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作品名: 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第9回   一時休戦 手打式 1
 陳志淵からの携帯に坂本は起こされた。坂本さん、今どこですか?女のところ。私の娘、誘拐れた。誰に?決まってる、カルロスだ。で?連れ戻して欲しい、金いくらでも払うよ。解った、娘さんの写真メールで送れ。坂本は昨夜の出来事を思い起こそうとしたが、身体は戦闘体制になっていた。塩崎真知子に『ちょっとマニラに行ってきます。ユキとマリアお願いします。マニラで買う物ありますか』と告げる。『そうね、日本食の美味しそうなものがあれば。でもお仕事でしょう』と真知子は坂本を動きやすくしてくれる。

 マリアとできてしまった気恥ずかしさもあって、すぐに塩崎家を飛び出す。ユキが着替えが入ったカバンをセバスチャンに持たす。車はマニラに向かう。坂本はカルロスとのやり取りを反復していた。陳の娘を誘拐したのか?龍次、誰から聞いた。陳が連れ戻してくれと言ってきた。マリアは無事か?元気にしている、何故誘拐した?マリアを守るためだ。解放の条件は?マリアに手を出さないこと、航空事業のシマを荒らさないこと。(こいつら娘と事業とどっちが大切なのだ)解った、陳と手を打とう。俺が立ち会う。カルロスとのホットラインを切ると今度は陳と話をつける。
 私の娘を誘拐して自分の娘目には手は出すな?冗談あるか。それは二人とも五十歩百歩だ。だが今はカルロスがカードを持っているから有利だ、同じ条件で和議するのは悪くなかろう。報復は新たな報復を呼ぶ。一時的でも和平は和平。陳の目的はカルロスと争うことか。事業は事業の土俵で勝負しろ、土俵外は見苦しい。でもアイツは汚い、卑怯者だ。向こうもそう言っている。『未だ覚めず血闘抗争の夢 階前の御用既に修整』だ。 なにあるか?漁夫の利を狙っているものが見ているということ。それ誰あるか。この俺だ。まさか。本人が言っている、日本式経営の前ではスペイン財閥も華僑マフィアも嵐の前の塵に過ぎない。両者とも半信半疑で坂本の手打にのってきた。頼りにならない味方より頼りになる敵がまし。なにそれ。敵方にいるから憎いのだ、味方につけば頼もしい。カルロスが?お前もだ。日本料理の店を予約する。

 マニラの渋滞は何時ものことながらひどい。約束の時間に遅れては手打にならない。トラフィック何とかならないか?セヴァスチャンが両手を挙げる。よし、パトカーに捕まれ、信号無視でも何でもいい。白バイが来る、店まで誘導させる。500ペソでどうだ?同僚がいる。店に6時までに着いたら500上乗せだ。OK!白バイに前後を守られて渋滞を掻き分けて行く。10分前に着く。セヴァスチャンに1万ペソで日本食材を買出しさせる。わからなことがあったらユキに聞け。OKサー。日当だ、取って置け。500やる。サンキューサー。

 奥の部屋には刺身の盛り合わせ、生き作り、てんぷらなどが用意されていた。結構。陳がやってきた。上座に座らす。やがてカルロスもやってきた。陳の隣に座らせる。定刻だ。『いいか』坂本の念押しに二人が頷く。『よし、手打だ』盃に日本酒を注ぐ。『乾杯』二人が飲み干す。『言って置くが約束を違えたら俺はお前たちを許さないぞ。日本政府の閣僚に同級生がいる』『一時休戦は一時だ、先のことは約束できない』とカルロス。『先のことは言っていない、最低一年この約束を守れと言っているのだ。一時になるか、永久になるかは俺は知らない。だが抗争の明け暮れに休戦もいいだろう。次回の休戦は別途料金だ、高いぞ。娘を連れて来い』 『約束守らなければどうなる?』『素っ首切り落とす!』『おおサムライ』とカルロスが手を叩く。陳の娘が入ってきた。陳が抱きかかえる。坂本が手を出すと陳が小切手を渡す。あと1000というと怪訝な顔。白バイ買収を話す。二人が腹を抱えて笑う。陳の娘もクスっと笑った。『さあ、食うか』坂本が手を叩く。リュウジ日本式経営とは?生協が設立されたらわかるさ、お前たちはその軍門に下るからノーサイド。あきれる二人。

 坂本さん、この国に来た目的は何ですか。そうだな、陳、フィリピーナとのんびりと暮らすことかな。味はどうかな(ドキ!)、カルロスが突っ込んでくる。まだ試食していない(まさかマリアは喋っていまい)。どうしてかな。俺は女を買うのは嫌いだ、心ときめく女でないと抱く気になれない。どんな女がいい。西施。そりゃ、いないよ、こんな猿の島に。
 確かに、ここでいい女はスペイン系か中国系だな、しかしそれなら本場の方がいい、純粋の現地人でないとこの国に来た意味がない。なるほど、そういう考え方もあるか。私、娘を助けるため貴方に頼んだ、それだけでないことわかった。つまり、そういう考え方、中国人できないよ。坂本さんはできそうもないことやる。カルロスと手打など、できるわけないと思ってたよ。俺もだ、陳との手打など考えもしなかった。なんだろうな、今までの確執が無益に思えてくるのは。日本人の考えは我々の理解を超えているがその気にさせるもがあるよ。理屈じゃなくて気迫だな。(レベルの差だよ)

