は値が動けば利益を得る。今日は陳がよく喋る。値段を動かなくすることはできないか、無理だな、坂本が自笑する。 坂本さん、その女が手がかりになるかも知れませんよ。なるほど。カルロスが写真を撮ったはずと陳。十二湖で、か、ちょっといい女だったな。一寸失礼します、坂本は清美に携帯で女の写真を送るように伝える。


 女の写真を見て柳が調べてみましょうと言った。この女情報収集をやっているのですか。そうでしょう、日本に限らず政府高官は女に弱いですから。明日日本の外務省に行って来ます、電話お借りしてもいいですか。固定電話のほうが盗聴されにくい。大平局長は、明日3時に清美さんとご一緒にお越し下さいと答えた。坂本さんの電話は短いですな。柳さん、彼は気も短い、カルロス、お前の息子にその女、籠絡させろ。陳、何故俺に?お前だから。?お前の息子だから。??

 太平洋戦争

 柳さん、太平洋戦争も連中のシナリオでなかったでしょうか、坂本が思いつめたように切り出す。といいますと?信長の世界支配構想はあったものの見果てぬ夢であったでしょう。明治政府が日清日露戦争に踏み込んだのはロシアの南下を恐れてのこととなっておりますが、当時のロシアにそれだけの勢いがあったでしょうか。それも闇の黒幕の情宣活動の結果だと坂本さんは言いたいのですか。そうです。どうしてそう思うのですか。創業間もない明治政府が朝鮮に進出するのは時期尚早だったでしょう。事実征韓論は閣議で否決、西南戦争を考えると当時の日本に朝鮮進出の力があったとは、またそれだけの値打ちがあったとは思えない。続けてください。
 何でも連中に結びつけるのはどうかと思われますが、柳さんが言われたように女じゃないでしょうか。日本政府高官の中に籠絡されたのがいたと思われます。朝鮮討つべしと世論を煽る。次はロシア南下の脅威を炊き付ける。日清の国力を比較すると日本が戦争に踏み切る度胸があったでしょうか。
 日清日露太平洋戦争は連中のシナリオと?国家ヴィジョンとして中国米国を敵に回すという構想があったとしても不思議ではありませんが実行となると非現実、狂気だと誰しも考えるでしょう。それを押さえつけて戦争に持ってゆくには連中の力なくしては考えられません。なるほど、柳が相槌を入れる。
 明治政府は欧米支配を恐れての革命であったのですから政府高官が自殺的自滅的判断をするはずがない。また日本国民も戦争を好む民族ではありません。なのに戦争に突き進んでいった、連中はどうやって高官を籠絡して世論を動かしたのでしょうね。

 それはわかりません、その点を柳さんに教えていただきたいのです。満州国に留まっていれば諸外国もだまっていたでしょう。ノモンハン事変、盧溝橋事変を関東軍の起こしたものとしてもそれは実行犯で教唆犯(黒幕)は連中としか考えられない。どうしてですか。日本式でないのです、手口が、これは感覚なので説明がむずかしいのですが。連中の手口だと、真珠湾と9.11同時テロとを重ねているのですね。そうです、真珠湾はアメリカ合州国が反戦輿論を抑えて第2次世界大戦への参戦口実づくり、9.11同時テロはイラク侵攻の口実づくりであったことは今で疑いの余地はないでしょう。坂本は自分の言葉に興奮していた。
 まるで人類どうし殺し合いさせるのが目的としか思えません。戦線拡大、消耗戦に持ってゆくのが基本戦略、いずれが勝うが負けようが兵器の使用量が増えれば良し、かてて加えて戦後復興資金を貸し付けて稼ぐには被害が大きいほど良い、と考えているのでしょう。
 なるほど、マリアナ海戦で大和武蔵がレイテ湾に向かわず引き返したのも、マッカーサーの上陸を助けるため、あるいは、日本全土を戦場にするための連中の戦略と考えれば理解できますな。ということは日本軍の高官も篭絡されていたことになるのかな。そうでしょう、柳さん、日本軍司令部がそれほど馬鹿とは考えられません。転戦に反対した将校たちは飛ばされて戦死しています。インパール作戦も同様です。まるで日本兵を殺すための
作戦としか考えられませんが、これに反対した大本営の将校たちは左遷させられています。しかも立案者には咎めなし、たなれば一部高官たちが奴らに篭絡され買収されたとの状況証拠にはなるでしょう。
 全員玉砕、日本国民を戦場に駆り出し自決せよとは日本軍人が言う筈がない、買収された一部の高官と軍人が連中の手足となったとしか思えない。坂本さん、売国奴はどの民族にもいるのか、それだけ連中の経営が凄いのかと柳が相槌を入れる。。連中が日本に関心を持ったのは幕末つまり19世紀に入ってからであろう、短期間によくそこまで食い込んだものだ、それだけ恐ろしい相手だ。日清戦争から第2次世界大戦までのシナリオも連中が?ええ、そしてシナリオどおりにことは進行したと思われます。激情に駆られた坂本を訝しそうに三人が見つめる。

