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作品名:フィリピンに生きる  新フィリピン事情 作者:佐々木 三郎

第8回   ポリスパトラ金せびり警官
       ポリスパトラ金せびり警官

 警察官もいろいろ。金せびりに精出すのも、正義のために不正はしないのもいる。ここではポリスパトラを見てみよう。パトラとは賄賂。ポリスパトラとはこれを要求する警官。これに日本のやくざが職業を訊かれて、同業かといわれたとか。手口は簡単。交通違反をする。切符を持ってマニラまで反則金3000ペソを支払いに行くの(振込みなどない)と私に2000ペソ払うのとどちらいいですか。99%が現金を払う。その警官は宴会を開く。こういう構図は日常茶飯事である。安いサラリーを補充してどこが悪い。検挙率が低いはずである。殺人強盗のニュースは毎日だが、検挙、判決のニュースは稀である。目撃者がいるのに逮捕されることが少ないのも理解できよう。法治国家とは程遠い。亀有駅前交番派出所など上品なもである。国家の品格、能力がないのである。

 フィリピン人の対応を聴いてみた。俺は金を持っていない。じゃあ、1000にしてやる。本当にないんだ。300払わなければ切符を切るぞ。値切り交渉妥結。平均的相場であろうか。上級者は『1ペソたりとも払わない。親父が死んだので今、俺は気が立っている』と踏み倒す。何回親父を殺すのか。
 俺の運転手が捕まった。事情を聞くとEパス(ETM)専用入り口から高速に乗ったという。2000ペソ払わなければ車をブロック(留め置く)と言っている。『お前の名前は』日本人が出てきたので少し驚いている。俺が払うから反則切符を切れ。マニラまで支払いに行かなくてはならないぞ。IDを見せろ。ついでに日本領事館に寄ってこの件を報告する。入り口に専用入り口の表示はない。お前は恐喝した。このヴォイスレコーダーに録音してある』
サー、待ってくれ、今回は見逃すから。『おかしなことをいうな。俺は支払うと言っているのだ』OKサー。俺に付いて来い。バイクに跨って先導する。合流箇所でUターン。気をつけてと敬礼する。調子のいい奴だ。運転手には他言しないように
釘を刺しておいた。1000ペソ覚悟していたそうだ。『俺に500払え。俺もお前も500ずつ儲かった』イエスサー。返事だけ、日本人には払うことない、か。
 信号機、標識のわかりにくいいこと、信号機の大きさ日本の1/10以下、No enter,No turn leftなどとカスレカケタ標識、矢印などの記号で明示しろと叫びたい。警官の水揚げ拡大策か、一度市長に談判しなくてはなるまい。少し恥ずかしいが
片側3車線の国道をUターンしたことがある。右ハンドルの左折は危険だ。禁止の標識はないが警官に確認して、車の途絶を待ってUターン。すると別の警官が信号無視と車を止める。俺が苦労しているのにボケーっと突っ立てるんじゃねえ、バーカ。
俺を誘導するのがお前の仕事だろう。日本人か、OK、行け。OKじゃねえ、市長に文句をつけるから一緒に来い。NO 仕事しなくちゃ、とその警官は逃げてゆく。

 窃盗、強盗、強姦、傷害となるとパトラ相場は跳ね上がる。デジカメか携帯にでも録画しておくのもいいかも、ただし、やり過ぎると射殺されるかもしれない。公務員の職を失うことを避けるには日本人を射殺するのは止むを得なかった、なんて言われた日には。ここでは証拠捏造、偽証は当たり前、金次第でどうにでもなる。公務員は国民に奉仕するなぞ聞いたことも考えたことも無いというだろう。強盗、殺人などの検挙率が超低いのも無理はない。捕まることはめったにない、多くの目撃者がいて犯人の氏名、顔写真まであっても。これに比べると日本の警官は真面目で優秀だと感じる。
 フィリピーナとモーテルにしけ込んだ日本人がレイプで訴えられた。警官が来て『セール幾ら払った?1000は安いな。3000といってる。どうだった、味のほうは。2500で手を打つかい』と笑いながら2500から2000をフィリピーナに。脹れる女に『いいシノギ
してるな、ホテルのマネージャーに事情訊こうか?』と凄む。『セール、困ったことがあったら連絡してくれ、力になる。3000ならもっといい娘紹介する』と指5本広げる。紹介料500らしい。いい加減なスケベにはポリスパトラはいい友達になれる。

  ああモンテンルパの夜は更けて

 マニラから車で30分ほど南に走るとMUNTINLUPAがある。運転手に監獄所(刑務所)に行けというと怪訝な顔。現地人の発音はUがOに聞こえる。うどんはODONである。モンテンルパはごく普通の町だが刑務所に着くと緊張する。入り口で警官(刑務官?)が
案内してやるという。顔つきがよくない。かなり広い。監獄の中は見せず日本人墓地に案内する。ここで別のおじさんが出てくる。
秘書と二人で中に進む。警官と運転手は車で待つ。『ここで亡くなった日本人にお線香上げてください。お気の毒ですね』線香3本渡される。『これが山下将軍と本間』変な日本語だが山下本間か、名前だけは知っているが写真の仏に手を合わせる。
 * 山下マネーと呼ばれる10ペソ札をみせてもたったことがある。デジカメに撮ったが日本占領の歴史を語る軍票だ。オークションで幾らの値がつくかと考えるのは不謹慎か。


 戦犯として処刑された獄死した日本兵に想いを馳せていると『ここお墓。お線香代として500ペソあげてください』とおじさん。(お前の日当か、いい稼ぎしているな)生憎持ち合わせが無いのでと100ペソを渡す。おじさん値切られるとは思ってなかったか『囚人可哀相、食べ物も少ない』と賃上げ要求。マニラからの帰りに立ち寄ったのでまたゆっくり来るから、と逃げる。入り口に戻ると車が無い。人の車を勝手に使うな。少し不安になる。なんたって折の中。20分して車が帰ってきた。運転手も警官も何も言わない。おじさんの臭い賃上げ要求から逃れたいのに。警官とおじさん(幾ら出した。100か。この日本人しわいな)と協議。

 門の手前100mぐらいのところで警官が『ガード代寄こせ』ときた。あの墓地は日本政府がつくったのか、と攻勢に出る。攻撃は最大の防御。『そうだ。今囚人は200人、うち日本人は6人、麻薬かレイプだ』いろいろありがとう。『ここは監獄、俺はお前たちをガードした』バギオの日本人墓地では金を取らなかったのに何故ここでは金を取るのか、と秘書が反撃。25ペソを警官に与え、財布が空になったことを示す。これには警官も退散するしかなかった。
 燕はまたも来たけれど、恋しい我が子は何時帰る。。。日本政府がフィリピンへの賠償を渋った昭和27年ごろ、督促として無実の日本兵数名がここで処刑された。25年の講和条約前、国連審議でフィリピン代表がフィリピンにあれだけの損害を与えた日本が賠償金を払わないのはなんということかと演説したとき日本代表は下を向いていたそうだ。戦争とはそんなものかも知れない。講和条約は、日本がドイツ、イタリアに比べると賠償金を格段に安く値切ることができた(5.5億ドル)が、その付けは安保条約基地問題と今も残っている。

次回 両替商


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