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作品名:続 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第13回   13日本へ
 日本へ

 パスポートが取れるまで山田中尉の足跡を辿る。和雄と洋平はどこでも歓迎された。村の集会所に人々が集まってくる。山田部隊の者も駆けつけてくる。思い出話は尽きない。パソコンの山田中尉の写真を食い入るように見つめる。清美がテレビにつなぐと歓声が上がる。和雄、洋平の話に聴き入る。こんなに多くの方々に大事にされて兄は幸せだったと存じます。兄も草葉の陰で喜んでいることでしょう。清美の通訳つきだが年配者は和雄の言葉を聴き取り理解していた。拍手が涌く。宴会が始まる。山田中尉によく似ている。甥もそうだ。常男と花南も通訳する。常男、花南、叔父さんと従兄が来て幸せだな。ありがとう。
       山田の中の 一本足の案山子 天気の良いのに 蓑笠着けて
       朝から晩まで ただ立ち通し 歩けないのか 山田の案山子
かつての自童合唱団が歌いだす。和雄、洋平が目を細める。そのとき、いや中尉は歩こうとなされなかったのだ、じっと我々をこの村を見守られておられたのだ。拍手が起こる。和雄が手を取る、鬼軍曹殿、失礼。高村であります、ご舎弟殿。兄がお世話になりまして、何を言われるわれわれこそ、なあみんな。鬼軍曹、モトイ高村軍曹の言われるとおりであります。 


 戦後65年、日本は繁栄をつづけ大国となった。数百万の命が消えたのは65年前である。この時間は人それぞれであろうが日本はこれからどのような道をたどってどこを目指すのであろう。平凡な日本人だった坂本はフィリピンに来て多くの体験をした。運命では片付けられない何か大きな意思に動かされているのであろうか。


 関西空港に坂本様ご一行到着。例の末広審査官、坂本ユキにはご苦労様です、和雄洋平清美にはようございましたね、常男花南にはようこそ日本へ、許細君梅雲には熱烈歓迎、アンジェリータマリアにはBienvenidaと愛想のいいこと。税関がマリアのヴァイオリンを見せて欲しいと言う。なんと見事な、と鑑賞する。マリアが調弦して弓を渡す。税関はうれしそうに弾いてみる。いい音だ。マリアが背筋を伸ばしてと身体で示す。税関は自分の音に痺れている。お前何やってんだ、と末広。これは世界にふたつとない名器ですよ。ありがとうございました、とマリアに返す。本当か。本当ですといいながら他の人間にはどうぞどうぞと手を振る。清美が通訳するとマリアはやっぱりという顔。いきなりチゴイネルワイゼン、驚きと静寂。ほんの一節だが感動のため息。よいご旅行をと税関。前代未聞だぞ。検査です。職権濫用だ。権限内のヤクドクです。あれいくらぐらいだ。まあ8億から10億はするでしょう、ガルネリですよ。???
 ふたりはマリアに小さく手を振る。何を話しているのだとカルロス。職務か否か。カルロスが目を丸くする。なんと平和な国だ。ふん、女にだけにやにやしやがって、と陳。本当に役人、ホテルマンみたい、と許細君。そうね、日本の役人は親切ね。外には山田家ご一行様の大型バス。12人と南海雄と紀和が乗る。運転手が女の荷物を積み込むと後は中にお持ち下さいという。陳がむくれる。いいじゃないですか、こんなに広いのですからと許細君がたしなめる。そういう問題ではない。トイレはいいですか、1時間もかりませんが。そうじゃの、身を軽くしておくか、のう親父。いかにも。 南海雄小便だ。おう、おう。はいでしょ。ゆくぞ。はい、チチ。よし。坂本が手を引く。龍次腹減った。ご馳走が待っているから止めたがいい。そうだ、カルロス間食がぶくぶく太らせるのだ。八つ当たりするな。常男、日本での初小便じゃの。そうです。うむ、水分を補給したほうがよいの。親父、やめとけ、飲めなくなるぞ。客人はどうかの。缶ビールの回し飲みにしますか。げに。自販機で2本。一口飲んで陳に。チチ。お前も飲むか。南海雄殿は未成年ではないかの。親父よけいなこというな。1歳と2ヶ月に相成ります。それくらいにしておけ、カルロスが泣くぞ。ウマ。うまいか、大きくなったらもっと飲ましてやる。女たちも緑茶を飲でいる。空き缶を持たす。南海雄それに捨てろ。缶。カン。そうだ。