 坂本はたぎる憤懣を吐き出す。海に漂流するイギリス兵400名を救助したイカヅチの艦長以下200名の日本兵の話をする。その話は初めて聴く、と陳が驚く。何故敵兵をとカルロスがつづく。武士道だ。武士道?とは。仇なす者には敢然と立ち向かうが敗れた者傷ついた者はもはや敵ではない、人間だ。なんと崇高な哲学だ、カルロスが叫び声を上げる。
 戦争が拡大するほど連中の売上は上がりますからね。今即答できませんが坂本さんのお考えは傾聴に値します、研究しておきましょう。柳が静かに答えた。よろしくお願いします。リュウジ今日は燃えているな、カルロスが叫ぶ。俺の兄貴はフィリピン沖で米軍に輸送船が沈められ海の藻屑となった、二十歳だったそうだ。Sorryすまない。カルロスお前が謝ることではない。龍次、今のSooryはお気の毒という意味だと陳がとりなす。おれは売国奴と連中は許せない、市中いや世界中を引き回し獄門晒し首、ではぬるいな、死の恐怖を繰り返し与えて発狂させるか。拷問を世界にリアルタイムに公開してやる。そう簡単には殺さないぞ。生きているうちに解剖してどのような遺伝子を持っているのか調べてみたい。

 連中は何を恐れているのでしょう、柳は静かに聞いていたが坂本を煽っているようでもあった。食料危機でしょう、人口増加は戦争、病気で抑制してきたが手っ取り早い核兵器の使用を検討したのでしょう。原爆投下、水爆事件はそのためかな。そうだ陳、中国に投下しても不思議ではない、しかし、食糧危機が深まるから可能性は低いとおどかす龍次。ソ連を崩壊させたのは食品相場、食料は武器以上に効果的だと考えているようだ。日本の自給率を40%以下までもっていった。食品特許のほとんどを米国が押えている。クリントン時代遺伝子研究に6兆ドル予算を組んだ。姿を見せないから苛立つ。リュウジ連中は光が嫌いなのだろう、何千年と闇の中にいるから一度光を当てたらイチコロだろう。カルロスは暢気だな。八つ当たりするな。日本武士道を廃らすには、女、金、麻薬かとカルロスが反撃する。
 日米開戦に反対した者は殺され、あるいは外された。日本の都市爆撃に反対した米軍人も同様だった、武器使用売上策に反対する者、障害になる者は取り除くのが連中の基本理念だ。人類はいつまで連中を好きにせておくのか。

