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作品名:続 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第16回   第三章 愛欲理論
目次
第一章  フィリピン暮らし 清美の子生まれる マンション経営 カルロス分譲住宅 捕虜収容島 ダヴィッド対坂本 水練
第二章 旅 児童擁護施設 山田中尉の墓参り 紀州の旅 バナウエ 山田中尉の涙 日本へ 
児童擁護施設乗っ取り 職業訓練校 巡礼の旅 大地震
第三章  愛欲理論 未完成愛欲理論 反ムバルク勢力mubaruku 砂漠の娘sabaku
第四章  神か悪魔か 白井貴子の過去 米ドルを受取るな
     ヘンリーウィリアム9.11同時多発テロ 中央銀行 新ドル発行 通貨発行権      世界通貨 太平洋戦争 塩崎家族
主要登場人物
坂本龍次      自分の人生を求めてフィリピンを流浪する日本人 
マリアカルロス   スペイン財閥の一つカルロス家の一人娘
陳 志淵      ホテルスーパーなどを経営する華僑
ユキ        ミンダナオ出身のジャパユキ。本名 Jonalyn Macappndang
塩崎真知子      元外交官の未亡人
山田 清美     旧日本陸軍中尉の娘
シャハラザード   某国大統領の娘
坂本の子供 モニカ(マリア)アナヤ(アンジェリータ)碧渓(梅雲)
          碧谷(許細君)南海雄(ユキ)紀和(清美)ほか



     
  第三章 愛欲理論


                      未完成 愛欲理論

 柳の豪邸にカルロス一家がやってきた。坂本は許細君、梅雲の攻勢に疲れ気味のところにアンジェリータ、マリアが加わると肉体的限界恐怖を感じずにはおられない。10年前ならと思う。性行為のあとにみせる女の満ち足りた表情から、愛欲の主体は女にあってその戦略、シナリオに男は動かされているのではないか、と思った。哺乳動物、猿と人間以外は雌が仕掛けるのであって雄は誘いにのるとある学者が言っていた。つまり発情させらるのだ。消費エネルギーは格段の差がある。卵黄数十箇分相当の精子は雌の色艶栄養になるのか。この男女格差は是正されるべきだ!雌雄を決するとは卵子か精子によって決まる。肉体的弱者男を保護すべきである。だが、人間は夢精する、女がそばにいなくても発情する点をどう説明するか、坂本の自問自答はつづく。

 欧米では I have a wife(wives) and three children and 10 cows. というが直訳すれば、私は妻一人子供三人乳牛10頭所有しているとなろうか。ところが米を主食とするところでは母系社会が多い。
I have a husband(husbands) and three children and 10 chickens. となろうか。 放牧民族、稲作民族でかたづけられるか。清美の研究テーマにするかと考えていた。私の愛しい人、何考えているの。マリアが胸に抱く。坂本を自分の子供のようにやさしく撫でる。坂本は自分の上で愛の歓びを全身に表したマリアを思い出しながら眠っていった。彼も全精力を使い果たしてマリアの情熱に応えたのだ。ねえ、ヴァイオニストの私とベッドの私とどっちが好き?難しい。ねえ、答えてと肩を揺する。ヴァイオニスト。まあ!とマリアが笑い出した。
 坂本は柳、カルロス、陳の前でその理論をぶった。男女格差是正論は新説ですな、これは学会誌に掲載して世に問うべきでしょうと柳が絶賛した。それには我女房は女軍団に加盟しないでくれとの祈りが込められている。カルロスと陳も婿の苦労にいたく同情した。結論として、せめて我々だけでも男の結束を強めて行かねばならないとの認識で一致した。

 翌日は柳夫妻が坂本を誘い出してくれた。友人が平安時代の日記を保存しているという。彼は明治時代に日本に帰化した中国人の孫だ。つまり祖父が日本に来るときに持ってきたらしい。その日記は、先祖が唐から派遣されたとき日本での生活を書留めたもので代々大切に保存されてきたらしい。柳夫妻によると行間に日本娘とのロマンスが感じられるとか。

Bandaの根。シンビジュウムに似た花を付る。4ヶ月前行商の老婆から1本150ペソで買い求めた。枯木に結びつけておくと根を延ばしてゆく。左側はコンクリートに貼付いている。宿木なのかその生命力は宿主の精を吸う。