 バスの中は荷物が棚に載せられている。お荷物壊れ物がございましたら下ろしますが。マリアがヴァイオリンを見る。運転手はゴム紐を確認する。マリアがうなづく。よろしいですか、本日は当市営バスをご利用いただきありがとうございます。私運転手を勤めさせていただきます佐藤でございます。これより皆様方を山田家までご案内いたします。所要時間は45分とみております。途中でご気分が悪くなるなどございましたらご遠慮なくお知らせ下さい。それでは出発いたします。
 なんとした気配り、すばらしい。陳が感嘆する。ユキが通訳する。女たちも感心する。時計は4時半、夏の陽は長い。道路がきれいね、碧渓つれてくればよかった。そうね碧谷も。花南元気か。はい、叔父様。今夜はお前と常男の歓迎会じゃ、ようけこと集まってくるぞ。楽しみです。そうか、みんなも楽しみにしとる。Allegre presst muy bien! 楽しい速い気持イー。そうね、綺麗。Wala trafic 無混雑 不渋滞!軟席。市街を抜けると田園が広がる。近代と伝統、科学と自然の調和がとれている。カルロスたまにはいいこというのう。ちんよ、 我は詩人なり。日本の道路は公共か。私道は限られている。まもなく山田家に到着致します。お荷物お忘れないようお確かめ下さい。これは私道だろう。いえ、市道です、最近市に寄付しました。お陰で管理は市がやってくれます。ほう、と陳が感心する。
 バスが着くと洋平の妻直と太郎が出てきた。常男さん花南さんよう戻られた、お待ちしてましたよ。太郎。お帰りなさい。太郎君ありがとう。おっちゃん、ただいまじゃろう。おう、そうじゃのう。もう、この子は、さあ、さあ。おばちゃん荷持もったげる。ありがとう。洋平が運転手に千円渡す。かたいこといわんと、明日もよろしく。では遠慮のう、ありがとうございました。叔父さん、ありがとうございます、でないですか。あれは、清美、ご乗車ありがとうございました、じゃ。そうか、お金は遠慮なくいただきます、ご乗車を感謝するということですね。そうじゃ、清美は勘がええ。


 山田家は地主だったから客間も多い。清美さん部屋割りをしておくれ、風呂は男の人は隣でもらい湯してもらいまひょ。浴衣は借り物だけどここね。荷物は適当に、衣文掛けと、直が忙しそうに手配する。男は風呂に行って、太郎案内しな。太郎ちゃん内の風呂にも入りな、お客さんおおいやろ。おおきに、ほな、二手に分かれよ、南海雄君はわしといこ。おっちゃんこっちや。自然と坂本カルロス陳がつづく。和雄洋平常男は別の家に。
 おばちゃん、お風呂もらいにきた。まあ、5人、いっぺんにいけよか。二人は子供じゃ、いけるでわ。ほうで、太郎ちゃんお客さんに使い方教えてあげてな。ごやっかいかけます、二人とも日本の風呂に入ったことありますんで。ほうですか、ほな、ごゆっくり浸かって旅の疲れとってください。タオル適当につこうてな。ありがとうございます。いやあ日本語上手、ええ男やない。
 陳はほめられてキゲンがなおったか、歌い出す。お医者様でも 草津の湯でも ドッコイショ、、、。おちゃん何人や。フィリピン人。うそや、中国人だろう、出身はどこ。福建省。うーん、越のほうか。左様。まあ嘘いうたらあかん、わい、三国志よんみょんじゃ。すごいな太郎君。おっちゃんは。スペインはバルセロナ、名はカルロス。かっこうええ、サグラダファミリアのとこじゃな、あれはようでけとう、いつ完成するんじゃ。それは、、、大人のくせに知らんのか。まあ、あと百年やな、法隆寺は1500年やけん、まあ、がんばっとる。南海雄君な、シャンプーするときはこうやって目えつぶるんじゃ、ほたらいとうない。あのマダムの子か。だな。
 太郎は南海雄にシャワーをかけて背中を流すしてやる。前は自分でするんでよ。風呂は木造、いい湯だ。疲れがとれる。ほんとだ、日本人の風呂好きがわかってきた、ビールがうまいわけだ。惚れた病は こりゃあ治りゃせぬよ チョイナ チョイナ。