 その夜話したりない大本営の腐敗を清美にぶつける。奴らは日本だけでなく日本国民をも犠牲にした。あなたのお兄様と私の祖父の仇は必ずや果たして見せますと坂本を胸に抱く。安心したように坂本が寝息を立てるとやさしく頭をなでる。今度の子はあなたに似て向こう気が強い男の子よ、祖父にも顔立が似ているの。私あなたの精を吸ってもっときれいになる。もっと強くなる。あの女白井貴子から家族を守るわ。坂本は子守唄のように聴いていたが覚えていなかった。
 夢の中で坂本はセブに向かって歩いていた。溶岩のむきだしたところでは足が痛い。日本のようにやわらかい土は少ない。レイテからの逃避行だ。これを日本軍は転進という。オルモックでは米兵が日本刀で切られた。止めを刺しますと坂本が申し出る。太ももの付け根を縛るとお前はすでに死んでいる、わかるか。イエス。兵の銃を突きたて兜を載せる。good luck! 坂本は敬礼してその場を立ち去る。セブ市へ向かう日本軍30名がダナオで休憩しているところを米軍に取り囲まれる。隊長殿自分に任せてください。坂本は進み出ると米将校に話しかける。この周りには日本軍が大勢いる。5000ドル払うならお前たちを安全に送ってやる。そんなことは信じない。それは自由だ、隊長はボストンに行った事があるインテリだ。だからこの取引をするのだ。わかった。安全の保証は。俺がお前のキャンプまで同行する。将校が手を上げると米兵は整列する。隊長殿捕虜を海岸まで移送して参ります。

 外務省


 翌日、清美を連れて外務省に大平を訪ねる。今日は山田さんの入国ビザの事情聴取ということにしてありますので、と大平が打ち合せ室に案内する。清美のパソコンから女の写真をフロッピーに落とす。事情はわかりました、早速当たってみましょう。リークのほとんどが色仕掛けです、女が金を要求しなければ目的は情報以外にはないでしょう。大平さんにご迷惑がかかるのでは。日本買いがこんなに進むとは、坂本さん、私も国のために死んでみせますよ。
 エジプト、リビア、イランの動きは。あなたのお考えのようです、そうだ、山田さんしばらく私の姉のところにおいでませんか、子供も外に出て一人暮らしです。この際、ご好意に甘えさせていただくか。はい、お願いします。今、その女、大使館から出てきました。大平と若い職員が緊張する。たくさんあるなかの大ききなものです。危険な女。坂本は清美の腕を取って立ち上がる。
 その後どうだ。彼は単なる永住者ではないようですが具体的なことは未だ入って来ておりません。細かいことでも逐次報告してくれ。わかっております、山田さんは安全確保と情報収集ですか。そんなところだ、大使館は合衆国か。おそらく、しかしいるんですね、超能力をもった人間が。しかも美人、だが既に子持ちだ。彼の、、。彼は太平洋戦争もその闇の黒幕のシナリオと考えているようだ。円高、株安、年金、アメリカ国債を考えれば容易に想像できますね。そうだが、大切なのは彼のように行動に移すかだ、我々も面子をかけて日本買いを阻止せねば。


 外務省の動きは速かった。女の名は白井貴子、朝鮮人三世、米コロムビア大学中退。その美貌、頭脳、沈着さ、諜報部員になるために生まれてきたような女だ。柳の調査とも符号する。坂本は両者に大きな力を感じた。話はカルロスの隠し子マリオになる。日本に昨日着いたばかりだが色男振りは父親を凌ぐ。なに、頭のいい女ほど色に弱い、緊張に堪えられなくなったとき色欲に勝るものはない、色欲が人類に多大な貢献をすることはめったにない、陳が推薦の激をとばす。Mario は任せてくださいとにっこり笑う。


 大平の紛争分析は@資産凍結すなわち没収による増収A原油価格の上昇および下落による当面の利益確保。反対勢力のほとんどが50$ほどでデモに参加している、体制側も傭兵で対抗。難民だけは増えている。というもの。レバノンまで跳びたいと言う坂本に大平は見合わせたほうがと首をかしげる。
近くで反体制のデモが紛争になりってきています。だから行くのだとは言えなかった。
 大平は察したのかように言った。近く職員を派遣しますが同行されてはどうですか。意図がわからないが今の坂本にはシャハラザードの安否が気になる。お願いできますかといってしまった。出発は3日後。ハジ議長に電話をいれる。捕虜つまり来客がないから水揚げが減ったという。なおさら泊り客を大切に扱えよ。わかってる、気をつけてな。