その日は柳夫妻と坂本のいないふた家族だけの昼食となった。カルロスがさりげなくたずねる。マリア、リュウジのどこが気に入っているのか。すべてよ、お父様。彼のすべてが愛おしい。どれぐらいかな。わたしのヴァイオリンぐらい。ほう、どうして。どうしてって、ヴァイオリンが私の思ったとおり、思った以上の音を出してくれたとき、このまま死んでもいいと思うことがあるの。あれも同じか。もちろん。 アンジェリータはどうなんだい。いやだわ、どうして私にきくの。梅雲はどうなんだ、陳がきく。そうね、私は死んでもいいとは思わないけど死にそうになる、そう、快感が全身に広がっていく、あのとき宙に浮いた感じがして、死ぬかと思うの。死ぬのは気持がいいのかしら。それはよかった、でお前はどうなんだ。知りませんよ、許細君が眉を上げる。
 これは一般論ですけど、女は命を懸ける男に魅かれるのじゃないかしらとアンジェリータ。そうですね、心から自分を愛してくれる男に女は弱いですね、と許細君が同調する。陳とカルロスは身の危険を察知した。もっと詳しく聞きたがったが話を変える。そうはさせじとマリアが、ヴァイオニストの私とベッドの私とどっちが好きかと坂本に尋ねたことを話す。答えは?全員身を乗り出す。ヴァイオニスト。オーウ、正直な方ねと梅雲。すかさずマリアは日本人は恥ずかしがるのよと反論。かもね、とアンジェリータが援護。貴方がた二人、何を笑っているのですか、と許細君が眉をしかめる。陳とカルロスは、男の苦労は女に分かるまいと思っていた。また、有馬温泉での尋問を思い出していた。男から見ても龍治は魅力がある、なあ、カルロス。ああ、男が惚れる男は少ない。そうですねか、女が惚れる女も少ないですよね、アンジェリータ。そうですね。その眼は変な女に手を出さないようにと言っているようで陳カルロス緊張する。


 白井貴子は海をみていた。自殺した韓国女優が性接待を強制せられていた報道に身を詰まされていたのだ。ふと横浜にきてみた。幸せそうな恋人たち。ひとなみに恋もしてみたい。彼女、お茶しない、にやけたスペイン人が近寄ってきた。心を見透かされたようで、ふいっと横を向く。
 ベサメムーチョと口ずさんでいる。何よ、と貴子は思った。すると二人の男が貴子の腕をとった、来てもらおう。低い凄みのある声だ。オーノウ、私の彼女に触れてはいけない。なんだテメー、これでもか。拳銃が向けられる。黒いハンカチが被せられている。OKプエデー。これビデオ、これ携帯あげるよ。みせろ。男の手が延びる。ベサメが手首をとって身を屈めると男は一回転して地面に叩き付けられる。振向ざまにフックがもう一人の顔面をとらえる。ベサメは貴子の手を取って走り出す。スポーツカーにとび乗ると急発進して湾岸道路を突っ走る。追ってきてないようだ。
 どうして襲われた。私、襲われたの。ぶりっこするな、奴らはプロだ。貴子はスピードが心地よかった。隣の男は典型的なスペイン人の顔だ。悪くない。ねえ、一緒に食事がしたい。素直に礼が言えないのは何故?貴子は今まで経験したことのない気分に浸っていた。俺はお茶しようと言った。私は食事しようと言った。シーセニョリータ。 ホテルに入ると貴子は電話で予約を入れる。直接フロントに行くと満席と断られるからだ。最上階のレストランは夕陽が美しい。海もきれいだ、君はもっときれいだ。ありがと、今日だけ恋人になって。いいよ。食事をすませて貴子がサインする。お客様のお部屋の番号は。予約入れてるからフロントに聞いて。デザートを食べながら貴子がくすっと笑う。なに?あとで話す。ちょっと待ってねね、ホセ。俺ホセ。そう、ドンホセ。NOエスカミリオ。そーう、私ミカ。すぐ帰るね。10分したが帰らない。やられたか、と思ったとき、お連れ様がお部屋でお待ちですとウェートレス。すぐ下の階らしい。3618号室に早足で向かう。ドアが開く。バスタオルのミカが迎える。逃げたと思った。フフフ。 昔お金がなくて空腹に堪えられなくとなると使ったの。部屋番号は。一緒にフロントに来てというの。トイレに行くといって締まりかけのエレベーターに飛び乗ってバイバイ。ホセが両手を上げて笑い転げる。抱いて。もちろん。私、処女じゃないけど。問題ない。

 ミカ、菅野美香もちろん偽名のひとつだ。ホセリサールと調子を合わす。美香こと貴子はホセのキスに身がしびれる。首に腕を回してのけぞる。ホセがシャワーを浴びる。美香はホセの全身を洗い流す。日本の女は情が深いと聴いていたが、ホセはこの女が自分を愛しているのではないかと思ったものだ。君のことがもっと知りたい、なぜって、君を愛してしまったからだ。美香の歓びはすすり泣くような声を殺したようなものから悲鳴に近いものに変わって行った。美香こと白井貴子はあらゆる束縛から解放された幸福感にひたっていた。ホセの愛撫もあるが今は愛欲の世界に漂っている。これだわ、私が求めていたものは。女は子宮で考えると誰か言っていたはど。ホセは何度も求められた。その度かなりの情報を聞き出したが裏を取るまでこの女を離すわけにはいかない。

