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作品名: 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第5回    塩崎真知子
                   塩崎真知子

 陳とカルロスとは商売敵?陳の目的は、マリアの誘拐?坂本龍次の頭の中には今日の出来事が再生されていた。車は裏口からカルロスの館に入った。陳は何故百万ペソを?疑問が次々と湧いてくる。やがて部屋に案内される。20畳はあろうか、天井も高い。マリア親子がやってきた。『痛みませんか』アンジェリータが口を切る。ああ、頓服を飲んだから。荷物はセバスチャンとマリアの乳母が片付けてくれる。時々マリアの顔を伺う。それはそこ、これはそこと指示しているようだ。『龍次、これは何ですか』マリアが興味深そうにきく。電子辞書、医学辞典、百科事典も入っていて重宝している。『使っていいかしら』いいよ、と使い方を教える。

 片づけが終わると食事が運ばれてきた。マリア親子だけが部屋に残った。『貴方の怪我がよくなるまでは食事は運ばせますから。こういうのも楽しい、ね、カルロス』スペイン財閥も奥さんには頭が上がらぬようだ。『貴方はきっと帰ってくると思ってましたのよ』マリアがくすっと笑う。アンジェリータはカルロに勝ち誇った眼を向ける。そうだな、とカルロス。
もう一時か腹が減るわけだこのvino美味いな。『カルロス家自慢の葡萄酒だ、ヴァレンシアから取り寄せた。うちの葡萄畑は美しいぞ』俺もスペインに一度行ってみたいな。『リュウジ、スペイン語話せる』マリアが大きな声を出す。poco,少し。『年に一度はヴァレンシアに帰りますの、是非ご一緒に』Gracias senola,me gusta.ありがとう奥さん、行きたい。

 食事が終わると母娘は席を立つ。マリアが坂本の電子辞書を抱えている。リュウジが親指を立てると嬉しそうにそれを持って出て行く。『陳に会ったのか』ああ。で?カルロスを知っているかと。フム。カルロスは女癖が悪い。それから?先は有料。いくら?ミリオンペソ。OKと小切手を渡す。坂本には金持ちの感覚が分からぬ。庶民の日給は200ペソ。小切手を確かめると話を続ける。『カルロスはスペイン財閥の一翼。商売敵』他には?ホテルのアドバイス。なんと?不潔、サービス悪い。カルロスが声を上げて笑った。サンキュー。これいいのか?SI!ああ。坂本は銀行通帳に小切手を挟む。

 意を決したかのようぬカルロスが話し出した。マリアを誘拐しようとしたのは陳だ。吐いたのか?ああ、リュウジが縛り上げてくれた男が全て話した。(気前よく百万出す訳だ、陳も事件の口止め料か)陳は航空業界で我らの利権を狙っている。で?マリアを匿って欲しい。これはマリアの生命を守るための費用だ、金額は好きなだけ入れてくれ。わかった、この小切手はマリアに預けてくれ。必要になったときは金に替える。それと専用の携帯を持とう、二人だけのホットラインだ。(しかしなぜこの俺に、人間の運命とはわからぬものだ)

 坂本は関空からマニラまで隣あわせたユキを呼び出す。10回呼び出し音を鳴らしたが出ない。どこに行こうか、彼らには深刻な問題かも知れないが俺には可愛い娘連れの観光旅行だ。飛行機の移動はIDから身元が割れやすい。陸路とすればやはりバギオか。坂本が逃避行を考えていると携帯が鳴った、ユキだ。『クーヤ、元気?電話くれた?』おう、ユキ。待ってた。頼みがある。ジャパユキ養成やってくれるか?『クーヤのカノジョ?』そんなところだ。『いいよ、今空港。どこで会う?』気が早いな、二三日後に連絡する。ユキの日当1000その他は実費。『OK。今旦那を見送ったところ。わたし暇だから』じゃあ、よろしくな。