 カダフィ大佐



 エジプト、リビアの邦人に被害はなく、首都以外は平穏であった。若い職員はてきぱきと動く。大使館だけでなく在留日本人にも直接話を聴く。指導者に支持が高かったのに不思議ですね、急変した感じですよ。権力の座に着くと富を蓄積するというのは。デマでしょう、多少はあっても長い間民衆にばれないとは考えにくいですね。
 やはり闇の黒幕のシナリオと坂本は思った。よし、ムバルクとカダフィに会おう。ムバルクとは2回目だ。政権を明け渡してしまえ、一時充電しろ。この国がお前を必要とすれば呼び寄せるであろう。そうするか、闇の黒幕掃討が先か。そういうこと。カダフィ大佐に会いたい。これを持って行けと紹介状を書いてくれた。


 リビア首都トリポリに入る。どうします。正面突破だ。これをかけろ。軍艦マーチだ。デモ隊が振り向く。窓を開けて通せ、と叫ぶ。日本人だ。セール、どこへ行く。真直ぐだ。危険だ。注意する、ありがとう。今度は兵が銃を向ける。どこへ行こうとしているのだ。真直ぐだ。なんのために。観光だ。ここから先の
立ち入りは禁じられています。誰に、そいつを呼べ。兵はたじろぐ。車が発進する。
 階級の上らしいのが近づいてくる。止めろ。セール観光旅行ですか。そうだ。今は観光にはいい時期でないと思います。しかし日本から高い金を使ってやってきた、名所ぐらいは観ないと元がとれない。しかし危険がいっぱいですぞ。日本国政府はできるだけのことをするよう要請しているとパスポートを見せる。この国の政府はこの要請に応えられないのか。この国の責任者を呼べ。案内しろ、乗れ。命知らずは強い。
 車が前進する。空から大音響の軍艦マーチが落ちてくる。この車に危害を与えるものは天の炎に焼かれるであろう。兵の撤兵とデモの解散を命じます。謎の飛行物体が閃光を放つ。双方の多くが目をつぶる。閃光には熱線が伴っていた。恐怖感は一目散の撤兵デモ解散を強制する。


 カダフィ大佐は坂本を丁重に迎える。せっかくお越しいただいたのに取り込んでおりまして。みたいだな、これムバラクから。一読すると私にも同じことを。そうだ。そのためにここに。お前もこの国に永年尽くしてきた、少し休憩する時だ。この紛争を終わらすにはお前が下りるのが一番早い。わかった。では何か食わしてくれ。
 なかなかの食堂だ。かっての貴族もこのように食事をしたのであろう。これから予定は。シャハラザード大学に行く、お前も一緒に来ないか。坂本はビールのジョッキを上げる。坂本さん、一日待ってくれ、やっておくことがある。それはいいが客がビ−ルを飲んでいるのに接待側のお前が飲まないとは無礼だ、そもそもビールは、イスレム文化の最高傑作だ。わかった、俺も飲むよ、質問していいかな。
 なんなりと。今は闇の黒幕の乗っ取りを阻止するには国の力を蓄えるべきと。そういうこと、明治維新では徳川政府側が大幅譲歩、権力を天皇に差し出したから日本は植民地にならずにすんだ。このときの権力者最後の将軍が日本を救ったとも言えよう。もう少し、詳しく話してもらえるか。政府側の兵力が圧倒的に革命軍に勝っていた、が、政権を天皇に返還した。何故だ。国を二分する戦は長引くほど英仏の商人が儲かる、日本人の血が流れる。下手すれば日本が乗っ取られる。彼の英断で日本は助かった。その後の彼は。政治から身を引き趣味に明け暮れた。お前も革命軍の政治手腕はと見物しておればいい。
 なるほど、もう一点、日本は日本人を殺戮した米国にべったり付いて行くのは何故かな。今は、米国は日本に仇為さない、害を与えていないからだ。原爆を落した米国が憎くないのか、レイプされて愛人になってしまった、節操がない。それは言い過ぎだろう。ソ連北朝鮮から身を守るために身体を売っても心は売っていない。坂本が声を荒げる。原爆は日本人を殺戮したのではない、人類の一部を破壊したのだ。人類が存続するかぎり連中を責め続けなければならない。やったのはアメリカ政府、つまり連中の指示を実行しただけなのだ。すでにアメリカは。ヨーロッパ諸国もだ、とっくに支配されている。

