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作品名: 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第6回   Rice Terraces 天まで続く棚田
椰子の風に吹かれて
            Rice Terraces 天まで続く棚田

 イフガオ族 Ifugao に守られてきた棚田を観に行く。バナウエBanaueまでは車でバギオから188km北に3時間。塩崎夫人は前からの約束があるので同行できないと残念がる。『クーヤ真知子若いわね』塩崎さんか。『82には見えない。知的な感じがする』ユキは本当に母親のように思っているようだ。バナウエ市街までは2時間で着いたがここからは山道にいる。ガソリン入れろ。大丈夫、半分残っている。満タンにしろ。イエスサー。山肌に棚田が広がる。日本と変わらないが斜面がきつい。世界遺産の棚田は天まで続くというが後どれぐらいか。『クーヤお弁当食べよう』そんな時間か。フィリピーナはミリエンダ(おやつ)といってよく食う。1日4食だ。

 水車が見える。あそこにしよう。小さな水車小屋で弁当を広げる。水量がないのかゆっくりと水車が回っている。細長い木のいすに並んで座る。前方に谷と山並みがひろがる。風が駆け上がってくる。大きなお結びに卵やき、ちくわ、漬物、塩崎夫人が持たせてくれたのだ。『サー、日本のフードはうまいなあ』『当たり前でしょ、食材がいいし真知子は料理も上手』坂本はビールの小瓶を開ける。割り箸を栓に当てこんこんといすにぶつける。半分残してセバスチャンに遣る。サンキューサー。ああ、いい気持ちだ。いい風ね。クーヤお茶。うまい。坂本はマリアにもすすめる。一口飲んでから不思議な味と感じるのか坂本に返す。もっと飲め。マリアは一口飲む、今度はもう一口。
 連れじょん便といくか。ツレジョン?ハリカ。イエスサー。どちらが良く飛ぶか?アノン?あの岩打てるか。2m先の小岩を指差す。後ろからレディーゴーとユキ。俺の勝だな。No Ako!ユキとマリアも参加。『クーヤ後ろ向いてて』馬鹿、判定できないじゃないか。お前たちこちらに向け、尻あげる。パンティーババ(さげろ)。Ready GO!放水始め!アイ、風がちらかす。坂本がマリアの腿と尻をハンカチで拭いてやる。Me too私も!OK。ユキも尻を上げる。いいけつしてるな。スケベー。どっちの勝?Nogame,next time 今度また決着つけろ。

 山道は東へと続くが世界遺産の棚田は北に道を取って半時間とか。前方に荷物を背負った婦人が歩いてゆく。『よろしかったらどうぞ、棚田を観に行くところです』『まあまあご親切にお言葉に甘えさせていただこうかしら』意外にも日本語が返ってきた。半時間ほど走るとそこで降ろしてくださいと婦人は言った。家までどうぞ。『ありがとうございます。このすぐ上ですし、車は無理です。帰りにお立ち寄りくださりませ、お茶なぞお飲み下され』カタジケナイ、されば、帰りにお訪ねいたそう。坂本も時代がかった返答をする。『へんな日本語』とユキ。
 右Kinakin左Rice Terracesの標識が見える。ところが一転にわかに掻き曇り大驟雨。側溝のない道路はたちまち冠水。車を寄せて停車。雨音は板金工のごとし。待つこと1時間。雨脚が少し弱まったものの外は暗い。不安になって来る。ヘッドライトを点けた車が横付けして来た。窓をたたく。ユキが開けると何か大声で話してきた。ありがとうとユキが窓を閉める。『クーヤここは危ないそうよ。ツネオが心配して待っているって』ツネオ?『さっき車に乗せた人のご主人。ここはがけ崩れがよく起きるって今の車の人』そうか、引き返そう。
 坂本は外に飛出して道路幅を確認しながら車を誘導する。車の向きを変えると坂本は靴を脱いでカニの横ばい。路肩を確認してそこから歩測。5歩半かける0.75約4mだな。シャツを脱いで車に戻る。ユキが全部着替えろという。早く言え、坂本がパンツを脱ぐ。ユキがマリアに背もたれをを前に倒してトランクのバッグをとるように指示する。マリアは背もたれに馬乗りしてバッグを引きずり出す。ユキがバスたおるを坂本に、フェイスタオルをマリアに渡す。マリアが坂本の背中を拭く。ユキがクーラーを切る、着替えを取り出す。マリアが頭と顔を拭く。『前も良く拭いて』とマリアに。『クーヤ立って』ユキがバスタオルを降ろして坂本のチンチンを持ち上げる。止せ。マリアが金玉を拭く。ユキがチンチンをシャブル真似をする。マリアがキャッキャと笑う。ビゲルとセバスチャン。500ずつ払え。パンツとシャツを着替えて坂本が道路幅は?ときく。『4.5mサー』OK、どうしてわかる?『サー、俺プロ。頭に入れて運転する』なるほど。