 それよりも日本人だまされて財産失う、命失う、坂本さんも気をつけるあるよ。カルロスが陳を引取って、彼らは猿程度の知能を持つ家畜だ、あんなのと暮らすことはない、と同調する。さらに家畜には最小限の餌を与えるのが大切だ、反抗させず従順でいさせるためには、とつづける。それでか、フィリピン人も家畜に死なない程度の餌を与えるのは。そうだ、教育効果の現われだ。(スペイン、華僑の支配は年季がはいっているな)坂本は心中、感心した。猿には人間の価値はわからるか。そうだよ、リュウジ、サルにODA与えても意味ない。日本人すぐ謝る、よくない。
 損害を賠償するのは最も幼稚な手段、日本、植民地経営できない。それあるよ、日本テロの要求に屈する、被害拡大するよ。悪い芽は早めに摘み取れか。ソレモアル、富は奪い取るもの情け無用だ。そうた、奪って賠償、これ矛盾ね。日本人は彼らを人間と考えるから誤まる、サルはどこまでもサル、これが全ての原因だ。同情有害ある、サルは日本に感謝するか、餌を喰うともっと寄越せというあるね、ソウ、サルに餌を与えないで下さい、だ。小さな親切大きな迷惑ある,我々の商売の邪魔しないでもらいたい。
そいつは悪かった、俺はフィリピン人に無利子で無担保で10000貸した。あなた馬鹿あるか、月20%の利息は常識、担保10倍は最低限あるよ。チェンの言うとおりだ、奴らの担保は土地しかないが開発すれば商売になる、サルには土地は活用できない。地上げか。サルにはムチと餌を与えておけば十分。そう、サルに馬鹿にされる日本人ほんとバカあるよ。サルは猿知恵が働くから山羊がいい、逆らわないスグ子を産む、めえ、めえだ。カルロス山羊はうめえぞ。
 そうかな一度飼ってみよう、昔「猿の惑星」という映画があったが、あの猿は日本人を指している。結構じゃないか、米国が日本に支配されてもおかしくはない。本気か。猿は猿でも日本の猿花子は人間の高卒以上の知能を持つ。その娘は東大を受験した。本当の話か。米国なんぞは花子一族に支配させれば十分だ。坂本のカウンターパンチに陳もカルロスも沈黙する。

 ここでは現在も植民地感覚は続いているのだ。坂本は現地人と対等に付き合うと言う理由で外国人から見下げられたことがある。しかも、日本人からも中流以上のフィリピン人からも、、、。サルも中流以上だとふんぞり返っている。サルのくせに下流のサルを見下す態度で坂本に接してくる。それ自体は気にすることはないが、つくづく植民地主義とは差別の極みでないかと思ったものだ。蓄えをしない多くの貧しいフィリピン人たちは月2割の利息に喘ぎ苦しむ、利息を払うために働く、ついには祖先伝来の土地を取り上げられる。多くのアジアの被支配者は白人と同席することすら、水泳することすら、許されなかったのだ。日本のヤクザはこれほどえげつなくはない。ここは今でも鉛筆すら作ることができない工業力なのだ。フィリピン人に一度仕事を与えてみると本当の能力が判る、それは、植民地主義との真っ向勝負になるな、だが、この俺がこの国を日本流に支配するのも面白いかも、と坂本は漠然と思った。


女将が挨拶にくる。『ようこそお越しいただきありがとうございます。本日はいい魚が手に入り板前が腕によりをかけましたのでごゆっくりご賞味くださいませ』と両手をついて頭をさげる。丁重な挨拶にカルロスが感心する。『改めてビールで乾杯だ、麗しき乙女の健康と幸せを祈念して乾杯』坂本がグラスを持ち上げると陳、その娘、カルロスも乾杯。カルロスは女将にビールを勧めながら意味を聞く。女将はこれに答えながら生き作りからカルロスに盛り合わせてやる。『カルロス、女将とはオーナー兼取締役だ。これは彼女の特別サービスだ、感謝しろ』カルロスは女将の手の甲にキスをする。『馬鹿、祝儀を出せ。仕様がないな、女将、祝儀だ。これは板前に』坂本は、千ペソを2枚だす。『恐れ入ります』女将は一礼してこれを懐に納める。『それはチップか』馬鹿だな、後進国の人間は。もてなし、料理に対する褒美だ。まあ、食え。坂本は山葵をつけて鯛の生き作りを口に入れる。美味い。女将が礼を言う。
 カルロスが恐る恐る口に入れる。『美味い』そうか、南蛮人でもわかるか。南蛮人?昔、スペインのザビエルが日本にキリスト教を布教に来た。日本人はかられらを南蛮人と呼んだ。どうしてか、彼らは神父だろう。風呂に入ってないから不潔、着物が臭い。彼は日本人と会う前には風呂に入って着物を着替えてとバチカンに書き送っている。日本人の知的水準も恐れている。武力で日本を制圧できても植民地とすることは難しいと踏んだのであろう。日本人の知的水準はスペイン人よりも高いのか?平均値では2倍以上かな。ただし、ピカソ、ダリ、ガウディ、オルテガといった天才は人口比では少ない。天才の指導よりも共同で考え実行してゆく民族性文化なのだろう。『ビールお持ちしましょうか』女将は席を立つ間合を計っていたのか。酒にしてくれ、冷と温い燗。『かしこまりました』