 カダフィはこの訳のわからない日本人の顔をみつめる。最近日本は米国債を持たされ、株も下げられているようだが。20年前からだ。株を吊り上げておいて切り落とす、連中の常套手段だ。日本はアメリカにくっ付いて戦後賠償額を値切った、軍事費は節約して経済大国になった、利子をつけて返してもらおうと連中は考え出したのだ。円高は米国債の支払いを安くするため、株安は日本買収を容易にするためか。それ以外にあるか。ないな。
 サダムフセインは石油の決済ドルを蹴ったから殺されたのか。今度は坂本がたずねる。そうだ。あれほどの男がクエート侵攻をそそのかされて殺されるとは。ドルを蹴ったのはいいが、やり方が子供ぽくないか。フセインが可哀想だ。お前たちイスラムは長い歴史と文化を持っている、何故、結束しないのだ。カダフィが答えに詰まる。連中のいうとおりにならないのは日本とイスレムだ。お前もリビアだけを考えてる時ではない、
 連中掃討に協力しろ。わかっている。なら日本国債を引き受けてくれ、お前金を溜めこんどるときいたぞ。奴らのデマ。だろうな、日本は復興に金が要る。申し遅れたが今度の地震津波の被害に心からお悔やみをいう。そうか、ありがとう、見舞金をくれ、ほんの気持でいい、赤十字にでも。それと日本国債引き受けてくれ。米国債を担保に出す。米国債は人気がない。やはりそうか。しかし円買いドル安は米国債の売却を阻止するためであろう、リビアも同じ手口でやられるぞ。だろうな、やはり日本人はしたたかだ。米国とまともに戦争したのは日本ぐらいだ。そうだな、できるだけの援助はする、短い訪問だったが日本はいい国だった。

