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作品名:フィリピンに生きる  新フィリピン事情 作者:佐々木 三郎

第7回   7
                アサワ日本人

 日本人を連れ合い(配偶者)に持つフィリピーナは、日本人の妻あるいはお前のアサワ日本人と言われる。それがどうした、お思いでしょうが値段が跳ね上がるのである。スーパーなどの量販店では値段はバーコード表示なのでそんなことはないが小売店、市場などでは露骨である。フィリピーナが苦情を言うと『お前のアサワは日本人。高いのは当たり前』という返事。
 どうして当たり前なのか?未だに解らない。これは序の口。シカット人力車、自転車のサイドカー、料金5倍。秘書がこれは私のお金と訴えても釣りを払わず走り去る。取り返してやると言うと40ペソで命を落とすのはバカらしいとのこと。金額の問題ではない、強盗だ。でもここは日本ではありませんだって。恐ろしや。

 フィリピーナの家を訪ねるとなると大変である。凱旋帰国、故郷に錦を飾る、なのだ。『どうやって手に入れた』羨望の質問が何度もつづく。娘よでかした、よくぞ日本人をものにした!まず土産、両親、兄弟姉妹、いとこ、甥姪等々二三十人は集まってくる。一人頭500ペソとして2万はみておかねばならない。学卒の給料以上。注意すべきはいとこ。いとこには再従兄妹再々third cousinも含まれるそうだ。そのような見解は日本人は認識していない、土産は両親のみそれ以外はお前の裁量、文句があるなら訪問は取り止めると釘を指しておかないと抜き差しならなくなる。
 両親に挨拶をすませ土産を渡すと礼が返ってくる思いきや、黙って受け取る。気に入らないのか?日本人ならもっと持ってくると思ったのに期待はずれということらしい。竹と木の小屋に住んでろくな物を食ってるくせに集りは強烈。よく来てくれた、娘のアサワとして誇りに思う。これは常用句で日本人は我々に援助しろという意味である。なにゆえこうも厚かましくなれるのか不思議である。半世紀前、いい加減にせいと切り捨てた日本兵もいたであろう。

 市街地を離れた山の中では電気も水道もないのは珍しくない。水道といっても日本の簡易水道に毛が生えた程度である。最近マニラ市街に日本並みの水道ができたと聞く。日本の商社がマニラ市から請け負ったそうだ。家といっても8畳ほどの部屋と3畳ほどの
ベランダ。床は竹、隙間から地面が見える。高さ1mぐらい。縄文弥生時代の高床式のほうが立派?ここで20人以上が食事を始める。なにしろアサワ日本人、婿殿は飲み食いさせてくれるであろうということ。
 飯は不味い、ビールか酒がないと食えたものではない。お前はビールが飲みたいか、ブランディーが好きか、と言うから勿論と答えると金をくれたら買ってくるという。これが遠来の客に対する態度かとフィリピーナに怒鳴ってしまう。彼女が2千ペソを与えると男3人で買出し。ビール2箱、タンドアイ5本、コーラスプライト4本タバコ5箱を持ち帰る。ガンガン飲み始める。あいつ等ただ酒食らって礼も言わないのか?彼女が困った顔。するとコップに注いで寄こす。金の出所は理解しているようだが可愛くない。これがホテルだと2万は取られる。300万が一月で無くなったと聞くが解る。毎日集って来る。それは金が無くなるまで続く。長居は無用だ。一週間で3万集られた。

 フィリピーナは辛い立場に立たされる。家族からはアサワ日本人なのにもっと食わせろ、旦那からはお前の家族は集りか、と責められる。彼女は家族にいいカッコウしたがるが旦那の顔色も怖い。両者の力関係によってきまる。連中は飲み食いできるまで何時までも待つ。この無言の圧力に多くの日本人がエエイうっとおしいと金を出してしまう。味方はフィリピーナだけ。電気もない山中で不安になるのも無理からぬ。一度酒なしで夕食を済ませると今日は出ないのかと督促してくる。ここは何もないが時間だけは無限にある。恥じらいはなくても厚かましさはある。
 されば和平はない。『ここに来る前に言っただろう。お前の両親以外の者を面倒見る気はない。俺にタカルナ。集り、乞食ではあるまい』と大声で話す。雰囲気は理解する。大抵のアサワ日本人は払うそうだが?アサワ外国人がみな家族の面倒を見る訳でないだろう。何故日本人には?そりゃあ、他の外国人は払わないけど*日本人は払うのに(何故集ってはいけないのか?)。禅問答みたい。が、あんまりひつこいと斬って捨ていとなるのも理解できる。理屈のわからぬ連中には脅しが必要だ。
 * 韓国人は深夜でも昼間のタクシー料金しか払わないとか。彼らは武力に怯えても精神への畏敬の念はない。

 一族郎党あげての集りは籠の鳥ならぬ籠の蟹と呼ばれる。NOと言えない日本人、土地家車の順に集って行くと一族の暮らし向きが良くなる。反比例して日本人は落ちぶれてゆく。色仕掛け、たかり、脅しで帰国することもできずover stay 不法滞在となり、*食うや食わずの生活。生産力はないが悪智恵は働く。じわじわと日本人を食ってゆく。不気味である。どうしてNOといえない?内弁慶、外国ではおどおど。中国人はどこででも堂々としている。国際社会で異民族異文化の中で生きてゆく術は必須であろうと文部省に提言するか。とすればフィリピンで永く暮らしていること自体評価すべきかも知れない。しかしヒリピン人のビギナー日本人に対して横柄なのは如何なものか。
  
* どんな事情で日本を捨てたか捨てられたのか、ビザ無日本人も少なくない。警察も犯罪を起こさなければ問題なしとか。
食い倒れてフィリピン人の施しで生きている日本人すらいると聞く。日本人の誇りを捨てれば飢え死にはない。 

次回 ポリスパトラ金せびり警官


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