 おもむろに陳が口を開いた、日本は唐の属国であったか。あれか、あれは仏教典を手に入れるためだ。中国人は日本人に10倍ぐらいの値を吹っかけるので属国になった。よく解らない。唐に貢物を持って表敬すると5倍ぐらいのお土産をもらった。仏教典も安く手に入る、こんな美味しい話があるか。プライドはないのか。あるが国益が優先する、名より実をとる。日本人は利害で動く?それはいずこも同じ、幾ら儲かるかは行動の基本哲学ではある。
 面子は?同じ質問をするな、面子よりも利益だ。日本政府は遣唐使に緘口令を出して、唐は日本の属国と日本国民に宣伝した。日本政府の嘘の始まり。日本国民は誰も信じないが政府のいうことに異議は唱えない、金にならないし信じた振りをすることは損にはならない。日本人は実害がないとどうでもいいのか。そういうこと。他の嘘は。幕末の尊皇攘夷、欧米人は女を犯す蕃人だから討つべし。数年後明治政府は西洋化に方針転換。太平洋戦争が始まると米英鬼畜、敗戦後はアメリカべったり。節操がないと陳。政府に節操などあるものか、それは世界中同じだろう。それはそうだな。

 きものは和服である。それなのに何故、呉服という?『どうしてですか』娘が初めて口を開いた。呉の職人の腕が良かったからだ。呉から職人を雇ってきて縫製させた、高く売れる。舶来の唐物は高い、国民はいい品かどうかで判断する。政府のいうことなど関係ない、無視。『日本政府と日本国民は別の考えをするのですか』利害が一致すれば同じ考え、一致しなければ別。
 お嬢さん、お名前は?陳梅雲です。お母さんは?許細君。美人か。ええとても。Madre bonita,mujer bonita.坂本のスペイン語にカルロスが笑い声を上げる。どういうことだ?母親がきれいだと娘もきれいということ。???梅雲は俺に似て美人だ、陳がむきになる。それはそうだ、カルロスも同調する。坂本が笑いをこらえて陳に酒を注ぐ。返杯を受けるとカルロスに。眼で陳に酒を注げという。一瞬陳は躊躇う。坂本が睨む。陳が注ぐ。驚くカルロス。それでも陳に返杯。よし、これでお前たちは義兄弟だ。二人が顔を見合す。義兄弟とは同じ女を知った仲をいうのではないか、と陳。それはそうだが日本では一義的には関羽と張飛みたいな関係をいう。日本語たくさん意味ある、難しい。これはどうだ、

      手にもいろんな手があるわ あの手この手に奥の手や いつも優しい貴方の手

オウ、ジャパネーズ素晴らしい。これは愛新覚羅慧生が好んだものだ。清の、愛新Aisin 覚羅Gioro 溥儀の姪か。そうだ。

 これでしゃんしゃんと思いきや『日本は中国から日清戦争で台湾を奪い、今度の戦争では中国を侵略した』と陳が話を蒸し返す。割合ひつこいな、梅雲こんな話興味あるか?ええ、父が坂本さんを何故そんなに高く買うのか不思議でしたが、お話を聴いていて解る気がします。そうか、酒の席に相応しくないが、俺の考えを話そう。日清戦争はロシアの南下を阻止するためだ。清がヨーロッパの食い物にされているのを見て次は我が身と考えるのは自然なことだ。北部に防衛線を引くことは必須のことと日本政府は考えた。日露戦争を既に意識しての布石といえよう。
 そのため、多くの中国人が土地を追われましたわ。それが戦争というものだ、これによって清はヨーロッパに食い尽くされることを免れたと中国のインテリ層は分析している。日本の功罪相半ばと言えよう。スペインの植民地だった国は悲惨な運命を辿り今なお貧困に喘いでいる。俺に言わせれば今の中国は50を超える少数民族を一国家としていること自体がおかしい。中国を漢民族の国家だけにして、あとの民族は好きにさせるのが筋だ。『龍次、スペインは悪か』ああ、ヤクザ以上マフィア以上だ。植民地がなければあの経済力でスペインが繁栄するはずがない。憮然とするカルロス。こんなにはっきりものを言う日本人珍しいある。
 
* 旧チベット領は今の5倍以上はあったようだ。諸葛孔明が病を押して遠征したのも理解できる。
モンゴル自治区も然り漢民族にとって今も昔も脅威なのだ。

 中国共産党が併合をつづけるのは能力的にも無理とちゃうか。平和路線に転換したほうが楽になれるぞ。口にすれば日本的発想と反発するだろうが。

 
次回は 一時休戦 手打式 2の2


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