 シャハラザード大学へ

 運河を舟でシャハラザード大学に向かう。ムバラクと落ち合う。最高権力者に外務省の職員は驚く。坂本さんはいつからのお知り合いですか。カダフィとは昨日から、そうだ二人に君を紹介しておこう。君の名前は。木村拓也です。二人はにっこり笑って握手する。大政建設の河野所長が案内してくれる。カダフィ大佐、日本人は背は低いがやることは大きいな。まったく、日本に行って美しい国と思いましたが大統領と同じことを感じましたよ。
 木村が大平局長からの伝言を坂本に渡す。黒幕の名はヘンリーウィリアム、Henry William 。誰からの情報だ。山田清美さん。その前は。聞かないでくださいと局長に言われたそうです。そうか、ありがとう。二人に見せる。沈黙の後、二人はヘンリーウィリアムを調べろと指示を出す。知っているのか。ああ、名前だけは、黒幕のうわさはあった。その顔を見た者はいない、ムバルクがつぶやく。カダフィも黙ってうなづく。
 舟が動き出した。河野所長地震の被害額はどれぐらいになるでしょうか。そうですね、1000兆を越えるでしょう。瀬戸大橋が1兆ですから原発を含めるともっと行くかもしれませんね。所長、円の需要が高まる。そうでしょう、日本の復興資金は円でないと払えませんから。円の調達は、株式海外資産の売却、国債発行、世界銀行あたりからの借入ですか。そんなところでしょう。
 ということは連中にはビジネスチャンスということか、ムバルクがうめくように言った。、くそう、買い叩いておいて復興したら高値で売り捌いて行くのだろう、許せん、汗水垂らさず濡れ手で粟。坂本が興奮する。今に始まったことでないでしょう、と河野所長は冷静だ。所長、この運が半値にいや10%以下に買い叩かれたら平気でおられるのですか。面の皮を剥いでホルマリン漬けにしてやる。いやいや、その前に世界中に晒して死の苦しみ以上をじっくり味あわせてやる、簡単には死なさぬぞ。
 この日本人は激情するのだな。そうみたいだな、まあ、純粋とも言える。いえてますな大統領。舟が港にいる。お茶でもと所長が事務所に案内する。日本人職員は笑顔で迎えるが現地人は緊張している。ムバラク大統領とカダフィ大佐だ、こちらは坂本さんと木村さん。職員はそうなんですかと歓待するが態度も表情も変わらない。よく砂漠を緑に変えたものだとカダフィが讃える。これが着工前の写真ですと河野が壁の写真を指差す。おお、ムバラクが嘆声を。彼も初めてらしい。建設の話を聴きたいですな、大統領。ああ、是非とも。
 お茶が出される。日本の茶は美しくて美味い。俺は初めてだ。私ども大政建設は運河を担当しまして大学は鹿嶋建設が担当しました。緑化は共同で行いました。一番苦労されたのは、カダフィがきく。河口から海水を入れるときですね。水圧に耐えられるか、心配したものです。あなたの報酬はいくらかなとムバルク。報酬は、あの緑とこの運河です。この仕事は子供に胸を張って見せることができます。二人が顔を合わす。日本の契約は会社とシャハラザード大学だ、所長以下の職員にマージンはない、せいぜい賞与が少し上がる程度だ、と坂本が説明する。と、所長は特別ボーナスをもらっていると職員が冷やかす。
現地人もにやにや笑う。娘が顔をふせて外にかけだす。なるほどと二人がうなづく。
 港湾設備、ホテルなどをさっとみて大学に向かう。緑化の水はどうしたのかな、とカダフィ。ムバラクがにやりとする。雨乞理論を聴いているのであろう。それは西田所長が詳しく話してくれるでしょう。両岸の人が河野所長に手を振る。すっかり友達だなとムバルクが感心する。大学が見えてきた。おお、と二人が声をあげる。


 西田所長と父っつあんが出迎えてくれた。坂本はシャハラザードの下へ。西田所長は挨拶すると一回りしますかとヘリに乗せる。大学の周りにも木々と穀物、草原が緑を湛えている。ムバラク、カダフィは息をのむ。砂漠に、と声がつづかない。父っつあんがマイクをとると今日は客人がある、晩飯食いに来いと怒鳴る。地上から手を振っている。父っつあん怒鳴らなくとも。俺のやり方だ。西田はマイクを取り上げると月の砂漠をはるばるとと歌いだす。人々は地上から笑いながら手を振っている。父っつあんがマイクを奪い取る。雨がやってくる、洗濯を取り入れろ、大雨になる、早く俺の家にやってこいと怒鳴る。カダフィが西田の顔を伺う。父っつあんちに下りるか。それがよい、今日の雨は激しそうじゃ。
 すでに若者たちが家畜を柵の中に入れている。大きなテントをかけている。女たちは料理の準備に忙しそうだ。本当に雨がくるのか。みたいだな。三々五々に集まってくる。ラクダに水を飲ますと柵に入れてゆく。宴会が始まる。二人はこれは大学のオーナーの父親、隣はその友人と紹介される。これは何か、西田が叫ぶ。麦のジュース。このジュースはイスラムが発明した。わかっている乾杯だ。では長老。遠方からの友人を迎えて乾杯!カンパーイ。テントの中は30人以上。女も同席するようになっていた。日本文化が取り入れられているのだ。飲んで食ってしゃべって、二人もイスレム、砂漠の民、話ははずむ。つまると日本人が通訳する。楽しいのう、カダフィが踊り出す。ムバルクも踊る。昔はこんなふうだったと二人は思う。