 その夜坂本はシャワー浴びてマリアの部屋を訪ねた。17才も少女らしいインテリアとヴィオリンが彼を引き付けた。マリアはヴァイオリンを弾いてみる、と坂本に渡す。弓はマリアの手で松脂がつけられたばかりだ。しばらく音程を探ったが子供の頃の記憶がよみ返って来た。
     あした浜辺をさまよえば 昔のことぞおもわゆるる 
     風の音よ雲の様よ 寄する波も貝の色も
カルロスもアンジェリータも聴きつけて来た。もう一曲と催促される。
     命短し恋せよ乙女 紅き唇褪せぬまに 
     熱き血潮の冷えぬまに 明日の月日のないものを
拍手しながらカルロスがコンサートだ、ロビーに行こうと叫ぶ。マリアが楽譜を携える。ロビーのピアノは美術品だ。アンジェリータが譜面を開く。マリアはヴァイオリンを肩に置く。ピアノとチューニングするとチーゴイナーワイゼンを弾いた。激しくも切ない序奏から急テンポの終盤まで一気に弾き切った。本場の乙女は違う。感動が静まると大きな拍手が起こった。
 いつしかロビーは大勢が集まっていた。坂本がMria Maquiling,Mujer de Sarasate!マリアマキリーン、サラサーテの娘といいながらマリアの手に口付ける。『今度はリュウジ』と手渡す。拍手に絆されて坂本は弾き始める。
     春高楼の花の宴 めぐる盃影さして 
     千代の松ヶ枝わけいでし 昔の光今いずこ
     秋陣営の霜の色 鳴き行く雁の数みせて
     植うる剣に照りそいし 昔の光今いずこ
ヴァイオリンを渡し歌う。マリアが即興で伴奏する。ピアノが加わって、三重奏となった。
     いま荒城の夜半の月 変わらぬ光たがためぞ 
     垣に残るはただ蔓 松に歌うはただ嵐
     天上影はかわらねど 栄枯は移る世の姿
     写さんとてか今もなお ああ荒城の夜半の月

 無常感のない国だが、坂本の怪我は出血が止まり後は日にち薬になった。ユキの指定してきた日本レストランにマリアを連れて行く。奥の部屋には料理が盛り付けられていてユキが待っていた。『この娘?いい玉ね』だろう、ジャパユキ研修生だ。まず、乾杯しよう。『カンパーイ』ユキが大きな声を上げる。『日本料理いけるの』何事も勉強だ、気に入ったのを食うだろう。
 マリアは初めてらしく盛り付けを眺めている。『日本にはいつ行くの。日本語とスケベの扱い教えておかないとね』よろしく頼む。しばらくバギオで日本人接しておいたほうがいいと考えている。夜中に出たら混まないだろう。『クーヤ、今夜?急ね。まあ、
いいか、バギオならたいした準備もいらないし』久しぶりに日本酒飲めるな。坂本の計画をユキがマリアに説明。面白そうとマリア。

 店を出るとセヴァスチャンが待っていた。ユキのカローラに荷物を積み込む。俺の運転手だ腕はいい。ユキは横、お前飲酒運転だぞ。ユキのマンションはマニラの市街が見渡せる。ユキは手際よく荷物をまとめる。『コーヒー入れようか。それとも日本酒と泡盛持って行く』それがいい、急がないとカラーコーディネイトに。
 厭な予感は当たるものだ。日付が変わるのを待っていたかのように取締りが始まった。車のNO末尾によって首都圏への乗り入れが制限されている。月1,2火3,4水5,6という具合だ。警官は反則金3000と俺に2000払うのとどっちを選ぶかという。反則金を納める3箇所ぐらいの場所まで白バイが誘導する。セヴァスチャンも車が違うのでうっかりしたのだ。
 坂本はデジカメを取り出して3000と怒鳴る。再生してみせる。驚く警官に名前と職名を聞く。ID見せろ、裁判所で会おう。お前は俺たちの家族旅行を妨害した、マニラ市長を訴えるからお前も証人として出廷することになる。『OK,サー。ゴー、俺が先導する。バギオか、いい旅行を』と先導する。