 常男花南の来訪を聞きつけて山田部隊の戦友たちもやってきた。お義父さん、はよう乾杯して、みんなまっとんじょ。常男花南を歓迎して乾杯。かんぱーい。常男挨拶するか。挨拶は後、飲んで食べて、まあ、吉岡さん遠いところを、さあ、一杯、お元気そうで、ゆっくりしてらして。ありがとうございます。常男さん、吉岡さんおぼえてる。歌の小父さん。常男君。花南ちゃん元気だった。時間は一気に60年以上遡る。おじさんこんにちわ。こんいちわ、花南ちゃんは美人だな。ありがとうございます。あの歌うたって。花南さん、食べてもらってからがええんちゃう。ほうやね、おじさん、お注ぎします。これはありがとう。常男君も飲もう、花南ちゃんも、お父さんお母さんには内緒、小父さんが叱られるから。はい、内緒にします。


酒が回り腹が起きてくると話がはずむ。あれは誰、坂本さんの奥さん、国会議員しよんやって、とかささやきあう。吉岡、中尉殿がヒエツキ節を聴きたいと言っておられるぞ。おう、中尉殿がこの場におられないのが残念ですが、どこかで聴いてくださっていると信じて吉岡、稗搗節をうたいます。座が静まる。


庭の山椒の木に 鳴る鈴つけて 鈴の鳴るときゃ 出ておじゃれ
            鈴の鳴るときゃ 何というて出やる 馬に水くりゃと 言うておじゃれよ
               那須の大八 鶴富捨てて 椎葉出るときゃ 眼に涙
                  ないて待つより 野に出ておじゃれ 野には野菊の花盛りよ


いただきました。吉岡にも秘められたロマンスがあったのであろう。吉岡殿、兄からと思って一献受けてくだされ。かたじけのうござい ます。
 いい声ねえ。この唄、父は婚礼で吉岡上等兵が歌うてくれたと言っておりました。花南が涙ぐむ。自分は中尉殿からお褒めの言葉を いただきました。これは美しい曲だがフレーズが長くて演奏するのは非常にむずかしい、と叫んだ。吉岡が振り返ると笑って出足の一節を歌う。 マリアが真似る。プロ同士だ、言葉はいらない。たちまちおぼえてしまった。マリアがヴァイオリンを持ってくる。
 美しい音色が冴える。Senolita, non cantabile,rechitativo .Si,senol. Muy bien, non pasionate Secret love,secret,secret.
お嬢さん、歌うのではなく、語るところです。わかりました。とてもいいですよ、情熱は内に秘めて秘めて、、、。
二重奏、即興の演奏はその場その時にしかない。二人が顔を見合わせて握手する。拍手がやまない。 中尉は感情を外に出さない方と想像します。彼のためにこころを込めてこの曲を弾きます。聴いてください。チゴイネルにもある可哀想な娘、 感動のため息がもれる。
  明日浜辺を さまよえば 昔のことぞ しのばるる 歌声とヴィオリンの掛け合い、歌とオブリガードが入れ替わる、 チゴイネルの女の子が弾かれる。それは中尉が逮捕されてからの心境であったかのように響く。聴く人はすすり泣く、また、むせび泣く。


 和雄がマリアに伊座利寄って酒を注ぐ。これはこれは。マリア殿はプロか。プロでない、アマチュアだ。さようか、もういっぱい。カタジケナイ、ぐっと飲み干す。おう、と拍手。 マリアがヴァイオリンをしまってくると、声がかかる。マリア殿、中尉殿の代理でお注ぎする。うまい、もう一杯。いけますな。お前も飲め。返盃 常男、黒田武士を所望する。マリア酔っ払ったか、坂本が叫ぶ。心得た、それでは、山田常男、黒田武士を歌います。


 翌朝バスがやってきた。貸切だからと次々に乗り込んでくる。補助席もいっぱいだ。お早うございます、運転手の佐藤です。今日はみなさまを京都奈良にご案内いたします。横におりますのは添乗員の鈴木です。鈴木です、この春入社しました新人です、行き届かないところも多々あるかと思いますが皆様の旅が楽しいものでありますよう勤めますので今日一日よろしくお願いします。よろしくお願いします。
 客も挨拶するのですね、清美はよく観察する。本日は外国の方もおられるので高速よりも国道のほうが日本の景色を楽しんでいただけるのではと思いますがよろしいでしょうか。それではお手もとの観光地図をご覧ください、国道24号線を紀ノ川にそって奈良明日香に向かいます。今一度棚のお荷物お確かめ下さい、大丈夫でしょうか。オッケイ異常なし。そうですか、では出発します。
 紀ノ川をさかのぼる。国道、市道もよく整備されているのね、ここまでやるには50年はかかるな、ユキがもらす。ローマは一日で成らずだ、あせることはない。そうね。紀ノ川は和歌山を代表する川ですが、紀伊水道、徳島県吉野川を結ぶ線は日本列島を縦断してしているそうです、添乗員がマイクを持つ。そりゃ、しらなんだ。お兄ちゃん、もっと詳しいに。きかんといてください、昨日調べたばっかりで。今度は詳しゅうにいうてな。勉強しときます。西の中央地溝帯フォッサマグナ負けん構造体やそうです。いわにゃよかった、添乗員は汗を拭く。fossa magnaとは大きな穴、つまり、おまんこ。こっちは割れ目、同じ意味。カルロスが大きな声を上げる。女たちがきゃーと歓ぶ。私ラテン語できる。