 翌日軽井沢に向かう。美香の別荘があるのだ。すっかり恋人気分の美香はホセにすがって小径を歩く。できてしまうと女はこうも変わるものか。聞き出した情報はカルロスに報告される。柳が裏づけをとる。少し話が美味すぎないか。お前の息子だから女をとろかすのは上手いのだろうと陳が冷やかす。しかし、あれほどの女がマリオの愛撫に落ちるか。インテリ程官能に弱いとも言われますからな、と柳も陳に同じる。褒められているのか。そうだカルロス。
 この別荘も性接待に使われるのだろう。その夜、美香はCIA情報部員となっているが実質は闇の黒幕のために働いていると語った。その黒幕の名前は。許して、それをいったら殺されてしまう。大丈夫だ、俺が守ってあげるよ。でも、、、。その時携帯が点滅する。俺帰らなくちゃ、急用ができた。お願い、帰らないで、急用を消してあげるから。でも約束して明日安全な国に連れて逃げて。ホセはじっとみつめる。マリオは美香の求めに応じた。そして、ついに名前を聞き出した。メールでカルロスに送られる。
 今のキスで急用はなくなった、明日、日本を発つ。どこへ。俺たちの新居。ふたりはさらに激しく何度も求め合った。朝早く別荘を出て国道を走る。疲れは残っていたが、それは心地よいものだ。長野から山梨、王子を通ってゆく。高速よりも一般道のほうが尾行されにくい。ホセことマリオもこんなに上手くゆくとは思わなかった。美香を襲ったのは陳の差し金。条件が整えば美香のような一流スパイでも骨抜きになるのかも知れない。しかし、難物と聞いていたのに簡単過ぎないか、まあ、情報を聞き出すのが俺の仕事、真偽は親父の仕事。偽造パスポートでフィリピンに入国させることなど簡単だ。渋谷の喫茶店でモーニングをとる。大きなフランクフルトを追加。お腹空いた。激闘の後だからな。そうね、お昼は築地の握り鮨ご馳走するわ。そうだ、東京タワーに行こう。マリオは展望して、東京は大きいんだ、と叫ぶ。美香はマリオの肩に手を置く。
 築地の握鮨は旨かった。最初、びくついていたマリオだが食い出すと止まらない。こんな旨いものがあったのか。鰻はあれにいいのよ。あれって?今夜ね。ああ、あれね、俺頑張る。もう食えない。お客さん、三人前ですよ。旨いものは旨い。恐れいります。そのナイフ見せてくれ。危ないですよ。美しい。今度はオヤジ連れてくるかな。店を出て浅草を歩く。マリオは気に入ったようだ。外人も多いなあ。土産を買ってゆく。誰に上げるの。家族、ママと妹。お父さんは。自分で買うだろう。でも喜ぶわよ。じゃあ、選んでくれ。これなんかどう。それにする。

 携帯が鳴る。全てOK!誰から。親父。何て?夕食には帰ってこい、だって。どこ?横浜。私もいいかしら。聞いてみる。カルロスが慌てる。まあ、断る訳にもゆかないでしょう、と柳。そうだな、どんな美人か楽しみだ。陳、お前は無責任だ。夕方、二人は柳の邸宅に着く。挨拶を済ますと貴子がマリオの携帯を見せてくれと言った。いいけど、何故。ふふ、このメール確かめたいの。マリオのメールが貴子の携帯に転送されていた。カルロスが、では、どうして、と叫ぶ。貴女マリオを愛してしまったの、とアンジェリーた。ええ。どうして。わからない。そうね、愛に理由はいらないわね。カルロスは貴子を抱きしめて、今から私の娘だと頬にキスする。マリオ、いい彼女を手にいれたね、とアンジェリータ。白井貴子の過去は後でわかってくるのだが、その夜は内輪の結婚式となった。

 愛は全てを超えるか、お前の息子は親に似て女殺しだな、カルロス。そうかな。女は子宮で考えると言われますが、そうさせるだけの性技は賞賛すべきですよ、と柳も同調する。俺変な気分だ。これも龍治のため世界平和のため、マリオの名は永遠に記憶されるであろう。陳よ、調子いいな。性技で世界正義を実現すれば人類史上、例を見ない快挙だ。しかし彼女の方が役者が上だな。超一流のスパイだからな、されど、マリオの性技に為すすべなく、か。話が出来すぎだな、今度は陳が疑う。愛は貴い、全てを超越する、とカルロス。世の中、信じられないこともおきますからなあ、と柳がどちらにともなくつぶやく。

 新婚さんがハネムーン旅行にいく感じだ。花嫁美香は白いレースの付いた帽子をかぶりホセは白のタキシードに決まっている。成田からマニラに飛ぶ。ビジネス席を借り切ってファーストクラス並みだ。乗務員の態度も単なる金持に対するのとは少し違う。このスペイン人は何者と貴子は思った。どう、気に入った?この航空会社親切だ、新婚旅行と言ったら今日はビジネスクラスは俺たちだけだって。ええ、私幸せ。さあハネムーンの始まりだ。乾杯 ! 上物ワイングラス。



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