 バギオまではバスで7時間、車だと5時間だ。白バイの先導で首都圏の渋滞が緩和されたので一時間は節約できた。クーヤかっこ良かった、警官やっつけるなんて。庶民は黄門さんを待っているのだ。セヴァスチャン2時間ごとに休憩だ、安全運転で
行け。OKサー、ガソリンを入れるか。いくら?満タンだ。え?ここでは金額を言うのが多い。満タンなぞ外国人だけ。窓ガラスを拭いてくれる。ラジエータの水は補給。2500ペソリッター43ペソ86円か、日本より少し安い。空気圧、エンジンオイルは?
セヴァスチャン!サー換えたほうがいい。どれくらいだ?600ペソ。馬鹿時間だ。半時間。よし、トイレに行くか。スタンドで喫煙所があるのはめずらしい。一服。
 バギオに着くと夜が白みだす。南十字星はどこだ?なに?サザンクロス。タウザンクロスね、ない、ミンダナオにある。くそ、thはtなのだ。ここの英語はスペイン訛りフィリピン訛り。コピー、ハルドヲルク、マカトール、意味わかる。原語をみないと見当もつかない。coffee,hardwork,MacArthor.

 クーヤ、お腹すいた。おう、セヴンイレヴン。入り口にはショットガン。ビールとツマミ。サンミゲルトとするめ、バタピー。握りずしがあったな、ユキ?ええ。この店いい、また行くか、電話番号登録してくれ。あいよ。セヴァスチャン食え。ノーサンキュー。食えねーのか。OK,恐る恐る口に入れる。わさびに涙を出す。ビール飲め。腹が膨れたので外に出ようとするとビンの持ち出しはだめだという。レシ−トを見せる。首を振る。ユキが解説。『クーヤ、ビン代は店員ガードマンのボーナス。わかる?』わからねーな。ユキが5ペソ渡すとドアを開けてサンキューサー。警官はヤクザ、店員は乞食。え、なにいった?

 太陽が顔を出すと日差しが強いのですぐ明るくなる。海抜1000mを越すので涼しい。朝霧が晴れてゆく。バギオは夏には首都になる。官僚が引っ越すのだ。盆地なのか四方に山。急な坂道。松の木が多い。日本の原風景を感じる。急ぎ足の日本人らしい
婦人が歩いている。あのご婦人を乗せろ。OK.『よろしかったら送りますが、私たちはバギオ観光ですからご遠慮なく』『まあ、助かりますわ、お言葉に甘えて乗せて頂きましょうか』品のある婦人だ。『私たちは今ついたばかりで初めての土地ですから』
『道なりに行って下さい。どちらから』『マニラです』『まあ、夜道をおいでたのね。ご予定は』『特にありませんが棚田と日本人が建設した道路は見たいですね』『右に政府観光局があるでしょう。そこで降ろしてください』
 ユキがタガログ語に訳す。『助かりました。人と会う約束してましたので。わたくし塩崎と申します。よろしかったらバギオをご案内しましょうか』『お願いできますか、やはり日本人同士だと安心できますので』塩崎婦人は笑って会釈すると約束の場所に向かった。

 観光局は愛想が良かった。地図は出してくるわ、懇切丁寧な説明。この国ではめずらしい。隣に民俗館があると言われて向かう。玄関まで長い階段を登る。一階は民俗資料が陳列されている。バギオに触れた感じがしたのは坂本だけでないようだ。ユキはミンダナオ出身だから興味深そうだ。床も階段も木なので落ち着く。二階は日本館で天皇陛下、福田首相の写真がかけられている。ここは日本人が多いということか。一時間ほどして出る。階段を登って来る塩崎婦人をみつけて、お母さんとユキが手を振る。婦人はしたで待っている。『バンブーハウス、竹の家にご案内しましょうか』『お願いします』婦人は余計なことは言わないので坂本は好感を持った。