 一陣の風が吹き抜ける。雨気を孕んでいる。やがてテントを激しい雨粒が叩く。おお、神よ、二人は神に祈りを捧げる。雨は激しさを増す。婿殿あの日本人は頑張っておるの。そのようですな。テント内爆笑。カダフィだけが天井桟敷。雨の神は女の裸が好きなのだ、大佐、そのうちにわかる。そのうちに、坂本はあれをやっているのか。真っ最中。激しいのう。
 酔いつぶれて眼が覚めると朝日がまぶしい。朝食をすますとラクダに乗る。貯水池には水が満々。ラクダ径に木がトンネルをつくっている。水路が畑に水を供給している。砂漠の民が夢見てきたことが、カダフィが叫ぶ。運河からの風が心地よい。昼前に鹿嶋建設事務所に着く。少年がラクダを小屋に連れてゆく。所長は二人よりも上手い。ありがとう。彼はラクダの先生と河野が説明する。
 二人は建設工事の説明を受ける。感嘆しているところにシャハラザードが病院に運ばれたと伝えられる。ムバルクは子供が生まれるすぐ来いと妻に電話する。坂本さんは。病院です。我々が成すべき事は。ありませんよ、西田の妻、父っつあんの娘が言い放つ。子供は明け方に生まれるものです。お産に男は邪魔ですよ。うるさい、ともかく見舞いに行こう。
 病院では坂本がそわそわしている。ムバルクが娘を抱きしめて頭にキスをする。間もなくお母さんが来るから元気な子を産みなさい。ありがとう、お父様。カダフィはシャハラザード起き上がろうとするのを制して手の甲にキスをする。担当医が説明を始める。母子共に異常はありません、生まれるのは午前4時ぐらいでしょう。父親は貴方ですか臨月の妻を愛するのは控えてくださいね。以上です、みなさまお引取りください。我々が付いておりますから。