 日本列島の生い立ちに興味がある坂本はじっと聴いていた。バスは山の中を登ってゆく。常男と花南は父の故郷をどう見ているのであろうか。奈良に着くとさっそく葛餅を食べる。女の旅は食にある。おいいしいわねえ、と食べ始める。お茶が出される。買うていこと買い求める。日式商い。あの接客が買う気にさせるのか。300円かける50人で15000円。お土産があるから倍の30000、すごいわね、観光客は。
 新緑の奈良、青田が風に揺れている。西暦700年、1400年の時間は中国人とっては短いがフィリピン人には長い。高松塚古墳、平城京跡、鑑真の唐招提寺で時間をとる。陳が関心を示したからだ。坂本にも鑑真の情熱だけでない何か、特命を帯びていたのでないかという気がした。カルロス、アンジェリータ、マリアは歴史的建造物に見飽きないようだ。シンプルだけど惹きつけるはね。そうだな、威圧感がない。でも情熱を秘めている。あの阿修羅凄かったわ。うんマリアに似ていたな。
 昼食はドライブインでうどん、おでん、ごもくずし、ビールか酒。これは庶民の味だ。けっこういけるな。しかしよく食うな。日本人の旅は食事と土産、観光はバックミュージックみたいなものだ。フィリピン側からみると観光に来たのだろうと映るのかも。カルロス豚カツ食うか。ああ。だろうな、海老フライ、コロッケを注文、みんなでつつく。食いっぷりで追加注文、日本スタイル。そうだ。隣では直が運転手と搭乗員に勧めている。命預けてるんだからお昼ぐらい奢るわよ。なるほど確かに、命を預けているな。単なるドライバーでないのですね。バスが共同体になっているかんじだな。給料は、いいのでしょう。きつい仕事だからな、30万から50万かな。というと、150−200?そんなとこだろう。3日4日泊りがけで行くこともあるし、責任は重い、楽ではない。店からのマージンは。まあ2000円ぐらいだろう。
 ちょっと、この奈良漬け古くない。ほんま色が変わっとう。賞味期限過ぎとんでー。これ返すわ。私も。責任者がとんでくる。味のほうは問題ないと思いますんでこれをお付しますんで。要らん、返品じゃ。皆様ご一緒で。運転手が耳もとでつぶやく。わかりました、明日工場からぴちぴちを50送らせて貰います。代表の方お名前これにお願いできますか。伝票には奈良漬50の注文書がセットになったものだ。これはお客様の控えです。これは。お持ち下さい、味はいけると思いますけど、返品では店の信用が落ちますんで、なにとぞ。ほな、しゃあないな。えらいすんまへん。
 遣り取りの詳細を清美に質問する陳とカルロス。日本の女怖いな。しかし店の対応、あれも日本式か。坂本は自分で少しは考えろと返事しない。直さん奈良漬いくらですか、ユキがきく。500円やけどな、馬鹿にしとんでえ。ということは、25000円-仕入れ値2倍-発送費で計算して損はないな。ちょっとは残るかな、ユキがつぶやく。ほうですな、粗利半分としても悪評が立つことに比べたら安いものか、いい勉強になった。陳が感心する。このような小売業は回転率で利益を得ているから悪評は致命的ということでしょうか。清美すばらしい指摘だ、なあ陳。そうだな。フィリピンなら文句があるならメーカーに言ってくれと突っぱねるであろう。売買は既に成立履行されている、よく確かめて買うべきだ。買主に損害はない、言掛りは困る。といったところか。