 竹の家は3千坪くらいの山の斜面に白川村の合掌造りの原型を思わせるのが散在している。竹製の橋、囲炉裏。『ここに来ると落ち着くのですよ』懐かしい風景ですね。『そうなの』伊豆半島はどこから来たかご存知ですか。『ええ?知りませんわ』フィリピンからやって来て日本列島にぶつかって今も押し続けているそうです。『まあ、初めて聞きましたわ』富士山はその皺寄で高いのだそうです。『面白いですね。いつごろの話』2万年ぐらい前で地球の年からするとごく最近のことらしいです。それに伊豆半島の移動は年速1m というのはこれまた超高速で日本列島に激しく衝突したと学者が言ってました。
 ユキがマリアとセバスチャンに通訳する。『あなたって面白い方ね』そうですか、こんな話をするとたいていの人は変な顔されますが。『とんでもない、興味深いお話です』そうですか、もう少し続けていいですか。『是非。でもゆっくり聴きたいから私の家で続きを。ご予定はないとおっしゃったわね、宿は』これからです。『そう、私の家に泊まるといいわ。私一人暮らしなの』いけません、一人暮らしの女性のうちに泊めていただくなんて。『あら、うれしいわ、女に見てくれるの』ユキが一度でいいから日本の家庭に泊まりたい、というので坂本は好意に甘えることにした。

 塩崎婦人の家は高台にあって、市街が一望できる。いい眺めですね。『そうなの、亡くなった主人が気に入ってここを買ったのだけど買い物が大変。ああ、部屋を案内しないと、これは主人の部屋男性ここ。こっちは娘の部屋あなた達ここ』一瞬重い空気が流れる。『わたし、お母さんと寝たい』ユキが空気を払うように言った。『甘えん坊さん』婦人は察したようだ。荷物を降ろして食堂に下りる。『日本そばどうかしら。生のわさびもあるのよ』『海老のてんぷら食べたい』『はいはい、揚げましょう。ユキさん、手伝って』セバスチャンが車を洗ってくるという。私も庭の掃除しましょうか、坂本も外に出る。

 『サー、。。。』『解っている。セバスチャン門の修理できるか』『できる。道具とパーツがあれば』坂本は裏の納屋に向かう。日曜大工以上の工具が整理されている。パーツを探せ。OK.梯子はどこだ。あれ。坂本が工具とパーツを持つ。セバスチャンが梯子を担ぐ。『塩崎さん、これお借りしますね』『あら、なにが始まるの』と振り返ったがてんぷらをユキと揚げているのですぐ鍋に目を戻す。門の蝶番を交換して油をさす。汗が流れる。道具を片付けてシャワーを浴びる。ついでにプールで一泳ぎ。『できましたよ』塩崎夫人が食堂から大きな声で呼ぶ。

 ざるそばに海老のてんぷら、卸したてのわさび。『さあ、いただきましょ』いただきますと坂本が手を合わせる。ユキが続く。坂本がマリアに眼で促す。セヴァスチャンはわさびにおそるおそる箸をつける。『昨日のより、うまい。アライ』ばか、天つゆをつけて食うんだ、よく観ろ。『お母さん、美味しい』『ユキさん料理上手ね。料理上手は床上手』『何それ』婦人はユキが気に入ったらしい。
 人間の幸せとはこうして美味い料理を食うことですね。『坂本さん、お世辞がお上手ね』お世辞上手はお床下手。『これは参りました。一本取られました』?とユキ。何いってんの、わからない。ワカサボッグ。海老は高いんだから、俺こんな美味いもの食ったことがない。塩崎婦人はタガログ語がわかるらしく自分の海老を一つ与える。サンキューマム、運転手の俺に、と涙ぐむ。

