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作品名:フィリピンに生きる  新フィリピン事情 作者:佐々木 三郎

第18回   カラオケとクーラー
               カラオケとクーラー

 カラオケのうるさいこと。ボリュームを一杯に上げ怒鳴り上げる。これは騒音の域を超えている。耳が痛い、脳がしびれる。日本人には拷問だ。傷害罪で告訴したいが殺されては割が合わないので我慢する。こんな野蛮な地によく来たものだ。多くの在住在留日本人の思いであろう。
 オンチな奴ほど狂ったように叫び続ける。何時果てるともわからぬ音の銃弾は四方に放たれる。それも朝まで。音に対する民族の根源的イメージの相違としかいいようがない。声の美しさとか音程なぞはお構いなしに叫んでいるのに拍手が起こる。特に温泉地では歌と酒に酔いしれてプールに飛び込む。歓声を上げる。欧米人日本人には蛮人に映るのも無理からぬところだ。

『フィリピンでは騒音と蟻からは逃れられない』とは言い得て妙である。蟻については別のところで述べるが、痛さ、ひつこさ、日本の比ではない。

 * カラオケは一週間のレンタルがほとんど。期間中はガンガン使わなくちゃといったところ。スピーカーの箱はコンパネ、ギターに用いられるマホガニを使えばいい音がするだろうに、ここでは大きさが大切なのだ。

 ところがこれがHappy幸せなのだ。友人が顔を見せると招き入れて飲み食い歌い踊る。これが人生かも知れない。キツイ仕事安いサラリ−他に楽しみや有らん。とすれば植民地経営者にとってこれ程優れた労働者があろうか。ちなみに大企業は外国資本経営に牛耳られていてフィリピン人資本経営の企業は聞かない。彼らは諦めているのか。明治政府が富国強兵を国策として欧米に習って植民地主義に乗り出したのとえらい違いだ。
 同じ島国でもイギリスは七つの海を支配し、日本は世界第二の経済大国となった、フィリピンはどうか。まず、無理であろう。その理由は切がないが指導者に service for others 稲藁の炎のような人物がいないのが最大であろう。
 さて静寂に安らぎを感じる日本人の俺がこの凄まじい騒音に苦情を言わないのは友人たちがリゾートの管理人をしているからだ。サラリー5000ペソ、住み込みだからいい稼ぎのほうらしい。それでも多くは地方からの出稼ぎで何年も故郷に帰っていないそうだ。部屋付きプール有りのリソーとは貸切が多く家族コンパなどに使われる。半日12時間で5000から7000が相場、つまりサラリー1月分だ。ゲストの多くはマニラから車でやってくる。ここでも貧富の差を見るのである。

 次にクーラーの寒いこと馬鹿じゃないのか。日常生活に無縁のくせにガンガンかける。貧乏人の見栄か。食い物を残すのも同じか。銀行であまりの寒さにガードマンに弱くしてもらった。すると隣の席のオバンが扇子で扇ぎだした。こちらも人間に適当な温度は28度だと秘書に大きな声で教える。後ろでくすくす笑う声がした。中にはカーディガンを持ってきているのもいる。銀行員のほとんどが長袖にベスト客をなんと心得る。カラオケとクーラーに象徴される音感、温感は国際基準からかけ離れている。なお余談ながら街中のカラオケの多くは娼婦のテイクアオウト用品定ショールームである。

次回 食い残し飢えたことがない


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