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作品名:フィリピンに生きる  新フィリピン事情 作者:佐々木 三郎

第3回   3
               フィリピンの洗礼

 セブパシフィック航空724便は2時間遅れでマニラ空港に着陸した。22時30分着の予定が既に日付が変わっている。乗客は疲れきった表情で税関に向かう。深夜なので税関も鷹揚で手続きは簡単に終わった。重い荷物を手押し車で運ぶ。手荷物検査官が入国申請書を出せという。ほとんどの乗客がフィリピン人の中に日本人を見つけてカモが来たという顔をしている。
 入国カードはと審査官。疲れているし荷物はあるはそんなもの持ってないと手振りで言うと親切にも記入してくれた。サインしてOKと思いきや『気持、気持ち』お礼を頂戴ときた。その財布には日本の千円札が詰まっている。『気持とはどういう意味か』と周りに聞こえるように言った日本人もいるそうだが、こういうときは解らない振りが一番。サンキューと手を振って外に出る。日本人から金を取るマニュアルがあるのではないか。アホの一つ覚え、ほかにヴァージョンはないのか。馬鹿野郎。日本人を何と心得る、控えおろう。だって日本人すぐ引っ掛かる、イイカモだから、そんなに言わないで、商売の邪魔しないで欲しいのよ。

彼女は迎えに来ているのか。見当たらない。携帯にも出ない。それはないぜ、お前に会いに日本から来た言うのに。ともかくタクシーでホテルに向かう。空港タクシーは少し高いが安心だ。名前と行き先を書いた紙をくれるのでぼられることもないし、身の安全も確保できる。
ここでは運転手と強盗との連係プレーはプロ野球並みに洗練されているそうだから流しのタクシーは避けたほうが無難。金は持っていないように見せることが肝要。強盗は金持ちでないと狙わない。空港タクシーの長い列に順番待ち。

『クーヤ乗せてあげる』機内で隣り合わせたしたジャパ行きだ。フィリピンも三度目となると信用できるかどうかの見極めがついてくる。この国ではアコードは高級車である。関税もあろうが日本の倍はする。『これ私のマンション。クーヤのホテルすぐ近く』巧い運転だ。『ありがとう、助かった』『気をつけてね。女買わないほうがいいよ。困ったことがあったら電話して』名刺には携帯番号が日本とフィリピンと併記されていた。フィリピーナに気をつけてと言われても。ユキか、いい女だ。旦那はどんな日本人なのだろう。

ホテルには彼女が待っていた。チェックインすると抱き寄せる。『食事してから』とはぐらかす。フィリピン料理の店に向かう。彼女とは3月ほどメールのやり取りしていた。34歳独身ということだ。途中で10万円をペソに替える。1000ペソが48枚、そこから25000ペソを彼女に預ける。これをどのように使うかによって彼女を判断するつもりだ。
途中で携帯cell phoneを買う。5000ペソという。1万円ちょっとか、それにしても玩具みたいだな、使えるのか。まあ必需品だから買っておくか。領収書を求めると店員の顔が変わった。プリペイドカードが500ペソ。早速彼女の携帯にかけてみる。通話とテクスト:ショートメールはできた。後日この携帯は500ペソの代物であること、4500ペソを店員と山分けしたことを知るのだが、色欲に囚われていると物事が見えない。

 店に入るとビールと料理を注文させる。品数の多いこと。食事が進むと店員がギターとドラムで歌いだす。いい声だ。音程は今一だがリズム感はいい。お会計は3500ペソ。少し高いな。彼女は350ペソをチップと店員に与える。彼女のマージンは500ペソと分かるのは数日後。
今はベッドインしか頭にない。少し歩こうという彼女をホテルに引っ張る。いよいよと言う時、『子供が熱を出したので帰る』という。『独身じゃないのか』『姪を預かっているの』。迎えにも来ない、Hもない、食い逃げか。
 翌日、姪二人を連れてくる。不義理をしてもしゃーしゃーとしている。水族館に行く。子供は正直、ママと彼女を呼んでいる。『お母さん美人だね』『私のママだもの、お姉ちゃんも美人』なるほど、旦那がいるのだな。『お父さんの仕事は』『タクシーの運転手』よく分かりました。帰りに靴屋による。姪たちに靴を買ってやりたいという。『俺は払わないよ』というと彼女の顔は夜叉になった。

 フィリピンの洗礼がこの程度で済んだのは幸いというべきか。それにしてもバレバレノ嘘をつくな。だいたい日本人には4倍吹っかけるらしいが、彼女は5倍だ。以後、彼女は無視。在住20年の日本人に話すと判断の仕方が残酷だという。自衛上やむ得なかった、というのは日本的発想だろうか。フィリピンに永く済んでいる日本人は初心者に対して傲慢だ。お説教されている気分になる。ここに永く住むということはそんなに豪いのか。

永いフィリピン暮らしの中で俺の苦労はそんなものじゃなかった。まだ苦労が足りないよ。日本の考えを押し付けると殺されるはめになる。との思いがあるようだ。筆者もやがてそうなるのかも知れないが、、、。

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