 京都は世界的観光都市、ユキ議員の政策に参考となろう。入場料駐車料土産など物価の高さに目を丸める。京都は八橋、焼いている店に入る。五つでいくら、オマケないの。他の店にいってみるわ。ひとつおまけしますがな。10は。ふたーつだす。5といっしょやない、けちね。かなわんな、3つ付させてもらいます。ユキさんやるなあ、私も10、おまけ3つでよ。いやあ、わたしも。すんまへん、足りまへんがな。帰りに寄るけん、包んでおいて。
 京都駅のタクシー乗り場、70過ぎの女が手際よく客を乗せてゆく。あの女チップはないのか。日本にはチップはない。でもドアを開けているではないか。あれは運転手がやっている。金を受取ってから客を降ろすためか。それもある。マカティーでは老婆が10ペソのチップをとる。一時間で数百ペソ、手取りはどれぐらいかわからないが客には強制されてる感は否めない。清美が婦人警官を見つけてトイレをきく。駅が込んでましたらそこらの喫茶店で借りはったらよろしい、タダで貸してくれますがな。ありがとうございます。失礼します、と敬礼。ユキと近くの喫茶店で借りる。
紀和を連れているから時間がかかる。どうも有難うございました。かましまへん、いつでもつこうてください。アンジェリータとマリアもやってくる。アンジェリータが珈琲を注文。二人を手招く。トイレはタダと聞いて驚く。紀和にとビスケットが添えられている。清美にサーヴィスですと笑う。日本商法勉強になるわね。上品にしっかりとですね。集合時間だ、会計1680円。


 奈良京都のバス旅行は奈良漬以外にトラブルもなく快適であった。その奈良漬も味に問題はなく翌日には工場から50が配送されてきた。注文者が取りに来る。昨日主人に食べらせたらうまいというとるけん、私もつまんでみたんよ、味はいけるな。ほなけんど賞味期限切れをおいとくなんて日本の恥でないで、外国人も訪れる観光地なのにな。3つ残った。直さんの手数料じゃ。ほうやねえ、もろとこか。
 この会話に陳、カルロス、ユキが青くなる。日本の品質管理とはかくあらむ。お義父さん、これ比べてみて、サラ中てたら一本つけるわ。奈良漬二皿。どれどれ、こちらじゃ、直さんみたいにぴちぴちして。おる。そうですかあ。さあさあ、みなさんも、召し上がってください。清美さん手伝ってと台所へ。銚子が5本。足りんぞ、洋平が怒鳴る。今燗してます、直もどなりかえす。。ぬる燗でいいぞ。わかってます。これどう違うの私にはわからない、問題ない、とアンジェリータ。絶対に言うな、とくにナオには、カルロスがおびえる。マリアがくすっと笑う。
 お待たせ、ぬる燗ここに置きますね、どうですか、どうですかお味のほうは。これが言うにはこっちフレッシュ、こっち味問題ない。そうでしょう、儲かった気分。ハシタナイ。いいじゃないですか、身内なんですから、私も飲もうっと。酒のあてによく合いますな。陳さんは燗の方がよろしかったですね、さあ。これはどうも。常男さんは。ぬる燗を。花南さん京都奈良はどうでした。きれいなところ、歴史がありますね。いつでもいけると思っていても家事に追われて
ねえ、久振りの旅行でしたよ。お前な、喋り過ぎ、お客さんが話す間がない、大人しく飲んでろ。しかしなんですな、直さんがいると座が盛り上がるというか、それみなさい、常男さんの方が女の気持わかっておられる。二人ともええ加減にせえ、客人がおられるのだぞ。
 いい家族ねえ、とアンジェリータの攻勢が始まる。一つ歌でもいきますか。カルロス私の言うこと聴いて。草津よいとこ一度はおいで、ドッコイショ。男性軍次はわが身と援護に加わる。逃げられたか、女性軍の笑い。