 食後は門のペンキ塗り。サーはこんなレイバーするのか、俺がやるから見ててくれ。それでは意味がない。いくぞ。イエスサー。坂本が錆び落しをするとセヴァスチャンが塗ろうとする。洗って拭いてからだ。付いて来い。坂本は納屋に向かう。スティームクリーナーを引っ張り出す。油を差して水を換える。よし。門に運ぶ。電源を入れると勢い良く水蒸気が噴出してくる。門は汚れが落ちてゆく。玄関周も流す。『セール。この家初めてだろう。良くわかルナ』うん?門を指差す。拭く?そうだ。古いタオルを持たす。
 次は庭掃除。落ち葉を集めてドラム缶に入れる。サー燃やさないのか?いい肥料になる。肥料?ドラム缶の底を見せる。こうして水をかけておくと土になる。???プールの落ち葉取って来い。NO泳げない。坂本はパンツになって跳び込む。落ち葉を拾い集めてドラム缶に入れる。バキュームで底をすくって並べたバケツに入れる。上水をプールに戻し底をドラム缶に移す。日本人はめんどくさいことをやる。うるさい、坂本はセバスチャンをプールに突き飛ばす。バチャバチャ。坂本はゆっくりと泳ぐ。熱った身体に水がまとわる。

 日が傾くと『ご飯ですよ』塩崎婦人の声がした。はーい、坂本はプールを出る。食卓にはカレーライスができていた。『明日は五目ずしをつくりますからね』堪えられなったマリアが叫ぶ。『マム、あなたは何故私たちにこんなによくする?あなたを車に乗せただけではないか』『それはね、あなたたちがいい人間だから。人は人との間で生きているのよ、マリア』一瞬の沈黙。『坂本さん、伊豆半島の続きを聴かせて』
 この国では身分がまだ存在するのだ。身分とはいかなくても階層は多くの人たちとの交わりを遮断する。坂本はビールを飲み干すとちらっとマリアを見て話し出す。フィリピンを離れた伊豆半島は、当時はなんと呼ばれたのでしょうね、北上を続け、日本列島に激しくぶつかり今も押し続けているそうです。ここからは私の想像ですが伊豆半島にはフィリピン人が住んでいたはずです、つまり、日本人には南の血が流れていると言えるでしょう。『そうですね、日本民族は単一と思われているけど、アイヌ、朝鮮、中国も混血してますわね』塩崎婦人は聞き上手だ。
 人類的数では朝鮮系中国系、日系、その他の順になるそうです。『まあ、日系日本人?どんな日本人かしら』よくわかりません、ロシアのアムール川のあたりからやってきたみたいです。というか、日本列島が大陸から離れたときに住んでいた民族、でしょうか。『クーヤ、見ただけではハポン、コリアーノ、チャイニーズわからない』ユキ、俺もよく聞かれるよ、そたび、俺は日本人だったと意識する。『外交官試験問題にいいわね、日系日本人。ごめんなさい、話を逸らせて。主人が外交官だったものだから私もいろんな国をまわったのよ。私たちも外国人に接して日本人であることを自覚したものだわ。今では逆になったけど。坂本さんのお話、伊豆半島日本列島移動、日本民族のルーツと勉強になるわ』

 坂本は久しぶりに会話ができた気がした。日本人でも関心を持つのは少ない。『マム、この話私の質問と関連がありますか』マリヤが棘のある詰問をする。『坂本さんは人種、国籍などは人間にとってさほど重要でない、とおしゃってるの。わかりますか、マリア。大航海時代の始まる前のヨーロッパにジャガイモ、トウモロコシ、トマトはあった?香辛料はあった?』塩崎婦人の切り返しにマリアはたじろぐ。
 『ごく最近まで、マジェランが来るまでは太平洋はその名の通り平和な海だったのよ。人々は豊かにそして平和に暮らしていた』『おっしゃる意味が解りません』『いえ、あなたはわかっているわ。香辛料のないヨーロッパの食事がいかに貧しかったか。そして今日までの繁栄が植民地からの搾取によってもたらされた事を』財閥の娘と元外交官夫人とでは格が違う。マリア、ダウン。TKO.
『主人は競争社会と人々が助け合っている社会と人間にとってどちらが幸せかと私に聞いたのよ。むずかしいわね、今もわからないけど』

次回 rice terrace


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