 車は慎重にもと来た道を引き返す。こいつらどんな状況でもHはすきなんだ、坂本は一人笑いする。道路は半分は見えない。下りは山側通行だがこの際どっちでも変わらない。道が大きく右に曲がっているところに来るともうじきねとユキ。イエスマム。『クーヤ、アテー』とユキが叫ぶ。どこだ?
 車がクラクションを鳴らす。婦人が手を振っているというが坂本には見えない。しばらく走ってから人影が坂本の視野にいってきた。眼、歯、脚と弱ってくるそうだが暗いところはよく見えない。坂本は苛立ちを感じながらもうれしかった。婦人は驟雨の中待っていてくれたのだ。入り口でセバスチャンが降りて車で行けるか確かめる。婦人の案内に着いてゆく。やがて小走りに戻ってきて親指を立てる。車を乗り入れる。大丈夫か。サープエデ、プエデ。車幅ギリギリのところを進む。日本人には真似できない感覚だ。中庭は結構広い。電気はないが囲炉裏の火が外に漏れている。入り口にランプが
点されている。
 バッグを手に持って中にいる。『おう、ご無事に着かれたか、さあさあ、お上がりなされ』後厄介をお掛けいたします。『何の何の、火に当たりなされ。すぐ食事を進ぜる故』かたじけのう存じます。婦人が濁酒を出してくれた。『おう、そうじゃな。先ずは一献』頂戴します。大きな盃を飲み干して返盃する。主人は日本人の顔をしている。言動が一昔前の日本人だ。三人とも盃を交わす。マリアはぐいっと飲み干すと『うまーい。ワンモール』と盃を出す。
 主人と婦人が声を立てて笑う。『焼けたようじゃ、近くの川で採った魚だが召されよ』坂本が頭から噛み付く。いけますな、魚は塩焼きが一番。『それは上々。さあこなたも』ユキがおいしいと声を上げる。うまーい、とマリアも。セール、どっちがいい?どっちでもいい、同じ意味だ女と男の違い。??。山菜に雑煮と馳走される。

 腹がくちて身体があたたまると酔いがまわる。挨拶が遅れましたが坂本龍次です。『私、ツネオヤマダ、日本流にてヤマダツネオと申します。父は陸軍中尉山田明憲。これ家内メルダ』このたびはご厄介になります。自己紹介しろ。『ユキと申します。本名はミミ、出身はミンダナオです』『わたくしマリアカルロス、あなた方にお会いできて幸せです』『俺セバスチャン。両親はビゴール』
 『よくおいで下された。メルダがお世話になりました。して坂本殿御国は』徳島です。『父は和歌山の出でござる。お隣かな』左様、海をはさんで向かいなれば同じ地名も多ござる。那賀、勝浦、吉野など。『おおなつかしや。漁業盛んなる?』 紀伊水道は潮の流れが激しく海の幸に恵まれておりますので。『クーヤ海の幸って何』魚貝、海草などだ、和歌山の捕鯨は昔から有名だ。『龍次、日本人は鯨を食うのか、蛸も食うのか』マリア、一度食ったら止み付きになるぞ。

 囲炉裏が爆ぜる。『リュウジ、これは暖炉か』そうだ、マリア、同時にオーブンでもある。山深いところは囲炉裏、平地は釜戸、と同じ日本でも地域によって文化が異なる。へー、そうなんだ、とユキ。

『囲炉裏の端に縄なう父は 過ぎしいくさの手柄を語る』ツネオが歌いだす。
   居並ぶ子供は眠さ忘れて 耳を傾けこぶしを握る 
坂本が唱和すると 
   囲炉裏火はとろとろ 外は吹雪 とメルダも唱和。
『今から60年以上も前のこと。日本の兵隊がやってきたのよ』とメルダが語り始めた。

次回 山田中尉


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