     常男、花南巡礼の旅
 五日目常男が花南と二人で旅したいと言い出した。叔父さん、親父は日本の良いも悪いもありのままに見て来いと言ったと思うのです。それは道理じゃが、日本に来て日が浅い、みんなに相談したらどうかの。そうさせていただきます。集まってもらえ。皆さんのご意見を賜りたい、常男の気持はよくわかる旅させたいが道中が心配でもある、日比の事情に詳しい皆さんのご意見を是非聴かせてくだされ。何の問題があると言いそうなアンジェリータをカルロスが目で制す。
 誰が言い出すか。坂本殿はどう思われますかな。日本は安全と案内が整っておりますのでさほど問題はないと思います。ご自分の目で見て本当の日本が見えるとも、しかし、何分初めての日本、ご心配もごもっとも、されば。されば。足馴らしに近場を回られたらどうでしょう。最初は清美さんに案内してもらって伊勢、名古屋辺りまでゆく、だんだん脚を延ばしてから二人旅ということにしては。それは名案。
 陳、家族サービス旅行に出るか。俺も考えていた、が、受難の旅になるやも。かもな。腹をくくっている。俺も覚悟した。龍次、お前はどうする。俺はユキのいきたいところへ。自信満々だな。それぞれの旅の支度が始まる。坂本は女たちを連れて電気店にゆく。携帯とデジカメをマリア、清美、梅雲に選ばせる。これにはナビも付いておりまして音楽もテレビも観れます。店員が喋り捲る。あのなあ、買物の楽しみたいから邪魔しないでくれないか、こちらから訊くよ。
失礼しました。許細君、アンジェリータ、花南は興味なさそうなので他の売り場を見て回らせる。
 料金はどのタイプになさいますか。一番安い奴。それはお客様の使い方にも寄りまして基本料金の高いのが有利になることも、基本料金なし使っただけ。はあ。よろしいですか。では、ご契約には運転免許証か何かお持ちでしょうか。ない。困りましたね。携帯買うのに何で要る。規則ですから。どこの規則だ。この携帯は10年以上使っている。古いですねえ。お前喧嘩売る気か、もういい、キャンセルだ。坂本が怒鳴りつける。店長がとんでくる。君どいてなさい、
これはよく売れたものです。このタイプのモデルチェンジが今も主流になっております。
 こいつが気に入らんからキャンセルだ。まだ新人ですので。口の利き方も知らないのを店に出すのか、首にしろ、なら買ってやる。恐れ入ります、よく教育しますので。三月でこの程度では効果はないだろう。実は弱っています、仕事はできないのに口だけは、、。立つか。まあ、お支払いはカードで、通話料金もこれでよろしいでしょうか。ああ、お客様の携帯番号を教えていただけますか、検索させていただきます。この3つの料金一緒の引き落としで、ああ。電話機買取と通話料金に上乗せとありまして、買い替えが5年以上先でしたら買取が有利かと思います。買取。有難う御座います。カードお預させていただきます。すぐお使いになりますか、充電しておきます。マネージャーが手順を示す。このイヤホーンご迷惑をお掛けしましたのサーヴィスさせていただきます。マイク付ですから迷惑通話が防げるかと。デジカメの方も説明させていただきます。大丈夫わかるとマリア。そうですか、このデコどうです。可愛い。ここに付けますね。お嬢様は。これ、と梅雲。私はこれと清美。携帯にもつけましょう、どうぞお好きなを選んでください、サーヴィスです。それとお名前底に貼りますね。
 お客様ご署名を。坂本が明細をみる。5万もするのか。ナビが付いてますから全国どこでも便利ですよ。値打ちあるか。いろんな機能がついてます、若い人は使いこなしますが私なぞシンプルなのがいいですわ。いえてる。保証書、ケース、説明書このバッグにいれておきますので。そちらはいいのか。はい、5時間はいけると思います。そう、お客様カードとお控えです、ご不快にさせましたこと何卒お許し下さい、これに懲りずにまたのご来店を。と名刺を差し出す。このダメオ君、晩年トップに就いたときこの日のことが自分を変えたと語ることになる。


 常男は太郎からパソコンの特訓を、花南は清美から携帯の特訓を受ける。太郎どうじゃ生徒のできは。うん、筋がええけん、すぐネットはでけるようになる。清美のほうは。もうじきメールができるでしょう。ナビはもういけますよね。はい。そうか、花南は器量も頭もええから。そして旅立ちの朝。お前のカードを持たせ、臍繰りあるだろう。ありません。直の方が役者が上。清美さん、私からのお餞別、あんた。清美これ郵便局のカード、常男さんに使方よう教えてあげな。ありがとうございます。本当に紀和ちゃんつれていけるんで。大丈夫です。紀和にも見せてやりたいと思います。そうかい、紀和ちゃん身体にきーつけてな。はーい、お、いい返事、一歳でしゃべれれるの頭がええんじゃ。直が涙ぐむ。
 つづいてカルロス一家、陳一家と旅立つ。ディー私たちどうして明日なの。急にいなくなると和雄さんがさびしいだろう。一日延ばせば気持の整理がつく。季節はゆっくり確実に移ろってゆく。これが日本だ。よくわからない。ユキにもそのうちわかるさ。


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