 一行は病院を追い出されて大学を観て回る。ミスター坂本。おう、ダヴィッド元気か。ああ、お前顔色がよくないな、昼飯は。まだだ、食う気がしない。大丈夫だ、麦のジュースを飲めば食欲が出る、奢ってやるから一緒に来い。我々も昼飯にしますか。おお西田所長お元気か。ありがとう元気です。みなさんご一緒にどうですか。ダヴィッドこちら、知っている、ムハマド大統領とカダフィ大佐だ。ダヴィッドベングリオンです。二人と握手する。
 食堂でビールを飲む。ミスター坂本何かあったのか、困っているなら力を貸そう。ありがとう、その必要はなさそうだ。ダヴィッドは二人の顔を見て、どうしてここにかと、この男に拉致されたのですよ、と笑う。なるほど、二人が笑う。ほかにも数名おります。ほう。世界情勢、今後のあり方が与えられたテーマですわ。面白そうですな、あなたはダヴィッドベングリオン首相に似てられますなあ、とムバルクがとぼけてみせる。父です。そうでしたか。
 ミスター坂本は、我々を諸悪の根源と決め付けている。同胞の多くを連れ去った。みな無実だ、闇の連中と同視されるのは心外だ。ほう、利いた風な口を利くじゃないか、俺が拉致したって、坂本が凄む。高層ビルに飛行機が突っ込んだだけでビルが崩れ落ちるか、そんな柔な設計で数十年も立ち続ける事ができるわけはない。解体費を浮かすためだ。一月に前にビルを購入した奴は数十億ドルの保険金を受取った。売り手も収益性の落ちたビルをそこそこで売れた、双方めでたしと。所有権移転登記簿を見ればすぐわかることだ。
しかもだ、イラク侵攻の口実をつくってやったのだ、劣化したウラン兵器をイラクに投棄できた、結果、廃棄費用節減、不良在庫処分了、節減効果数千億ドルか、砂漠の民はおめでたいぜ。
 砂漠の民と言われて一同むっとする。ムバルク、カダフィにもやられてやり返さないのも同罪だぞ。こいつらはおこぼれに預かって結構貯め込んでいるようだ。おこぼれから推測すると黒幕の資産は合衆国を上回るな、これは返してもらおう。日本の震災復興費、難民救援費ぐらいは利息分だ。まあ、よく相談して黒幕逮捕に協力してくれ、謝礼はするぜ。それとダヴィッド、連中はそこにいたというだけで簡単に人を殺している、原爆投下、水爆縛実験、大韓航空、ツインタワー爆破など参考になる。俺も殺す気になればいいのだ。これにはカダフィですら恐怖を覚えた。
 坂本はいうだけ言って席を発つ。西田、河野もつづく。ムバルクとカダフィは残る。今日の彼は別人のようだ。なに明日は機嫌よくなるさ、ムバルクがダヴィッドをなぐさめる。彼は我々を砂漠の民と呼んだ、ユダヤ、イスレムと言っておれないな、俺たちも反ヘンリーウイリアムとして強調してゆかねばならないな、ダヴィッドが息をつく。彼ならこういうであろう、ムバルクがつづける。国家連合をつくって外交防衛通貨などは共同で運営しろ。そうだな、東南アジアは稲作の民か。ダヴィッド、俺は日本を観てきたが参考に
なったぞ。そうか、カダフィ、俺たちは日本の巡礼の旅に出されるかもしれない。
それはいい経験になるだろう、巡礼者は歩くことで人生を見つめ直すらしい。


 しばらく坂本の話になる。彼は相手によって態度をかえないな。カダフィそれは誤解だ、相手が美女かブスか、馬鹿か利口か、誠実か否かでがらりと態度を変えるぞ、人種国籍地位には関心をしめさないのだ、とムバラクが真顔で反論する。なるほど、言いたい放題なわけだ、だがあっている、自由の国アメリカ合衆国も連中の道具に成り下がっているのだ、我々は過大評価していなかったか。目的のためには平気で国民を巻き添えにする、しかし、米国は連中に逆らえないのだ、イギリス、フランスを初め諸国を国債で縛り上げてきた連中に歯向かうのは彼ぐらいだろう、ダヴィッドが悔しそうに言った。しかも俺たちを連中の一味と誤解している。誤解を解くには連中ヘンリーウイリアムを引きずる出すしかない、ここは俺たち三人が手を組もう。そうだな、二人はムバルクの手を握る。ウイリアムとヘンリーの合名かふざけるな、カダフィが叫ぶ。といっても闇はいぜんとして闇である。だが坂本はもっと過激な方法を考えていたのだ。その方法が明らかになるのはまだ先のことではあったが。
 ダヴィド、訊いていいか、お前たちユダヤ人はどやって稼せいでいるのだ。それを言われると弱るが、イスラエル放送を聴いていると相場の予想が流される。そのとおりになる、金はいくらでも貯まる。使いきれるものではない。それは数字に過ぎない。彼は我々から巻き上げた金をかく使うべきだと示しているように思えてきた。近頃フィリピンの社会資本が増加してきたのはそれか。そうだ、カダフィ、彼が難民救済に情熱を燃やす理由が今度の震災を見てわかった。被災者のマナーの良さ、誇り、助け合う精神、現在の被災地では金は価値がない、実際の物だ。そして、ユダヤ人に羨ましい限りだが、国家国民が一丸となって国難を乗り越えようとしている。三人とも沈黙する。唯一植民地とならなかった国、民族。極東の小さな島国。それは中東の歴史を鏡のように虚像として写しているようだ。 


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